「お腹が空いた裁判官は厳しくなる」は本当? 超有名研究に入ったツッコミ

読む前に予想してみよう!
「意志力は使うほど減る」という自我消耗説は、大規模な追試でもはっきり確認された
20以上の研究室による大規模追試では、効果はほぼゼロに近かった。
- 対象
- イスラエルの仮釈放審査(裁判官8人)
- 規模
- 判断1,112件
- 研究の種類
- 観察研究(非ランダム)+批判・シミュレーション
- 確かさ
- ★★☆☆☆
休憩前の裁判官ほど仮釈放を認めない――有名な「決断疲れ」研究。でも、審理の順番など別の理由で説明できるという批判が出ている。
ひとことで言うと「おなかがすくと判断がきびしくなる」は、じつはまだナゾだらけ!
「判決は、裁判官が朝ごはんに何を食べたかで決まる」――法律の世界には、昔からこんな皮肉があります。
2011年、これをデータで裏付けたように見える研究が登場しました。イスラエルの裁判官が仮釈放を認める確率は、休憩直後が一番高く、休憩が近づくにつれてほぼゼロまで下がっていく――。
「人は決断を重ねるほど疲れて、楽な選択(=現状維持)に流れる」。いわゆる決断疲れの決定的証拠として、本やTEDトークで何度も紹介されました。ところがこの研究、その後にかなり鋭いツッコミを受けているんです。
01休憩前は「ほぼ誰も認められない」という衝撃グラフ
グラフはギザギザのノコギリ型。休憩のたびに「寛大さ」がリセットされているように見えます。
解釈はシンプルでした。判断を重ねると脳が疲れ、「仮釈放を認める」という手間もリスクもある選択を避け、「却下=現状維持」というデフォルトに逃げる。休憩で食事をとると回復する。分かりやすくて、誰もが「あるある」と思える話です。

02ツッコミ①「審理の順番、ランダムじゃなくない?」
最初の反論は、同じPNASに、イスラエル裁判所の研究部門と米国の連邦司法センターの研究者から届きました(2011年)。弁護士や裁判官、刑務所職員などに聞き取りをした彼らによると、審査の順番はランダムではなかったというのです。
- 弁護士がついていない受刑者は、各セッションの後半に回されやすかった
- 弁護士なしのケースは、もともと認められにくい
- 同じ刑務所の受刑者をまとめて審理し、区切りのいいところで休憩をとっていた
つまり「休憩前は却下が多い」のは、裁判官が疲れたからではなく、もともと却下されやすいケースが後ろに集まっていたからかもしれない、という指摘です。元の著者たちは「弁護士の有無を考慮しても結果は変わらない」と反論しましたが、記録に残らない順番の決め方まで完全に統制するのは難しく、論争は続きました。
03ツッコミ②「効果が大きすぎて、逆にありえない」
さらに別の研究者たちは、効果の大きさそのものを疑いました。
65%からほぼ0%への落ち込みは、心理学では桁外れに大きな効果です。もし空腹がそこまで判断を左右するなら、昼前の病院や試験の採点でも、誰の目にも明らかな異常が起きているはずです。
ドイツの研究者グレックナーは、シミュレーションで別の可能性を示しました(Judgment and Decision Making, 2016)。仮釈放を認める審理は時間がかかりがちです。裁判官が「次は長引きそうだ」と見越して、その前に休憩をとるだけで、疲れが一切なくても、ノコギリ型のグラフのかなりの部分が再現できるというのです。元の効果は、少なくとも大きく見積もられすぎている可能性が高い、という結論でした。
04じゃあ決断疲れは「ウソ」なの?
ここが大事なポイントです。批判されたのは「この研究が決断疲れの決定的証拠になる」という部分。「長時間働けば判断の質が落ちる」こと自体が全否定されたわけではありません。
実際、医師の処方や監査の判断など、時間帯や業務量で判断の傾向が変わることを示唆する研究は他にもあります。ただし、それが「空腹」や「意志力の枯渇」で起きているのか、単なる疲労や時間配分の問題なのかは、まだはっきりしていません。
05まとめ
「空腹の裁判官」は、分かりやすすぎる研究ほど疑ってみる価値があることを教えてくれる名作ケースになりました。
科学は「一発のすごい結果」ではなく、ツッコミと検証の積み重ねで前に進む。そのドラマごと楽しめたら、あなたはもう立派なサイエンス通です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2011, researchers analyzed 1,112 parole decisions made by eight Israeli judges.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
A famous study looked at judges in Israel. After a food break, they said "yes" to about 65% of prisoners who asked to leave prison early.
But just before the next break, they almost always said "no." Many people said hungry and tired judges make harsher decisions. But other experts found a problem. The order of the cases was not random.
61 words ・ CEFR A2
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ある有名な研究が、イスラエルの裁判官を調べました。食事休憩の後、彼らは刑務所を早く出たいと申請した受刑者の約65%に「認める」と言いました。
しかし、次の休憩の直前には、ほとんどいつも「認めない」と言っていました。多くの人が、おなかがすいて疲れた裁判官は厳しい判断をすると言いました。しかし、別の専門家たちは問題を見つけました。審理の順番がランダムではなかったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
裁判官の判断に関する有名な研究と、それに見つかった問題を述べているので A。
Q2. About what percentage did judges say "yes" to after a food break?
After a food break, they said "yes" to about 65% とあるので D。
Q3. In this passage, "harsher" means ...
harsh は「厳しい」。harsher はその比較級で「より厳しい」なので B。
In 2011, researchers analyzed 1,112 parole decisions made by eight Israeli judges. At the start of each session, after a meal or snack break, about 65% of requests were approved. Just before the next break, the rate fell to almost zero. Many people saw this as proof of "decision fatigue": tired, hungry judges choose the easy option of saying no.
However, court researchers pointed out that cases were not heard in random order. Prisoners without lawyers, who were less likely to be approved anyway, tended to come later in each session. Another researcher used computer simulations to show that much of the pattern could appear even if judges were not tired at all.
113 words ・ CEFR B1
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2011年、研究者たちは、8人のイスラエルの裁判官が下した1,112件の仮釈放の判断を分析しました。食事や軽食の休憩の後の各セッションの初めには、申請の約65%が認められていました。次の休憩の直前には、その割合はほぼゼロまで下がりました。多くの人はこれを「決断疲れ」の証拠と見なしました。疲れておなかがすいた裁判官は、「認めない」という楽な選択をする、というのです。
しかし、裁判所の研究者たちは、審理がランダムな順番で行われていなかったことを指摘しました。弁護士のいない受刑者は、もともと認められにくいうえに、各セッションの後半に回されやすかったのです。別の研究者は、コンピューターのシミュレーションを使い、裁判官がまったく疲れていなくても、このパターンの多くが現れうることを示しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What did many people think the 2011 study proved?
Many people saw this as proof of "decision fatigue": tired, hungry judges choose the easy option of saying no とあるので C。
Q2. What did court researchers point out?
cases were not heard in random order とあるので B。
Q3. What can we infer from the computer simulations?
裁判官が疲れていなくてもパターンの多くが現れうると示したので、疲労以外の原因の可能性が推測できる。正解は D。
The "hungry judge effect" became one of the best-known findings in psychology. Analyzing 1,112 parole rulings by eight Israeli judges, researchers reported in 2011 that approvals dropped from about 65% at the start of each session to nearly zero just before a meal break, then recovered afterward. The sawtooth pattern seemed to show decision fatigue: as judges tired, they defaulted to the safer choice of rejection. Critics soon raised two objections.
First, court researchers noted that case order was not random; unrepresented prisoners, whose requests were less likely to succeed, were often heard later in a session. Second, the effect seemed implausibly large for a social science finding. A 2016 simulation showed that if judges simply took breaks before cases likely to be lengthy, and favorable rulings tend to take longer, much of the pattern could emerge without any fatigue.
The theory behind the study has also weakened. A 2016 replication of ego depletion across more than 20 labs found an effect close to zero, and a 2021 test at 36 sites found only a very small one. Decision fatigue may still exist, but this study is not decisive evidence.
190 words ・ CEFR B2
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「空腹の裁判官効果」は、心理学で最も有名な発見の一つになりました。8人のイスラエルの裁判官による1,112件の仮釈放の判断を分析し、研究者たちは2011年、認められる割合が各セッションの初めの約65%から食事休憩の直前にはほぼゼロまで下がり、休憩後に回復すると報告しました。このノコギリ型のパターンは決断疲れを示しているように見えました。裁判官は疲れるにつれて、却下という安全な選択に流れる、というのです。批判者たちはすぐに2つの反論を挙げました。
第一に、裁判所の研究者たちは、審理の順番がランダムではなかったと指摘しました。弁護士のいない受刑者は申請が通りにくく、セッションの後半に審理されることが多かったのです。第二に、その効果は社会科学の発見としてはありえないほど大きく見えました。
2016年のシミュレーションは、裁判官が単に長引きそうな審理の前に休憩をとっていただけで、しかも有利な判断ほど時間がかかりがちだとすれば、疲れがまったくなくてもこのパターンの多くが生じうることを示しました。この研究の背景にある理論も弱まっています。20以上の研究室にわたる2016年の自我消耗の追試では効果はゼロに近く、36か所で行われた2021年の検証でもごく小さな効果しか見られませんでした。決断疲れはそれでも存在するかもしれませんが、この研究は決定的な証拠ではないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
有名な「空腹の裁判官」研究と、それへの批判(順番の偏り・効果の大きさ・理論の揺らぎ)を述べているので A。
Q2. What did the 2016 simulation show?
if judges simply took breaks before cases likely to be lengthy ..., much of the pattern could emerge without any fatigue とあるので C。D は本文と逆。
Q3. What is the author's conclusion?
最終文 Decision fatigue may still exist, but this study is not decisive evidence とあるので B。A は言い過ぎ。
重要単語
- paroleC1名詞仮釈放The prisoner asked the board for parole.
フランス語の parole(言葉・約束)から。「誓約して出所する」イメージ。on parole「仮釈放中で」。 - decision fatigueC1名詞(句)決断疲れDecision fatigue may make us choose the easy option.
fatigue は「疲労」で発音 /fəˈtiːɡ/。make a decision「決断する」は基本コロケーション。 - ego depletionC1名詞(句)自我消耗The idea of ego depletion has been hard to replicate.
deplete は「使い果たす」。ozone depletion(オゾン層の破壊)でも出る。 - confounding factorC1名詞(句)交絡因子The order of cases was a possible confounding factor.
結果に影響する「隠れた別の要因」。研究批判の文脈で頻出。 - overestimateC1動詞過大評価するSmall studies often overestimate effects.
反対は underestimate。名詞形も同じつづり(an overestimate)。 - implausibleC1形容詞ありそうもない、信じがたいThe effect seemed implausibly large.
plausible(もっともらしい)に否定の im-。入試の内容一致問題で狙われやすい語。
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「お腹が空いた裁判官は仮釈放を認めにくい」という超有名研究、実は審理の順番に偏りがあったかもというツッコミが入っていた。決断疲れ、思ったより単純じゃない。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Danziger, Levav & Avnaim-Pesso (2011) Extraneous factors in judicial decisions, PNASdoi.org
- Weinshall-Margel & Shapard (2011) Overlooked factors in the analysis of parole decisions, PNASdoi.org
- Glöckner (2016) The irrational hungry judge effect revisited: simulations reveal that the magnitude of the effect is overestimated, Judgment and Decision Makingdoi.org
- Hagger et al. (2016) A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
- Vohs et al. (2021) A multisite preregistered paradigmatic test of the ego-depletion effect, Psychological Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










