英語の間違いは直さない方がいいって本当? 誤り訂正の効果を論文で判定
「訂正しても学習は変わらない」「だから直さない方がいい」と言われることがあります。でも、学習効果を調べたメタ分析の答えは「口頭の訂正には中くらいの効果があり、しかも長く残る。作文の添削も正確さを高めうる」。大事なのは、直すかどうかより「何を・いつ・どう直すか」です。
エビデンスの強さ:口頭・作文の誤り訂正とも、複数のメタ分析でプラスの効果がおおむね一貫。ただし効果の大きさは訂正の種類・対象・学習者で変わる。

- 「訂正は学習に効かないから、直さない方がいい」はほぼウソ。口頭の訂正には中くらいの、時間がたっても残る効果が報告され、作文の添削も文法の正確さを高めうるとされています。
- 生徒は、先生が思っている以上に直してほしいと思っていることが多いです。
- ただし「全部を直す」がよいわけではありません。的をしぼって、活動の目的に合わせたやり方とタイミングで直すのがコツです。
誤り訂正(corrective feedback:間違いへのフィードバック)の効果を調べた研究33本をまとめたメタ分析では、訂正には中程度の効果があり、その効果は時間がたっても保たれていました 1。教室での研究だけにしぼったメタ分析(15研究・827人)でも、口頭の訂正は意味のある、長続きする効果をもっていました 2。作文の添削についても、文法の正確さを高めうることがメタ分析で示されています 3。作文の添削の効果の持続については、個別研究に加え、対照群のある52研究を対象としたメタ分析でも、中程度の効果が時間をおいても維持されることが報告されています 4。たとえば、52人に冠詞の2つの用法だけを添削した研究では、10か月後まで効果が確認されました 5。
「ほぼ」とつけたのは、訂正の効果が種類・対象・学習者によって変わるからです 36。「直せば直すほどよい」わけではありません。
なお、ここで判定しているのは「訂正は学習に効かない」という部分です。紹介したメタ分析が測っているのは、主に「英語の力が伸びたか・正しく使えるようになったか」です 123。直されたことで生徒の不安が高まったか、やる気が下がったかは確かめていません。ですから「直すとやる気をなくす」かどうかは、これらの研究だけでは判定できません。直すときの言い方やタイミングへの配慮は、別に必要です。
そもそも「間違いは直さない方がいい」って?
ひとことで言うと、この説は「生徒の英語の間違いを先生が直しても、学習には効かない(むしろ害になる)から、直さない方がいい」というものです。
研究では、生徒の間違いに先生が返す反応をまとめて誤り訂正(corrective feedback:間違いへのフィードバック)と呼びます。話しているときの口頭の訂正と、作文の添削の両方が含まれます 63。つまり実際には、「直すか、直さないか」の二択ではなく、どう直すかにいくつもの種類がある、ということです。
部活のコーチが、練習試合の最中にプレーを止めてフォームを一つひとつ直していたら、試合になりませんし、選手は萎縮します。でも、試合のあとに「今日は打つときの足の向きだけ意識しよう」と一点だけ伝え、次の練習で確かめるなら、選手はぐんと伸びます。誤り訂正も同じで、問題は「直すこと」ではなく、直し方とタイミングです。
直し方のちがい
| 直し方 | どうする? | 例 |
|---|---|---|
| リキャスト | 先生が正しい形で言い直してあげる | S: I go to Kyoto yesterday. → T: Oh, you went to Kyoto? |
| プロンプト | 答えを言わずに、生徒自身に直させる | T: Yesterday, I ...? |
| 作文の添削 | 書いたものの誤りに、正しい形や記号で印をつける | v(動詞の形)、a(冠詞)などの訂正記号 |
教室の研究をまとめると、プロンプトの方がリキャストより効果が大きく出ています 2。
判定の理由を3つで
- 口頭の訂正には、長続きする効果がある:33研究のメタ分析で中程度の効果があり、時間がたっても保たれていました。教室研究にしぼっても同じでした 12。
- 作文の添削も、正確さを高めうる:「添削は効かない」という有名な主張のあとに積み重なった研究をまとめると、添削は文法の正確さを高めうるという結果でした 3。
- 日本のような環境でこそ効果が大きい:教室の外で英語を使う機会が比較的限られる外国語環境の研究の方が、効果が大きく出ていました 1。
「ほぼ」とつけたのは、効果が直し方の種類・対象・学習者によって変わり、「直せば直すほどよい」わけではないからです 36。
どこから広まった?
