「笑うと健康になる」はどこまで本当? 日本の研究が示した関連と"因果の壁"

読む前に予想してみよう!
「よく笑う人ほど長生き」という研究結果は、笑いが寿命を延ばすことを証明している
多くは観察研究で、もともと健康な人ほどよく笑うという逆の因果を否定できない。
- 対象
- 40歳以上の地域住民
- 規模
- 約1万7000人
- 研究の種類
- 前向きコホート研究
- 確かさ
- ★★☆☆☆
ほとんど笑わない高齢者は脳卒中のある人が多く、山形の研究では死亡リスクも高かった。ただし病気だから笑えない「逆の因果」もあり、効果はまだ確かめ途中。
ひとことで言うと笑う人が元気なのか、元気な人が笑えるのか。そこがまだナゾ!
「笑う門には福来る」。日本には昔から、笑いと幸せを結びつけることわざがあります。
最近では「笑うと免疫が上がる」「笑いは最高の薬」といった話も、テレビや健康本でよく見かけます。
実は日本は、笑いと健康の研究がさかんな国の一つ。でも、その研究をよく読むと、「笑いが体にいい」と言い切るには、乗り越えなければならない大きな壁があることがわかります。
01笑わない人ほど、脳卒中が多かった
さらに2020年、山形大学のサクラダ(Sakurada)さんらが、山形県の40歳以上の約1万7000人を中央値で約5.4年追跡した研究を発表しました。笑う回数が月1回未満の人は、週1回以上笑う人に比べて、死亡リスクが約2倍(ハザード比1.95)という結果でした。
02漫才を見たら、食後の血糖値の上がり方が小さかった
笑いの「その場の効果」を調べた実験もあります。
2003年、筑波大学などの研究チームは、2型糖尿病の患者さんに、ある日は昼食後に退屈な講義を聞いてもらい、別の日は漫才を見てもらいました。すると、漫才を見た日の方が、食後の血糖値の上がり方が小さかったと報告されています。
また、イギリス・オックスフォード大学のダンバー(Dunbar)さんらは2012年、コメディを見てみんなで笑った後は、痛みを感じにくくなる(痛みのしきい値が上がる)ことを、6つの実験で示しました。研究チームは、笑いによって脳内の鎮痛物質エンドルフィンが出ている可能性を考えています。

03立ちはだかる「因果の壁」
ここで考えたいのが、「どっちが先か」という問題です。
体のどこかに病気があったり、気分が落ち込んでいたりすれば、自然と笑う回数は減ります。つまり、「笑わないから病気になる」のではなく、「病気だから笑えない」のかもしれません。これを逆の因果と呼びます。
もう一つは、見えない共通の原因です。よく笑う人は、友人や家族と過ごす時間が長いかもしれません。人とのつながりそのものが健康に良い影響を与えているなら、笑いはその「目印」にすぎない可能性もあります。
山形の研究でも、追跡期間が約5年と比較的短く、もともとの健康状態の差を完全には取り除けていません。2016年の研究は、一時点の調査(横断研究)なので、因果関係はわかりません。
04笑いを「処方」した実験は?
それなら、笑う機会をつくる実験をすればいい——。実際に、笑いヨガやユーモア療法などの効果を調べた研究をまとめた2019年のメタ分析では、気分の落ち込みなどに一定の改善が見られました。
ただし、研究の数は多くなく、規模も小さいものが中心で、結果のばらつきもありました。「笑えば病気が防げる」と言えるだけの証拠は、まだそろっていません。
05まとめ
「よく笑う人は健康」という関連は、日本の研究でたしかに見られました。でも、「笑えば健康になる」という因果は、まだ証明されていません。
それでも、笑いが人とのつながりを生み、気分を軽くするのは確か。研究の結論を待たずに、今日もたくさん笑っておいて損はなさそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJapan has many studies on laughter and health.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
People often say that laughter is good for your health. Is it true? In Yamagata, Japan, researchers studied about 17,000 adults. People who laughed less than once a month had about twice the risk of dying compared with people who laughed at least once a week.
But this does not prove that laughing keeps us healthy. Maybe sick people just laugh less. Scientists are still trying to find out which comes first.
72 words ・ CEFR A2
和訳を見る
笑いは健康に良い、とよく言われます。それは本当でしょうか。日本の山形で、研究者たちが約1万7000人の大人を調べました。笑うのが月1回未満の人は、週1回以上笑う人と比べて、死亡するリスクが約2倍でした。
しかし、これは笑うことが私たちを健康に保つという証明にはなりません。もしかすると、病気の人がただ笑わなくなるだけかもしれません。科学者たちは、どちらが先なのかを今も調べています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第2文 Is it true? と問いかけ、笑いと健康の関係を調べた研究とその限界を述べているので C。
Q2. What was the risk of dying for people who laughed less than once a month?
had about twice the risk of dying とあるので A。
Q3. In this passage, "prove" means ...
prove は「証明する」。this does not prove that ... で「…と証明するものではない」なので D。
Japan has many studies on laughter and health. In one study, about 21,000 people aged 65 or older were asked how often they laughed. Those who almost never laughed were 1.6 times more likely to have had a stroke than those who laughed every day.
Another study in Yamagata followed about 17,000 adults for around five years and found that people who laughed less than once a month had about twice the risk of death. Experiments also suggest that laughing with others can make people feel less pain. However, these findings have a big problem. People who are ill or depressed naturally laugh less, so illness may cause less laughter, not the other way around.
