心理学ホント

「好きな絵の画家」で分けただけで、少年たちは仲間をひいきし始めた。最小条件集団の衝撃

「好きな絵の画家」で分けただけで、少年たちは仲間をひいきし始めた。最小条件集団の衝撃

読む前に予想してみよう!

内集団びいきは、長いつきあいや利害の対立がないと生まれない

研究カード(どんな研究?)
対象
英国の14〜15歳の男子生徒
規模
数十人規模の実験
研究の種類
実験(最小条件集団パラダイム)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

好きな絵の画家という"どうでもいい理由"でグループ分けしただけで、人は自分のグループに得をさせ、相手との差を広げようとした。仲間びいきは驚くほど簡単に生まれる。

ひとことで言うと「〇〇組」と名前をつけるだけで、人は自分の組をひいきしちゃう!

もくじ
  1. 抽象画の好みで分けただけ
  2. 「得」より「差」を選んだ少年たち
  3. 子どもでも、世界中でも
  4. 差別の"種"を知っておく
  5. まとめ

運動会の紅白分け。くじで決まっただけの「赤組」なのに、いつのまにか白組がライバルに見えてきた——そんな経験はありませんか?

実はこれ、人間の心の奥にある、かなり強力なスイッチです。

1970年ごろ、イギリスの心理学者ヘンリ・タジフェルは「人が仲間をひいきし始めるのに、最低限なにが必要か」を調べようとしました。答えは、拍子抜けするほど「ほぼ何もいらない」でした。

01抽象画の好みで分けただけ

グループの中身はゼロ。グループとして一緒に何かした経験もなく、相手が誰かも分からない。自分が得するわけでもない。それでも「同じ派」というラベルだけで、ひいきが起きたのです。

02「得」より「差」を選んだ少年たち

さらに驚きなのは、ポイントの配り方の表を工夫した結果です。

自分の派にとっていちばん多くもらえる選択肢よりも、相手の派との差がいちばん大きくなる選択肢を選ぶ傾向が見られました。たとえば「自分の派も相手の派もたくさんもらえる」より、「自分の派は少し減るけど、相手にもっと少なく」を選ぶ、というわけです。

仲間を豊かにしたいだけではなく、「勝ちたい」。タジフェルはこの結果から、人は所属するグループを自分の一部(社会的アイデンティティ)として感じ、グループの優位を自分の誇りにする、という理論を育てていきました。

「たくさんもらう」より「相手との差」を選んでしまう心
「たくさんもらう」より「相手との差」を選んでしまう心

03子どもでも、世界中でも

この現象は「最小条件集団パラダイム」と呼ばれ、その後たくさん追試されました。

2011年の研究では、5歳の子どもでも、ランダムに決まったTシャツの色が同じ子どもに好意的な印象をもち、ものを分けるときにも多めに配る傾向が見られました。

また、協力ゲームに関する研究をまとめた2014年のメタ分析では、人は自分のグループの人とより協力しやすいことが一貫して確認されています。ただし、その強さは状況によって変わり、「同じグループの人からお返しが期待できる」ときに特に強まることも分かっています。

04差別の"種"を知っておく

この研究が教えてくれるのは、「偏見や差別は、特別に悪い人だけが持つものではない」ということです。

ラベルひとつで、ふつうの人の心にもひいきのスイッチが入る。だからこそ、スイッチがあることを知っているのが最大の防御になります。

05まとめ

人は、驚くほどあっけなく「私たち」と「あの人たち」を作ってしまいます。

ただ、裏を返せば、「私たち」の範囲は広げることもできるということ。クラス、学校、地域、地球——ラベルの貼り方ひとつで、ひいきの相手は変えられるのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhat is the minimum needed for people to start favoring their own group? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

What is the minimum needed for people to start favoring their own group? Around 1970, British psychologist Henri Tajfel tried to find out. He showed teenage boys abstract paintings by Klee and Kandinsky and divided them into a "Klee group" and a "Kandinsky group." Each boy then sat alone and gave points, which could be exchanged for money, to other boys known only by a code number.

Most boys gave more points to members of their own group. Many even chose options that made the difference between the groups larger rather than options that gave their own group the most points. A 2011 study found similar behavior in five-year-old children who were given T-shirts of different colors by chance.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

人が自分のグループをひいきし始めるのに、最低限何が必要なのでしょうか。1970年ごろ、イギリスの心理学者ヘンリ・タジフェルはそれを調べようとしました。彼は10代の少年たちにクレーとカンディンスキーの抽象画を見せ、「クレー派」と「カンディンスキー派」に分けました。その後、それぞれの少年はひとりで座り、お金に換えられるポイントを、番号でしか示されないほかの少年たちに配りました。

ほとんどの少年は、自分のグループのメンバーに多くのポイントを配りました。多くの少年は、自分のグループが最も多くのポイントをもらえる選択肢よりも、グループ間の差がより大きくなる選択肢を選びさえしました。2011年の研究では、偶然に違う色のTシャツを渡された5歳の子どもたちにも同じような行動が見られました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Tajfel want to find out?

Q2. What surprising choice did many boys make?

Q3. What can we infer from the 2011 study?

重要単語

  • ingroupC1
    名詞内集団(自分が属するグループ)We tend to trust our ingroup more. 反対は outgroup(外集団)。in-group と書くこともある。社会心理学の基本語。
  • favoritismC1
    名詞えこひいきFavoritism can be unfair to others. favor(ひいきする)+-ism。イギリス式は favouritism。favorite(お気に入り)と同じ語源。
  • arbitraryC1
    形容詞恣意的な・でたらめなThe groups were formed in an arbitrary way. 「根拠なく勝手に決めた」というニュアンス。an arbitrary decision「独断的な決定」は長文頻出。
  • social identityC1
    名詞(句)社会的アイデンティティ(集団の一員としての自分)Sports fans have a strong social identity. identity は「自分が何者であるか」。identify with ~「~と一体感をもつ」も合わせて覚える。
  • discriminationB2
    名詞差別Even small labels can lead to discrimination. discriminate against ~「~を差別する」。「識別」という中立的な意味もある点に注意。
  • allocateC1
    動詞割り当てる・配分するEach boy allocated points to the others. 名詞 allocation。allocate resources「資源を配分する」は経済・社会系の英文で頻出。
  • anonymousB2
    形容詞匿名の・名前の分からないThe boys gave points to anonymous classmates. an-(ない)+onym(名前)。synonym(同義語)、antonym(反意語)と同じ onym。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「好きな絵の画家」で分けただけで、少年たちは仲間をひいきし始めた。最小条件集団の衝撃の4コマ漫画
少年たちに抽象画を見せて「君はクレー派、君はカンディンスキー派」と分けただけ。誰か分からない"同じ派"の子に多くポイントを配り、相手グループとの差を広げる配り方まで選んだらしい。仲間びいきの始まりは、こんなに小さい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Tajfel (1970) Experiments in intergroup discrimination, Scientific Americandoi.org
  2. Tajfel, Billig, Bundy & Flament (1971) Social categorization and intergroup behaviour, European Journal of Social Psychologydoi.org
  3. Balliet, Wu & De Dreu (2014) Ingroup favoritism in cooperation: A meta-analysis, Psychological Bulletindoi.org
  4. Dunham, Baron & Carey (2011) Consequences of "minimal" group affiliations in children, Child Developmentdoi.org