「わかる」と「使える」は別の力
語彙には2つの種類があります。
- 受容語彙:読んだり聞いたりしたときに意味がわかる単語
- 発信語彙:自分で話したり書いたりするときに使える単語
一般に、受容語彙は発信語彙よりずっと多いと言われます。たとえば improve を見て「改善する」とわかっても、自分で英作文をするときに improve を思い出せなければ、発信語彙にはなっていません。
なぜ差が生まれるのでしょうか。単語帳での学習は、多くの場合「英語を見て意味を思い出す」方向です。一方、話したり書いたりするときは「言いたいことから英語を思い出す」逆方向の作業が必要です。逆方向の練習をしていなければ、逆方向には出てこないのは自然なことなのです。
ポイント:使える単語にしたいなら、「日本語や言いたいこと → 英語」の方向で思い出す練習が欠かせません。
アウトプットが定着に役立つ理由
カナダの言語学者メリル・スウェインは、「アウトプット仮説」として、話したり書いたりすることが言語習得を助けるという考えを示しました。その中では、アウトプットの役割として、たとえば次のようなものが挙げられています。
- 気づき:言おうとして言えないとき、「自分はこの表現を知らない」と気づく
- 仮説の検証:自分が使った表現が通じるか・正しいかを確かめられる
- 振り返り:自分の言葉づかいを意識的に見直すきっかけになる
さらに、記憶の研究でよく知られている「想起練習(思い出す練習)」の考え方からも、アウトプットは有利です。話す・書くときは、頭の中から単語を自分で取り出す必要があるからです。
例:単語帳で覚えた「avoid」
- 単語帳:avoid=避ける(見て意味がわかる)
- アウトプット:「最近、夜遅くにスマホを見ないようにしている」を英語で言おうとする → I try to avoid using my phone late at night.
このとき、avoid の後ろは -ing だったか、と確認する作業が発生します。こうした「使うときの確認」が、単語を深く定着させます。
今日からできる5つのアウトプット練習
1. 1文日記
寝る前に、その日のことを英語で1文だけ書きます。そのとき、今週覚えた単語を1つ入れるのがルールです。
- I managed to finish my homework before dinner.(なんとか夕食前に宿題を終えた)
2. 独り言実況
歩きながら、料理しながら、自分の行動や見たものを英語で小さくつぶやきます。
- I'm heading to the station.(駅に向かっている)
- This coffee is too bitter.(このコーヒー、苦すぎる)
3. 日→英の単語テスト
単語帳やカードを、日本語から英語を答える形で練習します。発信語彙に直結する練習です。
4. 3語ストーリー
今日覚えた単語から3つ選び、全部を使って3文の短い話を作ります。
- 単語:rescue / brave / suddenly
- Suddenly, a small dog fell into the river. A brave boy jumped in. He rescued the dog.
5. 言いかえチャレンジ
簡単な単語で書いた文を、覚えた単語で言いかえます。
- I think it is very important. → I think it is essential.
- The price went up. → The price increased.
ポイント:どの練習も、1回5分以内でできます。大切なのは長さではなく、「覚えた単語を自分から取り出す」回数です。
話す練習と書く練習の使い分け
書く練習の長所
- 時間をかけて単語を思い出せる
- 辞書で確認しながら、形(後ろに来る語など)まで正確に使える
- あとで見直して、間違いを直せる
→ 新しく覚えた単語を正しく使えるようにする練習に向いています。
話す練習の長所
- すぐに口から出す速さが鍛えられる
- 会話や面接で実際に使う力に近い
→ 書いて使えるようになった単語を、すばやく出せるようにする練習に向いています。
おすすめの流れ
- 新しく覚えた単語で、まず1文書く
- 書いた文を声に出して3回読む
- 次の日、何も見ずにその文を言ってみる
- 慣れたら、違う文でも使ってみる
オンライン英会話やスピーキングの授業がある人は、その日使いたい単語を3つメモしてから臨むと、覚えた単語を実際の会話で使う練習になります。
よくある失敗
失敗1:完璧な英文を書こうとして手が止まる
アウトプット練習の目的は、単語を取り出す練習です。多少の文法ミスは気にせず、まず書いてみましょう。気になるところは、あとで辞書や添削で確認すれば大丈夫です。
失敗2:知っている簡単な単語だけで済ませる
very important、very big、go up など、簡単な単語で言えてしまうと、新しい単語を使う機会がなくなります。あえて今週の単語を入れるルールにしましょう。
失敗3:難しい単語を無理やり使う
逆に、覚えたての難しい単語を、合わない場面に無理やり入れると不自然になります。辞書の例文で、どんな場面で使われるかを確認してから使いましょう。
失敗4:書きっぱなしにする
書いた文を見直さないと、同じ間違いを繰り返してしまいます。週に1回は、自分の日記を読み返して、間違いを直す時間を作りましょう。
1週間のアウトプット練習メニュー
1日10分のメニューです。
- 月曜:今週の5語を決める――単語帳から、使えるようにしたい単語を5つ選ぶ。それぞれ辞書の例文を1つ確認。
- 火曜:1文日記――5語のうち1つを使って日記を1文書く。
- 水曜:独り言実況――通学・通勤中に、5語のうち2つを使って独り言を言う。
- 木曜:3語ストーリー――5語のうち3つを使って、3文の短い話を作る。
- 金曜:言いかえチャレンジ――簡単な単語で書いた文を、今週の単語で言いかえる。3文。
- 土曜:日→英テスト――5語を日本語から英語で答える。後ろの形まで言えるか確認。
- 日曜:見直し――今週書いた文を読み返し、辞書や添削で間違いを直す。
ポイント:毎週5語だけでも、1年続ければ200語以上が「使える単語」に変わります。数より「確実に使える」を優先しましょう。
まとめ:覚えたら、1回使ってみる
覚えた英単語を使える語彙にするポイントです。
- 「わかる」と「使える」は別の力
- 日本語や言いたいことから英語を取り出す練習をする
- 1文日記、独り言、3語ストーリーなど、短い練習で十分
- 書いて正確に、話してすばやく
今夜、寝る前に英語で1文だけ日記を書いてみてください。そこに今週覚えた単語を1つ入れたら、その単語はもう「わかる単語」から「使える単語」への一歩を踏み出しています。



