寝不足だと「人助け」をしぶる? 米国で夏時間が始まる週、寄付サイトの1件あたり寄付額が約1割減

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徹夜明けでも、友だちを助けたい気持ちは変わらず、知らない人を助けたい気持ちだけが下がる
実験では、相手が知らない人でも友だちや同僚でも、助けたい気持ちが同じように下がっていた。ただし測ったのはアンケートで答えた「気持ち」で、実際の行動ではない。
- 対象
- 健康な18〜26歳(実験)/アメリカの大人(日記の調査)/アメリカの寄付サイトの記録
- 規模
- 24人(分析は23人)・136人・約340万件の寄付
- 研究の種類
- 徹夜の実験(同じ人で比べる)+4日間の観察+夏時間の前後を比べた観察
- 確かさ
- ★★★☆☆
徹夜明けの実験で、人を助けたい気持ちが下がった。米国で夏時間が始まり時計が1時間進む週は、寄付サイトの1件あたりの寄付額が約1割少なかった。
ひとことで言うと寝不足の日は、人を助けたい気持ちまで少し下がるらしい!
もくじ
アメリカで夏時間(サマータイム)が始まり、時計が1時間進む週。学校向けの寄付サイトでは、1件あたりの寄付額が約1割少なくなっていました。時計を動かさない州では、減っていませんでした。
カリフォルニア大学バークレー校のチームが、3つの研究をまとめて2022年に発表しました。チームが注目したのは寝不足です。一晩徹夜した人は、人を助けたい気持ちが下がっていました。
夏時間の始まりの夜は、時計が1時間進むぶん、たくさんの人の眠る時間が同じ夜に短くなります。チームはこの夜を使い、実験室では作れない大人数の寝不足と、人助けの関係を調べました。ただし、寄付した一人ひとりの睡眠を測ったわけではありません。そこは後で詳しく書きます。
01徹夜明けの朝、「人を助けたい気持ち」を測った
1つ目は実験です。18〜26歳の健康な大人24人が、研究室に2回来ました。1回はふつうに眠った次の朝、もう1回は研究室で一晩じゅう起きていた次の朝です。どちらを先にするかはくじで決め、2回の間は7日以上あけました。
朝には、人助けが必要なさまざまな場面について「今ならどうするか」を5段階で答えました。混んだバスで60歳の女性に席をゆずるか。重い買い物袋に苦労している知らない人を手伝うか。家が近い同僚に「車で送って」と頼まれたら乗せるか。そんな場面です。
助けたい気持ちの点数(5点満点)の平均は、よく眠った朝の3.88点から、徹夜明けには3.59点に下がりました。答えを分析できた23人のうち78%で、点数が下がっていました。相手が知らない人でも、友だちや同僚でも、同じように下がっていました。
徹夜明けは、がんばる気力も落ちていました。キーを押し続けるとお金がもらえる課題では、続けた時間が平均で31%短くなりました。それでも、気分や気力の変化を計算で差し引いても、助けたい気持ちの低下は残りました。
02徹夜明けの脳では「人の心を想像する場所」の働きが弱まった
参加者は、MRIという装置の中で脳の働きも調べられました。画面には、人の黒いシルエットと、名前・職業を書いたカードが出ます。その人がどのくらい温かそうか、仕事ができそうかを想像して答えます。
他人の考えや気持ちを想像するときは、脳のいくつかの場所がまとまって働きます。おでこの奥の内側(内側前頭前野)や、耳の上から少し後ろの奥(側頭頭頂接合部)などです。
徹夜明けは、このまとまりの働きが弱まっていました。働きの落ち方が大きい人ほど、助けたい気持ちの下がり方も大きい傾向がありました。ほかの6つの脳のまとまりでは、こうした関係は見られませんでした。
03ベッドで眠れた割合が低い夜の翌日も、助けたい気持ちが下がった
2つ目は、ふだんの生活での調査です。アメリカの大人136人(平均年齢は約38歳)が、インターネットで4日間、毎朝「睡眠日記」と短い人助けの質問に答えました。
関係していたのは、眠った時間の長さではありませんでした。ベッドにいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合です(平均は約90%)。この割合がその人のいつもより低かった夜の次の日は、助けたい気持ちも下がっていました。眠った時間の長さとは、はっきりした関係が見られませんでした。