115 words ・ CEFR B1
和訳を見る
日本には笑いと健康に関する研究がたくさんあります。ある研究では、65歳以上の約2万1000人が、どれくらいよく笑うかを尋ねられました。ほとんど笑わない人は、毎日笑う人に比べて、脳卒中になったことがある割合が1.6倍高くなっていました。
山形の別の研究は約1万7000人の成人を約5年間追跡し、笑うのが月1回未満の人は死亡リスクが約2倍であることを見いだしました。また、実験からは、人と一緒に笑うと痛みを感じにくくなる可能性も示されています。しかし、これらの発見には大きな問題があります。病気の人や気分が落ち込んでいる人は自然と笑う回数が減るので、笑わないから病気になるのではなく、病気が笑いを減らしているのかもしれないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
笑いと健康の関連を示す研究を紹介しつつ、最後に因果の向きがはっきりしないという問題を述べているので B。
Q2. How long did the Yamagata study follow people?
followed about 17,000 adults for around five years とあるので D。
Q3. What does the writer mean by "not the other way around"?
illness may cause less laughter とあり、「笑わない→病気」ではなく「病気→笑わない」の可能性を指しているので A。
In Japan, the saying that laughter is good medicine has inspired a lot of research. A 2016 survey of about 21,000 adults aged 65 and over found that, even after accounting for age, lifestyle and depressive symptoms, those who seldom laughed were 1.6 times more likely to have had a stroke than those who laughed daily. That survey captured only one point in time, so it could not show which came first.
A 2020 cohort study in Yamagata followed around 17,000 adults aged 40 or older for a median of 5.4 years and found that laughing less than once a month was associated with roughly double the risk of death. Laboratory work points to possible mechanisms. Patients with type 2 diabetes showed a smaller rise in blood sugar after watching a comedy act than after a dull lecture, and laughing together raised people's pain threshold, perhaps through the release of endorphins.
A 2019 meta-analysis of laughter therapies found some improvement in mood, but its studies were small and inconsistent. Proving cause and effect is harder. Illness or low mood reduces laughter, a case of reverse causation. And social connection may be a hidden confounder that promotes both laughter and health.
200 words ・ CEFR B2
和訳を見る
日本では、「笑いは良薬」という言葉が、多くの研究を生んできました。65歳以上の約2万1000人を対象とした2016年の調査では、年齢、生活習慣、うつ症状を考慮したあとでも、めったに笑わない人は毎日笑う人に比べ、脳卒中になったことがある割合が1.6倍高くなっていました。この調査は一時点しかとらえていないので、どちらが先なのかは示せませんでした。
山形の2020年のコホート研究は、40歳以上の約1万7000人を中央値5.4年追跡し、月1回未満しか笑わないことが死亡リスクのおよそ2倍と関連していることを見いだしました。実験室での研究は、考えられる仕組みを示しています。2型糖尿病の患者は、退屈な講義の後よりも漫才を見た後のほうが血糖値の上昇が小さく、また一緒に笑うことで、おそらくエンドルフィンの放出を通じて、痛みのしきい値が上がりました。
笑い療法に関する2019年のメタ分析は、気分の一定の改善を見いだしましたが、もとになった研究は小規模で、結果にばらつきがありました。原因と結果を証明するのは、もっと困難です。病気や気分の落ち込みは笑いを減らすので、逆の因果が生じます。そして、人とのつながりが、笑いと健康の両方を高める隠れた交絡因子になっているかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
笑いと健康の関連を示す研究と、逆因果・交絡のために因果の証明が難しいことを述べているので C。
Q2. In the passage, what is suggested as a possible hidden confounder?
social connection may be a hidden confounder that promotes both laughter and health とあるので B。
Q3. Why does the author mention that the 2016 study "captured only one point in time"?
一時点の調査では、笑わないことと脳卒中のどちらが先かがわからない(it could not show which came first)という限界を示しているので D。
重要単語
- laughterB1名詞笑いLaughter is a universal human behavior.
laugh(笑う)の名詞形。発音は /ˈlæftər/。burst into laughter「どっと笑い出す」。 - pain thresholdC1名詞(句)痛みのしきい値(痛みを感じ始める強さ)Laughing may raise your pain threshold.
threshold は「敷居・入り口」。on the threshold of ~「~の始まりに」も長文で出る。 - endorphinC1名詞エンドルフィン(脳内の鎮痛物質)Exercise and laughter may release endorphins.
endo(内部の)+morphine(モルヒネ)=「体内でつくられるモルヒネ」。 - cohortC1名詞コホート(追跡する集団)The cohort was followed for five years.
もとは古代ローマ軍の部隊。cohort study(コホート研究)は疫学の基本用語。 - confounderC1名詞交絡因子Social life may be a confounder.
confound(混同させる)から。2つの事柄の両方に影響して、見かけの関係をつくる第3の要因。 - reverse causationC1名詞(句)逆の因果Reverse causation means that illness may reduce laughter.
reverse(逆の)+causation(因果関係)。「どちらが原因か」を問う入試長文で頻出の考え方。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
このネタ、誰かに教えたくなった?
山形県の約1万7000人の研究で、笑う回数が月1回未満の人は、週1回以上笑う人より死亡リスクが約2倍だったらしい。でも「病気だから笑えない」可能性もある。笑いと健康の研究は、因果の見極めがむずかしい。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Sakurada K et al. (2020) Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study, Journal of Epidemiologydoi.org
- Hayashi K et al. (2016) Laughter is the Best Medicine? A Cross-Sectional Study of Cardiovascular Disease Among Older Japanese Adults, Journal of Epidemiologydoi.org
- Hayashi K et al. (2003) Laughter Lowered the Increase in Postprandial Blood Glucose, Diabetes Caredoi.org
- Dunbar RIM et al. (2012) Social laughter is correlated with an elevated pain threshold, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
- van der Wal CN, Kok RN (2019) Laughter-inducing therapies: Systematic review and meta-analysis, Social Science & Medicinedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










