「聞いたことの5%しか残らない」ラーニングピラミッドって本当? 出典をたどって判定
講義5%、読書10%、視聴覚20%……人に教えると90%。研修でおなじみのあの図、実は元になった研究が見つかっていません。ただし「自分で思い出す・説明する学び方が効く」という部分は、別の研究でちゃんと支えられています。
エビデンスの強さ:ピラミッドの数字の出典を追った複数の文献調査が、裏づけとなる研究は確認できないと一致して報告。一方、能動的な学習(大学の理数系)・想起練習・教えること(主に大学生・成人)の効果は、別のメタ分析や実験で支持されている。

- 「講義を聞くと5%、人に教えると90%残る」――この数字には、元になった研究が見つかっていません。
- そもそも「何%覚えているか」は内容・テスト・時間で大きく変わるので、学び方ごとに決まった数字は出せません。
- ただし、思い出す練習の効果や、大学の理数系の授業での能動的な学習の効果は別の研究で確かめられており、人に教えることの効果も、主に大学生・成人を対象にした研究で支持されています。
ラーニングピラミッドの数字について、医学教育の論文での引用を調べた文献レビューは、引用の多くが出典の内容と食い違っていたり、引用先に該当する記述がなかったり、論文どうしがお互いを出典にし合う「堂々めぐり」の引用になっていたりして、どの割合が正しいかについての合意すらないと報告しました 1。その続編は、「ピラミッドもその数字もでたらめであり、教育学者 Edgar Dale 氏に由来するものでもない」とまで言い切っています 2。
図の出どころとしてよく名前が挙がる NTL 研究所自身も、問い合わせに対して「元の研究はもう手元になく、見つけることもできない」と回答していることが報告されています 3。
そもそも「ラーニングピラミッド」って?
ひとことで言うと、この説は「学び方によって記憶に残る割合が決まっていて、講義を聞くと5%しか残らないが、人に教えると90%残る」というものです。 3
ラーニングピラミッドには細かい違いのある版がいくつもありますが、よく出回るのは「講義を聞く」「読む」「視聴覚」「デモンストレーション」「グループ討論」「やってみる」「人に教える」と並べ、下に行くほど定着率(retention)が高くなる図です。講義を聞くことは 5% や 10% ほどしか残らず、人に教えたりやってみたりすると 75%、80%、90% も残る――といった、きりのよい数字がついているのが特徴です 3。
「人は脳のほんの一部しか使っていない」という話を聞いたことがあるでしょうか。わかりやすくて、なんとなく本当っぽい――でも元の研究はない。ラーニングピラミッドの数字も同じタイプの「伝言ゲーム」です。だれかが図を作り、別のだれかが「裏づけがある」と書きそえ、それがまた引用される。たどってもたどっても、元の実験にたどり着きません。
まぎらわしいもののちがい
| 何のこと? | 判定 | |
|---|---|---|
| ピラミッドの数字(5%、90% など) | 学び方ごとに決まった定着率がある、という主張 | 元の研究が見つからない(ウソ) |
| 教育学者 Edgar Dale の「経験の円錐」(1946年) | 具体的な経験から抽象的な経験までを並べた連続体。優劣の序列ではない | ピラミッドとは別もの 4 |
| 「思い出す・説明する学びが効く」という方向性 | 思い出す練習、能動的な学習、人に教えること | 別の研究で裏づけがある(下の「研究ではこう」) |
判定の理由を3つで
- 元の研究が見つからない:出どころとされる NTL 研究所自身が、元の研究はもう手元になく、見つけることもできないと回答しています 3。
- 引用をたどっても、数字に合意がない:医学教育の論文での引用を調べると、出典と食い違う・該当する記述がない・お互いを出典にし合う、といった例が多く、どの割合が正しいかの合意すらありませんでした。数字は Dale 氏に由来するものでもないと指摘されています 12。
- そもそも「○%残る」とは言えない:記憶に残る量は、内容・テスト・時間で大きく変わります。研究のレビューでも、各段階の方法はどれも効果があり、いつも他より優れている方法はありませんでした 4。
どこから広まった?
