心理学ホント

「自分は運転がうまい」アメリカの学生の9割超がそう答えた。楽観バイアスの罠

「自分は運転がうまい」アメリカの学生の9割超がそう答えた。楽観バイアスの罠

読む前に予想してみよう!

楽観バイアスは、悪い知らせを聞けばすぐに直る

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・一般成人
規模
数十〜数百人
研究の種類
質問紙調査・脳画像実験・追試
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

多くの人は「自分は平均より運がいい・上手だ」と考える。アメリカの学生の9割超が自分の運転を平均以上と評価し、脳は良い知らせほど取り入れやすいという研究も。

ひとことで言うと「自分だけは大丈夫」は、ほぼ全員が思っている脳のクセ!

もくじ
  1. 全員が「平均以上」というナゾ
  2. 「悪いことは他人に、良いことは自分に」
  3. 脳は「良い知らせ」を取り入れやすい?
  4. 楽観は悪者? それとも味方?
  5. まとめ

「事故なんて、自分には起きないでしょ」「災害の準備? まあ、うちは大丈夫だよ」

こう考えたこと、ありませんか? 実はこれ、ほとんどの人が持っている心のクセなんです。

心理学ではこれを「楽観バイアス」と呼びます。「自分だけは平均よりうまくいく」と思い込んでしまう傾向のことです。

01全員が「平均以上」というナゾ

でも冷静に考えると、真ん中より上にいられるのは、定義上半分だけ。9割が「上」というのは、数学的にありえません。

つまり、かなりの人が自分を実際より高く評価しているということです。

ちなみに当時の参加者は、両国あわせて約160人の学生。「小さな研究では?」と思うかもしれませんが、2023年に発表された、スウェーデンの研究者らによる約1,200人の事前登録つき追試でも、多くの人が自分の運転を平均以上と評価する傾向が再現されています。

02「悪いことは他人に、良いことは自分に」

1980年には、アメリカの心理学者ワインスタインさんが、大学生に将来の出来事について質問しました。

すると学生たちは、「良い仕事につく」「持ち家を手に入れる」といった良い出来事は、ほかの学生より自分のほうが起きやすいと答え、「病気になる」「離婚する」といった悪い出来事は、ほかの学生より自分には起きにくいと答える傾向がありました。

たとえるなら、未来の出来事を配るくじ引きで、当たりは自分に、ハズレは他人に配られると思い込んでいるようなものです。

「当たりは自分に、ハズレは他人に」。楽観バイアスのイメージ
「当たりは自分に、ハズレは他人に」。楽観バイアスのイメージ

03脳は「良い知らせ」を取り入れやすい?

なぜ楽観バイアスはなかなか直らないのでしょう。そのヒントになったのが、ロンドン大学(UCL)の神経科学者ターリ・シャーロットさんらの研究です。

2011年の実験では、参加者に「あなたが〇〇(病気や強盗など)を経験する確率は?」と予想してもらった後、実際の平均的な確率を教えました。

  • 実際の確率が予想より低かった(=良い知らせ)とき、人は予想を大きく修正した
  • 実際の確率が予想より高かった(=悪い知らせ)とき、修正は小さかった

脳は、都合の良い情報は素直に取り入れ、都合の悪い情報はちょっと聞き流してしまう傾向があったのです。脳画像では、悪い知らせへの反応が前頭葉の一部で弱くなる人ほど、楽観的な傾向が強いことも報告されました。

ただし、この「良い知らせを取り入れやすい」説には反論もあります。2016年、別の研究チームが「この実験の計算方法では、偏りがなくても見かけ上同じパターンが出てしまう」と指摘したのです。シャーロットさんらは追加の実験で「それでも偏りは残る」と反論しており、今も議論が続いているテーマです。

04楽観は悪者? それとも味方?

