宇宙・NASA

一卵性双子の片方を宇宙に1年。NASAが本気で比べたら体に何が起きた?

一卵性双子の片方を宇宙に1年。NASAが本気で比べたら体に何が起きた?

読む前に予想してみよう!

宇宙に1年いた宇宙飛行士は、DNAの7%が別人のように書き換わった

研究カード(どんな研究?)
対象
一卵性双生児の宇宙飛行士
規模
2人(宇宙1人・地上1人)約25か月の追跡
研究の種類
事例研究(多項目の比較)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

NASAは宇宙に約1年滞在した宇宙飛行士と、地上に残った一卵性双子の兄弟を徹底比較。多くの変化は帰還後に元に戻った。

ひとことで言うとふたごの片方だけ宇宙へ行ったら、体がどう変わるかをくらべた実験だよ。

もくじ
  1. 「完璧な比較相手」がいた奇跡の実験
  2. 驚き①:染色体の“キャップ”が宇宙で伸びた
  3. 驚き②:遺伝子の「スイッチ」が切り替わった
  4. 「元に戻らなかった」ものもある
  5. ほかにも見つかった変化
  6. まとめ

もし、あなたとまったく同じ遺伝子をもつ人がいて、その人だけが宇宙で1年暮らしたら──体にはどんな差が生まれるでしょうか?

SFのような話ですが、NASAはこれを本当にやりました。主役は、アメリカの宇宙飛行士スコット・ケリーさんと、その一卵性双子の兄弟マーク・ケリーさん。2人とも宇宙飛行士という、まさに奇跡の組み合わせです。

01「完璧な比較相手」がいた奇跡の実験

一卵性双子は、もともと1つの受精卵から生まれるので、ほぼ同じ遺伝子をもっています。つまり、片方だけを宇宙に送れば、「宇宙に行ったせいで起きた変化」を見分けやすくなるのです。

スコットさんは2015年3月から2016年3月まで、約340日間ISSに滞在。マークさんはその間、地上で生活しました。研究チームは、血液、尿、便、認知テストなど、ありとあらゆる角度から2人を比較しました。

宇宙と地上、同じ遺伝子をもつ2人を「全身まるごと」比較した
宇宙と地上、同じ遺伝子をもつ2人を「全身まるごと」比較した

02驚き①:染色体の“キャップ”が宇宙で伸びた

注目を集めたのがテロメアの変化です。テロメアとは、染色体(遺伝情報をまとめた束)の端っこにある靴ひもの先のキャップのような部分。年をとるにつれて短くなる傾向があり、「老化の目印」とも言われます。

ところがスコットさんの血液の細胞では、宇宙滞在中にテロメアがむしろ長くなっていたのです。「宇宙で若返った!?」と話題になりましたが、地球に戻ると急速に短くなり、一部は出発前より短くなりました。若返りではなく、体がストレスに反応したサインかもしれないと考えられています。

アメリカ・コロラド州立大学のラクストンらは2020年、学術誌『Cell Reports』で、ほかの宇宙飛行士たちのデータも加えて調べ、宇宙滞在中にテロメアが長くなる現象がスコットさん以外でも見られたことを報告しています。放射線などによる慢性的なDNAへのダメージへの反応ではないかと考えられています。

03驚き②:遺伝子の「スイッチ」が切り替わった

遺伝子そのものは設計図。でも、どの設計図を「読む」かは状況によって変わります。これを遺伝子発現といいます。

宇宙滞在中、スコットさんは免疫やDNAの修復などに関わる多くの遺伝子のスイッチの入り方が変わっていました。ただ、帰還から半年後には、その大部分が元に戻っていたと報告されています。

04「元に戻らなかった」ものもある

注意したいのは、すべてが元通りになったわけではないことです。

帰還から半年たっても、一部の遺伝子の働きは元に戻っていませんでした。また、染色体の一部が入れかわったり欠けたりする変化(染色体異常)も、宇宙滞在中に増えていたと報告されています。これは、宇宙で浴びる放射線の影響が考えられます。

宇宙に長くいるほど、こうした変化が積み重なるかもしれません。だからこそ、往復で何年もかかる火星への旅の前に、体への影響をできるだけくわしく知っておく必要があるのです。

05ほかにも見つかった変化

  • 認知テスト:帰還後しばらく、反応の速さや正確さが下がった
  • 頸動脈(首の太い血管):壁がやや厚くなった
  • 腸内細菌:顔ぶれのバランスが変わったが、帰還後に戻った
  • ワクチン:宇宙でもインフルエンザワクチンへの免疫反応は正常に働いた

