テクノロジー・未来

手を動かさず「頭の中で字を書く」だけで1分90文字。脳とPCをつなぐBCIの現在地

手を動かさず「頭の中で字を書く」だけで1分90文字。脳とPCをつなぐBCIの現在地

読む前に予想してみよう!

脳の信号を読み取る方法には、頭に電極を埋め込まずに測るタイプもある

研究カード(どんな研究?)
対象
重度まひ・ALS・脳卒中の患者
規模
各研究1人ずつ
研究の種類
埋め込み型BCIの臨床研究(症例)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

体を動かせない人が「手で字を書くところ」を想像するだけで、1分間に約90文字を入力できた研究がある。脳とコンピューターをつなぐBCIは医療から実用化が進む。

ひとことで言うと考えるだけで文字が打てる機械が、本当に研究で動いている!

もくじ
  1. 「字を書くつもり」になるだけで文字が打てた
  2. 次は「声」を取り戻す
  3. 埋め込む? かぶるだけ? 2つの方式
  4. 「心が読まれる」は本当?
  5. まとめ

「考えるだけでスマホが操作できたらいいのに」。誰でも一度は思ったことがあるはずです。

実はこれ、すでに研究の現場では動いています。脳の信号を読み取ってコンピューターを動かす技術を、BCI(ブレイン・コンピューター・インターフェース)と呼びます。

そして、その一番の目的は「楽をすること」ではありません。病気やけがで体を動かせない人に、もう一度“話す手段”を取り戻すことです。

01「字を書くつもり」になるだけで文字が打てた

ポイントは「手書き」を想像させたこと。「a」と「b」は書くときの手の動きがまったく違うので、脳の活動パターンも区別しやすいのです。カーソルを動かして1文字ずつ選ぶ従来の方法より、ずっと速くなりました。

この速さは、同じくらいの年代の人がスマホで文字を打つスピードに迫るものだったと報告されています。

「書くつもり」の脳活動を、AIが文字に翻訳する。
「書くつもり」の脳活動を、AIが文字に翻訳する。

02次は「声」を取り戻す

2023年には、BCIで話し言葉を再現する研究も Nature に相次いで発表されました。

  • 難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)で話しにくくなった人が「話そうとする」ときの脳活動から、1分間に60語ほどの英語の文を作り出した研究(Willett ら)
  • 脳幹の脳卒中で話せなくなった女性の脳信号から、1分間に約80語の文章だけでなく声やアバターの表情まで再現した研究(Metzger ら)

人間の普通の会話は1分間に150語前後といわれるので、まだ追いつくには距離があります。それでも、Willett らの研究は従来の記録の約3.4倍の速さで、大きな進歩です。

2024年には、ALSの男性が埋め込み型BCIを8か月以上使い、自分のペースでの会話で約97.5%の正確さを保ったという報告も医学誌 NEJM に載りました(Card ら)。

企業による臨床試験も進み、埋め込み型の装置で、まひのある人がパソコンのカーソルを動かしたりゲームをしたりする様子も報告されています。ただし執筆時点では、いずれも少数の参加者での試験段階で、一般の医療として広く使える段階ではありません。

03埋め込む? かぶるだけ? 2つの方式

たとえるなら、埋め込み型は「コンサート会場の中で演奏を聴く」、非侵襲型は「会場の外の壁越しに聴く」ようなもの。外からでもリズムはわかりますが、細かい音は聞き取りにくいのです。

04「心が読まれる」は本当?

とはいえ、脳のデータは究極の個人情報。将来に備えて「脳データのプライバシーをどう守るか」という議論は、すでに世界で始まっています。手術のリスクや、長期間使ったときの安全性もまだ研究途中です。

05まとめ

「頭の中で字を書く」だけで1分約90文字――BCIは、体を動かせない人のコミュニケーションを取り戻す技術として、着実に前進しています。

ただし一般の人が気軽に使える日はまだ先。まずは医療の現場から、静かに未来が始まっているのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerBrain-computer interfaces, or BCIs, read signals from the brain and use them to control computers. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Brain-computer interfaces, or BCIs, read signals from the brain and use them to control computers. Their main purpose is to help people who cannot move or speak. In 2021, researchers at Stanford University placed tiny electrodes in the brain of a man who was almost completely paralyzed from the neck down.

When he imagined writing letters by hand, AI translated his brain activity into text at about 90 characters per minute. Imagining handwriting worked well because each letter requires a different hand movement, which makes the brain patterns easy to tell apart. In 2023, other teams decoded attempted speech, producing about 60 to 80 words per minute. That is still slower than normal conversation, which is around 150 words per minute.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ブレイン・コンピューター・インターフェース、つまりBCIは、脳からの信号を読み取り、それを使ってコンピューターを操作します。その主な目的は、動いたり話したりできない人を助けることです。2021年、スタンフォード大学の研究者たちは、首から下がほぼ完全にまひした男性の脳に小さな電極を埋め込みました。

彼が手で文字を書くところを想像すると、AIが脳活動を1分間に約90文字の速さで文字に変換しました。手書きの想像がうまくいったのは、文字ごとに手の動きが違うため、脳のパターンを区別しやすいからです。2023年には、別のチームが話そうとするときの脳活動を解読し、1分間に約60〜80語を作り出しました。これは、1分間に約150語とされる普通の会話より、まだ遅いのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main purpose of BCIs, according to the passage?

Q2. Why did imagining handwriting work well?

Q3. What can we infer about speech BCIs from the last two sentences?

重要単語

  • brain-computer interfaceC1
    名詞(句)脳とコンピューターをつなぐ装置(BCI)A brain-computer interface turns brain signals into text. interface は inter-(間)+face(面)=「境目でつなぐもの」。user interface(UI)も同じ。
  • paralysisC1
    名詞まひThe study helps people with paralysis communicate. 形容詞 paralyzed(まひした)。比喩で「機能停止」の意味もある(traffic paralysis)。
  • electrodeC1
    名詞電極Tiny electrodes recorded activity in the motor cortex. electr-(電気)+-ode(道)。anode(陽極)・cathode(陰極)も -ode 仲間。
  • decodeB2
    動詞解読するAI decoded the signals into letters. decode A into B「AをBに解読する」。名詞 decoder(解読器)。
  • non-invasiveC1
    形容詞非侵襲の(体を傷つけない)EEG is a non-invasive way to measure brain waves. invade(侵入する)→ invasive。invasive species「侵略的外来種」も入試頻出。
  • implantB2
    動詞・名詞埋め込む/埋め込み物Doctors implanted electrodes in his brain. im-(中に)+plant(植える)。dental implant「歯のインプラント」でおなじみ。
  • caveatC1
    名詞注意事項、但し書きThe results come with several caveats. ラテン語で「用心せよ」。研究紹介で限界を述べるときの定番語。発音は /ˈkæviæt/。

動画でもっと知る

4コマでわかる

手を動かさず「頭の中で字を書く」だけで1分90文字。脳とPCをつなぐBCIの現在地の4コマ漫画
首から下が動かない男性が「ペンで字を書くところ」を頭の中で想像するだけで、1分間に約90文字を入力できたらしい。脳とコンピューターを直接つなぐBCI、もうSFじゃなかった。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Willett et al. (2021) High-performance brain-to-text communication via handwriting, Naturedoi.org
  2. Willett et al. (2023) A high-performance speech neuroprosthesis, Naturedoi.org
  3. Metzger et al. (2023) A high-performance neuroprosthesis for speech decoding and avatar control, Naturedoi.org
  4. Card et al. (2024) An Accurate and Rapidly Calibrating Speech Neuroprosthesis, New England Journal of Medicinedoi.org