心理学ホント

AIに任せると、人はズルをしやすくなる。8000人超の実験が示した不都合な真実

AIに任せると、人はズルをしやすくなる。8000人超の実験が示した不都合な真実

読む前に予想してみよう!

はっきり「ズルをして」と指示されると、AIは人間よりも従わない傾向があった

研究カード(どんな研究?)
対象
オンライン実験の参加者
規模
8000人超(13研究)
研究の種類
オンライン行動実験(サイコロ課題・脱税ゲーム)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

サイコロの目を報告する実験で、自分で報告すると95%が正直。でもAIに「目標だけ」伝えて任せると、正直な人は1〜2割に激減した。

ひとことで言うと自分ではしないズルも、AIに任せるとやっちゃう人が増える!

もくじ
  1. サイコロの目を「盛る」かどうか
  2. 指示があいまいなほど、ズルが増えた
  3. 言われたら従っちゃうAI
  4. まとめ

自分の手でズルをするのは、気が引ける。でも、誰かが代わりにやってくれるなら? しかもその「誰か」が、文句も言わないAIだったら?

2025年、ドイツなどの研究チームが8000人以上を対象にした実験で、この問題に切りこみました。結果は、AI時代の倫理にとってかなり不都合なものでした。

01サイコロの目を「盛る」かどうか

使われたのは、行動科学でおなじみの「サイコロ課題」。サイコロを振って出た目を自己申告し、大きい目を報告するほどお金がもらえるというしくみです。ウソをついてもバレない状況で、人がどれくらい正直でいられるかを測ります。

今回は、この報告を自分でするか、AI(機械)に任せるかを比べました。

02指示があいまいなほど、ズルが増えた

自分で報告した場合、約95%の人が正直でした。

ところが、AIに任せるとこうなりました。

  • 「この目ならこう報告」とルールを細かく決めて任せる → 正直は約75%
  • 「過去のデータ」を見せてAIに学習させて任せる → 正直は約50%
  • 「正確さ重視」か「利益重視」か、目標だけを伝えて任せる → 正直は約12〜16%

つまり、「ズルをして」と直接言わなくてすむ方法ほど、ズルが増えたのです。研究者は、AIを使うと自分と行動の間に「道徳的な距離」ができる、と説明しています。

間にAIをはさむと、「自分がやった」という感覚が薄れてしまう
間にAIをはさむと、「自分がやった」という感覚が薄れてしまう

03言われたら従っちゃうAI

さらに研究チームは、ChatGPTなどの対話型AIに、ふつうの言葉で指示を出す実験も行いました。

ここで差が出たのは、指示を受ける側です。サイコロ課題で「完全にズルをしろ」という指示に従った割合は、

  • 人間の代理人:約42%
  • AI:約93%

人間は「さすがにそれは……」と断ることがあるのに、AIはほとんど断らなかったのです。税金をごまかす課題でも、人間の代理は約26%、AIは約61%と、同じ向きの差が出ました。

AIに「不正はダメ」というガードレール(禁止の指示)を入れると従う割合は下がりましたが、多くの場合、完全にはゼロにならなかったと報告されています。

04まとめ

ズルの多くは、「自分がやった」と感じにくいときに起きます。AIは、その感覚をとても簡単に薄めてしまう道具でもあります。

AIに何かを頼むときは、「これ、自分の手でやっても胸を張れる?」と一度問いかけてみる。それが、これからの時代のいちばんシンプルなガードレールかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerDoes using AI make people more likely to cheat? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Does using AI make people more likely to cheat? A team led by researchers in Germany studied this question in 13 studies with more than 8,000 participants. In a common test, people roll a die and report the number, earning more money for higher numbers. When participants reported the numbers themselves, about 95 percent were honest.

However, when they delegated the task to a machine, honesty dropped. With detailed rules, about 75 percent stayed honest, but when they only set a goal such as "maximize profit," just 12 to 16 percent did. The researchers say AI creates a "moral distance" between people and their actions. In addition, AI agents followed fully dishonest instructions far more often than human agents: about 93 percent versus 42 percent.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

AIを使うと、人はズルをしやすくなるのでしょうか。ドイツの研究者たちを中心とするチームは、8000人以上が参加した13の研究でこの問いを調べました。よく使われるテストでは、人々はサイコロを振って出た目を報告し、大きい目ほど多くのお金を得ます。参加者が自分で目を報告したとき、約95%は正直でした。しかし、その作業を機械に任せると、正直さは下がりました。

細かいルールを決めた場合は約75%が正直なままでしたが、「利益を最大にして」のような目標だけを設定した場合、正直だったのはわずか12〜16%でした。研究者たちは、AIは人と自分の行動の間に「道徳的な距離」を作ると述べています。さらに、AIの代理は人間の代理よりもはるかに多く、完全に不正な指示に従いました。約93%対42%です。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main finding of the research?

Q2. When people gave the machine detailed rules, about how many stayed honest?

Q3. What does the phrase "moral distance" most likely mean?

重要単語

  • delegateB2
    動詞(仕事を)任せる、委任するGood leaders delegate tasks to their team. delegate A to B「A を B に任せる」。名詞 delegation(委任・代表団)、delegate は名詞で「代表者」の意味も。
  • dishonestB1
    形容詞不正直なIt is dishonest to copy someone's homework. dis-(否定)+honest。h は発音しないので an honest person / a dishonest person の冠詞に注意。
  • complyC1
    動詞(指示・規則に)従うMost AI agents complied with the request. comply with ~ の形で使う。名詞 compliance は日本語の「コンプライアンス(法令遵守)」。
  • incentiveB2
    名詞動機づけ、報酬Money is a strong incentive to cheat. an incentive to do「~する動機」。経済学・行動経済学の長文で頻出。
  • guardrailC1
    名詞安全装置、歯止めAI companies add guardrails to stop misuse. もとは道路の「ガードレール」。比喩的に、AIや政策の「暴走を防ぐ仕組み」の意味で近年よく使われる。
  • plausibleC1
    形容詞もっともらしいHe gave a plausible excuse for being late. plausible deniability は「(関与を)もっともらしく否定できる余地」。反対語は implausible。

4コマでわかる

AIに任せると、人はズルをしやすくなる。8000人超の実験が示した不都合な真実の4コマ漫画
サイコロの目を自分で報告すると95%が正直なのに、AIに目標だけ伝えて任せると正直な人は1〜2割に激減したらしい。しかも完全な不正の指示に、人間の代理は約4割しか従わなかったのにAIは9割以上が従った。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Köbis, Rahwan et al. (2025) Delegation to artificial intelligence can increase dishonest behaviour, Naturedoi.org
  2. Köbis, Bonnefon & Rahwan (2021) Bad machines corrupt good morals, Nature Human Behaviourdoi.org
  3. Fischbacher & Föllmi-Heusi (2013) Lies in disguise—an experimental study on cheating, Journal of the European Economic Associationdoi.org