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パターン練習(ドリル)はもう時代遅れって本当? 論文で判定

「意味を考えずに口を動かすだけのドリルは、オーディオリンガルの遺物」。そう言われがちですが、研究が問題にしているのは「意味のいらないドリル」。意味を考えながらくり返す練習は、すらすら話す力の土台になります。

判定条件しだい

エビデンスの強さ:機械的なドリルに否定的な論者がいる一方、練習による自動化や、くり返しで流暢さが伸びることを示す実験もあり、「どんな練習か」で評価が分かれる。

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パターン練習(ドリル)はもう時代遅れって本当? 論文で判定のイメージ
💡3行まとめ
  • 意味を考えなくてもできる機械的なドリル「だけ」では効果が薄い。ここはホントです。
  • でも、意味を考えながらくり返す練習や、同じ話を何度も話す練習は、すらすら使える力を育てます。
  • ドリルを使うなら、機械的な部分で終わらせず、意味のある練習 → コミュニカティブな使用へつなげましょう。
⚖️判定:条件しだい

「ドリルは時代遅れ」かどうかは、どんなドリルかで答えが変わります。

  • 意味を考えなくても正解できる「機械的なドリル」については、習得にも流暢さにも必要ではなく、授業から外すべきだという主張があります 1。
  • 一方、別の種類の研究では、規則を学んだあとに、絵と文を対応させる理解や産出の練習をくり返すことで、技能が少しずつ自動化されていくことが示されています 2。また、小規模な実験ですが、同じ話題のスピーチを時間を縮めながらくり返した学習者は、流暢さの伸びが後日まで保たれました 3。

これらは「機械的なドリル」と「意味のある練習」を直接くらべた研究ではありません 23。それでも、「意味を考えなくてもできる機械的なドリルだけ」で終わる練習には否定的な見方があり、「意味を考えながらくり返す練習」には効果を支える実験があります。ドリルの種類によって答えが変わるので、「条件しだい」と判定しました。

そもそも「パターン練習(ドリル)」って?

ひとことで言うと、この説は「先生のあとについて文型をくり返したり、単語を入れかえて言ったりするドリルは、古くて効果のない練習だ」というものです。

パターン練習(pattern practice)は、文型をくり返し口に出し、単語を置きかえながら、自動的に言えるようにする練習です。ただ、ひとくちにドリルと言っても、いろいろあります。1970年の古典的な論文は、ドリルを機械的(mechanical)・有意味(meaningful)・コミュニカティブ(communicative)の3つに分け、機械的な練習から始めて、ことばを自分のものにする(内面化する)段階へと、順に進めるべきだと提案していました 4。

🎈たとえるなら

ピアノの練習で、指の運動だけの音階練習(機械的)は、それだけでは曲が弾けるようになりません。でも、曲の中の難しいフレーズだけを取り出して何度もくり返す練習(有意味)は、多くのピアニストがやっています。そして最後は、人前で曲を通して弾く(コミュニカティブ)。問題は「くり返すこと」ではなく、意味から切り離されたくり返しで終わってしまうことです。

3種類のドリルのちがい

種類 どんな練習? 例
機械的 意味がわからなくても正解できる T: I play tennis. → (soccer) S: I play soccer.
有意味 意味がわからないと答えられないが、答えは決まっている T: (絵を見せて) What is he doing? S: He is playing soccer.
コミュニカティブ 答えが決まっておらず、本当の情報をやり取りする T: What do you usually do on Sundays? S: I usually play soccer with my brother.

判定の理由を3つで

  1. 機械的なドリル「だけ」には否定的な整理がある:意味を考えなくてもできる練習は、習得にも流暢さにも必要・有益ではないと結論した論文があります 1。
  2. 意味を伴うくり返し練習で、技能は自動化する:規則を学んだあと理解と産出の練習を続けると、技能は少しずつ自動化しました。ただし効果は、練習したのと同じ種類の技能に限られていました 2。
  3. 同じ話のくり返しで、流暢さが後日まで残った:同じ話題のスピーチを時間を縮めてくり返した学習者は、流暢さの伸びが後日まで保たれました(小規模な実験です)3。

つまり「くり返し練習が悪い」のではなく、どんなくり返しかで答えが変わるので「条件しだい」です。なお、2と3は機械的なドリルと意味のある練習を直接くらべた研究ではありません 23。

どこから広まった?