楽観バイアスは悪いことばかりではありません。「きっとうまくいく」と思えるからこそ、人は新しいことに挑戦したり、困難を乗り越えたりできます。

似た言葉に「正常性バイアス」があります。こちらは、災害などの異常事態が起きているのに「たいしたことない」「いつもどおりだ」と受け止めてしまう心の働き。楽観バイアスが「自分には悪いことが起きにくい」と考えるクセなら、正常性バイアスは「今起きていることを軽く見る」クセ。どちらも、いざという時の行動を遅らせる点では共通しています。

問題は、備えが必要な場面で油断してしまうこと。防災グッズを用意しない、シートベルトをしない、健康診断を後回しにする…。こうした「自分だけは大丈夫」は、ときに大きな代償につながります。

05まとめ

アメリカの学生の9割以上が「自分の運転は平均以上」と答えたように、人は自分の未来をちょっと甘めに見積もる生き物です。

楽観は、前に進むためのエンジン。でも、ブレーキがなければ危ない。「自分も平均的な人のひとり」と思い出すことが、いちばんのブレーキになるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOptimism bias is the tendency to believe that we are luckier or more skillful than other people. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Optimism bias is the tendency to believe that we are luckier or more skillful than other people. In a 1981 study, more than 90% of American students said they drove better than the average person in their group, which is mathematically impossible. A large replication in 2023 found the same pattern.

In 1980, another study showed that students expected good events, like getting a good job, to happen to themselves more than to others, and bad events, like getting sick, to happen to themselves less. A 2011 brain study suggested one reason: people changed their beliefs a lot after good news but only a little after bad news. However, some researchers argue that this result may partly come from the way it was calculated.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

楽観バイアスとは、自分は他人より運が良い、または上手だと信じる傾向です。1981年の研究では、アメリカの学生の90%以上が、グループの平均的な人より運転がうまいと答えましたが、これは数学的にありえません。2023年の大規模な追試でも同じパターンが見つかりました。1980年には別の研究が、学生は良い仕事につくといった良い出来事は他人より自分に起きやすく、病気になるといった悪い出来事は自分には起きにくいと予想することを示しました。

2011年の脳の研究は、1つの理由を示唆しました。人は良い知らせの後には考えを大きく変えましたが、悪い知らせの後には少ししか変えなかったのです。しかし一部の研究者は、この結果は部分的には計算の仕方から生じたのかもしれないと主張しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 2023 replication find?

Q2. According to the 2011 study, how did people react to bad news?

Q3. What does the last sentence suggest?

重要単語

  • optimismB2
    名詞楽観、楽天主義Her optimism helped the team keep going. 反対語 pessimism(悲観)。形容詞 optimistic / pessimistic。be optimistic about ~ の形で。
  • above averageB1
    形容詞句平均以上のMost drivers think they are above average. below average(平均以下の)と対で。on average=「平均して」も頻出。
  • updateB1
    動詞(考えを)更新するGood scientists update their views when new data arrive. アプリの「アップデート」と同じ。研究では belief updating(信念の更新)という用語がある。
  • riskB1
    名詞危険性、リスクSmoking increases the risk of disease. at risk(危険にさらされて)、take a risk(危険を冒す)、at the risk of ~(~の危険を冒して)。
  • artifactC1
    名詞(測定や分析で生じる)見かけ上の結果The strange result was an artifact of the method. 本来は「人工物・遺物」。研究では「方法が作り出した偽の結果」の意味で使う。英国つづり artefact。
  • medianC1
    名詞中央値Half of the scores are above the median. mean(平均値)、mode(最頻値)とセットで。「真ん中」の意味から median strip(中央分離帯)も。
  • neglectB2
    動詞・名詞おろそかにする/怠慢Don't neglect your health. neglect to do(~し忘れる・怠る)。形容詞 negligible(無視できるほど小さい)も入試頻出。

動画でもっと知る

アメリカの学生に「自分の運転は、このグループの真ん中より上?」と聞いたら、9割以上がイエス。全員が平均以上なんて、ありえないのに。「自分だけは大丈夫」と思う楽観バイアスは、脳が良い知らせを取り入れやすいことと関係しているらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Weinstein (1980) Unrealistic optimism about future life events, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Svenson (1981) Are we all less risky and more skillful than our fellow drivers?, Acta Psychologicadoi.org
  3. Koppel et al. (2023) We are all less risky and more skillful than our fellow drivers: Successful replication and extension of Svenson (1981), Meta-Psychologydoi.org
  4. Sharot, Korn & Dolan (2011) How unrealistic optimism is maintained in the face of reality, Nature Neurosciencedoi.org
  5. Shah et al. (2016) A pessimistic view of optimistic belief updating, Cognitive Psychologydoi.org