エレベーター横の鏡は「待ち時間対策」だった? 同じ1分が長く感じる心理のヒミツ

読む前に予想してみよう!
何もせずに待つ時間は、何かをしながら待つ時間より長く感じやすい
待ち時間の心理学では「手持ちぶさたな時間は長く感じる」ことが基本原則として知られている。
- 対象
- サービス業の利用客
- 規模
- 観察・事例+フィールド実験
- 研究の種類
- 論考・フィールド実験
- 確かさ
- ★★☆☆☆
「鏡で待ち時間のイライラが減った」は有名な逸話で、きちんとした実験の証拠は乏しい。ただ「何もしない待ち時間は長く感じる」という心理はよく知られている。
ひとことで言うとひまな待ち時間ほど、長く感じちゃう!
エレベーターホールや、エレベーターの中にある大きな鏡。何のためにあるか、考えたことはありますか?
よく語られるのが、こんな話です。
昔、あるビルで「エレベーターが遅い!」という苦情が殺到した。そこでエレベーターを速くする代わりに、横に鏡を置いた。すると、みんな身だしなみをチェックするようになり、苦情がピタリと止まった——。
ビジネスの世界で何度も紹介されてきた、とても有名なエピソードです。でもこの話、本当なのでしょうか?
01鏡の話は「データのない」逸話
結論から言うと、この鏡の話はきちんとした実験で確かめられた研究ではなく、裏付けのデータがない逸話です。
この話は、後で紹介するデビッド・マイスターの1985年の論考にも「あるホテルでの例」として、Sasser らの文献からの引用の形で登場します。ただし、どのホテルなのか、苦情が実際にどれだけ減ったのかといったデータは示されていません。有名な話ほど、元をたどると裏付けのない事例紹介だったというのはよくあることです。
エレベーターに鏡がある理由としては、車いすの人が後ろ向きに降りるときに背後を確認しやすくするため、空間を広く見せて圧迫感を減らすため、なども挙げられます。
ただし、この逸話が長く語り継がれてきたのには理由があります。「待ち時間は工夫しだいで短く感じさせられる」という心理そのものは、研究者の間でもよく知られた考え方だからです。
02待ち時間の心理、8つの原則
待ち時間の心理を整理した有名な論文が、経営コンサルタントのデビッド・マイスターが1985年に書いた「待ち行列の心理学」です。
マイスターの原則の中から、身近なものを紹介します。
- 何もしない時間は、何かしている時間より長く感じる
- いつまで待つか分からない待ち時間は、長く感じる
- 理由が分からない待ち時間は、長く感じる
- 不公平な待ち時間(割り込みなど)は、長く感じる
- 一人で待つ方が、みんなで待つより長く感じる
鏡の逸話は、このうちの1つ目「手持ちぶさた」を解消する例として語られてきたわけです。

03身近にある「待ち時間マジック」
実際、私たちの身の回りには、この原則を使った工夫がたくさんあります。
- 遊園地の行列:途中に展示や映像を置いて、退屈させない
- 病院や銀行の番号表示:「あと何人」が見えると不安が減る
- 電車の遅延アナウンス:理由と見込み時間を伝えると、イライラが和らぐ
- フォーク型の行列:1列に並んで空いた窓口に進む方式は「隣の列の方が早い」という不公平感を減らす
04「感じ方」は本当に変わるの?
注意したいのは、マイスターの原則の多くが観察や経験にもとづくものだということ。原則ごとに、実験でどこまで確かめられているかには差があります。
それでも、時間の感じ方が状況によって変わること自体は、多くの心理学研究で支持されています。たとえばサービスの遅れと客の評価を調べた研究(Taylor、1994年)では、待たされることが不確かさや怒りを通じてサービスの評価を下げることが示されました。オランダの電話窓口で行われたフィールド実験(Antonides ら、2002年)のように、待ち時間の「伝え方」を実際に変えて効果を確かめた研究もあります。
05まとめ
エレベーターの鏡の話は、データの裏付けがない逸話。でも、その裏にある「何もしない待ち時間は長く感じる」という心理はホンモノです。
時計の1分は誰にとっても同じ。でも「感じる1分」は、ちょっとした工夫で短くできるのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerYou may have heard this story: when people complained that a building's elevators were too slow, the owners…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
There is a famous story about elevators. People in a building said the elevators were too slow.