1950〜60年代に広まったオーディオリンガル・メソッド(Audio-Lingual Method)では、文型をくり返し口に出し、単語を置きかえながら自動的に言えるようにするパターン練習(pattern practice)が授業の中心でした。ことばを「習慣」として身につけるという考え方が背景にありました。

その後、ことばの習得は習慣づけだけでは説明できないという批判や、コミュニカティブな教え方の広がりとともに、ドリルは「意味を考えない、古い練習」の代名詞になります。2003年には、ドリルは外国語の習得や流暢さの発達に必要でも有益でもなく、授業から捨てるべきだと結論づけた論文が「The evidence is IN: Drills are OUT(証拠はそろった、ドリルは退場)」という刺激的なタイトルで発表されました 1。

ただ、上で見たように、ドリルにも機械的・有意味・コミュニカティブの3種類があり 4、この論文がまとめて「退場」としたのは、主に意味を考えなくてもできる機械的な練習でした 1。

研究ではどうなってる?

🔬研究ではこう
  • ドリル否定論:機械的な練習(ドリル・パターン練習)の研究を見直した論文は、こうした活動は外国語の習得にも流暢さの発達にも必要・有益ではないと結論しました 1。
  • 練習で技能は自動化する、ただし練習した形で:61人に人工言語の規則を教え、8週間コンピュータで理解と産出の練習をさせた実験では、技能はほかの認知技能と同じ学習曲線を描いて少しずつ発達しました。ただし、その効果は練習した技能に特有で、理解の練習は理解に、産出の練習は産出に効いていました 2。
  • 同じ話のくり返しで流暢さが残る:アメリカの大学附属の英語学校に通う中上級の ESL 学習者(参加に同意した47人のうち、欠席のため完全なデータがそろったのは24人)が、4分・3分・2分と時間を縮めてスピーチをくり返した実験では、練習中はどの条件でも流暢さが上がりましたが、後日まで流暢さが保たれたのは同じ話題をくり返した学習者でした。なお、話す相手は人ではなくコンピュータでした(条件をそろえるため)。くり返しの中で同じ語を多く使った学習者ほど一部の流暢さの指標が伸びており、著者らは、句や文を組み立てる処理が手続き化(すらすら使える形への変化)した可能性を論じています。ただし、構文のくり返しそのものは分析されておらず、著者ら自身が今後の検証が必要としています 3。
  • 切り離した練習と、組みこんだ練習の両方に役割:文法指導を活動から切り離して行うか、コミュニケーション活動の中に組みこむかについての論文は、両方とも有益になりうると整理しています。たとえば、母語の影響で起きる問題には切り離した指導が、流暢さや自動化には組みこんだ指導が役立つ可能性があります 5。

くり返すなら「同じこと」を

「同じことのくり返しは退屈で効果がない」と思われがちですが、上のスピーチの実験では、毎回ちがう話題で話したグループより、同じ話題をくり返したグループの方が、流暢さの伸びが後まで残りました 3。どちらのグループも、毎回「内容を伝えるために」話していた点は同じです。中上級の大人を対象にした小規模な一実験なので、日本の小中高の生徒にそのまま当てはまるとは言えませんが、「くり返しそのものが悪いのではない」ことを考えるヒントになります。

じゃあ授業ではどうする?

練習を設計するときは、「楽すぎない、ほどよい難しさ」を入れると定着しやすいという望ましい困難(desirable difficulty)の考え方が、第二言語の練習研究でも取り入れられています。練習の条件・言語の難しさ・学習者の個人差を合わせて考えることが提案されています 6。