出典をたどると……
- Edgar Dale 氏の「経験の円錐」(1946年):ピラミッドの元とされることが多いのが、教育学者 Dale 氏の「経験の円錐(Cone of Experience)」です。しかしこれは、具体的な経験から抽象的な経験までの教え方を連続体として並べたもので、上下の優劣を示す序列ではありませんでした 4。定着率の数字も Dale 氏に由来するものではないと指摘されています 2。
- NTL 研究所:数字つきのピラミッドの出どころとして引用されることが多いのが、アメリカの NTL 研究所です。同研究所は、1960年代はじめにメイン州の施設で作られたものだとしながら、元の研究はもう持っておらず、見つけることもできないと回答しています 3。
- もっと古い原型:デジタル図書館を調べた研究では、似た考え方のモデルは160年以上前から教育の議論に登場しており、実証研究から生まれたものではないことが示されました 5。
それでもこの図は、学術雑誌や専門分野の事典にまで広く載り、一定の権威をもつようになっています 6。医学教育では、2013年に批判されたあとも引用はむしろ増えていて、反論の論文が逆にピラミッドの出典として引かれる例まで見られました 2。
研究ではどうなってる?
そもそも「○%残る」とは言えない
「講義なら何%残る」と言うには、どんな内容を、どんなテストで、どれだけ時間がたってから測ったのかを決めなければなりません。同じ「講義を聞く」でも、やさしい内容をすぐ測れば多く残り、難しい内容を1か月後に測れば少なくなります。ピラミッドについての研究のレビューは、ピラミッドの各段階にあたる方法はどれも記憶に残る効果があり、いつも他より優れている方法はなく、それぞれ場面によって効果的だったとまとめています 4。ピラミッドには、ことばの定義の面でも研究方法の面でも根本的な問題がある、という批判もあります 3。
「ピラミッドはウソ」でも「思い出す・説明する学び」には裏づけがある
ここが大事なところです。ピラミッドの数字はウソですが、「自分で考え、思い出し、説明する学び方が効く」という方向性には、別の研究の裏づけがあります。ただし、研究ごとに対象(大学生か、小中高生か)や教科がちがうので、どこまで当てはまるかは下の各項目の条件を見てください。
- 能動的な学習:大学の理数系の授業で、講義中心と能動的な学習(アクティブ・ラーニング)を比べた225研究のメタ分析では、能動的な学習で試験などの成績が平均 0.47 標準偏差上がり、講義中心のクラスでは単位を落とす割合が 1.5倍でした 7。対象は大学の理数系(STEM)の授業なので、日本の小中高の英語の授業にそのまま当てはまるとは言えません。
- 思い出す練習(テスト効果):文章を読み直すグループと、思い出してテストするグループを比べた実験では、5分後のテストでは読み直しの方が成績がよかったのに、2日後・1週間後のテストでは、テストしたグループの方がはるかによく覚えていました。読み直したグループは、自分の記憶に自信をもっていたにもかかわらずです 8。
- 教えて学ぶ:「あとで教えるつもりで学ぶ」グループと「実際に教える(講義を録画する)」グループを比べた実験では、1週間後のテストで統制群を有意に上回ったのは、実際に教えたグループでした 9。
- 教えて学ぶ効果のメタ分析:日本の研究者による28研究のメタ分析では、「教えるつもりで準備する」ことの効果量は g = 0.35、「準備して実際に教える」ことは g = 0.56 で、研究どうしを比べた分析では、相手とやり取りしながら教える条件の方が、やり取りのない条件より推定効果が大きくなっていました。ただし、28研究のうち24研究は18歳以上が対象で、小・中・高校段階の4研究では「教えるつもりで準備する」効果はほぼゼロ(g = 0.04、有意差なし)でした。実際に教える条件については18歳未満の研究が2つしかなく、年齢による違いは分析できていません 10。
- 学習法の比較:10種類の学習法を評価した総説では、「練習テスト」と「分散学習」は有用性が高いと評価され、「線を引く」「読み直す」は有用性が低いと評価されました。この評価は効果量の大小だけでなく、効果が確かめられた対象・教材・条件の広さなども考慮したものです 11。
つまり、「講義を聞いてもほとんど残らない」わけではありません。講義や説明にも、場面に応じた効果があります 4。そのうえで、聞いたあとに思い出す練習を組み合わせると、長期的な記憶をさらに助けられることが示されています 8。講義や説明を聞く時間をゼロにする必要はなく、その後に思い出す・使う・説明する時間をつくるのがよい組み合わせです。
じゃあ授業ではどうする?
