「やってみた」を「研究」にする問いの立て方
実践報告と授業の感想文との違いは、はっきりした問いがあるかどうかです。「ペア活動を取り入れたら盛り上がった」だけでは、読者は何を学べばよいか分かりません。
問いを作る手順
- 気になる現象を書き出す:「発表の後、質問がほとんど出ない」
- 介入を決める:「質問の型を事前に練習させる」
- 変化を見る観点を決める:「質問の数」「質問の種類」「学生の感想」
- 問いの形にする:「質問の型を練習すると、発表後の質問の数と種類はどう変わるか」
英語で書く場合は、次のような形になります。
- How does practicing question templates affect the number and type of questions students ask after presentations?
- What do students report about their confidence in asking questions after the intervention?
問いは1つの論文で1〜2つに絞りましょう。問いが多いと、データも考察も薄くなります。
ポイント:「効果があるか」を証明しようとするより、「どう変わったか」「学生はどう受け止めたか」を丁寧に記述するほうが、実践報告としては書きやすく、読者にも役立ちます。
倫理面の配慮と同意の取り方
授業のデータを研究に使うときは、学生の不利益にならないことが最優先です。所属機関に研究倫理の審査や手続きがある場合は、データを集める前に確認しましょう。
押さえておきたい原則
- 研究への協力は任意であり、断っても成績に影響しないことを明示する
- 成績評価者である教員が同意を取ることの影響に配慮する(同意書の回収を別の人に頼む、成績確定後にデータを使うなど)
- 個人が特定されない形で分析・公表する
- データの保存方法と期間を決めておく
同意書の文例(英語)
英語で同意説明を作る場合の自作例です。実際に使う際は所属機関の書式に合わせてください。
- This study aims to understand how students use feedback in writing classes.
- Your participation is voluntary, and your decision will not affect your grade in any way.
- You may withdraw your data at any time before the end of the semester.
- Your name and student number will not appear in any report.
日本語でも同じ内容を併記し、口頭でも説明すると誤解が減ります。同意しなかった学生も、授業活動そのものには普段どおり参加してもらい、データだけを分析から除きます。
データ収集:授業の中で無理なく集める
実践報告のデータは、特別な実験を組まなくても、授業の中で集められるものが多くあります。
集めやすいデータの例
- 学生の成果物:作文、発表の録画、ワークシート
- アンケート:活動の前後で同じ質問をする
- 振り返りシート:自由記述のコメント
- 教員の授業記録:その日の様子、うまくいかなかった点のメモ
アンケート項目の作り方
5段階で答える項目と自由記述を組み合わせます。英語で授業をしている場合の例です。
- I feel confident asking questions in English after a presentation. (1 = strongly disagree, 5 = strongly agree)
- What made it easier or harder for you to ask questions?
気をつけたいこと
- 集める前に「何を、いつ、どの形式で」集めるかを表にしておく
- 前後比較をするなら、同じ質問・同じ時期の条件をそろえる
- 自由記述は、読む前に分類の観点を決めすぎず、何度か読み直して整理する
- 人数が少ない場合は、数字だけで結論を出さず、記述データと合わせて慎重に解釈する
「すべてを集める」より「問いに答えるのに必要なものだけを確実に集める」ほうが、後の分析がずっと楽になります。
IMRaDに沿った構成と各パートの書き方
実践報告や研究論文は、IMRaD(Introduction, Methods, Results, and Discussion)の構成で書くと読みやすくなります。投稿先に指定の構成がある場合はそちらを優先します。
Introduction(はじめに)
背景、問題意識、先行研究の位置づけ、研究の問いを書きます。先行研究は自分で実際に読んだものだけを引用しましょう。
- Many students hesitate to ask questions after classmates' presentations.
Methods(方法)
対象(人数、学年、科目の概要)、実践の内容、データの種類と収集時期、分析方法を、別の先生が同じことをできる程度に具体的に書きます。
Results(結果)
データから分かったことを、解釈を混ぜずに示します。表や図は本文と役割が重ならないようにします。
Discussion(考察)
結果が問いに対して何を意味するか、先行研究とどう関係するか、限界(対象が1クラスのみ、など)と今後の課題を書きます。
- These findings suggest that structured practice may help students start asking questions, although the small sample limits generalization.
要旨(Abstract)
最後に書くのがおすすめです。目的、方法、主な結果、示唆を各1〜2文でまとめます。
紀要と学会誌の違い、投稿先の選び方
投稿先の選択肢には、大きく分けて所属機関の紀要と学会誌があります。それぞれの特徴を一般論として整理します。
- 紀要:所属機関の教員を主な対象とする刊行物です。査読の有無や形式は機関によって異なり、実践報告の枠がある場合もあります
- 学会誌:学会が発行し、多くは査読があります。投稿資格(会員であることなど)や分量、書式が細かく定められていることが多いです
投稿先を選ぶ手順
- 自分の報告と近いテーマの論文が掲載されているかを確認する
- 投稿規定(分量、言語、書式、投稿資格、原稿の種類)を最新版で読む
- 「研究論文」「実践報告」「研究ノート」などの種別のうち、どれに当たるかを判断する
- 締め切りから逆算して準備スケジュールを立てる
具体的な規定は投稿先ごとに異なり、変更されることもあるため、必ず公式の投稿規定で確認してください。
準備スケジュールの例(1年間)
- 前年度末:問いを決め、倫理面の手続きを確認
- 前期:実践とデータ収集
- 夏休み:データ整理と分析
- 後期前半:原稿執筆、同僚に読んでもらう
- 後期後半:修正して投稿
よくある不採用理由と、今日からの一歩
査読で指摘されやすい点は、投稿先を問わず共通する部分があります。一般論として挙げると次のとおりです。
- 問いがはっきりしない:何を明らかにしたいのかが序論で分からない
- 方法の記述が不十分:対象や手順が曖昧で、再現も評価もできない
- 結果と主張が釣り合わない:少人数のデータから一般化しすぎている
- 先行研究との関係が見えない:新しさや位置づけが説明されていない
- 形式が投稿規定に合っていない:分量、引用形式、匿名化の不備
よくある失敗
- 授業が終わってから「これを論文にしよう」と思い立ち、同意やデータが残っていない
- 良かった点ばかり書き、うまくいかなかった点を省いてしまう
- 考察で、結果に書いていないことを主張してしまう
査読コメントは厳しく感じることもありますが、原稿を良くするための情報です。指摘ごとに「どう直したか」を一覧にして再投稿すると、次の査読もスムーズになります。
ポイント:来学期の実践を研究にしたいなら、今のうちに「問いを1文で書く」ことから始めましょう。問いが決まれば、集めるべきデータと必要な手続きが見えてきます。