「直さない方がいい」という考えの背景には、いくつかの流れがあります。
ひとつは、意味中心の指導や学習者の気持ち(情意面)への配慮から、訂正を控えようとする実践的な考え方です。その背景には、「ことばは意味のあるやり取りの中で自然に身につく。間違いを気にさせると不安が高まり、かえって学べなくなる」という感覚があります(これらの理論そのものが「誤りを直すな」と主張しているわけではありません。インプット仮説 や 外国語不安 のページも参照)。
もうひとつは、第二言語教育の研究者 John Truscott 氏の強い主張です。1996年の論文で、作文の文法訂正は効果がなく、むしろ有害なのでやめるべきだと論じ 7、1999年には口頭の文法訂正についても同じようにやめることを提案しました 8。この主張は大論争を呼び、「本当に効かないのか」を長い期間で確かめる研究がくり返し求められるようになりました 5。皮肉なことに、その後に積み重なった研究をまとめると、添削は正確さを高めうるという結果になったのです 3。
研究ではどうなってる?
- 口頭の訂正(教室):15の教室研究(827人)のメタ分析では、訂正には有意で長続きする効果がありました。とくに、答えを言わずに生徒自身に直させるプロンプトの方が、正しい形を言い直してあげるリキャストより効果が大きく、年齢が低い学習者ほど効果が大きいという結果も出ています 2。
- 訂正全般:33研究のメタ分析では、全体として中程度の効果があり、時間がたっても保たれていました。外国語環境(日本のように、教室の外で英語を日常的に使う機会が比較的限られる環境)の研究の方が、効果が大きく出ていました 1。
- 作文の添削:21研究のメタ分析では、添削は文法の正確さを高めうるが、その効果は学習者の熟達度、学習環境、書く課題のジャンルなどに左右されました 3。
- 10か月後まで:ニュージーランドの ESL 学習者52人に、冠詞の2つの用法にしぼって添削した研究では、添削を受けたグループは、10か月にわたるすべての事後テストで、受けなかったグループを上回りました 5。
- 「その場で」か「あとで」かは決着していない:訂正のタイミングを扱った20研究の系統的レビューは、即時の訂正と遅延の訂正のどちらがよいかに決まった答えはなく、結果のばらつきは話す・書くの違いや研究デザインなどによると整理しています 9。
- 生徒は訂正を望んでいる:口頭の誤り訂正の総説では、学習者は、先生が「すべきだ」と思っている以上に訂正を受けたいと考えている傾向がある、とまとめられています 6。
「やさしさ」がすれ違っている
「生徒が傷つかないように直さない」という先生のやさしさと、「ちゃんと直してほしい」という生徒の気持ちは、すれ違っていることが少なくありません 6。直されないと、「この言い方でよいのかもしれない」と受け取ったまま進む生徒もいるでしょう。不安への配慮は大切ですが、その答えは「直さない」ではなく「安心して直してもらえる教室をつくる」ことです。
じゃあ授業ではどうする?
以下は、上の研究をふまえた実践上の目安です(「この手順が最善」と研究で確かめられたものではありません)。
- 活動の目的で「いつ直すか」の目安を決める:
- 正確さをねらう活動(文法の練習、発音や文字と音の対応を重点にした音読)では、その場で短く直すのが向いています。
- 流暢さが目的の活動(Small Talk、スピーチ)では、直すとやり取りが止まってしまう誤りはメモしておき、活動のあとに取り上げます。流暢さや表現をねらう音読も、活動のあとにまとめて扱う方法があります。
- ただし、意味が通じなくなる誤りと、その日の重点項目の誤りは、活動中でも短く直してかまいません。
- 即時か遅延かは研究でも決着していないので、生徒の反応を見て調整します 9。
- 的をしぼる:「今日は過去形だけ直す」と先生が決め、生徒にも伝えます。全部の誤りに赤を入れるより、生徒が次に何を気をつければよいかがはっきりします。
- 自力で直せそうなら「プロンプト」から:既習で、本人が直せそうな形なら、答えを言わずに "Yesterday, I ...?" と言い直しをうながします。プロンプトは教室研究の平均でリキャストより効果が大きく出ています 2。生徒が自力で直せないときは、正しい形を言い直して見せる(リキャスト)、短く説明する、などを組み合わせます。
- 作文は、直せるものは記号で、難しいものは正解例つきで:既習で本人が直せそうな誤りは、v(動詞の形)、a(冠詞)などの訂正記号で返し、書き直しの時間を授業の中にとります。未習事項や自力では直せない誤りには、正しい形や短い説明を添えます。
- クラス全体の「よくある誤り」で振り返る:個人名は出さずに、活動中にメモした誤りを3つほど黒板に書き、全員で直します。
- 話している最中に毎回ストップをかける:流暢さが目的の活動では、やり取りが途切れてしまいます。重点以外はメモしてあとで。
- 作文の誤りを全部直して返す:誤りをすべて直すと、生徒がどこに注目すべきかわかりにくくなることがあります。その日の重点の誤りだけに印をつけ、ほかは本人が見直す余地を残します(研究で確かめられた方法というより、生徒が一度に受け取る量を減らすための実践上の工夫です)。
- リキャストだけに頼る:言い直しがさりげなさすぎて、生徒が「直された」と気づかないことがあります。本人が直せそうな形なら、まず言い直しをうながしてみましょう。
❓ よくある質問
Q. 英語の間違いは直さない方がいいのですか?
ほぼウソです。33研究のメタ分析では、誤り訂正には中程度の効果があり、時間がたっても保たれていました 1。教室研究15本のメタ分析でも、口頭の訂正は意味のある長続きする効果をもっていました 2。問題は直すかどうかより、何を・いつ・どう直すかです。
Q. プロンプトとリキャストはどちらが効きますか?
教室研究のメタ分析では、答えを言わずに生徒自身に直させるプロンプトの方が、正しい形を言い直すリキャストより効果が大きく出ています 2。既習で本人が直せそうな形なら "Yesterday, I ...?" のように言い直しをうながし、自力で直せないときはリキャストや短い説明を組み合わせます。
Q. 英作文の添削に効果はありますか?
21研究のメタ分析では、添削は文法の正確さを高めうるが、その効果は学習者の熟達度・学習環境・書く課題のジャンルなどに左右されました 3。冠詞の2つの用法にしぼって添削した52人の研究では、10か月にわたるすべての事後テストで効果が確認されています 5。
Q. 間違いはその場で直す?あとで直す?
研究でも決着していません。訂正のタイミングを扱った20研究の系統的レビューは、即時と遅延のどちらがよいかに決まった答えはないと整理しています 9。正確さをねらう練習ではその場で短く、流暢さが目的の活動では重点以外をメモして活動のあとに取り上げる、というのが実践上の目安です。
Q. 生徒は直されるのを嫌がりませんか?
口頭の誤り訂正の総説では、学習者は、先生が思っている以上に訂正を受けたいと考えている傾向があるとまとめられています 6。不安への配慮は大切ですが、答えは「直さない」ではなく、的をしぼって、安心して直してもらえる教室をつくることです。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード2つの分類軸 ― プロンプト/リキャストと、明示的/暗示的
Lyster & Saito(2010)の教室研究のメタ分析では、プロンプト(引き出し・明確化要求・くり返し・メタ言語的ヒントなど)がリキャストより効果が大きく、自由な産出を測る課題で効果が最もはっきりしていました 2。一方、第二言語習得研究者の Shaofeng Li 氏のメタ分析では、暗示的なフィードバックの効果の方が、明示的なフィードバックの効果より長く保たれるという結果も出ています 1。
ここで注意したいのは、2つの区分は同じ分類軸ではないことです。プロンプト/リキャストは「正しい形を先生が与えるか、学習者に自力で直させるか」の区分、明示的/暗示的は「訂正だという意図がどれだけはっきり伝わるか」の区分です。プロンプトの中には、明確化要求のような暗示的なものも、メタ言語的ヒントのような明示的なものも含まれます。ですから「プロンプト>リキャスト」と「暗示的な訂正の効果が長く残る」は、必ずしも食い違う結果ではありません。加えて、2つのメタ分析は対象(教室か実験室か)、測り方(明示的知識か、自由な産出か)、事後テストの時期や処遇期間もちがうので、単純にはくらべられません。Lyster & Saito(2010)で出た「年少の学習者ほど効果が大きい」傾向も 2、研究どうしをくらべた結果なので、処遇期間など他の条件のちがいと切り離して「年齢そのものの効果」と言い切ることはできません。Li 氏は、実験室研究の方が教室研究より効果量が大きいことも報告しており 1、実験室の結果をそのまま教室に持ちこむことへの注意を促しています。
🎓院生モードTruscott 論争が残したもの
