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ディベートのフローシート ― 相手の議論を「列」でメモし、反論を組み立てる

ディベートで反論できない理由の1つは、「相手が何を言ったか手元に残っていない」こと。立論・質疑・反論を列に分けてメモするフローシートを使うと、聞きながら論点を整理し、どこに反論するかが見えるようになります。

⏱ 時間
40-50分
🧰 準備
少し
👥 形態
5人(肯定2・否定2・判定1)
🎯 技能
リスニング・スピーキング・やり取り
📶 CEFR
A2-B2
🛡️
このページのウラ取り 出典 4 件 ― 原田英語.comが集めて読んだ論文・専門書・公的資料。DOI・ISBN・公式ページは書誌データベースとも照合済み 原田英語.comと校閲担当が、主張と出典を1つずつ照合・AI(Codex)による独立チェック済み(2026-10-18) ウラ取りの仕組み →
ディベートのフローシート ― 相手の議論を「列」でメモし、反論を組み立てるのイメージ
💡ねらい
  • 相手の主張を聞き取りながら、論点ごとにキーワードでメモする方法(フロー)を身につける。
  • メモをもとに、相手のどの主張に、どんな理由で反論するかを組み立てる。
  • 論題について、理由や根拠とともに意見を述べ、相手の意見に反論し合う。

ディベートのフローシートってなに?

ひとことで言うと、ディベートで話す順番どおりに縦の列を区切ったメモ用紙に、肯定側・否定側の主張をキーワードと記号で書き、反論する点を矢印でつなぐメモの取り方です。

🎈たとえるなら

サッカーの監督が、試合中に作戦ボードへ相手の動きを書きこむようなものです。相手がどこから攻めてきたかが記録に残っているので、次にどこを守り、どこを攻めるかを決められます。相手の発言が手元に残っているから、どこに反論するかが見えるのが大事なところです。

ふつうのノートとのちがい

ふつうのノート フローシート
書き方 聞いた順に文で書く スピーチ・質疑の段階ごとの列に、キーワードと記号(↑ × →)で書く
反論の準備 どこに反論するか探しにくい 反論する点に★をつけ、矢印でつなぐ
判定 印象で決めがち フローを見て「最後まで理由で支えられて残った大事な論点はどちらにあるか」で決める

やり方を3ステップで

  1. 練習する:先生のモデル・ディベートを聞いてフローを取り、黒板の大きなフローで答え合わせをする。
  2. 使ってみる:5人班(肯定2・否定2・判定1)でミニ・ディベートをし、全員がフローを取り続ける。
  3. 判定・ふり返り:判定役がフローを見て勝敗と理由を言い、自分のフローで取れなかった論点を確かめる。

授業の流れ(分ごと)