06まとめ

  • NASAは一卵性双子の片方を約1年宇宙へ送り、全身を徹底比較した
  • テロメアの伸び、遺伝子のスイッチの変化など、さまざまな変化が起きた
  • ただし多くは帰還後に元に戻った。一方で、一部の変化は長く残った

ただし、比べたのはたった2人。これだけで「宇宙に行くと必ずこうなる」とは言えません。人類が火星へ行く時代に向けて、もっと多くの人のデータを集めることが次の課題です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIdentical twins share almost the same genes, so NASA saw a rare chance when astronaut Scott Kelly spent… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Identical twins share almost the same genes, so NASA saw a rare chance when astronaut Scott Kelly spent about 340 days on the ISS from 2015 to 2016 while his twin brother Mark stayed on Earth. Many research teams compared the brothers using blood, urine and cognitive tests, and the main results were published in 2019. One surprise involved telomeres, the protective caps at the ends of chromosomes, which usually shorten with age. Scott's telomeres became longer in space, but they shortened quickly after he returned.

Scientists think this may have been a reaction to stress rather than a sign of becoming younger. The activity of many genes also changed in space, but most of these changes disappeared within six months of his return.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

一卵性双子はほぼ同じ遺伝子をもっているので、宇宙飛行士スコット・ケリーさんが2015年から2016年にかけて約340日間ISSに滞在し、その間に双子の兄弟マークさんが地上に残ったことは、NASAにとってまれな機会になりました。多くの研究チームが、血液や尿、認知テストを使って兄弟を比較し、主な結果は2019年に発表されました。驚きのひとつはテロメアに関するものでした。テロメアは染色体の端にある保護キャップで、ふつうは年をとるにつれて短くなります。スコットさんのテロメアは宇宙で長くなりましたが、帰還後には急速に短くなりました。

科学者たちは、これは若返りのしるしではなく、ストレスへの反応だったのかもしれないと考えています。多くの遺伝子の働きも宇宙で変化しましたが、これらの変化の大部分は、帰還から6か月以内に消えました。

4択リーディングクイズ

Q1. Why was the Kelly twins' case a rare chance for NASA?

Q2. What happened to Scott's telomeres?

Q3. What do scientists think the longer telomeres meant?

重要単語

  • identical twinsB1
    名詞(句)一卵性双生児Identical twins share almost the same genes. identical は「まったく同じ」。二卵性双生児は fraternal twins。be identical to ~「~と同一である」。
  • telomereC1
    名詞テロメア(染色体の末端部分)Telomeres tend to get shorter with age. ギリシャ語 telos(終わり)+meros(部分)。靴ひもの先のキャップにたとえられる。
  • gene expressionC1
    名詞(句)遺伝子発現Spaceflight changed his gene expression. express は「表に出す」。遺伝子の情報が実際に「表に出てはたらく」こと。
  • radiationB2
    名詞放射線Astronauts are exposed to more radiation in space. radiate(放射する)の名詞形。be exposed to radiation「放射線を浴びる」の形で頻出。
  • baselineC1
    名詞基準値(元の状態)Most changes returned to baseline after the flight. 研究で「比較の基準となる最初の状態」。return to baseline「元の状態に戻る」は医学・心理学の英文の定番。
  • generalizeB2
    動詞一般化するWe cannot generalize from a single case. サンプルが少ない研究の限界を述べるときの定番語。名詞 generalization「一般化」。
  • hypothesisB2
    名詞仮説The study helps scientists form new hypotheses. 複数形は hypotheses(-sis → -ses)。analysis → analyses、crisis → crises も同じ変化。

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4コマでわかる

一卵性双子の片方を宇宙に1年。NASAが本気で比べたら体に何が起きた?の4コマ漫画
NASAは一卵性双子の片方をISSに約340日、もう片方を地上に残して体を徹底比較した。染色体の端っこが宇宙で伸びたり、遺伝子の働きが変わったり。でも大半は帰還後に元通りになったらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Garrett-Bakelman et al. (2019) The NASA Twins Study: A multidimensional analysis of a year-long human spaceflight, Sciencedoi.org
  2. Luxton et al. (2020) Temporal Telomere and DNA Damage Responses in the Space Radiation Environment, Cell Reportsdoi.org
  3. NASA, Twins Study, NASAnasa.gov