ただしこれは、ふだんの生活を記録しただけの調査です。睡眠を変えてみた実験ではありません。
04時計が1時間進む週は、1件あたりの寄付額が約1割少なかった
3つ目は、たくさんの人の寄付の記録を使った分析です。アメリカの多くの州では、春の日曜日に時計を1時間進めます(2007年からは3月の第2日曜日、それより前は4月の第1日曜日)。その日は1日が23時間しかありません。いつもと同じ時刻に起きる人は、そのぶん眠る時間が減ります。
チームが使ったのは、学校の先生が授業に使う本や道具のための寄付を集める、アメリカのサイトの記録です。2001〜2016年の寄付のうち、条件に合う約340万件の記録を集め、夏時間の切り替えの前後の日を取り出しました。夏時間が始まった週の平日を、その前後4週間と比べると、1件あたりの寄付額は約10%少なくなっていました。比べたのは、その日の寄付を平均した額です。寄付の総額や件数ではありません。
前の週と次の週には、こうした減少は見られませんでした。時計を動かさないアリゾナ州とハワイ州では、同じ週でも寄付額は減っていませんでした。秋に時計を1時間戻す週も、減っていませんでした。春の切り替えの日は23時間しかないため、寄付できる時間が短かったせいとも考えられます。そこで寄付の件数を計算に入れて確かめましたが、結果は同じでした。

05どんでん返し:寄付した人の睡眠は、誰も測っていない
3つ目の研究で、寄付をした人が実際に何分眠ったのかは分かりません。夏時間の始まりの週にほかの変化があれば、それが原因の可能性も残ります。別の研究では、夏時間が始まった次の月曜日、アメリカで働く人の睡眠が平均で約40分短くなっていました(2003〜2006年の生活時間の調査)。鉱山で働く人の仕事中のけがも増えていました(1983〜2006年のけがの記録)。
1つ目と2つ目の研究で測ったのは、アンケートで答えた「助けたい気持ち」です。実際に席をゆずったかどうかは見ていません。1つ目の実験は23人の若い大人で、一晩まるごと眠らない、強い寝不足でした。寄付のデータも、学校向けの1つのサイトだけです。
2019年の別のチームの研究では、眠りが足りない人ほど選挙に行かない傾向がありました。睡眠を短くしてもらう実験でも、投票や寄付をする気持ちが下がりました。2024年には、アメリカの2つの全国調査(約1,500人と約1,300人)の結果が報告されました。よく眠れている人ほど、この1年に寄付をしていた割合が高かったのです。寄付先は、地域の慈善団体(困っている人などを助ける団体)や、教会などの礼拝の場所です。これは調査で見えた結びつきで、どちらが原因かは分かりません。
2025年には、睡眠と共感についての研究も出ました。その中の研究2には、347人が参加しました。夜中に5回短く起こされた人は、ふつうに眠った人より、他人の苦しみへの共感や、人を助ける選択が少なかったのです。ただしこの研究には、ベン・サイモンさんとウォーカーさんも加わっています。
06日本に夏時間はない。でも寝不足はある
今の日本には、夏時間の制度はありません。時計が進む週に寄付が減る、ということは日本では起きません。
でも、徹夜や、何度も目が覚める浅い眠りは、誰にでもあります。寝不足の日に人にそっけなくしてしまったら、そこには睡眠も関わっているかもしれません。寝不足と人間関係については、よく眠れなかった次の日ほど恋人とのケンカが多めだった研究や、徹夜した脳で扁桃体の反応が強まった研究もあります。
07まとめ
一晩の徹夜で、人を助けたい気持ちは下がっていました。アメリカで夏時間が始まる週には、寄付サイトの1件あたりの寄付額が約1割少なくなっていました。眠りが人助けを減らすことを、国の規模で直接示したわけではありません。それでも、実験・日記・寄付データの3つが同じ向きを指していました。
ただし、ある人が親切にできなかった理由を、睡眠のせいだと決められる研究ではありません。睡眠も関係するかもしれない、と考える材料の1つです。睡眠をしっかりとれる社会は、人を助け合える社会にもつながるのか。それを確かめる研究は、まだこれからです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCan a night without sleep make people less willing to help?
