原田先生のとっておきの話

牛は「一頭」、鳥は「一羽」、魚は「一尾」 ―― 食べられない部位で数える説、 実は俗説だった

JAPANESE COUNTER WORDS × HIDDEN LOGIC

牛は「一頭」、鳥は「一羽」、魚は「一尾」
―― 食べられない部位で数える説、
実は俗説だった

― 500種もある日本語の助数詞、その”本当の由来”を全部バラす ―

💬 SNSでバズったこの投稿、見たことありますか?

「牛豚は『一頭』、鳥は『一羽』、魚は『一尾』。つまり食べられない部位、残る部位で呼ぶらしい」――なるほど! と膝を打った人も多いはず。でも実は、国語辞典の編纂者がこれを「最近の俗説」とバッサリ否定しています。では本当の由来は? 日本語の助数詞の世界は、あなたが思っているよりずっと深くて、ずっと面白い。

この投稿がSNSで何万回もシェアされるのも無理はありません。「食べ残る部位で数える」というロジックは、あまりにもきれいに辻褄が合って見える。牛は頭が残るから「一頭」、鳥は羽が残るから「一羽」、魚は尾が残るから「一尾」。

しかし――ちょっと待ってください。

じゃあ「一匹」の「匹」は、
いったい体のどこなの?

そう、この説では「匹」がまったく説明できません。そして実は、牛の頭肉は昔からちゃんと食べられていました。この説を聞いたとき、三省堂国語辞典・編集委員の飯間浩明氏はこう述べています。

「それは単なる最近の俗説と見ておきます。牛や豚の頭肉は、今と同じく古代中国でも食べていたでしょう。ちなみに、日本で『頭』が一般化したのは明治時代、英語headの翻訳によってでした」

― 飯間浩明(三省堂国語辞典・編集委員)

NHK「チコちゃんに叱られる!」でも紹介されて一気に広まったこの説ですが、言語学的に見るとかなり怪しい。では、日本語の助数詞の「本当の由来」はどうなっているのか。今日はその謎を一つずつ解き明かしていきましょう。

🐴 「匹」の由来 ― 馬のお尻から生まれた文字

日本語で最も古くから使われている動物の助数詞が「匹」です。実はこの漢字、もともとの意味は「二つのものが対(ペア)になっている」こと。「匹敵」という言葉は、二つのものが互角であるという意味ですよね。

では、なぜ「ペア」を意味する字が動物を数えるのに使われるようになったのか。

答えは、馬のお尻にあります。

昔、人間にとって最も身近な家畜は馬でした。荷車を引かせたり、農耕させたり、人間はいつも馬の背後からその姿を見ていた。すると否が応でも目に入るのが、左右に大きく割れた馬の尻。この「左右対称に割れた尻の対(つい)」を持つ動物、という意味で「匹」が使われ始めたのです。

「匹」= 馬の尻が二つに割れている(=対になっている)
→ 綱で「引く(ひく)」動物 → 「ひき」と読む

『源氏物語』にも『今昔物語集』にも、馬を「匹」で数える用例が残っています。そこから、馬だけでなく広くすべての動物が「匹」で数えられるようになりました。江戸時代までは、クジラですら「匹」で数えていたのです。

✏️ English Note: The kanji 匹 (hiki) originally meant “a pair” — it came from the image of a horse’s rear end split in two. Even “whale” was once counted as 匹!

🐄 「頭」の由来 ― 実は英語の翻訳だった

ここが一番の驚きポイントです。「一頭」という数え方は、明治時代に英語から輸入されたものです。

欧米では、広大な牧場で牛を管理するために、遠くからでも見える「頭(head)」を数えていました。英語では今でも “30 head of cattle”(牛30頭)と言います。

明治時代、西洋の動物学論文に出てくる “head” を日本の学者が「頭」と直訳。最初は知識人の間だけで使われていましたが、1916年(大正5年)に夏目漱石が新聞小説の中で馬を「頭」と書いたことで一気に庶民にも広まりました。

江戸時代まで:動物はすべて「匹」で数えていた

明治以降:大型動物 →「頭」、小型動物 →「匹」に分化

つまり:「頭」は食べ残しとは無関係。英語の “head” の和訳

つまり、「頭が食べ残る部位だから」ではなく、「アメリカのカウボーイが遠くから牛の頭を数えていたから」が正解。歴史が浅い分、由来がはっきりしているのです。

🐔 「羽」の由来 ― うさぎを「鳥」と言い張った江戸の知恵

鳥を「羽」で数えるのは直感的にわかります。羽がある動物だから「一羽」。でも、なぜうさぎまで「一羽」なのか。ここには江戸時代の驚くべきエピソードがあります。

江戸時代、仏教の影響で獣肉食は禁じられていました。しかし鳥は食べてよかった。そこで人々は、うさぎを食べるためにこう言い張ったのです。

「うさぎは耳が長くて羽みたいだし、
二本足でピョンピョン飛ぶし、
これはもう鳥でしょう」

こうして「鳥類」にカテゴリー変更されたうさぎは、めでたく「一羽」と数えられるようになり、堂々と食卓に上がるようになりました。ちなみに馬肉は「桜」、猪肉は「牡丹」、鹿肉は「紅葉」と別名で呼んでこっそり食べていたのも有名な話です。