時間 先生 生徒
0:00〜5:00 「反論できない理由」を問いかけ、フローシートを紹介 考えを出す・シートの列を確認
5:00〜15:00 先生(+ALT)のモデル・ディベートを聞かせる フローを取る
15:00〜20:00 全体でフローの答え合わせ(板書の大きなフロー) 抜けた論点を書き足す
20:00〜25:00 論題提示・立場決め・立論の準備 5人班で肯定2・否定2・判定1に分かれ準備
25:00〜28:00 進め方と役割(立論係・質問と反論係)を確認 自分の役割と話す順番を確認
28:00〜36:00 ミニ・ディベート(立論各1.5分・質問各1分・準備1分・反論各1分=計8分) 話す・フローを取る
36:00〜40:00 フローの整理(★と矢印を書き足す) 自分のフローを見直す。判定役は判定のメモ
40:00〜45:00 聞き手(判定役)がフローを見て判定 「最後まで残った大事な論点」を理由つきで
45:00〜50:00 振り返り チェックリスト・自分のフローの見直し
ディベートのフローシート ― 相手の議論を「列」でメモし、反論を組み立てるの教室の配置と動き方
🗺️ 教室の配置と動き方(イメージ)
👣手順
  1. 問題提起:「ディベートで反論できないのはなぜ?」と聞く。「相手の言ったことを忘れる」が出たら、「では、忘れないメモの方法を練習しよう」とフローシートを配る。
  2. 列の意味を説明:話す順番どおりに列が並んでいること、いま行われているスピーチ・質疑の列に書くこと(質疑の列には、質問と相手の答え・認めた点をセットで書く)、文ではなくキーワードと記号(↑増える、×ない、→だから)で書くことを示す。
  3. モデルを聞いてフローを取る:先生と ALT(またはあらかじめ録音した音声)で、立論1.5分ずつの短いディベートを聞かせる。生徒はフローを取る。1回目で取れない生徒が多ければ、もう一度聞かせる。
  4. 答え合わせ:黒板に大きなフローを描き、生徒に言わせながら埋める。「否定側はどの点に反論すべき?」と聞き、★と矢印の使い方を見せる。
  5. ミニ・ディベートの準備:5人班(肯定2・否定2・判定1)。立場はくじ。各側の2人は、たとえば「生徒A=立論」「生徒B=質問と反論」のように役割を分ける。立論は「主張2つ+理由・具体例」をキーワードで準備(5分)。5分では調べものはできないので、数字などのデータを使わせたいときは、先生が出典つきの短い資料や論点カードを配り、その中のデータだけを使うことにする(出典のわからない数字を作らない)。判定役は準備の間に論題とフローシートの列を確認しておく。
  6. ディベート:はじめの3分で、進め方と役割(立論係・質問と反論係)、話す順番を確認する。その後、肯定立論(1.5分)→否定質問(1分)→否定立論(1.5分)→肯定質問(1分)→反論準備(1分)→否定反論(1分)→肯定反論(1分)の計8分。全員がフローを取り続ける。反論は必ず They said ..., but ... で始める。終わったら4分で、各自がフローに★と矢印を書き足して整理する。
  7. 判定と振り返り:最初から議論を聞いてフローを取っていた班の判定役が、自分のフローを見ながら判定する。初めてのディベート用の簡単な基準として、「最後まで理由や根拠で支えられ、相手の反論で崩されずに残った大事な論点はどれか」「その論点は論題をどのくらい支えているか」を比べ、勝ちの側と理由を一言で言う。小さな論点にたくさん答えただけでは勝ちにしない。最後に自分のフローを見直し、取れなかった論点を確認する。
🗣️先生の英語(そのまま使える)
TWhy is it hard to rebut in a debate?
SWe forget what they said.
TRight. So today, we'll learn how to take notes on a debate using a flow sheet. This way of taking notes is called "flowing."
TWrite in the column for each speech. In the question columns, write the question and the answer. Key words only. Use arrows and symbols.
TListen to our model debate. The topic is "Homework should be banned."
TOK. What was the affirmative's first point?
SStudents are too busy ... no time to sleep.
TGood. Which point should the negative side attack? Put a star there.
TNow, your turn. Affirmative, start your constructive speech. One and a half minutes.
TRebuttal time. Start with "They said ..., but ..."
SThey said homework causes stress, but homework can help us review and get better grades.
TJudges, look at your flow. Which important points are still standing at the end, with reasons? Which side do they support?
🏫そのまま使える素材

論題(高1〜高2)

  1. Homework should be banned.
  2. High school students should be allowed to use smartphones in class.
  3. School uniforms should be abolished.
  4. Students should be allowed to choose their own school clubs freely, or not join any.
  5. Japanese high schools should start classes at 9:30 a.m.
  6. Every high school student should do volunteer work.

論題(高2〜高3・社会的な話題) 7. Japan should introduce a four-day work week. 8. Convenience stores should not be open 24 hours. 9. Students should be allowed to use generative AI for their homework. 10. Japan should lower the voting age to 16. 11. Zoos should be abolished. 12. Plastic bags should be banned in all stores.

