宇宙飛行士の試験に「水泳」と「閉じ込め生活」がある、ちゃんとした理由

読む前に予想してみよう!
宇宙飛行士になるには、視力が裸眼で1.0以上ないといけない
多くの宇宙機関では、メガネやコンタクトで矯正した視力が基準を満たせばよい。
- 対象
- 極地越冬隊・宇宙飛行士などの長期閉鎖環境
- 規模
- 複数の研究をまとめたレビュー
- 研究の種類
- レビュー+宇宙機関の公式情報
- 確かさ
- ★★★☆☆
宇宙飛行士の選抜や訓練には、水泳、閉鎖環境での共同生活、サバイバル訓練など意外な項目がある。求められるのは体力以上に「チームで冷静に動く力」。
ひとことで言うと宇宙飛行士は、およぎやチームでのくらしもしっかり練習するよ!
宇宙飛行士になるには、どんな人が選ばれるのでしょう?「天才的な頭脳」「超人的な体力」──そんなイメージがあるかもしれません。
でも実際の選抜試験や訓練をのぞいてみると、「え、そんなことまで?」と思う項目がたくさん並んでいます。服を着たまま泳ぐ。閉じた部屋で何日も共同生活する。雪の森で野宿する。
それぞれに、宇宙で生き延びるためのちゃんとした理由があるのです。
01JAXAの応募条件は「理系じゃなくてもOK」に
まず、応募の条件から見てみましょう。
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2021〜2022年度に宇宙飛行士を募集しました。このとき、それまで必要だった「4年制大学(自然科学系)卒業以上」という学歴の条件がなくなりました。仕事の経験(実務経験)も、「自然科学系の分野で3年以上」から、分野を問わない3年以上に変わりました。その代わり、科学や技術の力は、選抜試験の中で確かめる形になっています。
この募集には4,127人の応募があり、2023年2月に2人が宇宙飛行士候補者に選ばれています(JAXA発表)。
これからの宇宙は、科学者やパイロットだけでなく、いろいろな経験をもつ人が活躍する時代。月面での活動などを見すえて、多様な人材を求めるようになっているのです。
02なぜ「水泳」?
NASAの宇宙飛行士候補者は、訓練が始まって最初の1か月のうちに水泳テストを受けます。25mプールを止まらずに3本泳いだあと、飛行服と運動靴を身につけたままさらに3本。そのうえ、飛行服のまま10分間の立ち泳ぎも続けます(NASAの訓練資料)。
JAXAの2021年の募集では、泳ぐ力は応募の条件から外されました。そのかわり、選ばれたあとの基礎訓練で泳ぐ力を身につけます。目標は、水着でも服を着たままでも75m(25m×3本)泳げて、10分間立ち泳ぎできることです。
理由はふたつあります。
- 水の上で生き延びるため:ジェット練習機での訓練や、海に着水する宇宙船からの脱出に備える
- 宇宙遊泳の訓練のため:スキューバダイビングの資格をとり、巨大なプールの底に沈めた宇宙ステーションの実物大模型で、宇宙服を着て作業の練習をする
水の中では、浮力を調節して、体が浮きも沈みもしない状態を作れます。これが無重力での作業に近いのです。NASAのジョンソン宇宙センターの訓練施設には、この訓練のためのとても大きなプールがあります。

03なぜ「閉じ込め生活」?
JAXAの選抜試験では、外から閉ざされた施設の中で、候補者たちが何日も共同生活をする試験が行われてきました。そこでは、チームでの作業や、ストレスがかかる状況での行動が観察されます。
宇宙ステーションは、逃げ場のない狭い空間。そこで何か月も、国籍も文化も違う仲間と一緒に暮らし、働くことになります。だから、
- イライラしたときにどう気持ちを整えるか
- 意見がぶつかったときにどう折り合うか
- 疲れているときでも周りを気づかえるか
といった力が、とても大切なのです。
アメリカの心理学者ランドンさんらも、2018年に学術誌『American Psychologist』でレビューを発表しました。火星探査のような何年もかかる旅では、チームワークとチームの健康を保つ工夫が特に必要です。レビューでは、そのためのNASAの取り組み(チームの選び方・訓練・日々の見守りなど)を整理しています。NASAも、宇宙飛行士候補者にはリーダーシップやチームワーク、コミュニケーションの力が必要だと明記しています。
04なぜ「サバイバル訓練」?
