テクノロジー・未来

家はもう「印刷」できる。でも臓器の印刷がまだ遠いのは“血管”のせいだった

家はもう「印刷」できる。でも臓器の印刷がまだ遠いのは“血管”のせいだった

読む前に予想してみよう!

3Dプリンターで作った心臓を移植された患者がすでにいる

研究カード(どんな研究?)
対象
3Dプリント建築・医療機器・バイオプリンティング
規模
症例報告〜実験室レベルの試作
研究の種類
症例報告・実験研究・レビュー
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

3Dプリンターで家の壁を刷る技術はすでに実用段階。一方、移植できる臓器の印刷は、細かな血管網を作れない壁があり、まだ研究段階。

ひとことで言うと家は3Dプリンターで作れる時代。でも心臓や肝臓はまだムリ!

もくじ
  1. 3Dプリンターは「ソフトクリーム方式」
  2. 医療ではもう「刷ったもの」が人を救っている
  3. なぜ臓器の印刷は難しいのか
  4. まとめ

ニュースで「3Dプリンターで家が建った!」「臓器を印刷する時代へ!」という見出しを見たことはありませんか?

実はこの2つ、同じ「3Dプリンター」の話なのに、実現度がまったく違います。

家はすでに“刷れる”段階に来ている一方、移植できる臓器を刷るのはまだまだ先。その差を生んでいるのは、意外にも「血管」なのです。

013Dプリンターは「ソフトクリーム方式」

3Dプリンターの基本はシンプル。材料を薄い層にして、少しずつ積み重ねていく方法です。

ソフトクリームを渦巻き状に絞り出して形を作るのをイメージしてください。プラスチック、金属、樹脂、そしてコンクリートまで、材料を変えればいろいろなものが作れます。

建築では、巨大なプリンターがモルタル(セメントを混ぜた材料)を絞り出し、家の壁を一層ずつ積み上げます。

  • 型枠がいらないので、廃材が減る
  • 丸みのある自由な形の壁が作りやすい
  • 壁を作る工程を短い時間で終えられる

世界各地で、3Dプリンターで作った住宅や小屋が実際に建てられています。ただし屋根・配線・水道・窓などは今も人の手が必要で、建築のルールに合わせる課題も残っています。「家を丸ごと全自動」ではなく、「壁づくりが得意な新しい工法」と考えるのが正確です。

3Dプリンターは材料を一層ずつ積み重ねて形を作る。
3Dプリンターは材料を一層ずつ積み重ねて形を作る。

02医療ではもう「刷ったもの」が人を救っている

医療の世界でも、3Dプリンターはすでに活躍しています。患者一人ひとりの体に合わせた人工関節や骨の代わりの部品、手術前に練習するための臓器の模型、歯の矯正器具などです。

03なぜ臓器の印刷は難しいのか

では、細胞を“インク”にして臓器を丸ごと刷るバイオプリンティングはどうでしょう。

細胞を含んだインク(バイオインク)で、皮膚や軟骨の小さなかけら、細胞のシートなどを作る研究は進んでいます。2019年にはイスラエル・テルアビブ大学の Noor らが、患者の細胞をもとにウサギの心臓ほどの小さな心臓を刷ったと発表して話題になりました。

ただしこれは、形をまねた“試作品”。ポンプとして血液を送り出せるわけではありません。

血管づくりの研究も少しずつ進んでいます。米ハーバード大学のチームは2016年、液体を流せる通り道を埋め込んだ厚さ1cm以上の組織を印刷し、長期間生かし続けたと報告しました(Kolesky ら)。2019年には、ゲルの中に血管や気道のように入り組んだ通り道を印刷する技術も Science に発表されています(Grigoryan ら)。それでも、毛細血管レベルの細かさで臓器全体を作るには、まだ大きな距離があります。

最大の壁が血管です。細胞は、酸素や栄養を受け取れないとすぐに死んでしまいます。体の中では、髪の毛よりずっと細い毛細血管が、ほぼすべての細胞のすぐ近くまで張りめぐらされています。分厚い臓器を作るには、この超精密な血管のネットワークも一緒に作り、しかも本物の血管につないで血を流さなければなりません。

04まとめ

3Dプリンターは「家の壁」や「体に合わせた部品」ではすでに現役。一方、生きた臓器を刷るには、細胞一つひとつに酸素を届ける血管網の再現という巨大な壁があります。

家より臓器の方が、ずっと複雑で精密な“建築物”だった――そう考えると、私たちの体ってすごいと思いませんか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHeadlines often say that 3D printers can print both houses and organs, but the two are at very different… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Headlines often say that 3D printers can print both houses and organs, but the two are at very different stages. 3D printers build objects by adding thin layers of material, like squeezing out soft-serve ice cream. Huge printers already build the walls of houses, which reduces waste and makes curved walls easier to create.

