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エレベーター横の鏡は「待ち時間対策」だった? 同じ1分が長く感じる心理のヒミツ

エレベーター横の鏡は「待ち時間対策」だった? 同じ1分が長く感じる心理のヒミツ

読む前に予想してみよう!

何もせずに待つ時間は、何かをしながら待つ時間より長く感じやすい

研究カード(どんな研究?)
対象
サービス業の利用客
規模
観察・事例+フィールド実験
研究の種類
論考・フィールド実験
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

「鏡で待ち時間のイライラが減った」は有名な逸話で、きちんとした実験の証拠は乏しい。ただ「何もしない待ち時間は長く感じる」という心理はよく知られている。

ひとことで言うとひまな待ち時間ほど、長く感じちゃう!

もくじ
  1. 鏡の話は「データのない」逸話
  2. マイスターがまとめた「待ち時間の8つの原則」
  3. 身近にある「待ち時間マジック」
  4. 「感じ方」は本当に変わるの?
  5. まとめ

エレベーターホールや、エレベーターの中にある大きな鏡。何のためにあるか、考えたことはありますか?

よく語られるのが、こんな話です。

昔、あるビルで「エレベーターが遅い!」という苦情が殺到した。そこでエレベーターを速くする代わりに、横に鏡を置いた。すると、みんな身だしなみをチェックするようになり、苦情がピタリと止まった——。

ビジネスの世界で何度も紹介されてきた、とても有名なエピソードです。でもこの話、本当なのでしょうか?

01鏡の話は「データのない」逸話

結論から言うと、この鏡の話はきちんとした実験で確かめられた研究ではなく、裏付けのデータがない逸話です。

この話は、後で紹介するデビッド・マイスターの1985年の論考にも登場します。Sasser らの本から引いた「有名なホテルグループの例」としてです。鏡を置いたら、実際の待ち時間は同じなのに苦情が大きく減った、と紹介されています。ただし、どのホテルなのか、苦情がどれだけ減ったのかという数字は示されていません。

エレベーターに鏡がある理由としては、車いすの人が後ろ向きに降りるときに背後を確認しやすくするため、空間を広く見せて圧迫感を減らすため、なども挙げられます。

それでも、この逸話が長く語り継がれてきたのには理由があります。「待ち時間は工夫しだいで短く感じさせられる」という心理そのものは、研究者の間でもよく知られた考え方だからです。

02マイスターがまとめた「待ち時間の8つの原則」

待ち時間の心理を整理した有名な文章が、経営コンサルタントのデビッド・マイスターが1985年に書いた「待ち行列の心理学」です。

8つの原則の中から、身近なものを5つ紹介します。

  • 何もしない時間は、何かしている時間より長く感じる
  • いつまで待つか分からない待ち時間は、長く感じる
  • 理由が分からない待ち時間は、長く感じる
  • 不公平な待ち時間(割り込みなど)は、長く感じる
  • 一人で待つ方が、みんなで待つより長く感じる

鏡の逸話は、このうちの1つ目「手持ちぶさた」を解消する例として語られてきたわけです。

行列の途中に「見るもの」があると、待ち時間は短く感じやすい
行列の途中に「見るもの」があると、待ち時間は短く感じやすい

03身近にある「待ち時間マジック」

実際、私たちの身の回りには、この原則を使った工夫がたくさんあります。

  • 遊園地の行列:途中に展示や映像を置いて、退屈させない
  • 病院や銀行の番号表示:「あと何人」が見えると不安が減る
  • 電車の遅延アナウンス:理由と見込み時間を伝えると、イライラが和らぐ
  • フォーク型の行列:1列に並んで空いた窓口に進む方式は「隣の列の方が早い」という不公平感を減らす

04「感じ方」は本当に変わるの?

注意したいのは、マイスターの原則の多くが観察や経験にもとづくものだということです。実験でどこまで確かめられているかは、原則ごとに差があります。

それでも、時間の感じ方が状況によって変わること自体は、多くの心理学研究で支持されています。

  • 飛行機の遅れ(Taylor、1994年):遅れにあった乗客を調べた研究です。待たされると「いつ出るのか」という不安や怒りがわき、それがサービスの評価を下げていました。
  • 電話の待ち時間(Antonides ら、2002年):オランダの電話窓口で、待つ間に流す内容を実際に変えた実験です。「あと何分くらい」と伝えると、待ち時間を実際より長く見積もるズレが小さくなりました。ただし、感じた待ち時間が長い人ほど評価が下がる傾向は、かえって強まりました。
  • やることがある待ち時間(McGuire ら、2010年):10分までの待ち時間で調べた実験です。待つ間に何かすることがあると、退屈が減り、待った体験の評価がよくなりました。

