「くしゃみは時速160km」は盛りすぎ? 実測で分かった本当の速さと、止められない理由

読む前に予想してみよう!
くしゃみの瞬間、目を開けたままだと目玉が飛び出す
くしゃみで目が閉じるのは反射。開けていても目が飛び出すことはない。
- 対象
- 健康な成人ボランティア
- 規模
- 6人(くしゃみの撮影)
- 研究の種類
- 高速撮影による実験研究
- 確かさ
- ★★☆☆☆
くしゃみの空気が時速160km以上で出るという説は根拠が弱く、空気の流れを撮影した研究ではそれよりずっと遅い。ただし飛沫は空気の雲に乗って想像より遠くまで運ばれる。
ひとことで言うとくしゃみの空気は野球の剛速球ほど速くない。でも思ったより遠くまで飛ぶ!
「くしゃみの速さは時速160km以上。プロ野球の剛速球なみ!」。テレビや雑学本で見たことがある人も多いはず。
でも、誰がどうやって測ったの? と調べていくと、この数字は、くしゃみの「空気」の速さを測ったものではなさそうなんです。
くしゃみの空気の流れを実際に撮影して測った研究を見ると、その速さはもっと控えめ。ただし、別の意味で驚きの事実も分かってきました。
01空気の流れを測ると、くしゃみはそこまで速くない
空気の流れは目に見えません。そこで研究者は、シュリーレン法という特殊な撮影方法を使います。これは、空気の温度や密度の違いを影のように映し出す技術。夏のアスファルトの上で景色がゆらゆら揺れて見える「かげろう」を、くっきり写すようなイメージです。
2013年にシンガポールなどの研究チームが科学誌『PLoS ONE』で発表した研究では、似た撮影方法(シャドウグラフ法)を使いました。こしょうでくしゃみを誘い、6人の空気の流れを撮影したのです。その結果、見えた範囲でのくしゃみの最大速度は秒速約4.5メートル(時速約16km)。剛速球どころか自転車くらいの速さです。
ただし、これは「見えた範囲」から計算した控えめな値。MITのブルーイバさんは2020年の解説で、吐き出す息は速いときで秒速10〜30メートル(時速約36〜108km)に達すると述べています。
では「時速160km」はどこから来たのでしょう。はっきりした出どころは分かりませんが、近い数字は古い実験にあります。1940年代にアメリカで行われた高速写真の実験で、くしゃみで飛び出すしずくの速さが、最大で秒速46メートル(時速約166km)と報告されたのです。
ただし、これは「しずく」の速さです。2013年の論文は、しずくとそれを運ぶ空気は同じ速さとは限らない、と指摘しています。空気の流れを測った研究では、「時速160km以上」という値は出ていません。少なくとも「くしゃみの空気の速さ」としては、かなり盛られた数字と言えそうです。
02でも「飛ぶ距離」は想像以上
ポイントは「雲に乗る」こと。小さな飛沫は、自分だけならすぐ落ちるはずなのに、空気のかたまりと一緒にふわっと運ばれ、数メートル先まで広がることがあるんです。

03くしゃみはなぜ止められない?
鼻の奥の粘膜にほこりや花粉などがつくと、三叉神経(さんさしんけい)という顔の感覚を担う神経がそれを感じとります。すると、脳の延髄(呼吸などを自動で調節する場所)にある「くしゃみ中枢」が命令を出します。くしゃみは、こうして起こる反射です。
反射は、熱いものに触ったら思わず手を引っこめるのと同じで、考えるより先に体が動く仕組み。だから途中で止めるのはとても難しいんです。
くしゃみの流れは、だいたいこんな順番です。
- 鼻の奥のセンサーが異物をキャッチ
- 大きく息を吸いこむ(「ハッ…ハッ…」のタメの部分)
- のどがいったん閉じて、胸の中の圧力が高まる
- 一気に開いて、空気を鼻と口から爆発的に吐き出す
一度スイッチが入ると、この順番が自動で進んでいきます。
ちなみに、まぶしい光を見るとくしゃみが出る人がいます。これは光くしゃみ反射と呼ばれ、一定の割合の人に見られる体質です。
04無理に止めるのはおすすめしない
鼻と口を両方ふさいでくしゃみを我慢すると、行き場をなくした圧力が体の中にかかります。2018年には、くしゃみを我慢した男性ののどに穴があいたというまれな症例が医学誌で報告されました。
05まとめ
くしゃみの空気は「時速160km」ほど速くはない。でも、飛沫は空気の雲に乗って遠くまで運ばれる。
速さのウソにだまされず、マナーはしっかり。それがくしゃみとの正しい付き合い方です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerYou may have heard that a sneeze shoots out air at more than 160 kilometers per hour.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some books say a sneeze travels at over 160 kilometers per hour. But scientists who measured the air from real sneezes found much slower speeds. In one study, the fastest air they could see moved at about 16 kilometers per hour, like a bicycle.