宇宙飛行士は、雪の積もった森や、海の上などでのサバイバル訓練も受けます。
宇宙船が予定外の場所に着陸してしまったら、救助が来るまでチームで生き延びなければなりません。火をおこす、シェルターを作る、仲間の体調に気を配る──この訓練も、結局はチームワークの訓練なのです。
05まとめ
- JAXAの募集では学歴や専門分野の条件がなくなり、いろいろな経験をもつ人を募るようになった
- 水泳、閉鎖環境での共同生活、サバイバルなど、意外な訓練がある
- どれも根っこにあるのは、チームで冷静に生き延びる力
宇宙飛行士に必要なのは、超人的な能力よりも「どんな状況でも仲間と協力できること」。これは、宇宙でも地球でも、きっと同じですね。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWho can become an astronaut?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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この研究を英語で読もう
Many people think astronauts need a genius brain and a super strong body. But astronaut training includes some surprising tests. Candidates swim in their clothes, because a spaceship may land in the sea. They also practice working in a huge pool, because floating in water is a little like floating in space.
In Japan, candidates lived together for days in a closed building. A space station is a small place with no escape, so teamwork is very important.
78 words ・ CEFR A2
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多くの人は、宇宙飛行士には天才的な頭脳ととても強い体が必要だと思っています。しかし、宇宙飛行士の訓練には意外なテストがいくつかあります。候補者たちは服を着たまま泳ぎます。宇宙船が海に着水するかもしれないからです。また、巨大なプールの中で作業の練習もします。
水に浮かぶことは、宇宙で浮かぶことに少し似ているからです。日本では、候補者たちが閉ざされた建物の中で何日も一緒に暮らしました。宇宙ステーションは逃げ場のない狭い場所なので、チームワークがとても大切なのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第2文 But astronaut training includes some surprising tests. 以降、水泳・プール・共同生活という意外な訓練を紹介しているので B。
Q2. Why do astronaut candidates swim in their clothes?
Candidates swim in their clothes, because a spaceship may land in the sea. と理由が書かれているので D。
Q3. In this passage, "a small place with no escape" means a place ...
escape は「逃げること・逃げ道」。no escape で「逃げ場がない」=簡単には外に出られない場所なので A。
Who can become an astronaut? In JAXA's 2021–2022 recruitment, the old rule that applicants needed a natural science degree was removed. They still needed at least three years of work experience, in any field. A total of 4,127 people applied, and two were chosen in February 2023. The selection and training also include some surprising tasks.
Candidates swim in their clothes in case a spacecraft lands in the sea, and they practice spacewalks in a huge pool, where floating in water is similar to weightlessness. JAXA has also had candidates live together for days in a closed facility while their teamwork under stress is observed. Survival training in snowy forests and at sea has the same goal, which is to stay calm and work as a team.
127 words ・ CEFR B1
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誰が宇宙飛行士になれるのでしょうか。JAXAの2021〜2022年度の募集では、応募者に自然科学系の学位が必要だという以前の条件がなくなりました。3年以上の社会人経験は引き続き必要でしたが、分野は問われなくなりました。合計4,127人が応募し、2023年2月に2人が選ばれました。選抜や訓練には意外な課題も含まれています。候補者は宇宙船が海に着水した場合に備えて服を着たまま泳ぎ、巨大なプールで宇宙遊泳の練習をします。
水中で浮かぶことは無重力に近いのです。JAXAはまた、閉ざされた施設で候補者を何日も共同生活させ、ストレス下でのチームワークを観察してきました。雪の森や海の上でのサバイバル訓練も同じ目的をもっています。それは、冷静さを保ち、チームとして動くことです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
意外な課題を紹介したうえで、最終文で the same goal, which is to stay calm and work as a team とまとめているので C。
Q2. Which statement about JAXA's 2021–2022 recruitment is true?
the old rule that applicants needed a natural science degree was removed とあるので A。必要だったのは3年以上の経験、応募は4,127人、選ばれたのは2人。
Q3. Why is practicing in a huge pool useful for astronauts?
where floating in water is similar to weightlessness と書かれており、無重力での作業に近い状態を作れることが理由なので D。
The popular image of astronauts as physically flawless geniuses does not match how space agencies actually select them. In its 2021–2022 recruitment, JAXA dropped its requirement for a university degree in natural science and asked for at least three years of work experience in any field, attracting 4,127 applicants. Selection and training also involve tasks that seem unrelated to space at first glance: swimming while clothed in preparation for a water landing, rehearsing spacewalks in a giant pool, and spending days with other candidates in a sealed facility while evaluators observe how they behave under pressure.
