2つのアプローチをひとことで
文法指導の方法は、大きく2つに分けて語られます。
- 演繹的アプローチ(deductive):先にルールを説明し、そのあと例文と練習で使えるようにする
- 帰納的アプローチ(inductive):先に複数の例文を見せ、生徒自身にルールを見つけさせてから整理する
演繹的な方法は、短時間で正確に伝えられるのが強みです。一方、生徒が受け身になりやすく、説明を聞いた直後は分かったつもりでも、使える段階までいかないことがあります。
帰納的な方法は、生徒が自分で気づくぶん記憶に残りやすく、考える授業になります。ただし時間がかかり、ルールが複雑な項目では混乱を生むこともあります。
ポイント:どちらか一方に決める必要はありません。「気づかせる→短く整理→練習」のように、1時間の中で組み合わせることも多いです。
どちらを選ぶか:判断の目安
使い分けに迷ったときは、次の3つの観点で考えると判断しやすくなります。
1. ルールが単純で規則的か
三単現の -s、比較級の -er、過去形の -ed のように、例文を並べればパターンが見えやすい項目は帰納的が向いています。
2. 日本語との違いが大きく、誤解しやすいか
現在完了と過去形の違い、仮定法、関係代名詞の what など、例文だけでは誤ったルールを作ってしまいやすい項目は、演繹的に要点を先に示すほうが安全です。
3. 生徒がどれだけ手がかりを持っているか
既習事項とつながる項目(例:be動詞を知っている状態での受け身)は、気づかせる活動がうまくいきやすいです。まったく新しい概念は、先に枠組みを示したほうが迷子を減らせます。
目安として、次のように整理しておくと授業準備が楽になります。
- 帰納的が向く例:三単現、規則動詞の過去形、比較級・最上級の基本形、複数形
- 演繹的が向く例:現在完了の用法の区別、仮定法、分詞構文、時制の一致
- 組み合わせが向く例:受け身、関係代名詞、不定詞の3用法
帰納的アプローチの授業例(中学1年・三単現)
ここでは50分授業のうち、文法パート25分の流れを紹介します。
0〜5分:例文を見せる
教師が自分や身近な人物について話す形で、例文を板書します。
- I play tennis. / Ken plays soccer.
- I like dogs. / My sister likes cats.
- I watch TV. / My father watches the news.
"Look at these sentences. What's different? Talk with your partner."
5〜10分:ペアで気づきを共有
ペアで違いを探させ、気づいたことをノートに書かせます。何人かを指名し、「主語が Ken や my sister のとき、動詞に s がついている」などの気づきを拾います。
10〜13分:教師が整理する
生徒の言葉を使いながら、ルールを短くまとめます。「主語が I と you 以外の1人・1つのとき、動詞に s または es」。ここで watch → watches のような例外も確認します。
13〜25分:練習
- 教師が主語カードを見せ、全員で動詞を言う(例:My mother / cook → My mother cooks.)
- ペアで家族や友だちについて3文ずつ言い合う
- 最後に1文だけノートに書いて提出
"Tell your partner about your family. Use three different verbs."
ポイント:生徒が見つけたルールを、教師が「正しい言葉」に置き換えすぎないこと。生徒の表現を生かすと、記憶に残りやすくなります。
演繹的アプローチの授業例(高校1年・現在完了と過去形)
誤解しやすい項目では、最初にポイントを短く示してから、例文で確認していきます。
0〜5分:ルールを1枚で示す
「過去形=過去の一点の出来事」「現在完了=過去から今につながる状態・経験」を図(時間軸)で示します。説明は5分以内に絞ります。
5〜12分:対比の例文で確認
- I lost my key yesterday.(昨日なくした。今は見つかったかもしれない)
- I have lost my key.(なくして、今も困っている)
"Which sentence means 'I still don't have my key'? Why?"
12〜20分:選択問題で判断練習
短い場面文を読み、過去形と現在完了のどちらが自然かを選ばせます。答え合わせでは理由をペアで説明させます。
- "I ( saw / have seen ) this movie three times. It's my favorite."
- "I ( saw / have seen ) this movie last Sunday."
20〜25分:自己表現
"Write two sentences about your experiences. One with 'have ever' and one with a past time like 'last year'."
演繹的な授業でも、最後に「自分のことを言う・書く」段階まで進めると、知識が使える形に近づきます。
組み合わせ型の授業例(中学2年・受け身)
受け身のように、既習の be 動詞と過去分詞を組み合わせる項目は、「気づかせる→短く整理→練習」の組み合わせ型が扱いやすいです。
0〜4分:対比の例文から気づく
- Many people visit Kyoto. / Kyoto is visited by many people.
- Sota wrote this letter. / This letter was written by Sota.
"What is the main topic of each sentence? Is it the people or the place?"
主語が「する側」から「される側」に変わっていることに気づかせます。
4〜7分:教師が形を整理
「be動詞+過去分詞」「by〜は言わなくてよいことも多い」の2点だけを板書します。
7〜18分:意味のある練習
身の回りのものについて、作られた場所や使われている国を言う活動です。
- "This pen was made in Japan. What about your bag? Check the tag and tell your partner."
- "English is spoken in many countries. Can you name three?"
最後に "Write one sentence about something in your house. Use 'was made' or 'is used'." と1文を書かせて提出させると、理解度を一気に確認できます。
40人クラスでの工夫
大人数のクラスでは、気づきの共有や練習の確認が一部の生徒に偏りがちです。
- 気づきはまずペア、次に列で共有:いきなり全体で発表させず、ペア→前後4人で確認させると、意見が出やすくなります。
- ミニホワイトボードや紙を使う:選択問題の答えを一斉に掲げさせると、40人の理解度を一目で把握できます。紙に大きく A / B と書いたカードでも十分です。
- 説明の途中で全員に口を動かさせる:演繹的な説明が5分を超えそうなら、途中で "Repeat after me." や "Tell your partner the rule in Japanese." を挟みます。
- つまずきが多い生徒を先に回る:ペア活動中に、前回の小テストで苦戦していた生徒の近くを最初に回ると、個別の支援が効率よく行えます。
よくある失敗と改善のヒント
- 帰納的なのに答えをすぐ言ってしまう:沈黙が怖くて教師が先に言ってしまうと、気づきの時間が消えます。→30秒は待ち、ヒントとして例文を1つ追加する。
- 例文が少なすぎる:2文だけではパターンが見えません。→最低3〜4組の対比を用意する。
- 演繹的な説明が長くなる:用語や例外まで一度に伝えると、生徒は疲れてしまいます。→最初は基本ルールだけ。例外は練習の中で出てきたときに扱う。
- 練習が機械的な書き換えだけで終わる:形は覚えても使えるようにはなりにくいです。→最後の5分は「自分のこと」を言う・書く活動にする。
どちらのアプローチでも、最後は生徒が意味のある文を自分で作るところまで進めるのが共通のゴールです。



