歌とチャンツを使う3つのねらい
文部科学省の学習指導要領解説では、歌やチャンツを通して英語特有のリズムやイントネーションを体得し、日本語と英語の音の違いに気づくことが例として挙げられています。現場でのねらいは、大きく次の3つに整理できます。
- 英語のリズムに慣れる:英語は強く読む部分と弱く読む部分の差がはっきりしています。手拍子に合わせると、その感覚が自然に身につきます。
- 表現を何度も口に出す:同じ文を10回言わせると退屈ですが、リズムに乗せれば楽しく繰り返せます。
- クラスの雰囲気をつくる:授業の最初に歌うことで「英語の時間が始まる」スイッチが入ります。
ポイント:歌は「雰囲気づくり」、チャンツは「表現の口慣らし」と役割を分けて考えると使いやすくなります。
歌とチャンツの違い
- 歌:メロディーがあり、楽しく覚えやすい。ただし、メロディーに合わせて音が伸びたり、実際の会話とリズムが変わったりすることがあります。
- チャンツ:メロディーがなく、一定のリズムに乗せて言葉を言う。会話に近いリズムで練習できるのが強みです。
例えば What do you want? という表現は、歌よりもチャンツのほうが、実際に話すときのリズムに近い形で練習できます。単元の表現を「使える」ようにしたいときは、チャンツを中心にしましょう。
1曲を1単元で育てる5ステップ
歌やチャンツは、1回で完璧に言えることを目指しません。単元全体を通して少しずつ育てていきます。
- 聞くだけ(1時間目):Just listen. と言って、まずは聞かせます。聞こえた単語を指で数えるなど、聞き方にお題を出すと集中します。
- 一部だけ言う(2時間目):繰り返し出てくるフレーズだけ、子どもが言います。
- 動作をつける(3時間目):意味に合わせたジェスチャーをつけると、意味と音が結びつきます。
- 全部言う(4時間目):音声に合わせて全体を言います。
- 替え歌・替えチャンツ(5時間目以降):自分の好きなものに言葉を入れ替えて言います。
最後の「替える」段階が特に大切です。決まった歌詞を言うだけでなく、自分のことを言う表現に変わった瞬間、歌が「使える英語」になります。
すぐ使えるオリジナルチャンツ例
手拍子(パン・パン)に合わせて言う、編集部オリジナルのチャンツです。
好きなものを言うチャンツ(3・4年向け)
- Do you like apples? (パン・パン)
- Yes, I do! Yes, I do! (パン・パン)
- Do you like carrots? (パン・パン)
- No, I don't! No, I don't! (パン・パン)
慣れたら apples と carrots を子どもが好きな食べ物に入れ替えます。
時間割のチャンツ(5・6年向け)
- What do you have on Monday?
- I have math, I have P.E., I have English on Monday!
曜日と教科を入れ替えれば、何度でも使えます。
作り方のコツ
- 1行は4拍に収まる長さにする
- 質問と答えをセットにする
- 入れ替える部分を1か所に絞る
チャンツは先生の手作りでも十分です。完璧なリズムより、子どもが言いやすいことを優先しましょう。
学期ごとのレパートリー計画を立てる
歌やチャンツは、行き当たりばったりに選ぶより、学期ごとに「レパートリー」を決めておくと、子どもの口にしっかり残ります。
1学期
- あいさつの歌(毎時間)
- 単元の表現のチャンツ(単元ごとに1つ)
2学期
- 1学期の歌の中から、子どもに人気の曲を「帯」で続ける
- 季節の行事(ハロウィンなど)の歌を1曲追加
3学期
- 1年間で扱ったチャンツを「メドレー」にして振り返る
- 替えチャンツの発表会をする
同じ曲を長く使うのは、決して手抜きではありません。何度も言ったことのある表現は、子どもにとって「自分の英語」になっていきます。
ポイント:新しい曲を増やすより、慣れた曲の「替える部分」を増やしていくほうが、使える表現が広がります。
よくある失敗と改善策
- 毎回流すだけ:聞き方のお題(「何回 like が聞こえた?」など)を1つ出すだけで、聞く質が上がります。
- 難しすぎる歌を選ぶ:スピードが速い、語数が多い歌は、子どもが口を動かせません。単元の表現が繰り返し出てくる、ゆっくりめの曲を選びましょう。
- 高学年が恥ずかしがる:大きな声を求めず、ささやき声やリズムだけ手でたたくなど、参加の仕方を選べるようにします。
- 歌詞を読ませる:3・4年では文字を見せずに音で覚えるのが基本です。5・6年でも、まず音で十分に慣れてから文字を見せましょう。
ポイント:高学年には「かっこいい」リズムのチャンツが好評です。手拍子をボイスパーカッション風にするだけでも雰囲気が変わります。
歌とチャンツを振り返りや評価にどうつなげるか
歌やチャンツは楽しい活動ですが、ねらいがあいまいだと「やっただけ」で終わってしまいます。単元の中で次のようにつなげましょう。
- 単元のはじめ:チャンツで表現に慣れる
- 単元の中盤:チャンツの一部を、自分の答えに入れ替えてペアで言い合う
- 単元の終わり:チャンツで練習した表現を使って、インタビューや発表をする
振り返りでは、「チャンツの中で言えるようになったフレーズは?」と聞き、1つ書かせるとよいでしょう。先生にとっても、どの表現が子どもの口に残っているかを知る手がかりになります。
なお、歌を上手に歌えるかどうかそのものを評価の中心にするのは避けましょう。大切なのは、歌やチャンツで慣れた表現を、実際のやり取りで使えるかどうかです。
チャンツからやり取りへつなぐ一言
チャンツの直後に、先生がそのまま子どもに質問を投げかけると、「言う」が「使う」に変わります。
- T: (チャンツの後で) Do you like carrots, Yuki?
- S: No, I don't!
- T: Oh, really? Me, neither. What vegetable do you like?
- S: I like corn.
このように、チャンツで何度も言った形がそのまま会話に出てくると、子どもは「チャンツで言ったのと同じだ」と気づき、自信をもって答えられます。毎時間の最初に、チャンツ→先生からの質問2〜3人、という流れを定番にしてみましょう。慣れてきたら、子ども同士でペアになり、チャンツの質問をお互いにたずね合う時間を1分だけとるのもおすすめです。
家庭で歌を楽しむときのコツ(保護者向け)
家庭では、学校で歌っている歌を一緒に口ずさむのがいちばんです。「その歌、教えて」と子どもを先生役にすると、子どもは得意になって何度も歌ってくれます。
市販の英語の歌やYouTubeの子ども向け音楽を使う場合は、次の点を意識しましょう。
- 同じ曲を何度も聞く(新しい曲を次々に増やさない)
- 車の中や朝の支度の時間など、「ながら」で流す
- 歌詞の意味を全部説明しなくてよい
まずは今週、授業(または家庭)で使う歌を1曲に決め、5ステップの「聞くだけ」から始めてみましょう。