However, roofs, wiring and windows still need human workers. In medicine, 3D printing is used for custom joints and models for surgery practice. In 2013, doctors reported using a printed splint to help a baby breathe.

Printing a working organ is much harder. In 2019, researchers printed a small heart about the size of a rabbit's, but it could not pump blood. Tiny blood vessels also cannot be printed yet.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

見出しではよく、3Dプリンターで家も臓器も印刷できると言われますが、この2つはまったく異なる段階にあります。3Dプリンターは、ソフトクリームを絞り出すように、材料の薄い層を重ねて物を作ります。巨大なプリンターはすでに家の壁を造っており、廃材を減らし、曲線の壁を作りやすくしています。

しかし、屋根や配線、窓には今も人の作業員が必要です。医療では、3Dプリントは患者に合わせた関節や手術練習用の模型に使われています。2013年には、医師たちが赤ちゃんの呼吸を助けるために印刷した添え木を使ったことを報告しました。

働く臓器を印刷するのはずっと難しいことです。2019年、研究者たちはウサギの心臓ほどの小さな心臓を印刷しましたが、それは血液を送り出すことができませんでした。細い血管もまだ印刷できません。

4択リーディングクイズ

Q1. Which is mentioned as an advantage of printing house walls?

Q2. What is true about the heart printed in 2019?

Q3. What does the writer mean by saying the two are "at very different stages"?

重要単語

  • additive manufacturingC1
    名詞(句)積層造形(3Dプリントの正式名)Additive manufacturing builds objects one thin layer at a time. add(加える)から。材料を削る従来の加工(subtractive)と対比される。
  • bioprintingC1
    名詞細胞を使った3D印刷Bioprinting uses living cells as a kind of ink. bio-(生命)+printing。biology, biography の bio と同じ。
  • capillaryC1
    名詞毛細血管Almost every cell in your body sits close to a capillary. ラテン語 capillus(髪の毛)から=「髪の毛のように細い管」。artery(動脈)・vein(静脈)とセットで。
  • scaffoldC1
    名詞足場(細胞を支える構造)The cells grew on a soft scaffold. 本来は建設現場の「足場」。再生医療では細胞が育つ土台の意味で使う。
  • transplantB2
    名詞・動詞移植(する)A printed heart is not ready for transplant yet. trans-(移す)+plant(植える)。名詞は前、動詞は後ろにアクセントが来やすい。organ transplant「臓器移植」。
  • layerB1
    名詞層The printer adds one layer at a time. the ozone layer(オゾン層)でもおなじみ。layer by layer「一層ずつ」。
  • oxygenB1
    名詞酸素Cells die quickly without oxygen. 発音は /ˈɑːksɪdʒən/(アクシジェン)。carbon dioxide(二酸化炭素)と対で覚える。

動画でもっと知る

3Dプリンターで「家」はもう建つ時代。でも「臓器」の印刷がまだ遠いのは、細胞に酸素を届ける細かい血管網が作れないかららしい。家より臓器の方がずっと難しかった。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Zopf et al. (2013) Bioresorbable Airway Splint Created with a Three-Dimensional Printer, New England Journal of Medicinedoi.org
  2. Noor et al. (2019) 3D Printing of Personalized Thick and Perfusable Cardiac Patches and Hearts, Advanced Sciencedoi.org
  3. Kolesky et al. (2016) Three-dimensional bioprinting of thick vascularized tissues, PNASdoi.org
  4. Grigoryan et al. (2019) Multivascular networks and functional intravascular topologies within biocompatible hydrogels, Sciencedoi.org
  5. Buswell et al. (2018) 3D printing using concrete extrusion: A roadmap for research, Cement and Concrete Researchdoi.org