However, small drops from a sneeze can ride in a cloud of warm air and go several meters. So please cover your mouth when you sneeze.
70 words ・ CEFR A2
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くしゃみは時速160km以上で進む、と書いてある本があります。しかし、本物のくしゃみの空気を測った科学者たちは、ずっと遅い速さを見つけました。ある研究では、見えた範囲で最も速い空気は時速約16kmで、自転車くらいでした。
ただし、くしゃみの小さなしずくは温かい空気の雲に乗って、数メートル先まで進むことがあります。だから、くしゃみをするときは口を覆ってください。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
くしゃみの本当の速さと、しずくがどこまで飛ぶかがテーマなので B。
Q2. In one study, how fast was the fastest air they could see?
the fastest air they could see moved at about 16 kilometers per hour とあるので C。160km は俗説の数字。
Q3. In this passage, "cover" means ...
cover は「覆う」。口の上に手やティッシュをかぶせることなので A。
You may have heard that a sneeze shoots out air at more than 160 kilometers per hour. However, measurements of the air do not support this claim. In 2013, researchers filmed six people sneezing with a special camera that shows air movement. The fastest speed they could see was about 4.5 meters per second, or about 16 kilometers per hour. Other estimates for the air are higher, but none reach 160.
On the other hand, a 2014 study at MIT found that tiny droplets travel inside a warm, moist cloud of breath, so they can spread several meters. A sneeze is a reflex controlled by the brain, so it is very hard to stop once it starts.
117 words ・ CEFR B1
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くしゃみは時速160km以上で空気を吹き出す、と聞いたことがあるかもしれません。しかし、空気を測った結果はこの主張を支持していません。2013年、研究者たちは空気の動きを映す特殊なカメラで、6人がくしゃみをする様子を撮影しました。見えた範囲で最も速い速度は秒速約4.5m、つまり時速約16kmでした。空気の速さのほかの推定値はもっと高いものの、160kmに届くものはありません。
一方、2014年のMITの研究では、小さな飛沫は温かく湿った息の雲の中に乗って運ばれるため、数メートル先まで広がりうることがわかりました。くしゃみは脳がコントロールする反射なので、一度始まると止めるのはとても難しいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
160km説は支持されないが、飛沫は空気の雲に乗って遠くまで運ばれる、という内容なので D。
Q2. How many people were filmed in the 2013 study?
researchers filmed six people sneezing とあるので B。
Q3. Why can droplets travel several meters?
tiny droplets travel inside a warm, moist cloud of breath, so they can spread several meters とあるので A。
You will often hear that a sneeze leaves the nose at over 160 kilometers per hour. Photos from the 1940s did show droplets flying at up to 46 meters per second, but droplets and air do not always move at the same speed.
Air is invisible, so researchers film sneezes with imaging techniques that reveal differences in air temperature and density. In a 2013 study, a team recorded six volunteers and estimated a maximum visible speed of about 4.5 meters per second, roughly 16 kilometers per hour. That may be too low.
MIT researcher Bourouiba has suggested that exhaled air can reach 10 to 30 meters per second. Even that is well below the popular figure. Distance matters more than speed. In 2014, Bourouiba and colleagues showed that small droplets ride inside a warm, moist cloud of exhaled gas.
