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脳と心理ビミョー

「お腹が空いた裁判官は厳しくなる」は本当? 超有名研究に入ったツッコミ

「お腹が空いた裁判官は厳しくなる」は本当? 超有名研究に入ったツッコミ

読む前に予想してみよう!

「意志力は使うほど減る」という自我消耗説は、大規模な追試でもはっきり確認された

研究カード(どんな研究?)
対象
イスラエルの仮釈放審査(裁判官8人)
規模
判断1,112件
研究の種類
観察研究(非ランダム)+批判・シミュレーション
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

休憩前の裁判官ほど仮釈放を認めない――有名な「決断疲れ」研究。でも、審理の順番など別の理由で説明できるという批判が出ている。

ひとことで言うと「お腹が空くと判断が厳しくなる」は、実はまだナゾだらけ!

もくじ
  1. 休憩前は「ほぼ誰も認められない」という衝撃グラフ
  2. ツッコミ①「審理の順番、ランダムじゃなくない?」
  3. ツッコミ②「効果が大きすぎて、逆にありえない」
  4. じゃあ決断疲れは「ウソ」なの?
  5. まとめ

「判決は、裁判官が朝ごはんに何を食べたかで決まる」――法律の世界には、昔からこんな皮肉があります。

2011年、これをデータで裏付けたように見える研究が登場しました。イスラエルの裁判官が仮釈放(刑期の途中で、条件つきで刑務所から出すこと)を認める割合は、休憩直後が一番高い。そして休憩が近づくにつれて、ほぼゼロまで下がっていく――。

「人は決断を重ねるほど疲れて、楽な選択(=現状維持)に流れる」。いわゆる決断疲れの決定的証拠として、本や講演で何度も紹介されました。ところがこの研究、その後にかなり鋭いツッコミを受けているんです。

01休憩前は「ほぼ誰も認められない」という衝撃グラフ

グラフはギザギザのノコギリ型。休憩のたびに「寛大さ」がリセットされているように見えます。

解釈はシンプルでした。判断を重ねると、脳が疲れる。すると、「仮釈放を認める」という手間もリスクもある選択を避けて、いちばん楽な「却下=現状維持」に逃げる。休憩で食事をとると回復する。分かりやすくて、誰もが「あるある」と思える話です。

休憩のたびに「寛大さ」が回復する…ように見えたグラフ
休憩のたびに「寛大さ」が回復する…ように見えたグラフ

02ツッコミ①「審理の順番、ランダムじゃなくない?」

最初の反論は、2011年に同じ雑誌PNASに載りました。書いたのは、イスラエルの裁判所の研究部門と、米国の連邦司法センターの研究者です。彼らは弁護士や裁判官、刑務所の職員などに話を聞きました。すると、審査の順番はランダムではなかったというのです。

  • 弁護士がついていない受刑者は、各セッションの後半に回されやすかった
  • 弁護士なしのケースは、もともと認められにくい
  • 同じ刑務所の受刑者をまとめて審理し、区切りのいいところで休憩をとっていた

つまり、こういう指摘です。「休憩前は却下が多い」のは、裁判官が疲れたからではないかもしれない。もともと却下されやすいケースが、後ろに集まっていたからかもしれない。

元の著者たちは「弁護士の有無を考慮しても、結果は変わらない」と反論しました。ただ、順番がどう決まっていたかを、データだけで調べ切るのは難しいことです。論争は続きました。

03ツッコミ②「効果が大きすぎて、逆にありえない」

さらに別の研究者たちは、効果の大きさそのものを疑いました。

65%からほぼ0%への落ち込みは、心理学では桁外れに大きな効果です。もし空腹だけでそこまで判断が変わるなら、ほかの仕事でも、誰の目にも分かるほど大きな変化が出ていそうなものです。

ドイツの研究者グレックナーは、シミュレーションで別の可能性を示しました(Judgment and Decision Making, 2016)。仮釈放を認める審理は、時間がかかりがちです。そこで、裁判官が「次は長引きそうだ」と見越して、その前に休憩をとったとします。それだけで、疲れが一切なくても、ノコギリ型のグラフのかなりの部分が再現できるというのです。元の効果は、少なくとも大きく見積もられすぎている可能性が高い、という結論でした。

04じゃあ決断疲れは「ウソ」なの?