フローで使う記号

  • ↑ increase / ↓ decrease
  • → so / cause
  • × no / not
  • = same / means
  • ? unclear(質問すべき点)
  • ★ attack here(反論する点)

質問(質疑)の型

  • What do you mean by ...?
  • Where did you get that data?
  • Is that true for everyone?
  • How does your point prove the resolution?
🔁アレンジ
  • 小学校:扱わない。
  • 中学:フローの列を「相手の意見」「相手の理由」「自分の反論」の3列に簡略化。ディベートではなく、ペアで意見を言い合い、相手の理由をメモしてから I see, but ... と返す練習に。
  • 高校:慣れたら「要約(まとめ)スピーチ」の列を加え、最後に自分の側がなぜ勝っているかをフローを見ながら述べる。ディベート後に、フローをもとに意見文を書くと、話す→書くがつながる。
  • 大人数クラス:40人なら5人班×8班が同時進行。判定役は試合ごとに交代し、全員が一度は判定役を務める。先生は1班ずつ回り、フローの取り方を見て助言する。
  • 苦手な生徒が多いクラス:モデル・ディベートの英文を配り、聞きながら読む形でフローを取る練習から始める。立論は事前に配る「論点カード」から選んでよい。
  • オンライン:共同編集の表をフローシートにし、肯定・否定のメモを色分け。判定役が後からフロー全体を見て判定できる。
📊評価のポイント
  • 知識・技能:主張・理由・反論の表現(They said ..., but ...)を使って、意見を述べたり反論したりできる。
  • 思考・判断・表現:相手の主張の要点を聞き取って整理し、どの点にどんな理由で反論するかを判断している。
  • 主体的に学習に取り組む態度:フローを見直して、取れなかった論点や答えられなかった反論を自分で見つけ、次の試合でメモの取り方(記号・3語までなど)や反論のしかたを変えてみようとしている。フローを取り続けたかどうかは補助の資料にとどめます(この観点は、粘り強い取組の中で自分の学習を調整しようとしているかを含めて見るものです 1)。

下の表は、活動中に生徒へ返すフィードバック用のルーブリックです(観点別評価の表そのものではありません)。対応の目安は、「フロー」「判定」が思考・判断・表現、「反論」が知識・技能と思考・判断・表現です。主体的に学習に取り組む態度は、この表ではなく、上に書いたとおり、振り返りをもとに次の試合でメモの取り方や反論のしかたをどう変えたかで見ます。

項目 A B C
フロー 相手の主張・理由をすべて列に記録し、反論点に★と矢印がある 主張は記録しているが、理由や反論点の整理が一部 記録がほとんどない
反論 相手の主張をゆがめずにとらえて短く言い換え、理由や具体例(または出典を確かめられるデータ)で反論している 反論はしているが、相手の主張とのつながりが弱い 自分の主張をくり返すだけ
判定 フローをもとに、最後まで残った大事な論点を挙げて勝敗の理由を説明できる 勝敗を述べられる 理由が言えない

フローシートは提出物として、聞く力(論点の聞き取り)と思考の評価材料にできます。

⚠️よくあるつまずきと対処
  • 全部書こうとして追いつかない → 「1つの主張に3語まで」と制限し、記号を使わせる。英語でも日本語でもよい、と最初は認める。
  • 自分の側の列しか書かない → 判定役の練習を先にさせる。相手の列が書けていないと判定できない経験が、両方を書く動機になる。
  • 反論が相手の主張とずれる(ただの自分の意見のくり返し) → 反論は必ず They said ... で、相手の主張を短く言い換えてから始める、をルールに。
  • 準備した原稿を読むだけになる → 立論もキーワードのメモから話す。反論は準備できないので、フローの★を見て即興で言う練習になります。
  • 勝ち負けで雰囲気が悪くなる → 判定基準を「最後まで理由で支えられて残った大事な論点はどちらにあるか」に限定し、英語の上手さや声の大きさでは決めないと最初に伝える。
🔬なぜ効く?