ただし、実は「うさぎ=一羽」が全国に広まったきっかけは、明治初期に政府が飼いウサギに課税する公文書で「羽」を使ったことだという説もあり、由来は完全には解明されていません。

✏️ English Note: In Edo-period Japan, eating animal meat was taboo — but birds were OK. So people claimed rabbits were birds (long ears = wings!) to justify eating them. That’s why rabbits are counted as 羽 (wa) — the counter for birds!

🤯 日本人も知らない!驚きの助数詞コレクション

日本語の助数詞は、なんと約500種類もあると言われています。ここからは、日本人ですら「えっ、そうなの!?」と驚くような助数詞を一挙にご紹介します。

🍣 食べ物編 ― 同じ魚でも状態で変わる!

もの 数え方 由来・理由
🐟 生きている魚 一匹 生き物全般の数え方
🐟 水揚げされた魚 一本 細長い形状に注目
🐟 半身にした魚 一丁 包丁で加工した「製品」扱い
🐟 ブロック状の切り身 一ころ / 一さく 形状による区別
🍣 刺身・にぎり寿司 一切れ / 一貫 「貫」の由来は諸説あり
豆腐 一丁 「丁」は偶数の意味。昔は2個で一丁
🦑 イカ 一杯 胴体を「器(杯)」に見立てた
🦀 カニ 一杯 甲羅を「盃(さかずき)」に見立てた
明太子 一腹 魚の腹から取り出す卵巣ひと組分
🍡 羊羹(ようかん) 一棹(さお) 棒状の菓子「棹物」から

💡 つまり、同じ魚でも泳いでいるときと、刺身になったときでは数え方が変わる。日本語は「モノの状態」を数え方で表現する、世界でも稀な言語なのです。

🏠 日用品編 ― タンスと羊羹が同じ数え方!?

もの 数え方 由来・理由
タンス 一棹(さお) 江戸時代に棹を通して担いで運んだから
箸(食事用) 一膳(ぜん) 食事(一膳)に対する一組の箸
箸(火箸など) 一組 / 一揃い 食事用でないので「膳」は使わない
椅子 一脚 脚(あし)がある家具だから
テント 一張り 布を「張る」ものだから
靴・靴下 一足 足に履くもの=「足」で数える
一振り 振って使う武器だから
一面 表面(面)に意味があるものだから

⛩ 文化・自然編 ― 神様、山、花火の数え方

もの 数え方 由来・理由
⛩ 神様 一柱(はしら) 古来、神は柱に宿ると考えられた
仏像 一体 形あるもの(体)として数える
鳥居 一基 動かない建造物は「基」
⛰ 高い山 一座 どっしり座した存在として
🌸 花 一輪 花びらの輪の形から
花びら 一片(ひら) 薄くひらりと落ちるから
🎆 打ち上げ花火 一発 打ち上げる=発射するから
線香花火 一本 細長い形状から
お守り・お札 一体 神様の分身(御分体)として
銀行 一行 銀「行」だから、そのまま「行」

🐾 動物編 ― 「匹」と「頭」の境界線はどこ?

動物 数え方 ポイント
チワワ(ペット) 一匹 小さい動物は「匹」
チワワ(警察犬) 一頭 人間にとって「有意義な」存在 → 頭
遠くの羊の群れ 一匹 小さく見える → 匹(「羊が一匹…」)
目の前の羊 一頭 意外と大きい → 頭
🦋 庭のチョウ 一匹 一般的な虫の数え方
🦋 研究対象のチョウ 一頭 学術的に貴重な存在 → 頭
カイコ(蚕) 一頭 絹糸を生む=経済的に重要 → 頭
ホタル 一匹 / 一灯(とう) 光る性質に注目すると「灯」!