批判されたのは、「この研究が決断疲れの決定的証拠になる」という部分です。「長時間働けば判断の質が落ちる」こと自体が全否定されたわけではありません。

実際、医師の処方などで、時間帯や仕事の量によって判断の傾向が変わることを示唆する研究は他にもあります。ただし、その原因はまだはっきりしていません。「空腹」や「意志力の枯渇」なのか、単なる疲れや時間配分の問題なのかは、分かっていないのです。

05まとめ

「空腹の裁判官」の研究は、大事なことを教えてくれます。分かりやすすぎる研究ほど、一度疑ってみる価値があるということです。

科学は「一発のすごい結果」ではなく、ツッコミと検証の積み重ねで前に進む。そのドラマごと楽しめたら、あなたはもう立派なサイエンス通です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2011, researchers analyzed 1,112 parole decisions made by eight Israeli judges. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 2011, researchers analyzed 1,112 parole decisions made by eight Israeli judges. At the start of each session, after a meal or snack break, about 65% of requests were approved. Just before the next break, the rate fell to almost zero. Many people saw this as proof of "decision fatigue." In this view, tired and hungry judges choose the easy option of saying no.

However, court researchers pointed out that cases were not heard in random order. Prisoners without lawyers, who were less likely to be approved anyway, tended to come later in each session. Another researcher used computer simulations to show that much of the pattern could appear even if judges were not tired at all.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2011年、研究者たちは、8人のイスラエルの裁判官が下した1,112件の仮釈放の判断を分析しました。食事や軽食の休憩の後の各セッションの初めには、申請の約65%が認められていました。次の休憩の直前には、その割合はほぼゼロまで下がりました。多くの人はこれを「決断疲れ」の証拠と見なしました。疲れておなかがすいた裁判官は、「認めない」という楽な選択をする、というのです。

しかし、裁判所の研究者たちは、審理がランダムな順番で行われていなかったことを指摘しました。弁護士のいない受刑者は、もともと認められにくいうえに、各セッションの後半に回されやすかったのです。別の研究者は、コンピューターのシミュレーションを使い、裁判官がまったく疲れていなくても、このパターンの多くが現れうることを示しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did many people think the 2011 study proved?

Q2. What did court researchers point out?

Q3. What can we infer from the computer simulations?

重要単語

  • paroleC1
    名詞仮釈放The prisoner asked the board for parole. フランス語の parole(言葉・約束)から。「誓約して出所する」イメージ。on parole「仮釈放中で」。
  • decision fatigueC1
    名詞(句)決断疲れDecision fatigue may make us choose the easy option. fatigue は「疲労」で発音 /fəˈtiːɡ/。make a decision「決断する」は基本コロケーション。
  • ego depletionC1
    名詞(句)自我消耗The idea of ego depletion has been hard to replicate. deplete は「使い果たす」。ozone depletion(オゾン層の破壊)でも出る。
  • confounding factorC1
    名詞(句)交絡因子The order of cases was a possible confounding factor. 結果に影響する「隠れた別の要因」。研究批判の文脈で頻出。
  • overestimateC1
    動詞過大評価するSmall studies often overestimate effects. 反対は underestimate。名詞形も同じつづり(an overestimate)。
  • implausibleC1
    形容詞ありそうもない、信じがたいThe effect seemed implausibly large. plausible(もっともらしい)に否定の im-。入試の内容一致問題で狙われやすい語。
「お腹が空いた裁判官は仮釈放を認めにくい」という超有名研究。実は「審理の順番に偏りがあったのでは」というツッコミが入っていた。決断疲れ、思ったより単純じゃない。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Danziger, Levav & Avnaim-Pesso (2011) Extraneous factors in judicial decisions, PNASdoi.org
  2. Weinshall-Margel & Shapard (2011) Overlooked factors in the analysis of parole decisions, PNASdoi.org
  3. Glöckner (2016) The irrational hungry judge effect revisited: simulations reveal that the magnitude of the effect is overestimated, Judgment and Decision Makingdoi.org
  4. Hagger et al. (2016) A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
  5. Vohs et al. (2021) A multisite preregistered paradigmatic test of the ego-depletion effect, Psychological Sciencedoi.org