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この研究を英語で読もう
Scientists in California asked young adults to stay awake all night in a lab. The next morning, the same people said they wanted to help others less than after normal sleep. This was true for strangers and for friends.
In most of the U.S., clocks move forward one hour in spring, so many people lose some sleep. In that week, the average gift on a big donation website was about 10% smaller. But nobody checked the donors' sleep.
78 words ・ CEFR A2
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カリフォルニアの科学者たちが、若い大人たちに研究室で一晩じゅう起きていてもらった。次の朝、同じ人たちは、ふつうに眠ったあとよりも、ほかの人を助けたい気持ちが少ないと答えた。これは知らない人に対しても、友だちに対しても同じだった。
アメリカのほとんどの地域では、春に時計が1時間進むので、多くの人が少し睡眠を失う。その週、大きな寄付サイトでの1件あたりの平均寄付額は、約10%少なかった。ただし、寄付した人の睡眠は、誰も調べていない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
徹夜のあとに助けたい気持ちが下がったことと、時計が進む週に1件あたりの平均寄付額が少なかったことを述べているので、正解は B。
Q2. What happens to clocks in most of the U.S. in spring?
「clocks move forward one hour in spring」とあるので、正解は C。
Q3. In the passage, "stay awake" is closest in meaning to ___.
stay awake は「起きたままでいる」、つまり眠らないという意味なので、正解は B。all night と一緒に「一晩じゅう起きている」となる。
Can a night without sleep make people less willing to help? California researchers tested this in three ways. First, 24 young adults visited a lab after normal sleep and again after staying up all night.
After the sleepless night, most said they were less willing to help in everyday situations, like giving up a bus seat. Brain areas used to imagine what others think became less active. Next, 136 adults kept a sleep diary for four days. After nights of poorer sleep, they felt less like helping.
Finally, the team studied about 3.4 million gifts on a U.S. charity website. In the week after clocks moved forward for daylight saving time, when many people lose sleep, the average gift was about 10% smaller. Nobody measured the donors' sleep.
128 words ・ CEFR B1
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一晩眠らないと、人は進んで人を助けようとしなくなるのだろうか。カリフォルニアの研究者たちが、これを3つの方法で調べた。まず、若い大人24人が、ふつうに眠ったあとと、一晩じゅう起きていたあとに、研究室に来た。
眠らなかった夜のあと、大半の人が、バスで席をゆずるといった日常の場面で、助けたい気持ちが下がったと答えた。他人が何を考えているかを想像するときに使う脳の場所も、働きが弱まっていた。次に、136人の大人が4日間、睡眠日記をつけた。眠りの質が悪かった夜のあとは、助けたい気持ちが下がった。
最後に、研究チームはアメリカの寄付サイトでの約340万件の寄付を調べた。夏時間で時計が進み、多くの人の睡眠が減る週には、1件あたりの平均寄付額が約10%少なかった。寄付した人の睡眠は、誰も測っていない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
実験・睡眠日記・寄付データの3つの方法で、寝不足と人助けの関係を調べた話なので、正解は B。
Q2. How long did the 136 adults keep a sleep diary?
「136 adults kept a sleep diary for four days」とあるので、正解は B。
Q3. Why did the team look at gifts in the week after the clocks moved forward?
「when many people lose sleep」とあり、時計が進む週は多くの人の睡眠が減る。寝不足と人助けの関係を調べるためにその週を見たので、正解は A。
In spring, most of the United States moves its clocks forward by one hour, and many people lose sleep that night. Eti Ben Simon, Matthew Walker and their colleagues at the University of California, Berkeley, used this yearly event in a study on sleep and helping. They looked at about 3.4 million gifts made from 2001 to 2016 on a website that raises money for school projects.
On the weekdays after the clock change, the average gift was about 10% smaller than in the surrounding weeks. There was no such drop in Arizona and Hawaii, which do not change their clocks, or in the fall, when the clocks go back.