💡 つまり「匹」と「頭」の使い分けは、大きさだけじゃない。「人間にとってどれだけ重要か」「どんな文脈で見ているか」で変わる。助数詞は、人間と動物の関係性を映す鏡なのです。

🍎 同じモノでも「状態」で変わる ― りんごで実感する助数詞の奥深さ

日本語の助数詞の真骨頂は、同じものでも状態によって数え方が変わるという点です。りんご一つとっても:

🍎

まるごと

一個

🔪

切り分け

一切れ

🛒

山積み

一山

📦

箱入り

一箱

🛍

袋入り

一袋

英語なら全部 “an apple” “two apples” で済むところを、日本語は「今、このりんごがどんな状態か」を数え方で表現してしまう。これは東アジアの言語に共通する「類別詞」という仕組みで、中国語にも韓国語にもありますが、500種類という圧倒的なバリエーションは日本語がダントツです。

🌍 英語にも「数え方の工夫」はある ― でも発想が真逆

「日本語だけ特殊なんでしょ?」と思うかもしれませんが、英語にも似た仕組みはあります。ただし、発想がまったく逆です。

🇯🇵 日本語の発想

数える対象の性質で助数詞を変える

犬 → 一(小動物だから)

紙 → 一(薄くて平たいから)

ペン → 一(細長いから)

🇬🇧 英語の発想

群れ・集団の形で表現する

a herd of cows(牛の群れ)

a flock of birds(鳥の群れ)

a school of fish(魚の群れ)

日本語は「個体を一つずつ丁寧に数える」文化、英語は「群れ全体を一つの単位として捉える」文化。これは牧畜中心のヨーロッパと、農耕中心の東アジアという、生活様式の違いがそのまま言語に反映されているとも言えます。

ちなみに英語にも “a cup of coffee” “a sheet of paper” “a loaf of bread” のように量を表す表現はあります。でも、日本語のように対象の「性質」で分類する仕組みとは根本的に違うのです。

🔊 「いっぴき」「にひき」「さんびき」― 数字で音が変わる謎

助数詞の難しさは、種類の多さだけではありません。同じ「匹」でも、前の数字によって音が変わるのです。

数字
1 いっ いっ いっ
2
3 さん さん さん

なぜこうなるのか。実は、1(いち)、6(ろく)、8(はち)、10(じゅう)は、古い中国語では子音で終わる発音だったのです。例えば「1」は “it”、「6」は “rok”。その子音が後ろの助数詞とぶつかって促音(っ)になった。そして「3」の “san” は鼻音(ん)で終わるため、後ろの音が濁りやすくなる。

つまりこの音の変化は、古代中国語の発音の化石なのです。今でも上海語にはこの特徴が残っていると言います。

✏️ English Note: The pronunciation changes in Japanese counters (ippiki, nihiki, sanbiki) are actually fossils of ancient Chinese phonology! The numbers 1, 6, 8, 10 originally ended in consonants.

👤 人間の数え方にも「格」がある

SNSの元投稿に「人間の数え方は一名、二名」とありましたが、実は人間の数え方も状況で変わります。

一般的

(ひとり)、二(ふたり)

公式・ビジネス

(いちめい)

ぞんざい

(「男一匹」)

興味深いのは、人を「匹」で数えることもあるという点。「男一匹」「この野郎一匹」のように、あえて動物扱いすることで勢いや軽蔑を表現できる。助数詞一つで、相手への敬意レベルまで変わるのです。

では逆に、こんな疑問はどうでしょう。人魚は「一人」? それとも「一匹」? ――飯田朝子氏の『数え方の辞典』によれば、これは話者がどちらに共感するかで決まるとのこと。人間的な物語の主人公なら「一人」、水族館で泳いでいたら「一匹」。

✨ まとめ ― 数え方は、日本語が世界に誇る「隠れた芸術」

整理しましょう。

「食べられない部位で数える」説は、キャッチーだが俗説

「匹」は馬のお尻の左右対称 +「引く」から生まれた

「頭」は明治時代に英語 “head” を直訳したもの

「羽」でうさぎを数えるのは、獣肉食禁止をすり抜ける江戸の知恵

日本語の助数詞は約500種。モノの形・状態・人との関係で変わる

「いっぴき」「さんびき」の音の変化は古代中国語の化石

英語は「群れ」で数え、日本語は「個体の性質」で数える

助数詞は、日本語の中でもっとも「日本人の世界の見方」が詰まった仕組みかもしれません。一つひとつのモノに対して「これはどんな形? どんな状態? 私にとってどんな存在?」と問いかけながら数える。その繊細さは、約500種という数に表れています。

次に誰かが「動物の数え方は食べ残す部位で決まる」と言ったら、あなたはニヤリと笑って、こう返してあげてください。

「じゃあ “匹” は体のどこ?
正解は、馬のお尻だよ」

📖 今日の English Words

counter word

助数詞。classifier とも言う

a herd of ~

(牛などの)群れ

a flock of ~

(鳥・羊の)群れ

a school of ~

(魚の)群れ

folk etymology

俗説的語源。通俗語源

head of cattle

牛の頭数。日本語「頭」の由来

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