- 研修資料からピラミッドを外す:校内研修や指導案で使う場合は、数字は使わず、「大学の理数系の授業では、講義中心より能動的な学習の方が平均して成績が高かった」「思い出す練習は長期的な記憶を助ける」のように、対象と活動の中身を限定して書き、出典には上のような実際の研究を示します。
- 説明のあとに「思い出す」時間を必ず入れる:文法説明を5分したら、教科書を閉じて例文を1つ自分で書く。授業の最後は、今日の英語表現を3つ思い出して書く(イグジット・チケット)。
- 前回の内容を小テストで思い出す:授業のはじめの3分で、前回の単語や表現を、答えを見ずに書かせます。成績のためではなく、思い出す練習として。
- ペアで「先生役」:本文を読んだあと、片方が内容を英語(難しければ日本語+キーワード英語)で説明し、もう片方が質問する。やり取りのある「教える」活動にします。
- 「人に教えると90%」と生徒に言わない:数字に根拠がないからです 3。代わりに「人に説明すると、自分のわかっていないところが見つかるよ」と伝えます。
❓ よくある質問
Q. ラーニングピラミッドの数字に根拠はありますか?
元になった研究が見つかっていません。医学教育の論文での引用を調べた文献レビューは、どの割合が正しいかについての合意すらないと報告し 1、その続編はピラミッドも数字もでたらめで教育学者 Edgar Dale 氏に由来するものでもないとしています 2。NTL研究所も、元の研究はもう見つけられないと回答しています 3。
Q. Edgar Dale の「経験の円錐」とは何がちがいますか?
Dale 氏の経験の円錐(1946年)は、具体的な経験から抽象的な経験までの教え方を連続体として並べたもので、上下の優劣を示す序列ではありませんでした 4。定着率の数字も Dale 氏に由来するものではないと指摘されています 2。
Q. 講義を聞いても5%しか残らないのですか?
そうとは言えません。「何%残る」は内容・テスト・時間で大きく変わります。ピラミッドについての研究のレビューは、各段階にあたる方法はどれも記憶に残る効果があり、いつも他より優れている方法はないとまとめています 4。説明のあとに思い出す練習を組み合わせると、長期的な記憶をさらに助けられます 8。
Q. 人に教えると学びが深まるのは本当ですか?
主に大学生・成人の研究で支持されています。28研究のメタ分析では、教えるつもりで準備することの効果量は g = 0.35、準備して実際に教えることは g = 0.56 でした。ただし小・中・高校段階の研究では、教えるつもりで準備する効果はほぼゼロでした 10。
Q. 研修資料でラーニングピラミッドを使ってもいいですか?
数字は使わず、対象と活動の中身を限定して実際の研究を示します。たとえば「大学の理数系の授業では、講義中心より能動的な学習の方が平均して成績が高かった」7、「思い出す練習は長期的な記憶を助ける」8 のように書きます。生徒にも「人に教えると90%」とは言いません。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード神話はなぜ「反論」を栄養にして広がるのか
医学教育の研究者 Ken Masters 氏は、2013年に医学教育文献でのピラミッドの引用を調べ、引用は避けるべきだと結論しました 1。ところが2018年までの追跡では引用がかえって増え、新しい出典が使われ、ピラミッドへの反論そのものがピラミッドを支持する文献として引用され、弱点を認めながら引用し続ける研究者もいました 2。Masters 氏は、反論が丁寧すぎる学術的な言い回しで書かれると、読み手が「議論がある」程度に受けとってしまうのではないかと考え、あえて強いことばで否定しています 2。
研究者の Kåre Letrud 氏と Sigbjørn Hernes 氏は、学術雑誌や事典での広がりを調べ、こうした神話が学術の場で発表されることは、専門的・政策的な議論に害を与えうると論じました 6。さらに原型を160年以上さかのぼり、ピラミッドが前提とする記憶の考え方は、現代の認知心理学の記憶の理解から大きくずれていると指摘しています 5。
🎓院生モード「教えて学ぶ」効果の中身
教えることの効果は、ピラミッドとは別に、実験研究で検討されてきました。教育心理学者の Logan Fiorella 氏と Richard E. Mayer 氏は、教える準備だけでは直後のテストにしか効果が見られず、1週間後まで効果が残ったのは実際に教えた場合だったと報告しています(実際に教えた群と統制群の差は d = 0.79)9。ただし、これは大学生が物理(ドップラー効果)の教材を学び、教える群はビデオに講義を録画するという実験室の設定での結果です。また、教える群は学習のあとに録画講義という追加の活動をしており、ほかの群と活動の量がそろっているとは限りません。そのため、「教えること」そのものの効果と、追加で内容を思い出し・練習したことの効果は、完全には切り分けられていません。この効果量の大きさを、学校の英語の授業でのペア活動にそのまま当てはめることもできません。心理学の研究者 Keiichi Kobayashi 氏のメタ分析は、教える準備と実際の教授の効果を分けて推定し、サブグループ分析では、双方向的に教える条件の推定効果が、そうでない条件より大きくなりました 10。ただし研究どうしを比べた結果なので、やり取りそのものの因果的な効果を確定したものではありません。
こうした効果の背景には、説明するために内容を思い出すこと(想起練習)や、理解の穴に気づくことがあると考えられています。テスト効果 8 や、練習テストの高い評価 11 とあわせて読むと、「教える」は特別な魔法ではなく、思い出し・説明し・まちがいに気づく学習の組み合わせだと見えてきます。