✏️明日の授業でこうする

以下は研究をふまえた実践上の提案です(この順番や組み合わせの効果を直接確かめた研究があるわけではありません)。

  1. ドリルは「意味のある使用」につなげる:上の表の3種類を、次のように使います。
    • ①機械的(置きかえ):新しい形の言い方に慣れるために、必要なら1〜2分だけ入れます。必須ではありません。
    • ②有意味(絵や表を見て答える):生徒ができそうなら、ここから始めてかまいません。
    • ③コミュニカティブ(自分のことを話す・友だちに聞く):①や②で終わらせず、最後はここまで進みます。
  2. 意味を確かめずには答えられない形に変える:「I play tennis. → soccer」ではなく、絵カードを見せて「What is he doing?」と聞き、生徒が絵の意味を考えないと答えられないようにします。
  3. 「本当に知りたい質問」でくり返す:「Do you ~?」を練習するなら、クラスの友だちに質問して当てはまる人を探す活動にします。生徒は同じ形を何度も、本当に知りたいことを聞くために使うことになります。
  4. 同じ話を相手を替えて3回:自己紹介や週末の話を、相手を替えながら、1回ごとに制限時間を短くして3回話させます。4分→3分→2分と時間を縮めて同じ話をくり返す「4/3/2」という活動の応用です。もとの 4/3/2 は相手を替えて話す活動で、上の実験は条件をそろえるために相手をコンピュータにしていました 3。
  5. 日本語→英語の即答練習は「自分の文」で仕上げる:教科書の文型で即興英作文をしたあと、最後は同じ文型で自分のことを1文言わせます。
🗣️先生の英語(そのまま使える)
TLook at the picture. What is he doing?
SHe is playing soccer.
TNow, ask your friends. "Do you play any sports?" Find someone who says "Yes."
TTell your partner about your weekend. You have three minutes. ... Change partners. This time, two minutes!
⚠️よくある失敗
  • 機械的ドリルで授業が終わる:口は動いても、意味を考える場面がないと、使える力にはつながりにくいです 1。
  • 準備なしでいきなり自由に話させる:使えそうな語彙・表現の確認や、先生のお手本・意味のある練習といった準備がないまま、いきなり自由に話させると、言葉が出てこない生徒もいます。
  • くり返しの目的を伝えない:「何のためにくり返すのか」を伝えないと、生徒にとってはただの作業になります。

❓ よくある質問

Q. パターン練習(ドリル)は時代遅れですか?

条件しだいです。意味を考えなくても正解できる機械的なドリルは、習得にも流暢さにも必要ではないという主張があります 1。一方、規則を学んだあとの理解・産出の練習で技能が少しずつ自動化された実験や 2、同じ話題のスピーチのくり返しで流暢さの伸びが後日まで保たれた実験があります 3。

Q. 機械的・有意味・コミュニカティブなドリルのちがいは?

機械的は意味がわからなくても正解できる練習(I play tennis. → soccer)、有意味は意味がわからないと答えられないが答えは決まっている練習(絵を見て What is he doing?)、コミュニカティブは答えが決まっておらず本当の情報をやり取りする練習です。1970年の古典的な論文がこの3分類を示しました 4。

Q. ドリルを意味のある練習に変えるには?

置きかえの練習を絵カードの質問に変え、意味を考えないと答えられない形にします。「Do you ~?」の練習なら、クラスの友だちに質問して当てはまる人を探す活動にすれば、同じ形を、本当に知りたいことを聞くために何度も使えます。機械的な練習を使った場合も、最後は自分のことを話す・友だちに聞く使用までつなげます。

Q. 同じことをくり返すと効果がなくなりませんか?

時間を縮めながらスピーチをくり返した実験では、毎回ちがう話題で話したグループより、同じ話題をくり返したグループの方が、流暢さの伸びが後まで残りました 3。中上級の大人の小規模な実験ですが、自己紹介や週末の話を相手を替えて時間を短くしながら3回話す、といった応用が考えられます。

Q. 練習の効果はほかの技能にも広がりますか?

広がりにくいようです。人工言語の規則を8週間練習させた実験では、効果は練習した技能に特有で、理解の練習は理解に、産出の練習は産出に効いていました 2。話せるようになりたいなら、意味を伝えるための産出にできるだけ近い形で練習するのが筋です。

🎓 もう一歩深く(大学院レベル)

🎓院生モードスキル習得理論から見たドリル

第二言語の練習と技能の習得を研究する Robert M. DeKeyser 氏のスキル習得理論では、宣言的知識(規則の知識)が、練習によって手続き的知識となり、さらに自動化されていくと考えます。その実験は、自動化がゆっくり進み、べき乗則の学習曲線にしたがうこと、そして技能特有性(理解練習と産出練習の効果が転移しにくい)を示しました 2。この観点からは、練習は目標とする技能(意味を伝えるための産出)にできるだけ近い形で行うべきだ、ということになります。機械的ドリルの弱点は、まさに「意味を処理する」という本番の条件を欠いていることにあります。