Truscott 氏は、作文の文法訂正は効果がないどころか有害で、時間を他の活動に使うべきだと主張しました 7。これに対し、たとえば第二言語の作文指導を研究する Bitchener 氏と Knoch 氏は、冠詞の2つの用法という限られた対象に訂正をしぼることで、10か月にわたる効果を示しました 5。この論争は、「訂正は効くか」という大きな問いを、「どんな訂正が、どんな誤りに、どんな学習者に効くか」という具体的な問いに変えました。添削のメタ分析が、効果を左右する要因として熟達度・環境・ジャンルを挙げているのも 3、その流れの上にあります。
口頭の訂正の総説は、訂正の役割を「新しい知識を始めさせること」と「すでにある知識を定着させること」のどちらと見るかという論点や、学習者どうしの訂正(ピア・フィードバック)を方略訓練で強める可能性も論じています 6。
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📑 出典(9件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Li, S. (2010). The effectiveness of corrective feedback in SLA: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 309-365. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00561.x ✔ DOI照合済誤り訂正(フィードバック)のメタ分析(33研究)。全体として中程度の効果で、効果は持続する
- Lyster, R., & Saito, K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32(2), 265-302. doi:10.1017/S0272263109990520 ✔ DOI照合済教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)。リキャストよりプロンプトの効果が大きい
- Kang, E., & Han, Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99(1), 1-18. doi:10.1111/modl.12189 ✔ DOI照合済英作文の添削(筆記の誤り訂正)が正確さを高めるかを調べたメタ分析(21研究)
- Brown, D., Liu, Q., & Norouzian, R. (2023). Effectiveness of written corrective feedback in developing L2 accuracy: A Bayesian meta-analysis. Language Teaching Research, 30(3), 1357-1389. doi:10.1177/13621688221147374 ✔ DOI照合済統制群のある52研究のベイズ・メタ分析。添削には中程度の効果があり長く続く。直接・間接・メタ言語の違いは小さい
- Bitchener, J., & Knoch, U. (2010). The contribution of written corrective feedback to language development: A ten month investigation. Applied Linguistics, 31(2), 193-214. doi:10.1093/applin/amp016 ✔ DOI照合済冠詞の誤りに的をしぼった添削の効果が10か月後まで続いた研究(ニュージーランドの ESL 学習者52人)
- Lyster, R., Saito, K., & Sato, M. (2013). Oral corrective feedback in second language classrooms. Language Teaching, 46(1), 1-40. doi:10.1017/S0261444812000365 ✔ DOI照合済口頭の誤り訂正研究の総説。学習者は先生が思うより訂正を望んでいる傾向がある
- Truscott, J. (1996). The case against grammar correction in L2 writing classes. Language Learning, 46(2), 327-369. doi:10.1111/j.1467-1770.1996.tb01238.x ✔ DOI照合済作文の文法訂正は効果がなく有害なのでやめるべきだと主張し、大論争を起こした論文
- Truscott, J. (1999). What's wrong with oral grammar correction. Canadian Modern Language Review, 55(4), 437-456. doi:10.3138/cmlr.55.4.437 ✔ DOI照合済口頭での文法訂正にも反対した論文
- Xu, M., & Zeng, S. (2023). Optimal timing of treatment for errors in second language learning: A systematic review of corrective feedback timing. Frontiers in Psychology, 14, 1026174. doi:10.3389/fpsyg.2023.1026174 ✔ DOI照合済誤り訂正のタイミング(即時か遅延か)を扱った20研究の系統的レビュー。どちらが良いかに決まった答えはないと結論
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







