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第3章|続ける技術コラム2026-09-282026-10-09 更新

動機づけ研究から見た大学生の英語学習|やる気を支える授業の工夫

必修の英語科目で、学生の表情がなかなか明るくならない。そんな悩みを持つ大学教員は少なくありません。第二言語の学習動機づけは、応用言語学の中でも研究の蓄積が多い分野です。この記事では、代表的な考え方を紹介しながら、大学生のやる気を支える具体的な授業の工夫を考えます。

01大学生の英語学習が抱える動機づけの課題

大学入学までの英語学習は、多くの場合「入試」という分かりやすい目標に支えられています。入学後、その目標がなくなると、英語を学ぶ理由が急に見えにくくなる学生が出てきます。

よく見られる声には、次のようなものがあります。

  • 「卒業に必要だから取っているだけ」
  • 「専攻の勉強で精一杯で、英語まで手が回らない」
  • 「高校でやったことの繰り返しに感じる」
  • 「英語を使う自分が想像できない」

これらは怠けているわけではなく、学ぶ理由と今の授業が結びついていない状態だと考えられます。動機づけ研究は、この結びつきをどう作るかについて、いくつかの見取り図を示してくれます。

学習者を授業に引き込むにはCambridge University Press ELT|Zoltan Dornyei - Engaging language learners

使い方:学習者を授業に引き込む方法を語るインタビューです。この節の学生の声のうち、自分の授業に多いものを1つ選び、関わり方の工夫を考える材料にします。

02「理想の自分」と動機づけ:L2動機づけ自己システム

第二言語の動機づけ研究で広く知られている枠組みに、Zoltán Dörnyeiが提唱したL2動機づけ自己システム(L2 Motivational Self System)があります。これは、次の3つの要素で学習の動機を捉える考え方です。

  1. 理想のL2自己:英語を使いこなしている、なりたい自分のイメージ
  2. 義務的なL2自己:周囲の期待に応えるため、または悪い結果を避けるために「こうあるべき」と感じる自分
  3. L2学習経験:教室や教師、仲間など、今まさに学んでいる環境での経験

この枠組みに照らすと、大学生の動機づけを支えるには、英語を使う未来の自分を具体的に描けるようにすることと、今の授業の経験を良いものにすることの両方が大切だと考えられます。

ポイント:「将来役に立つよ」と教師が言うだけでは、学生自身の理想の自分にはなりません。学生が自分の言葉で未来を描く機会を作ることが大切です。

ビジョンで学習者と教師を動機づけるCambridge University Press ELT|Motivating L2 learners and teachers through vision - Zoltan Dornyei

使い方:ビジョン(未来の自分のイメージ)で学習者と教師を動機づける考え方の講演です。理想のL2自己を授業でどう扱うかを、次の節の活動と結びつけて考えます。

03自律性・有能感・関係性:自己決定理論の視点

もう一つ、教育の分野で広く使われているのが、DeciとRyanによる自己決定理論です。この理論では、人が意欲的に取り組むためには次の3つの基本的な欲求が満たされることが大切だと考えます。

  • 自律性:自分で選んでいる、決めているという感覚
  • 有能感:自分はできる、成長しているという感覚
  • 関係性:周りの人とつながっている、受け入れられているという感覚

授業に置き換えると

  • 自律性:発表のテーマ、読む本、課題の形式に選択肢を用意する
  • 有能感:少し頑張ればできる課題を段階的に並べ、できたことを見える形にする
  • 関係性:ペアやグループの活動で、互いの名前を呼び合い、助け合う場面を作る

たとえば、プレゼンテーションの課題で「自分の専攻に関係するテーマを3つの候補から選ぶ」ようにするだけでも、自律性の感覚は高まります。

自律と動機づけの研究者に聞くThe TEFLology Podcast|TEFL Interviews 45: Ema Ushioda on Motivation

使い方:自律と動機づけの研究者へのインタビューです。この節の「自律性」を満たすために、学期中に学生が選べる項目(テーマ・形式など)をいくつ用意できるか書き出します。

04初回授業でできる「未来の自分」を描く活動

動機づけ研究の知見を最も生かしやすいのが、学期の最初の授業です。次の活動は、30分ほどで実施できます。

活動の流れ

  1. 想像する(5分):「10年後、英語を使っている場面」を具体的に想像させる。どこで、誰と、何のために使っているか
  2. 書く(10分):その場面を英語で3〜5文書く。例を示す
  • I am working at a pharmaceutical company in Osaka.
  • I am explaining our research results to a team in Singapore online.
  • I can answer their questions without reading my notes.
  1. 共有する(10分):ペアで読み合い、相手の未来について質問を1つする
  2. 今学期とつなぐ(5分):「その場面に近づくために、この授業で身につけたいことを1つ」書く

学期の途中と最後にこの紙を読み返す時間を作ると、授業の活動と未来の自分とのつながりを学生自身が確認できます。

05「英語を使う未来の自分」を具体的にする素材と、使い方

未来の自分を描く活動は、実際に英語を使っている人の姿を見せると具体的になります。専攻や関心に合わせて選べる素材です。

素材特徴活動での使い方
Three Minute Thesis(3MT)研究を3分の英語で伝える大会と、その動画学生の専攻に近い発表を1本選び、「数年後の自分が研究を英語で紹介する場面」を想像させる
TED世界の講演を字幕付きで見られる専攻分野の講演を1本選び、話し手の英語の使い方(完璧でなくても伝わる)に注目させる
EducationUSA米国務省の公式アメリカ留学ガイド留学に関心のある学生に、留学の情報を英語で読む課題として示す
Toastmasters International英語スピーチを仲間と練習する世界的なクラブ授業外で英語を話す場の例として紹介する(会費やクラブの活動言語は各自で確認)