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📑 出典(11件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Masters, K. (2013). Edgar Dale's Pyramid of Learning in medical education: A literature review. Medical Teacher, 35(11), e1584-e1593. doi:10.3109/0142159X.2013.800636 ✔ DOI照合済医学教育の論文でのラーニングピラミッドの引用を調べ、出典があいまいで数字もそろわないと示した文献レビュー
- Masters, K. (2020). Edgar Dale's Pyramid of Learning in medical education: Further expansion of the myth. Medical Education, 54(1), 22-32. doi:10.1111/medu.13813 ✔ DOI照合済2013年の批判後も、ピラミッドの引用はむしろ増えていたと報告した続編
- Letrud, K. (2012). A rebuttal of NTL Institute's learning pyramid. Education, 133(1), 117-124. 公式ページ ✔ リンク確認済ピラミッドの出どころとされる NTL 研究所自身が「元の研究が見つからない」と回答していることを示し、撤回を求めた論文
- Lalley, J. P., & Miller, R. H. (2007). The learning pyramid: Does it point teachers in the right direction?. Education, 128(1), 64-79. 公式ページ ✔ リンク確認済ラーニングピラミッドを裏づける研究は見つからず、Dale の「経験の円錐」は序列ではなかったと指摘した論文
- Letrud, K., & Hernes, S. (2018). Excavating the origins of the learning pyramid myths. Cogent Education, 5(1). doi:10.1080/2331186X.2018.1518638 ✔ DOI照合済ラーニングピラミッドの原型を古い文献にさかのぼり、実証研究から生まれたものではないと示した研究
- Letrud, K., & Hernes, S. (2016). The diffusion of the learning pyramid myths in academia: An exploratory study. Journal of Curriculum Studies, 48(3), 291-302. doi:10.1080/00220272.2015.1088063 ✔ DOI照合済根拠のないラーニングピラミッドが、学術論文や事典にまで広く載っていることを示した研究
- Freeman, S., Eddy, S. L., McDonough, M., Smith, M. K., Okoroafor, N., Jordt, H., … (2014). Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(23), 8410-8415. doi:10.1073/pnas.1319030111 ✔ DOI照合済大学の理数系授業で、能動的な学習(アクティブ・ラーニング)が講義だけより成績を上げるとしたメタ分析(225研究)
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255. doi:10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x ✔ DOI照合済テストで思い出すことが、読み直すより長期の記憶に効く(テスト効果)ことを示した有名な実験
- Fiorella, L., & Mayer, R. E. (2013). The relative benefits of learning by teaching and teaching expectancy. Contemporary Educational Psychology, 38(4), 281-288. doi:10.1016/j.cedpsych.2013.06.001 ✔ DOI照合済「教えるつもりで学ぶ」と「実際に教える」の効果を比べた実験。実際に説明した方が長く記憶に残った
- Kobayashi, K. (2019). Learning by preparing-to-teach and teaching: A meta-analysis. Japanese Psychological Research, 61(3), 192-203. doi:10.1111/jpr.12221 ✔ DOI照合済「教えるつもりで学ぶ」「実際に教える」の効果をまとめたメタ分析(28研究)。どちらも学習を助け、対面でやり取りしながら教えると効果が大きい
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students' learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58. doi:10.1177/1529100612453266 ✔ DOI照合済10種類の学習法を評価した総説。練習テストと分散学習を「有用性が高い」、要約・線引き・再読を「有用性が低い」と総合評価
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