The cloud carries them much farther than single droplets could travel, sometimes several meters. A sneeze is also a reflex controlled by the brainstem, so it is hard to stop. Holding one in by blocking both nose and mouth is a bad idea. In one rare case from 2018, it tore a man's throat.
193 words ・ CEFR B2
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くしゃみは時速160km以上で鼻から飛び出す、という話をよく耳にします。1940年代の写真では、たしかにしずくが最大で秒速46mで飛んでいましたが、しずくと空気が同じ速さで動くとは限りません。
空気は目に見えないので、研究者は空気の温度や密度のちがいを映し出す撮影技術でくしゃみを撮影します。2013年の研究では、チームが6人のボランティアのくしゃみを記録し、見える範囲での最大速度を秒速約4.5m、およそ時速16kmと推定しました。この数字は低すぎるかもしれません。
MITの研究者ブルーイバさんは、吐き出す息は秒速10〜30mに達しうると述べています。それでも、よく言われる数字よりかなり低い値です。大事なのは速さより距離です。2014年、ブルーイバさんらは、小さな飛沫が、吐き出された温かく湿ったガスの雲に乗って運ばれることを示しました。
この雲のおかげで、飛沫は1つぶずつの場合よりずっと遠く、ときには数メートル先まで運ばれます。また、くしゃみは脳幹がコントロールする反射なので、止めるのが難しいのです。鼻と口の両方をふさいでくしゃみを我慢するのはよくありません。2018年のまれな症例では、それによって男性ののどが裂けてしまいました。
4択リーディングクイズ
Q1. Why might the 2013 estimate be lower than the true speed?
maximum visible speed(見える範囲での最大速度)であり、口から出た直後の空気はもっと速い可能性があると述べているので B。
Q2. According to the 2014 study, why can droplets travel farther than expected?
small droplets ride inside a warm, moist cloud of exhaled gas とあるので D。
Q3. What does the author suggest is more important than the speed of a sneeze?
Distance matters more than speed. の直後に、飛沫が遠くまで運ばれる話が続くので A。
重要単語
- sneezeB1動詞・名詞くしゃみ(をする)Cover your mouth when you sneeze.
英語圏ではくしゃみをした人に Bless you! と声をかける習慣がある。cough(せき)とセットで覚える。 - dropletB2名詞飛沫、小さなしずくDroplets can carry viruses.
drop(しずく)+-let(小さい)。booklet(小冊子)、piglet(子ブタ)と同じ -let。 - velocityC1名詞速度The velocity of a sneeze is often exaggerated.
speed より物理・科学的な語。向きを含む「速度」を表す。 - exaggerateB2動詞誇張するThe 160 km/h figure seems exaggerated.
g が2つ続くつづりに注意。名詞 exaggeration。It is no exaggeration to say that ~「~と言っても過言ではない」は頻出構文。 - reflexC1名詞反射A sneeze is a reflex you cannot easily stop.
re-(返って)+flex(曲がる)。have quick reflexes で「反射神経がよい」。 - underestimateC1動詞過小評価する、低く見積もるThe camera may underestimate the true speed.
under-(下に)+estimate。反対は overestimate。Don't underestimate ~「~をあなどるな」の形でもよく使う。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
このネタ、誰かに教えたくなった?
「くしゃみは時速160km以上」ってよく聞くけど、くしゃみの空気の流れを撮影して測った値はそれよりずっと控えめらしい。ただ、飛沫は空気の“雲”に乗って何メートルも運ばれることがあるので、口と鼻を覆うのはやっぱり大事。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Bourouiba, Dehandschoewercker & Bush (2014) Violent expiratory events: on coughing and sneezing, Journal of Fluid Mechanicsdoi.org
- Tang et al. (2013) Airflow Dynamics of Human Jets: Sneezing and Breathing - Potential Sources of Infectious Aerosols, PLoS ONEdoi.org
- Bourouiba (2020) Turbulent Gas Clouds and Respiratory Pathogen Emissions: Potential Implications for Reducing Transmission of COVID-19, JAMAdoi.org
- Yang et al. (2018) Snap, crackle and pop: when sneezing leads to crackling in the neck, BMJ Case Reportsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










