脳と心理ビミョー

脳の中には"GPS"があった。部屋の特定の場所でだけ光る細胞と、方眼紙のような地図の細胞

脳の中には"GPS"があった。部屋の特定の場所でだけ光る細胞と、方眼紙のような地図の細胞

読む前に予想してみよう!

「場所細胞」や「グリッド細胞」はネズミでしか見つかっておらず、人には存在しない

研究カード(どんな研究?)
対象
ラット・てんかん手術前の患者・健康な成人
規模
数匹〜数十人
研究の種類
単一神経記録・fMRI研究
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

ネズミの海馬には「部屋のこの場所」で反応する場所細胞、近くの嗅内皮質には三角形の格子状に反応するグリッド細胞があった。人でも似た細胞が見つかっている。

ひとことで言うと脳には「今どこにいるか」を教える地図の細胞があるんだ!

もくじ
  1. 部屋の「この場所」でだけ反応する細胞
  2. 床に"方眼紙"を敷いたような細胞
  3. 2つの細胞で「脳内GPS」
  4. 人の脳にもあった?
  5. どんでん返し:「GPS」は、たとえにすぎない
  6. まとめ

スマホの地図アプリは、GPSで「今どこにいるか」を教えてくれます。

でも、スマホがなくても、私たちは自分の部屋の中でどこに立っているかわかるし、目を閉じても、だいたいドアの方向を指させます。それができるのは、脳の中にも"位置を知る仕組み"があるからです。

その仕組みを見つけた研究者たちは、2014年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

01部屋の「この場所」でだけ反応する細胞

オキーフさんはこれを「場所細胞」と名づけました。たくさんの場所細胞がそれぞれ違う場所を担当することで、海馬の中に「この部屋の地図」ができていると考えたのです。

02床に"方眼紙"を敷いたような細胞

それから30年以上たった2005年、ノルウェーのモーザー(Moser)夫妻らのチームが、さらに驚く細胞を見つけました。

場所は、海馬のすぐ近くにある嗅内皮質(きゅうないひしつ)。そこには、ラットが部屋の中を動き回ると、いくつもの場所で規則正しく反応する細胞がありました。反応する点を床に書き込んでいくと、正三角形をすき間なく並べた格子の頂点の位置になっていたのです。

この細胞は「グリッド細胞(格子細胞)」と名づけられました。まるで床に方眼紙を敷いて座標を測っているかのようです。

左:グリッド細胞の反応のイメージ 右:場所細胞の反応のイメージ
左:グリッド細胞の反応のイメージ 右:場所細胞の反応のイメージ

032つの細胞で「脳内GPS」

研究者たちは、こう考えています。

  • グリッド細胞:方眼のような座標で、どれだけ・どの方向に動いたかを計算する
  • 場所細胞:その情報をもとに「ここは〇〇の場所だ」と特定の場所を表す

ほかにも、頭がどの方向を向いているかで反応する細胞や、壁の近くで反応する細胞なども見つかっています。こうした細胞のチームワークで、脳は自分の位置を把握しているのです。2014年、オキーフさんとモーザー夫妻は「脳内の位置決定システムを作る細胞の発見」でノーベル賞を受けました。

04人の脳にもあった?

「でも、それはネズミの話でしょ?」——その疑問に答える研究も進んでいます。

  • 2003年、てんかんの手術前に脳に電極を入れた患者さんが、パソコンの中の仮想の街でタクシー運転手になって移動するゲームをした。すると海馬に、街の特定の場所で反応する細胞が見つかった
  • 2010年、fMRIを使った研究で、人が仮想空間を歩き回るときに、グリッド細胞があると予測される特有の信号が嗅内皮質などで見つかった
  • 2013年には、患者さんの脳の記録から、格子状のパターンで反応する細胞が直接報告された

05どんでん返し:「GPS」は、たとえにすぎない

ただし「脳内GPS」という言葉には注意も必要です。

本物のGPSは、宇宙の人工衛星からの信号で絶対的な位置を測ります。脳の仕組みは、自分の動きの積み重ねと目印を組み合わせて位置を推定するもので、目印がない暗闇では少しずつズレていくこともあります。