練習という概念を、応用言語学と認知心理学の両面から論じた論文集もあり 7、近年は、認知心理学の知見を教室での第二言語の練習の最適化に生かそうとする研究が進んでいます 6。

🎓院生モード「ドリル否定論」をどう読むか

外国語教育の研究者 Wynne Wong 氏と Bill VanPatten 氏の主張は、言語を「内面化された体系」と「産出の技能」に区別したうえで、形だけの活動はどちらの発達にも必要ないとするものでした 1。ただし、これと肯定的な研究を「意味の有無」の一点で対立させるのは単純化しすぎです。DeKeyser 氏の実験は人工言語の規則を、絵の選択(理解)と絵に合う文のタイピング(産出)で練習させたもので、口頭の有意味ドリルを直接検証したものではありません 2。研究者の Nel de Jong 氏と Charles A. Perfetti 氏の実験は、どちらの条件も内容のあるスピーチを行い、ちがいは同じ話題をくり返すか毎回替えるかでした。語の反復と流暢さの伸びの関連は示されましたが、句や構文の手続き化は著者らの解釈で、さらなる分析が必要とされています 3。つまり、機械的ドリルと有意味な練習を直接くらべた研究ではなく、種類のちがう研究がそれぞれ別の角度から「練習のしかた」に光を当てている、と読むのが妥当です。外国語教育の研究者 Christina Bratt Paulston 氏の3分類 4 は、こうした「どんな練習か」を区別する見方を早くから示していた枠組みとして読めます(ただし分類と段階の提案であり、その効果を比べた実験ではありません)。

また、第二言語習得研究者の Nina Spada 氏と Patsy M. Lightbown 氏が示すように、切り離した形式の指導と組みこんだ指導は対立するものではなく、学習項目や学習者、条件によって使い分けるものです 5。

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📑 出典(7件)

本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。

  1. Wong, W., & VanPatten, B. (2003). The evidence is IN: Drills are OUT. Foreign Language Annals, 36(3), 403-423. doi:10.1111/j.1944-9720.2003.tb02123.x ✔ DOI照合済機械的なドリルは習得にも流暢さにも必要ないので授業から外すべきだと主張した論文
  2. DeKeyser, R. M. (1997). Beyond explicit rule learning: Automatizing second language morphosyntax. Studies in Second Language Acquisition, 19(2), 195-221. doi:10.1017/S0272263197002040 ✔ DOI照合済明示的に学んだ文法規則が練習で自動化していく過程を調べた、スキル習得理論の代表的研究
  3. de Jong, N., & Perfetti, C. A. (2011). Fluency training in the ESL classroom: An experimental study of fluency development and proceduralization. Language Learning, 61(2), 533-568. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00620.x ✔ DOI照合済同じ話を時間を縮めてくり返す(4/3/2)練習で、流暢さが伸び、新しい話題にも転移した実験
  4. Paulston, C. B. (1970). Structural pattern drills: A classification. Foreign Language Annals, 4(2), 187-193. doi:10.1111/j.1944-9720.1970.tb02033.x ✔ DOI照合済パターン練習を「機械的・有意味・コミュニカティブ」の3段階に分けた古典的論文
  5. Spada, N., & Lightbown, P. M. (2008). Form-focused instruction: Isolated or integrated?. TESOL Quarterly, 42(2), 181-207. doi:10.1002/j.1545-7249.2008.tb00115.x ✔ DOI照合済文法指導を活動から切り離す(isolated)か、活動の中に組みこむ(integrated)か、両方の役割を論じた論文
  6. Suzuki, Y., Nakata, T., & DeKeyser, R. (2019). The desirable difficulty framework as a theoretical foundation for optimizing and researching second language practice. The Modern Language Journal, 103(3), 713-720. doi:10.1111/modl.12585 ✔ DOI照合済「望ましい困難」の考え方で、第二言語の練習(間隔・混ぜ方など)を設計しようと提案した論文
  7. DeKeyser, R. M. (2007). Practice in a Second Language: Perspectives from Applied Linguistics and Cognitive Psychology. Cambridge University Press doi:10.1017/CBO9780511667275 ✔ DOI照合済第二言語の「練習」を応用言語学と認知心理学から論じた論文集

最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら