BLUETOOTH × VIKING HISTORY
Bluetoothの語源は
1000年前のヴァイキング王!?
― ロゴに隠されたルーン文字の秘密と「青い歯」の真実 ―
💬 あなたのスマホにも「ヴァイキング王」がいる
毎日使っているBluetoothのイヤホンやスピーカー。あの「B」のロゴマーク、実は1000年以上前の北欧ルーン文字だった――。いまXで大バズり中のこのトリビア、調べてみたら想像以上に壮大なストーリーが隠されていました。
ワイヤレスイヤホン、キーボード、カーナビ、スマートウォッチ。私たちの生活に欠かせないBluetooth。直訳すると「青い歯」。
……青い歯? なぜ無線通信の規格が「青い歯」なのか。
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https://x.com/akaikarasu666/status/2023903860402835748?s=20
いまXでバズっているこの話題、最初は「いやいや、さすがに嘘でしょ」と思った人も多いようです。実際にあるユーザーは「嘘は嘘と見抜ける人でないとインターネットは難しい」とツッコんだ直後、「→本当でした。すみませんでした。」と全面撤回して話題になっています。
これ、全部本当の話なんです。
👑 10世紀のデンマーク王「ハーラル青歯王」とは何者か
話は今から約1000年前、10世紀の北欧に遡ります。
デンマーク王ハーラル・ゴルムスソン(Harald Gormsson)。在位は958年頃〜986年頃。彼には「ブロタン(Blåtand)」、すなわち英語に訳すとBluetooth=青い歯というあだ名がありました。
そしてこの王の最大の功績は、敵対していたデンマークとノルウェーを平和的に統一したこと。さらにデンマーク全土のキリスト教化を進め、バラバラだった北欧の部族たちをひとつにまとめた「統一王」として歴史に名を刻みました。
👑 ハーラル青歯王の功績
⬇
🇩🇰 デンマークとノルウェーを平和的に統一
⛪ デンマークのキリスト教化を推進
🏰 トレレボーなど円形要塞を建設
世界遺産「イェリング墳墓群」には、ハーラル王自らが建てさせたルーン石碑が今も残っています。そこにはこう刻まれています――「全デンマークとノルウェーを手中にし、デーン人をキリスト教徒となした」。
🦷 なぜ「青い歯」だったのか? ― ブルーベリー説の真相
Xで話題になった投稿では、「ブルーベリーの食べすぎで歯が青くなった」という説が紹介され、大きな反響を呼びました。確かにこれは愉快なエピソードですし、いまでも人気のある説です。
しかし、歴史的にはもう少し複雑です。
12世紀のデンマークの年代記『ロスキレ年代記』(Chronicon Roskildense)に、ハーラル王のあだ名として「Blatan」と記されているのが最初の記録。その後、フランスからデンマークに渡った聖職者ウィリアムが、ハーラルの歯は「暗い青色、ほとんど黒に近い色だった」と書き残しています。
「青い歯」の由来 ― 主な3つの説
説① 死んだ歯説(有力):神経が死んだ歯が青黒く変色していた
説② ブルーベリー説(楽しい):大好物のブルーベリーで歯が染まっていた
説③ 「浅黒い英雄」説:古デンマーク語の「Blåtand」が「青い歯」と誤訳された
学術的には①の「死んだ歯が青黒く変色していた」説が有力とされていますが、②のブルーベリー説も完全には否定されていません。実際、古ノルド語の「blá」は「青」だけでなく「暗い色」を広く意味する言葉で、③のように翻訳の過程で変化した可能性も指摘されています。
いずれにしても、このちょっと不名誉なあだ名が1000年の時を超えて世界中のデバイスに刻まれることになるとは、ハーラル王も夢にも思わなかったでしょう。
🍺 命名の舞台はトロントのパブだった
ここからが本題。なぜ1000年前のヴァイキング王の名前が、現代の無線技術の名前になったのか。
1990年代半ば、Intel、Ericsson、Nokia、IBMなどの大手企業がそれぞれ独自の短距離無線通信技術を開発していました。Intelは「Biz-RF」、Ericssonは「MC-Link」、Nokiaは「Low Power RF」。バラバラの規格が乱立し、統一が急務でした。
1997年、カナダのトロントで開催されたセミナーで、Intelのエンジニアジム・カーダック(Jim Kardach)とEricssonのスヴェン・マティソン(Sven Mattisson)がそれぞれの技術を発表しましたが、反応は散々。
落ち込んだ二人は、冬のトロントでパブ巡りを敢行。歴史好きのカーダックがヴァイキングの話を振ると、マティソンがたまたま読んでいたスウェーデンの歴史小説『さすらいのバイキング(The Long Ships)』に登場するデンマーク王の話をしてくれました。
「ハーラル青歯王がバラバラの部族を統一したように、俺たちもバラバラの無線規格を統一する――Bluetoothだ!」
帰宅後、カーダックは注文していた『The Vikings』(Gwyn Jones著)を開き、ハーラル王のルーン石碑の写真を発見。「これだ!」と確信し、石碑の写真にペンで携帯電話とノートPCを書き加えたパワーポイントを作成。翌月曜日、マーケティング担当のサイモン・エリスに「コードネームはBluetoothでどうか」と提案しました。
🏷️ 「仮の名前」がそのまま世界標準になった奇跡
実は「Bluetooth」は、あくまで仮のコードネームでした。正式名称はマーケティングチームが別途考える予定だったのです。
候補に挙がったのは2つ。IBMが提案した「PAN」(Personal Area Networking)と、Intelが提案した「RadioWire」。本命はPANでした。
ところが――。
❌ PAN → インターネット検索で数万件ヒット。商標として弱すぎると判明
❌ RadioWire → 発表までに商標調査が間に合わず
✅ Bluetooth → 唯一、すぐに使える名前だった
ちなみに、ボツ候補の中には「Flirt」(キャッチコピーは「近づくけど触れない」)というものもあったそうです。もし採用されていたら、今頃「Flirtイヤホン」を使っていたかもしれません……。
結果的に「仮の名前」のまま1998年に業界発表。プレスの反応は上々で、あっという間に「短距離無線=Bluetooth」として定着。もはや変更不可能になりました。カーダック本人も後に「ビルゲイツやアンディ・グローブが『ブルートゥース』と言わなきゃいけないのを想像して笑った」と振り返っています。
ᚼᛒ ロゴの正体はルーン文字だった
Bluetoothのロゴ、よく見たことはありますか? あの独特な「B」のようなマーク。実はアルファベットのBではありません。
あれは北欧のルーン文字(Younger Futhark)で書かれた、ハーラル青歯王のイニシャルです。
ᚼ
Hagall(ハガル)
= H(Haraldのイニシャル)
+
ᛒ
Bjarkan(ビャルカン)
= B(Bluetoothのイニシャル)
この2つのルーン文字を重ね合わせた「バインドルーン」が、あの見慣れたBluetoothロゴの正体。つまり、あなたのスマホの設定画面には、1000年前のヴァイキング王のイニシャルが刻まれているのです。
次にBluetoothの設定を開いたとき、あのマークがルーン文字に見えてくるはずです。
📅 ヴァイキング王から無線規格へ ― 1000年のタイムライン
| 年代 | できごと |
| 958年頃 | ハーラル・ゴルムスソンがデンマーク王に即位 |
| 960年頃 | キリスト教に改宗、デンマークのキリスト教化を推進 |
| 970年頃 | ノルウェーを統合、北欧の統一王に |
| 985/986年 | 息子スヴェン(双叉髭王)の反乱により死去 |
| 1140年頃 | 『ロスキレ年代記』に「Blatan(青歯)」の異名が初めて記録される |
| 1994年 | Ericssonが短距離無線通信技術の開発を開始 |
| 1996年 | Intel・Ericsson・Nokiaが無線規格の標準化を協議 |
| 1997年 | トロントのパブでカーダックとマティソンが「Bluetooth」を着想 🍺 |
| 1998年 | Bluetooth SIG(Special Interest Group)正式発足、世界発表 |
| 現在 | 年間40億個以上のBluetooth対応製品が出荷 |
📚 英語教師として伝えたい「ことばが国境を越える話」
Bluetoothの物語が面白いのは、「ことばは旅をする」という普遍的な真実を見せてくれるからです。
ハーラル王のあだ名「Blåtand」はデンマーク語。これが英語に入ると「Bluetooth」になりました。古ノルド語の「blá」は現代英語の「blue」の語源のひとつ。「tand/tǫnn」は英語の「tooth」と同じゲルマン語の根っこを持っています。
実はこうした「言葉の旅」はIT用語にもたくさん隠れています。
IT用語に隠れた「言葉の旅」
Bluetooth → 古ノルド語 Blåtand(青い歯)← ヴァイキング王のあだ名
bug(バグ) → 古英語 bugge(恐ろしいもの)→ 虫 → プログラムの不具合
spam(スパム) → 英国のコメディ番組『モンティ・パイソン』のスケッチから
wiki → ハワイ語で「速い」を意味する wikiwiki
英語の “tooth” とデンマーク語の “tand”、ドイツ語の “Zahn”、オランダ語の “tand” は全て同じゲルマン祖語 *tanþ- から分かれた兄弟。たった1つの単語をたどるだけで、ヨーロッパの言語がどう枝分かれしてきたかが見えてくるのです。
前回の記事では「漢字の音読みに日中交流の歴史が詰まっている」という話をしましたが、ゲルマン語圏でもまったく同じことが起きています。言語は、人類の交流と移動の生きた化石なんですね。
📱 Xでの反応 ― 「嘘松かと思ったら本当だった」
この「Bluetoothの由来はヴァイキング王」という事実、今まさにXで大きな話題になっています。面白いのは、リアクションの多くが「嘘だと思ったら本当だった」というパターンだということ。
🗣️ 「嘘は嘘と見抜ける人でないとインターネットは難しいからね。→本当でした。すみませんでした。」
🗣️ 「またありそうな無さそうな嘘松蘊蓄っぽい話だなぁと思ったら本当なのか」(Bluetooth公式サイトで確認)
🗣️ 「初めてbluetoothについて納得のいく説明を伺いました」
実はBluetooth SIG(Bluetooth規格の管理団体)の公式サイトに、この由来がはっきり書かれています。Bluetooth.comの「About Us」ページを見れば、ハーラル王のこと、仮の名前だったこと、ルーン文字のロゴの意味、すべて確認できます。
「ネットの嘘松」を疑える姿勢は大事。でも一次情報を確認しに行く姿勢はもっと大事。これは英語の学習でも、ニュースの読み方でも、まったく同じことが言えますね。
⚔️ 統一王の悲劇的な最期 ― そして孫はイングランド王に
偉大な統一王ハーラルですが、その最期は平和的ではありませんでした。息子のスヴェン(双叉髭王)が反乱を起こし、ハーラルは戦いで傷を負い、スラヴ人の地へ逃れた末に客死したと伝えられています。985年から986年頃のことです。
しかし、ハーラルの血筋はその後も歴史を動かしました。スヴェンの息子、すなわちハーラルの孫にあたるクヌート(Canute/Cnut)は、なんとイングランド・デンマーク・ノルウェーの3国の王に君臨。北海帝国と呼ばれる一大勢力を築きました。
「青い歯」のあだ名をつけられたヴァイキング王の血は、やがてヨーロッパの歴史を変えた――そう考えると、Bluetoothのロゴがちょっとだけカッコよく見えてきませんか?
🔤 今日のEnglish Vocabulary
| unite(ユナイト) | 統一する、結びつける。”Harald united Denmark and Norway.” |
| placeholder(プレイスホルダー) | 仮の名前・仮置き。”Bluetooth was only intended as a placeholder.” |
| trademark(トレードマーク) | 商標。”PAN had trademark issues.” |
| codename(コードネーム) | 暗号名、開発名。”Bluetooth started as a codename.” |
| rune(ルーン) | ルーン文字。古代北欧ゲルマン人が使った文字体系。 |
| ubiquitous(ユビキタス) | 至るところにある。”Bluetooth has become ubiquitous.” |
| etymology(エティモロジー) | 語源学。”The etymology of Bluetooth is fascinating.” |
✨ まとめ ― スマホの設定画面に、1000年の歴史がある
整理しましょう。
✔ Bluetoothの名前は10世紀のデンマーク王ハーラル「青歯王」に由来
✔ 王は敵対部族を平和的に統一した英雄 → バラバラの無線規格を統一する技術の名前にぴったりだった
✔ 1997年、IntelのカーダックとEricssonのマティソンがトロントのパブで着想
✔ 「仮の名前」のつもりが、他の候補がすべてコケて正式名称に
✔ ロゴは王のイニシャルを北欧ルーン文字(ᚼ+ᛒ)で表したもの
✔ 「青い歯」の由来は死んだ歯が青黒く見えた説が有力(ブルーベリー説も楽しい伝承として残る)
次にBluetoothの設定をONにしたとき、あのルーン文字のロゴの向こうに、北海の風に吹かれたヴァイキング王の姿がちらりと見えるかもしれません。
テクノロジーの名前ひとつ調べるだけで、歴史と言語と文化が一気に広がる。それこそが「知ること」の醍醐味であり、英語を学ぶことの本当の面白さだと思います。
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