So the owners put mirrors next to them. People looked at themselves, and the complaints stopped. But this story is not from a real experiment. No one has data for it.
Even so, one idea in it is true. When we wait with nothing to do, time feels longer. When we are busy, it feels shorter.
73 words ・ CEFR A2
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エレベーターについての有名な話があります。あるビルの人々が、エレベーターが遅すぎると言いました。
そこで持ち主はその横に鏡を置きました。人々は自分の姿を見るようになり、苦情はなくなりました。しかし、この話は本当の実験から生まれたものではありません。誰もそのデータを持っていないのです。
それでも、この話の中の一つの考えは正しいのです。何もすることがなく待っていると、時間は長く感じます。忙しくしていると、短く感じるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
鏡の逸話と、待ち時間の感じ方についての話なので B。
Q2. What does the passage say about the mirror story?
this story is not from a real experiment. No one has data for it. とあるので D。
Q3. In this passage, "complaints" means ...
complaint は「不満・苦情」。エレベーターが遅いと言った人々の声なので A。
You may have heard this story: when people complained that a building's elevators were too slow, the owners added mirrors instead of faster elevators, and the complaints stopped. The story is often told in business, but it is an anecdote, not a tested experiment. Even David Maister, who mentioned it in his well-known 1985 article on the psychology of waiting, gave no data.
However, the main idea behind it is widely accepted. Maister listed several principles based on his observations. For example, waiting with nothing to do feels longer than being busy, and waiting without knowing how long or why also feels longer. That is why theme parks put displays along their lines, and why train companies explain the reasons for delays.
122 words ・ CEFR B1
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こんな話を聞いたことがあるかもしれません。あるビルのエレベーターが遅すぎると人々が苦情を言ったとき、持ち主はより速いエレベーターではなく鏡を設置し、苦情はなくなった、というものです。この話はビジネスの世界でよく語られますが、それは逸話であって、検証された実験ではありません。
待ち時間の心理についての有名な1985年の論考でこの話に触れたデビッド・マイスターでさえ、データは示していませんでした。しかし、その背後にある主な考え方は広く受け入れられています。マイスターは自分の観察にもとづいていくつかの原則を挙げました。たとえば、何もせずに待つのは忙しくしているより長く感じ、どれだけ待つのか、なぜ待つのかが分からない待ち時間も長く感じます。だからこそ遊園地は行列に沿って展示を置き、鉄道会社は遅れの理由を説明するのです。
4択リーディングクイズ
Q1. How does the passage describe the mirror story?
it is an anecdote, not a tested experiment とあり、マイスターもデータを示していないので C。
Q2. Which of Maister's principles is mentioned?
waiting without knowing how long or why also feels longer とあるので B。
Q3. Why do theme parks put displays along their lines?
何もしない待ち時間は長く感じるという原則の例として挙げられているので D。
Business books love the story of a building whose tenants kept complaining about slow elevators. The owners, the story goes, did not speed the elevators up. They installed mirrors to keep people occupied, and the problem was solved. The story is an anecdote rather than an empirical finding. David Maister cited a similar hotel example in his influential 1985 essay "The Psychology of Waiting Lines," but he gave no data on which hotel it was or how far complaints actually fell.
The tale survives because the principle behind it sounds right. Drawing on observations in service industries, Maister argued that waits feel longer when they are unoccupied, uncertain, unexplained, unfair or solitary. These principles came from experience and not from controlled experiments, and some have much more experimental support than others.