活動の流れへの組み込み方

  1. 「想像する」の前に、専攻に近い3MTの発表を1本見せる(3分)
  2. 書いた5文を、ペアで読み合って質問を1つずつする
  3. 学期の中盤と最後に、5文を読み直して「今の自分に近づいた点」を1文足す

素材は「すごい人を見せる」ためではなく、「自分も届きそうな姿」を見せるために選びます。英語が完璧でない話し手の例を混ぜると、有能感を損なわずにすみます。

06学期の途中でやる気が下がったときの対応

学期の中盤は、課題の締め切りが重なり、欠席や未提出が増えやすい時期です。この時期に教師ができることを挙げます。

  • 短い振り返りを入れる:「この授業で前よりできるようになったこと」を1つ書かせる。有能感を思い出すきっかけになります
  • 課題の量と難しさを見直す:未提出が急に増えたら、課題の設計に問題がないか確かめる
  • 個別に声をかける:欠席が続く学生には、責める口調ではなく「最近どうですか。何か困っていることはありますか」と連絡する
  • 小さな成功を作る:次の授業で、ほぼ全員ができる活動を1つ入れる

1週間でできる立て直しメニュー(教師用)

  • 月:出席と提出の記録を見て、気になる学生を把握する
  • 水:授業の冒頭で振り返りの時間を5分とる
  • 金:翌週の課題を1つ減らすか、選択式にする

やる気は学生の中だけにあるものではなく、授業や環境との関係の中で変化するものだと考えると、教師にできることが見えてきます。

BALEAPで語られた学習動機の「流れ」ELTCSheffieldUni|BALEAP PIM Plenary: Zoltán Dörnyei - Motivational Currents in Language Learning

使い方:学習の動機の「流れ」を扱う講演です。学期の中盤にやる気が下がる時期の前に見て、長い課題の途中に小さな到達点を置く計画を立てます。

07グループ活動で「関係性」を育てる具体例

大学の英語授業は、学部や学科が異なる学生が集まることも多く、学期の終わりまで互いの名前を知らないまま、ということも珍しくありません。関係性の欲求を満たすためには、意図的に仕掛けを作る必要があります。

最初の3週間でできる工夫

  • 第1週:名札を用意し、ペア活動の最初に必ず名前を呼ぶルールにする
  • Hi, I'm Ken. Nice to meet you, Aya.
  • 第2週:4人グループで「共通点探し」をする。5分間で共通点を3つ見つける
  • We all like cats. / We all live in Saitama. / None of us can cook.
  • 第3週:グループごとに役割(司会、記録、時間係、発表係)を決め、毎回交代する

学期の途中で

  • グループの組み替えは、学期中に2〜3回にとどめる。毎回変えると関係が深まりにくく、固定しすぎると広がりがなくなります
  • 欠席者が出たグループには、次の授業の最初に「前回の内容を2分で説明する」役割を他のメンバーに任せる

互いに顔と名前が分かる教室では、間違えることへの不安が小さくなり、発言が増えやすくなります。

安心して話せる教室をつくるCambridge University Press ELT|Zoltan Dornyei - Safe Speaking Environments

使い方:安心して話せる教室づくりを語る短い動画です。この節の最初の3週間の工夫のうち、自分のクラスで最初に試すものを1つ決めます。

08よくある失敗:「やる気を出させる」ことに力を入れすぎる

1. 励ましの言葉だけで終わる

「頑張ろう」「英語は大事」と伝えるだけでは、行動は変わりにくいものです。具体的な行動の選択肢を示しましょう。

2. 外からのご褒美に頼りすぎる

加点やポイントは短期的には効果がありますが、それだけに頼ると、ご褒美がなくなったときに学習が止まることがあります。

3. 全員に同じ理由を求める

英語を学ぶ理由は、留学、就職、趣味、研究など人それぞれです。一つの理由を押しつけず、学生それぞれの理由を尊重しましょう。

4. 研究の概念を学生に説明しすぎる

理論は教師が授業を設計するための道具です。学生に用語を覚えさせる必要はありません。

まずは次の授業で、学生に「この授業で前よりできるようになったこと」を1つ書いてもらうところから始めてみてください。

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よくある質問

英語に全く興味がない学生にはどうすればよいですか?

まずは英語そのものではなく、学生が興味を持っている分野の話題を英語で扱うことから始めると入りやすくなります。好きなものについて話すとき、人は言葉を使う理由を持ちやすくなります。

動機づけを測るアンケートは授業で使えますか?

研究で使われている質問紙を授業の振り返りに参考にすることはできます。ただし、研究で使う場合は倫理審査や同意の手続きが必要になることがあるので、所属機関の規程を確認しましょう。

成績の良い学生の動機づけにも配慮が必要ですか?

必要です。すでにできる学生は、課題が簡単すぎると有能感を得にくくなります。発展的な選択課題や、他の学生を助ける役割を用意すると、意欲を保ちやすくなります。

読了ボーナス

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