The reasoning comes largely from research on isolated, confined and extreme environments. A 2008 review in The Lancet by Palinkas and Suedfeld reported that long stays at polar stations are often accompanied by low mood, disturbed sleep and interpersonal friction, and it recommended screening out unsuitable candidates and training people in coping, group interaction and leadership. Polar stations and other Earth-based analogs cannot reproduce weightlessness, space radiation or communication delays. Even so, a 2018 review led by Landon described how NASA builds on this kind of research to select, train and monitor teams for long missions.
192 words ・ CEFR B2
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宇宙飛行士は体に欠点のない天才だ、という一般的なイメージは、宇宙機関が実際に行っている選び方とは一致しません。2021〜2022年度の募集で、JAXAは自然科学系の大学卒業という条件をなくし、分野を問わない3年以上の実務経験を求め、4,127人の応募を集めました。選抜や訓練には、一見すると宇宙と関係なさそうな課題もあります。
着水に備えて服を着たまま泳ぐこと、巨大なプールで宇宙遊泳のリハーサルをすること、そして閉ざされた施設で他の候補者と何日も過ごし、プレッシャーの下でどう振る舞うかを評価者に観察されることです。その根拠は主に、孤立・閉鎖・極限環境の研究にあります。パリンカスとスーフェルドが2008年に『The Lancet』で発表したレビューは、極地基地での長期滞在には気分の落ち込み、睡眠の乱れ、人間関係の摩擦がしばしば伴うと報告し、向かない候補者を選抜で見分けることや、ストレスへの対処法、集団での関わり方、リーダーシップを訓練することをすすめました。極地基地をはじめとする地上の模擬環境では、無重力や宇宙放射線、通信の遅れは再現できません。それでも、ランドンらによる2018年のレビューは、NASAがこうした研究をもとに、長期ミッションのチームを選び、訓練し、見守っている様子を紹介しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
意外な選抜課題を紹介し、その根拠を孤立・閉鎖環境の研究から説明している。主題は B。A は本文の内容(学位条件の撤廃)と逆。
Q2. According to the passage, what did the 2008 review report?
A 2008 review ... reported that long stays at polar stations are often accompanied by low mood, disturbed sleep and interpersonal friction とあるので C。
Q3. Which limitation does the author point out?
Polar stations and other Earth-based analogs cannot reproduce weightlessness, space radiation or communication delays と、地上の模擬環境の限界を述べているので A。
重要単語
- astronaut candidateB1名詞(句)宇宙飛行士候補者She was selected as an astronaut candidate last year.
candidate は「候補者」。選挙の立候補者にも使う。a candidate for ~「~の候補者」の形で入試頻出。 - isolationB2名詞孤立・隔離Long isolation can affect your mood.
isolate(孤立させる)の名詞形。語源はラテン語 insula(島)=「島のように切り離す」。in isolation「単独で」も覚えたい。 - confinedB2形容詞狭く閉ざされたLiving in a confined space requires patience.
confine(閉じ込める・限定する)の過去分詞。be confined to ~「~に限られる」は長文頻出。 - teamworkA2名詞チームワーク・協力Good teamwork saved the mission.
不可算名詞なので a teamwork とはしない。cooperation / collaboration と言い換えられる。 - survival trainingB1名詞(句)サバイバル訓練Survival training teaches you how to build a shelter.
survive(生き延びる)の名詞形 survival。survive the accident のように他動詞でも使える点に注意。 - applicantB1名詞応募者・志願者More than 4,000 applicants sent their forms.
apply for ~「~に応募する」から。application(応募・申込)とセットで覚える。 - cohesionC1名詞結束・まとまりTeam cohesion is vital on long missions.
co-(共に)+here(くっつく)。cohesive「まとまりのある」。team cohesion は心理学系の英文の定番。
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宇宙飛行士の選抜や訓練には、意外な項目がたくさんある。服を着たままの水泳、閉じた施設での共同生活、雪の森や海の上でのサバイバル。どれも宇宙で「チームで生き延びる」ための大まじめな訓練らしい。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- Palinkas & Suedfeld (2008) Psychological effects of polar expeditions, The Lancetdoi.org
- Landon, Slack & Barrett (2018) Teamwork and collaboration in long-duration space missions: Going to extremes, American Psychologistdoi.org
- JAXA (2023) JAXA宇宙飛行士候補者(2021~2022年度 募集・選抜)の決定について, 宇宙航空研究開発機構jaxa.jp
- NASA (2024) Astronaut Requirements, NASAnasa.gov
- NASA (2011) Astronaut Selection and Training(Fact Sheet FS-2011-11-057-JSC), NASA Johnson Space Centernasa.gov
- JAXA (2021) 日本人宇宙飛行士候補者の募集について(記者会見資料), 宇宙航空研究開発機構jaxa.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