伝え方や工夫しだいで良くも悪くも変わる、というのが実際のところです。

05まとめ

エレベーターの鏡の話は、データの裏付けがない逸話。でも、その裏にある「何もしない待ち時間は長く感じやすい」という心理は、研究でも支持されています。

時計の1分は誰にとっても同じ。でも「感じる1分」は、ちょっとした工夫で短くできるのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerYou may have heard this story. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

You may have heard this story. When people complained that a building's elevators were too slow, the owners added mirrors instead of faster elevators, and the complaints stopped. The story is often told in business, but it is an anecdote, not a tested experiment. Even David Maister, who mentioned it in his well-known 1985 article on the psychology of waiting, gave no data.

However, the main idea behind it is widely accepted. Maister listed several principles based on his observations. For example, waiting with nothing to do feels longer than being busy, and waiting without knowing how long or why also feels longer. That is why theme parks put displays along their lines, and why train companies explain the reasons for delays.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

こんな話を聞いたことがあるかもしれません。あるビルのエレベーターが遅すぎると人々が苦情を言ったとき、持ち主はより速いエレベーターではなく鏡を設置し、苦情はなくなった、というものです。この話はビジネスの世界でよく語られますが、それは逸話であって、検証された実験ではありません。待ち時間の心理についての有名な1985年の論考でこの話に触れたデビッド・マイスターでさえ、データは示していませんでした。

しかし、その背後にある主な考え方は広く受け入れられています。マイスターは自分の観察にもとづいていくつかの原則を挙げました。たとえば、何もせずに待つのは忙しくしているより長く感じ、どれだけ待つのか、なぜ待つのかが分からない待ち時間も長く感じます。だからこそ遊園地は行列に沿って展示を置き、鉄道会社は遅れの理由を説明するのです。

4択リーディングクイズ

Q1. How does the passage describe the mirror story?

Q2. Which of Maister's principles is mentioned?

Q3. Why do theme parks put displays along their lines?

重要単語

  • queueB2
    名詞行列We stood in a long queue for the ride. イギリス英語でよく使う。アメリカでは line。発音は /kjuː/(キュー)で、後ろの ueue は読まない。
  • perceiveB2
    動詞感じとる、知覚するTime is perceived differently when we are bored. 名詞 perception。perceived waiting time「体感の待ち時間」のように過去分詞で形容詞的に使う。
  • anecdoteC1
    名詞逸話The mirror story is just an anecdote. anecdotal evidence「逸話的な証拠=体験談レベルの根拠」は科学系長文で頻出。
  • occupiedB2
    形容詞何かに没頭している、ふさがっているOccupied time feels shorter. be occupied with ~「~で忙しい」。トイレの表示 Occupied「使用中」も同じ語。
  • uncertaintyB2
    名詞不確かさUncertainty makes waiting more stressful. un-(否定)+certain(確かな)+-ty。研究の限界を述べるときにもよく使う。
  • complaintB1
    名詞苦情、不満The hotel received many complaints about the elevators. 動詞 complain about ~「~について不平を言う」。綴りの t の有無で品詞が変わる点に注意。
  • plausibleC1
    形容詞もっともらしい、妥当そうなThe idea sounds plausible, but it needs evidence. 反対は implausible。「本当らしいが確証はない」というニュアンスで、評論文で頻出。

動画でもっと知る

エレベーター前の鏡は「待つイライラ」を減らすために置かれた…という有名な話。実は、苦情が減ったというデータは示されていない逸話らしい。でも「何もしてない待ち時間は長く感じやすい」という心理は実験でも支持されている。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Maister (1985) The psychology of waiting lines, The Service Encounter(著者公式サイト掲載版)davidmaister.com
  2. Larson (1987) Perspectives on queues: Social justice and the psychology of queueing, Operations Researchdoi.org
  3. Taylor (1994) Waiting for service: The relationship between delays and evaluations of service, Journal of Marketingdoi.org
  4. Antonides, Verhoef & van Aalst (2002) Consumer perception and evaluation of waiting time: A field experiment, Journal of Consumer Psychologydoi.org
  5. McGuire, Kimes, Lynn, Pullman & Lloyd (2010) A framework for evaluating the customer wait experience, Journal of Service Managementdoi.org