However, nobody measured how long the donors actually slept, so other changes in that week cannot be completely ruled out. The team also ran a lab experiment in which 23 young adults answered questions about helping after a normal night and after a night without sleep. Their willingness to help dropped, whether the person in need was a stranger or a friend. Brain scans showed weaker activity in a network that people use when they think about what is going on in someone else's mind.
195 words ・ CEFR B2
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春になると、アメリカのほとんどの地域で時計が1時間進められ、多くの人がその夜の睡眠を失う。エティ・ベン・サイモンとマシュー・ウォーカーら、カリフォルニア大学バークレー校のチームは、この毎年のできごとを、睡眠と人助けの研究に使った。彼らは、学校の取り組みのためにお金を集めるサイトで2001年から2016年に行われた、約340万件の寄付を調べた。
時計が変わったあとの平日は、1件あたりの平均寄付額が、前後の週より約10%少なかった。時計を変えないアリゾナ州とハワイ州や、時計が戻される秋には、こうした減少はなかった。
ただし、寄付した人が実際にどれだけ眠ったかは誰も測っておらず、その週のほかの変化の影響を完全に否定することはできない。チームは研究室での実験も行い、23人の若い大人が、ふつうの夜のあとと眠らなかった夜のあとに、人助けについての質問に答えた。助けを必要とする相手が知らない人でも友だちでも、助けたい気持ちは下がった。脳の画像では、他人の心の中で何が起きているかを考えるときに使われるネットワークの働きが弱まっていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
寄付データと研究室の実験の両方から、寝不足が人助けを減らすかもしれないことを示し、寄付した人の睡眠は測っていないという限界にも触れているので、正解は B。
Q2. According to the passage, where was there no drop in gifts?
「There was no such drop in Arizona and Hawaii, which do not change their clocks」とあるので、正解は C。
Q3. Why does the writer say that other changes in that week cannot be completely ruled out?
「nobody measured how long the donors actually slept」と、理由が so の前に書かれているので、正解は A。
重要単語
- sleep deprivationB2名詞睡眠不足、断眠Sleep deprivation can make it hard to focus.
deprive A of B で「AからBを奪う」。deprivation はその名詞形 - donationB1名詞寄付She made a small donation to the school.
動詞は donate(寄付する)。donor は「寄付した人」「臓器などの提供者」 - daylight saving timeB2名詞夏時間(サマータイム)Daylight saving time starts in March in most of the U.S.
save daylight(日の光を有効に使う)から。イギリス英語では summer time とも言う - willingnessB2名詞進んで〜する気持ちHis willingness to help surprised everyone.
be willing to ~(進んで~する)の名詞形。willingness to ~ の形でよく使う - strangerA2名詞知らない人A stranger asked me for directions.
strange はもとは「よその」という意味で、stranger は「よその人=見知らぬ人」。「変な人」の意味ではない - empathyB2名詞共感(相手の気持ちを感じ取る力)Good doctors show empathy for their patients.
sympathy(同情)と区別して覚える。形容詞は empathetic - rule outB2動詞句(可能性を)除外する、否定するThe police could not rule out an accident.
cannot be ruled out で「可能性が残る」。研究や報道の英文で頻出
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米国の寄付サイトの記録(約340万件)を調べると、夏時間が始まり時計が1時間進む週は、1件あたりの寄付額が約1割少なかった。時計を動かさない州では減っていない。徹夜の実験でも「人を助けたい気持ち」が下がっていた。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Ben Simon, Vallat, Rossi & Walker (2022) Sleep loss leads to the withdrawal of human helping across individuals, groups, and large-scale societies, PLOS Biologydoi.org
- Barnes & Wagner (2009) Changing to daylight saving time cuts into sleep and increases workplace injuries, Journal of Applied Psychologydoi.org
- Holbein, Schafer & Dickinson (2019) Insufficient sleep reduces voting and other prosocial behaviours, Nature Human Behaviourdoi.org
- Nickel & Scullin (2024) Sleep quality and sleep duration are associated with charitable donations: Evidence from two population-based surveys, Sleep Medicinedoi.org
- Gordon-Hecker et al. (2025) Restless nights, cold hearts: Poor sleep causally blunts empathy, International Journal of Clinical and Health Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