Later research did back the broader claim that how long a wait feels depends on its circumstances. A 1994 study by Taylor showed that delays lower customers' ratings of a service partly by making them uncertain and angry. A field experiment at a Dutch call center tested whether changing the information callers heard about their waiting time altered how they perceived the wait.
194 words ・ CEFR B2
和訳を見る
ビジネス書は、エレベーターが遅いと入居者が苦情を言い続けたビルの話が大好きです。話によれば、オーナーはエレベーターを速くしませんでした。人々の気をまぎらすために鏡を取りつけたところ、問題は解決したというのです。この話は実証された知見ではなく、逸話にすぎません。デイヴィッド・マイスターは、影響力のある1985年の論文「待ち行列の心理学」で似たようなホテルの例を挙げましたが、それがどのホテルなのか、苦情が実際にどれだけ減ったのかについてのデータは示しませんでした。
この話が生き残っているのは、その背後にある原理がもっともらしく聞こえるからです。サービス業での観察をもとに、マイスターは、何もすることがない、先が見えない、理由が説明されない、不公平な、ひとりきりの待ち時間は長く感じられると論じました。これらの原理は統制された実験ではなく経験から生まれたもので、実験による裏づけの程度も原理によってまちまちです。
その後の研究は、待ち時間の長さの感じ方は状況しだいだという大まかな主張を裏づけました。1994年のテイラーの研究は、遅れが客を不安にさせ、怒らせることで、サービスの評価を下げる面があることを示しました。オランダのコールセンターで行われたフィールド実験では、待ち時間について電話をかけた人に伝える情報を変えると、待ち時間の感じ方が変わるかどうかが検証されました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the author's view of the elevator mirror story?
an anecdote rather than an empirical finding としつつ、the principle behind it sounds right と述べているので A。
Q2. What is mentioned as a limitation of Maister's principles?
These principles came from experience and not from controlled experiments とあるので C。
Q3. According to the passage, what did Taylor's 1994 study show?
delays lower customers' ratings of a service partly by making them uncertain and angry とあるので B。
重要単語
- queueB2名詞行列We stood in a long queue for the ride.
イギリス英語でよく使う。アメリカでは line。発音は /kjuː/(キュー)で、後ろの ueue は読まない。 - perceiveB2動詞感じとる、知覚するTime is perceived differently when we are bored.
名詞 perception。perceived waiting time「体感の待ち時間」のように過去分詞で形容詞的に使う。 - anecdoteC1名詞逸話The mirror story is just an anecdote.
anecdotal evidence「逸話的な証拠=体験談レベルの根拠」は科学系長文で頻出。 - occupiedB2形容詞何かに没頭している、ふさがっているOccupied time feels shorter.
be occupied with ~「~で忙しい」。トイレの表示 Occupied「使用中」も同じ語。 - uncertaintyB2名詞不確かさUncertainty makes waiting more stressful.
un-(否定)+certain(確かな)+-ty。研究の限界を述べるときにもよく使う。 - complaintB1名詞苦情、不満The hotel received many complaints about the elevators.
動詞 complain about ~「~について不平を言う」。綴りの t の有無で品詞が変わる点に注意。 - plausibleC1形容詞もっともらしい、妥当そうなThe idea sounds plausible, but it needs evidence.
反対は implausible。「本当らしいが確証はない」というニュアンスで、評論文で頻出。
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エレベーター前の鏡は「待つイライラ」を減らすために置かれた…という有名な話。実はちゃんとした実験の証拠は見当たらない逸話らしい。でも「何もしてない待ち時間は長く感じる」という心理は本物。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Maister (1985) The psychology of waiting lines, The Service Encounter(著者公式サイト掲載版)davidmaister.com
- Larson (1987) Perspectives on queues: Social justice and the psychology of queueing, Operations Researchdoi.org
- Taylor (1994) Waiting for service: The relationship between delays and evaluations of service, Journal of Marketingdoi.org
- Antonides, Verhoef & van Aalst (2002) Consumer perception and evaluation of waiting time: A field experiment, Journal of Consumer Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