高校の学習指導要領の解説では、ディベートを「自らの主張を相手の主張と対比させながら相手や聴衆を説得しようとする」活動と説明し、目的や場面に応じた論理の構成や展開を活用できるよう指導する必要があるとしています。反論するときの表現や部分的に反論するときの表現の例も示されています 2。相手の主張を対比させるには、まず相手の主張が手元に残っていなければなりません。フローシートは、そのための道具です。

研究では、オランダの中等学校3校8クラスを対象に、事前・事後テストと比較のクラスを設けた介入研究で、授業内ディベートの指導を受けた生徒は、比較のクラスより、下位の論拠や反論といった論証の構造の要素と、論拠の詳しさや説得力といった質の面で、書く・話すの両方の論証が伸びました 3。日本の高校でディベートの「型」を指導した小規模な研究は、生徒へのインタビューを分析して、「型」の指導とペアでの練習が互いに支え合って、話す力と批判的思考の伸びにつながるという仮説を示しています 4。ただし、この研究の中心の結論は生徒の語りから導いた仮説で、指導の効果を確定するものではありません。また、ここでの「型」は主張の組み立て方などの型で、フローシートを調べた研究ではありません。

ディベートで反論が出ないと、「英語力が足りないから」と考えがちです。けれども、日本語のディベートでもメモなしで反論するのは難しいはずです。英語力に加えて、「記録と整理」ができていないことも、反論が出ない理由の1つかもしれません。ただし、フローシートを使うこと自体の効果を比べた研究は見当たらず、上の研究はディベートの指導全体についてのものです。

❓ よくある質問

Q. ディベートのフローシートとは何ですか?

話す順番どおりに列が並んだメモ用紙です。いま行われているスピーチ・質疑の列に(質疑の列には質問と相手の答えをセットで)、文ではなくキーワードと記号(↑増える、×ない、→だから)で書きます。相手の主張が手元に残るので、どの主張にどんな理由で反論するかを組み立てられます。

Q. 全部書こうとして追いつかない生徒には?

「1つの主張に3語まで」と制限し、記号を使わせます。最初は英語でも日本語でもよいと認めます。1回目で取れない生徒が多ければ、モデルのディベートをもう一度聞かせます。

Q. 反論が相手の主張とずれてしまうときは?

反論は必ず They said ..., but ... で、相手の主張を短く言い換えてから始める、をルールにします。立論もキーワードのメモから話し、反論はフローの★を見て即興で言う練習にします。

Q. ミニ・ディベートの勝ち負けはどう決めますか?

最初から議論を聞いてフローを取っていた班の判定役が、自分のフローを見ながら判定します。初めてのディベート用の簡単な基準として、「最後まで理由や根拠で支えられ、相手の反論で崩されずに残った大事な論点はどれか」「それが論題をどのくらい支えているか」を比べ、勝ちの側と理由を一言添えます。小さな論点にたくさん答えただけでは勝ちにしません。英語の上手さや声の大きさでは決めないと最初に伝えると、雰囲気が悪くなりにくくなります。

Q. 授業でディベートを指導すると、効果はありますか?

オランダの中等学校での実験では、授業内ディベートの指導を受けた生徒は、比較のクラスより、書く・話すの両方で論証の構造と質が伸びました 3。ただし、フローシートを使うこと自体の効果を比べた研究は見当たりません。

🎁 玉手箱で使えるツール

原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。

📑 出典(4件)

本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。

  1. 文部科学省 (2019). 小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知) 公式ページ ✔ リンク確認済観点別学習状況の評価を「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理した文科省の通知(2019年)
  2. 文部科学省 (2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編 公式ページ ✔ リンク確認済高校の科目構成(英語コミュニケーションⅠ〜Ⅲ・論理・表現Ⅰ〜Ⅲ)、「支援」の考え方、語数、授業は英語での趣旨を説明した公式の解説
  3. el Majidi, A., Janssen, D., & de Graaff, R. (2021). The effects of in-class debates on argumentation skills in second language education. System, 101, 102576. doi:10.1016/j.system.2021.102576 ✔ DOI照合済オランダの中等学校8クラス。授業内ディベートで、書く・話す両方の論証の構造と質が伸びた
  4. Sako, T., & Shinozaki, F. (2023). Impact of debate instruction and pair practice on Japanese high school students' speaking skills and critical thinking. The English Teacher, 52(1), 32-48. doi:10.52696/bljd6558 ✔ DOI照合済日本の高校。ディベートの「型」の指導とペア練習が相乗的に働くという仮説を、生徒への聞き取りから導いた質的研究

最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら