脳と心理ビミョー

何年も前の「ある日」の出来事を言い当てる人たち。超記憶症候群(HSAM)も記憶違いはしていた

何年も前の「ある日」の出来事を言い当てる人たち。超記憶症候群(HSAM)も記憶違いはしていた

読む前に予想してみよう!

超記憶症候群(HSAM)の人は、記憶違い(偽りの記憶)をまったくしない

研究カード(どんな研究?)
対象
HSAMの人と対照群
規模
1人〜20人程度
研究の種類
症例研究・比較実験
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

日付を言われると、その日に自分が何をしたか思い出せる「超記憶症候群」。でも偽りの記憶のテストでは、ふつうの人と同じようにだまされた。

ひとことで言うと毎日のことを何十年も覚えている人がいる。でも記憶違いはするらしい!

もくじ
  1. 始まりは1通のメール
  2. 全部覚えているのに、テストはふつう
  3. どんでん返し:HSAMの人も"だまされた"
  4. まとめ

3年前の今日、あなたは何をしていましたか?

ほとんどの人は答えられないはずです。でも世界には、「〇年〇月〇日」と言われるだけで、その日が何曜日で、自分が何をしていたかをすらすら答えられる人たちがいます。

これは超記憶症候群(HSAM:ハイリー・スーペリア・オートバイオグラフィカル・メモリー)と呼ばれています。

01始まりは1通のメール

AJさんは、語呂合わせなどの記憶術を使っていません。円周率を何万桁も覚える「記憶の達人」とは違い、自分の人生の出来事だけが、自動的にあふれ出てくるのです。本人は「止められない」と、むしろ悩んでいました。

02全部覚えているのに、テストはふつう

その後、同じような人が少しずつ見つかりました。2012年には11人のHSAMの人を詳しく調べた研究が発表されています。

  • 公の出来事や、自分の出来事、その日付と曜日を思い出すのは、ふつうの人より圧倒的に得意
  • ところが、単語のリストを覚えるなど、一般的な記憶テストではふつうの人と同じくらい
  • 脳のいくつかの構造に、ふつうの人との違いが見られた

2016年の研究では、1週間前の出来事を思い出す量はふつうの人と同じでしたが、1年前・10年前になると差が大きく開きました。覚える力より、忘れにくさが特別なのかもしれません。また、記憶の一貫性の高さは、物事への強いこだわり(強迫的な傾向)と関係していました。

頭の中に、人生の日記がずっと開いたまま?
頭の中に、人生の日記がずっと開いたまま?

03どんでん返し:HSAMの人も"だまされた"

ここで研究者たちは、こんな疑問を持ちました。これほど記憶がすごいなら、記憶違いもしないのでは?

結果は意外なものでした。

  • 関連する単語のリストを聞くと、聞いていない単語を「聞いた」と思い込む——HSAMの人もふつうの人と同じだった
  • 写真のスライドを見た後に間違った情報を読ませると、HSAMの人はふつうの人より多く記憶違いをした
  • 実在しない事故映像を「見た」と答える割合も、ふつうの人と変わらなかった

つまり、超人的な記憶を持つ人でも、記憶は録画ではなく、思い出すたびに組み立て直されていたのです。

04まとめ

超記憶症候群の人たちは、人生のほぼ毎日を思い出せる。でもその記憶も、ふつうの人と同じように書き換わりうるものでした。

完璧な記憶を持つ人間はいない。そう思うと、自分のちょっとした記憶違いも、少し許せる気がしませんか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAround 2000, a memory researcher in California received an email from a woman who said she could not stop… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Around 2000, a memory researcher in California received an email from a woman who said she could not stop remembering every day of her life. When tested, she could give the day of the week and her own experiences for almost any date. Her case, reported in 2006, was the first of a condition now called HSAM.

People with HSAM do not use memory tricks, and on ordinary memory tests, such as learning word lists, they perform about as well as others. Their special skill seems to be not forgetting personal events. In 2013, however, researchers tested 20 people with HSAM and 38 others for false memories. People with HSAM were just as easily misled, and sometimes even more.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2000年ごろ、カリフォルニアの記憶研究者のもとに、ある女性からメールが届きました。彼女は、自分の人生の毎日を思い出すのを止められないと書いていました。調べてみると、彼女はほぼどんな日付についても、その曜日と自分の体験を答えることができました。

2006年に報告された彼女の症例は、現在HSAMと呼ばれている状態の最初の例でした。HSAMの人は記憶術を使っておらず、単語リストを覚えるような一般的な記憶テストでは、ほかの人と同じくらいの成績です。彼らの特別な能力は、個人的な出来事を忘れないことにあるようです。しかし2013年、研究者たちはHSAMの人20人とそれ以外の38人に対して、偽りの記憶のテストを行いました。HSAMの人もまったく同じように簡単にだまされ、ときにはそれ以上でした。

4択リーディングクイズ

Q1. How did the first HSAM case come to the researcher's attention?

Q2. How do people with HSAM perform on ordinary memory tests?

Q3. What does the 2013 study suggest?

重要単語

  • autobiographicalC1
    形容詞自伝的な(自分の人生の)Autobiographical memory is about your own life. auto-(自分)+bio(人生)+graph(書く)。autobiography は「自伝」。
  • recallB2
    動詞思い出すShe can recall what she ate ten years ago. remember より意識的に「呼び戻す」感じ。名詞で「(製品の)回収」の意味も頻出。
  • false memoryB2
    名詞(句)偽りの記憶Anyone can form a false memory. form / create a false memory「偽りの記憶を作る」。ロフタスらの研究で広く知られる心理学用語。
  • reconstructC1
    動詞再構成する、組み立て直すWe reconstruct memories each time we remember. re-(再び)+construct(組み立てる)。「記憶は録画ではなく再構成」は心理学の重要テーマ。
  • obsessiveC1
    形容詞強迫的な、こだわりの強いHe has an obsessive interest in dates. 動詞 obsess、be obsessed with ~「~に取りつかれている」の形が頻出。
  • susceptibleC1
    形容詞影響を受けやすいEveryone is susceptible to false memories. be susceptible to ~ の形で使う。病気・宣伝・誤情報などに「かかりやすい・流されやすい」。
  • misleadB2
    動詞誤解させる、惑わすThe wrong information misled the participants. 活用は mislead-misled-misled。形容詞 misleading「誤解を招く」。

4コマでわかる

何年も前の「ある日」の出来事を言い当てる人たち。超記憶症候群(HSAM)も記憶違いはしていたの4コマ漫画
日付を聞くだけで、その日が何曜日で自分が何をしていたかを言える「超記憶症候群(HSAM)」の人たちがいる。でも偽りの記憶を作る実験をしたら、ふつうの人と同じくらい、ときにはそれ以上にだまされたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Parker, Cahill & McGaugh (2006) A case of unusual autobiographical remembering, Neurocasedoi.org
  2. LePort et al. (2012) Behavioral and neuroanatomical investigation of Highly Superior Autobiographical Memory (HSAM), Neurobiology of Learning and Memorydoi.org
  3. Patihis et al. (2013) False memories in highly superior autobiographical memory individuals, PNASdoi.org
  4. LePort et al. (2016) Highly Superior Autobiographical Memory: quality and quantity of retention over time, Frontiers in Psychologydoi.org