EAPとは:「大学で学ぶための英語」
EAP は English for Academic Purposes の略で、大学での学習や研究に必要な英語を扱う分野です。英語そのものを学ぶだけでなく、英語を使って授業を受け、文献を読み、レポートを書き、発表や議論に参加する力を育てることを目指します。
一般的な英語の授業との違いは、次のような点にあります。
- 扱う文章が、論文・教科書・講義など学術的なジャンル
- 「何が言えるか」だけでなく、分野の読み手に受け入れられる書き方・話し方を重視する
- 引用・要約・言い換え(パラフレーズ)など、学術的な作法を含む
- 学生が今後どの場面で英語を使うかというニーズから内容を決める
ポイント:EAPは「難しい英語」の授業ではなく、「大学という場の約束事に沿って英語を使う」授業です。
ジャンルという考え方もEAPの中心にあります。論文の序論、実験レポートの方法、書評など、目的ごとに決まった構成や表現の傾向があり、それを意識して読んだり書いたりできるようにするのが大きな狙いです。
EGAPとESAPの違い
EAP は大きく2つに分けて考えられます。
EGAP(English for General Academic Purposes)
分野を問わず、多くの学生に共通する学術英語を扱います。
- 段落構成、要旨の書き方、引用とパラフレーズ
- 講義を聞いてノートを取る
- 学術的な語彙(分野をまたいでよく使われる語)
- 意見と根拠を示して話し合う
ESAP(English for Specific Academic Purposes)
特定の分野に特有の英語を扱います。
- 看護・医療系なら症例の記述、工学系なら実験レポートの方法と結果
- 経済学ならデータを使った説明、法学なら判例の要約
- その分野の論文の構成や、よく使われる動詞・言い回し
共通教育ではEGAPが中心になりやすく、学部の専門科目や上級学年ではESAPの比重が高まるのが自然な流れです。どちらが優れているというより、学生の段階と授業の位置づけで使い分けるものだと考えるとよいでしょう。
ポイント:混合学部のクラスではEGAPを軸にし、課題のテーマだけ各自の専門に寄せると、ESAPの要素を無理なく取り込めます。
ニーズ分析の進め方(4ステップ)
EAPの授業設計は、ニーズ分析から始まります。大がかりな調査でなくても、次の4ステップで十分に役立つ情報が集まります。
- 学生へのアンケート:LMSのフォームで、専攻、英語を使う予定の場面、苦手意識のある技能を尋ねる
- 専門科目の教員に聞く:学生が英語で読む文献や書く課題の種類を、短く教えてもらう
- 実際の課題を集める:シラバスや過去の課題文を見て、求められるジャンルを確認する
- 最初の課題で診断する:短い要約や意見文を書かせ、現状の力を把握する
アンケートの質問例です(学生には日本語併記でも可)。
- In which situations do you expect to use English in your studies?
- Which is more difficult for you: reading long texts or writing reports?
- What kind of texts do you read in your major classes?
集めた情報は、「必ず扱う」「余裕があれば扱う」「今回は扱わない」の3つに仕分けます。すべてに応えようとすると焦点がぼやけるので、優先順位を決めること自体がニーズ分析の成果です。
授業例①:アカデミック・リーディング
学術的な文章を読む授業では、「全部訳す」から「目的に応じて読む」への切り替えが重要です。
100分の流れの例
- 題名・見出し・図表だけを見て、内容を予測する(10分)
- 各段落の最初の文だけを読み、全体の構造を図にする(15分)
- 設問に沿って必要な箇所を探して読む(25分)
- 筆者の主張と根拠を英語で2〜3文にまとめる(20分)
- ペアで要約を比べ、言い換え表現を確認する(20分)
- 振り返り(10分)
要約で使える表現を示しておくと、学生の英語がぐっと学術らしくなります。
- The author argues that ...
- According to the text, ...
- The main reason given is that ...
- This suggests that ...
教材は、学生の専門に近い入門書の一節や、一般向けに書かれた研究紹介の文章など、長すぎず構成がはっきりしたものから始めると取り組みやすくなります。
授業例②:ライティングとリスニング
ライティング:パラフレーズと引用の練習
剽窃(ひょうせつ)を防ぐには、禁止するだけでなく、正しい書き方を練習させることが大切です。
- 短い原文を読み、原文を伏せてから自分の言葉で書き直す
- 原文と比べ、語句をそのまま写していないか確認する
- 出典を示す文型を加える
例として、原文の趣旨が「睡眠不足は集中力を下げる」だったとします。
- 言い換えの例:Getting too little sleep can make it harder for students to concentrate.
- 出典を示す例:As [著者名] ([年]) points out, ...(※授業では実際の出典を入れる)
リスニング:講義ノートの取り方
英語の講義動画を使い、キーワードと矢印で要点を書き取る練習をします。講義でよく使われる合図の表現を先に紹介しておくと、聞くべき箇所がわかります。
- Today I'd like to focus on ...
- There are three main reasons ...
- To sum up, ...
ESAPへの橋渡し:専門別の課題アレンジ
混合学部のクラスでも、課題のテーマを学生の専門に寄せるだけで、ESAPの要素を取り入れられます。型(構成や表現)は共通、素材は各自の分野という組み合わせです。
同じ課題を分野別にアレンジする例
課題「ある現象の原因を説明する段落を書く」を出した場合、
- 経済・経営系:なぜある商品の価格が上がったのかを説明する
- 理工系:なぜある材料が特定の用途に向いているのかを説明する
- 看護・医療系:なぜある生活習慣が健康に影響するのかを一般的な知識の範囲で説明する
- 人文・教育系:なぜある教育方法が注目されているのかを説明する
共通して使う表現はそろえておきます。
- One of the main causes of ... is ...
- This is mainly because ...
- As a result, ...
発表や提出のあとで、分野ごとに使った語彙を比べさせるのも効果的です。「同じ原因と結果の説明でも、分野によって使う動詞が違う」ことに学生自身が気づくと、ジャンルへの意識が自然に育ちます。
ポイント:専門用語の正確さは学生本人に確認させ、英語教員は構成と表現に集中する。この分担がESAPを無理なく続けるコツです。
半期のモデルとよくある失敗
EGAP中心の半期モデルの例です。
- 第1〜2回:ニーズ分析、学術的な文章とは何か
- 第3〜5回:リーディング(構造の把握・要約)
- 第6〜8回:パラフレーズと引用、短い要約文
- 第9〜11回:講義リスニングとノートテイキング
- 第12〜14回:専門に関するテーマで短いレポートと口頭発表
- 第15回:振り返り、ポートフォリオ提出
よくある失敗
- 「EAP=難しい英文を読む授業」になってしまう:難しさより、ジャンルの特徴や作法を意識させることが目的です
- 専門分野の内容に踏み込みすぎて、英語教員が説明できない領域に入ってしまう
- ニーズ分析をしても、結果を授業内容に反映しない
- 引用のルールを最終レポートの直前に初めて教える
- 語彙指導が単語リストの暗記だけになる
ポイント:専門内容の正しさは専門の先生に任せ、英語教員は「どう読むか・どう書くか」の型を教える。役割を分けると、ESAPにも無理なく取り組めます。