また、人の研究の多くは画面の中の仮想空間での実験で、記録できるのも手術が必要な患者さんに限られます。ネズミで見つかった仕組みが、人でもまったく同じ形で働いているかは、まだ研究が続いています。

06まとめ

脳の中には、部屋の特定の場所で反応する細胞と、方眼紙のように空間に座標を振る細胞がありました。ネズミで見つかったこの仕組みは、人の脳でも似た形で働いているようです。

今日、駅から家まで歩くとき、あなたの頭の中では、たくさんの"地図の細胞"が次々にバトンをつないでいるのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEven without GPS, we can sense where we are in a room. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Even without GPS, we can sense where we are in a room. In 1971, O'Keefe and a colleague in London recorded cells in the hippocampus of rats moving freely. Some cells fired only when a rat was in a particular spot, and O'Keefe called them place cells. Over 30 years later, a Norwegian team led by the Mosers found grid cells in a nearby area.

When the spots where they fired were marked on the floor, they formed a grid of triangles, like graph paper. Grid cells seem to measure distance and direction, while place cells mark specific locations. Similar cells have been found in humans who played navigation games before brain surgery.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

GPSがなくても、私たちは部屋の中で自分がどこにいるかを感じ取ることができます。1971年、ロンドンのオキーフと同僚は、自由に動き回るラットの海馬の細胞を記録しました。ある細胞はラットが特定の場所にいるときだけ反応し、オキーフはそれを場所細胞と呼びました。30年以上たってから、モーザー夫妻が率いるノルウェーのチームが、近くの領域でグリッド細胞を見つけました。

その細胞が反応した場所を床に書き込むと、方眼紙のように三角形の格子ができました。グリッド細胞は距離と方向を測り、場所細胞は特定の位置を示しているようです。脳の手術前にナビゲーションのゲームをした人たちでも、似た細胞が見つかっています。

4択リーディングクイズ

Q1. When did place cells fire?

Q2. What pattern did the firing spots of grid cells form?

Q3. How were similar cells found in humans?

重要単語

  • place cellC1
    名詞(句)場所細胞A place cell fires in one part of the room. 海馬にある細胞。O'Keefe らが1971年に発見。
  • grid cellC1
    名詞(句)グリッド細胞(格子細胞)Grid cells create a map like graph paper. grid は「格子・碁盤の目」。電力網(the power grid)の意味でも頻出。
  • navigationB2
    名詞道を見つけて進むことRats use their brains for navigation. 動詞 navigate。spatial navigation「空間ナビゲーション」は脳科学の定番テーマ。
  • entorhinal cortexC1
    名詞(句)嗅内皮質The entorhinal cortex is next to the hippocampus. ento-(内側)+rhinal(鼻の)。嗅覚系に近い位置にあることから。
  • virtual realityB2
    名詞(句)仮想現実(VR)Participants explored a town in virtual reality. virtual は「事実上の・仮想の」。virtually は「事実上・ほぼ」の意味で入試頻出。
  • metaphorB2
    名詞比喩、たとえ"Brain GPS" is only a metaphor. meta-(越えて)+phor(運ぶ)。simile(直喩:like を使う)との違いが入試で問われる。

4コマでわかる

脳の中には"GPS"があった。部屋の特定の場所でだけ光る細胞と、方眼紙のような地図の細胞の4コマ漫画
ネズミが部屋の「ある場所」に来たときだけ反応する細胞が、脳の海馬にあった。さらに、部屋の床に三角形の方眼を敷いたような位置で反応する細胞まで見つかり、2014年のノーベル賞に。人の脳でも似た細胞が記録されているらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. O'Keefe & Dostrovsky (1971) The hippocampus as a spatial map. Preliminary evidence from unit activity in the freely-moving rat, Brain Researchdoi.org
  2. Hafting et al. (2005) Microstructure of a spatial map in the entorhinal cortex, Naturedoi.org
  3. Ekstrom et al. (2003) Cellular networks underlying human spatial navigation, Naturedoi.org
  4. Doeller, Barry & Burgess (2010) Evidence for grid cells in a human memory network, Naturedoi.org
  5. Jacobs et al. (2013) Direct recordings of grid-like neuronal activity in human spatial navigation, Nature Neurosciencedoi.org