逆向き設計とは
逆向き設計(backward design)は、アメリカの教育研究者ウィギンズとマクタイが著書『Understanding by Design』で提唱した考え方として知られています。日本でも授業づくりの考え方として広く紹介されてきました。
基本の流れは、次の3段階です。
- 求められる結果を決める:単元の終わりに、生徒が何を理解し、何ができるようになっていればよいか
- その証拠(評価方法)を決める:それができたことを、どんな課題で確かめるか
- 学習の計画を立てる:その課題ができるようになるために、毎時間何をするか
普段の授業づくりは「教科書のこのページで何をするか」から考えがちです。逆向き設計では、順番を逆にしてゴールと評価課題を先に決めるのが特徴です。
ポイント:「教科書を教える」から「教科書で、何ができるようにするか」へ。視点を変えるだけで、毎時間の活動の意味がはっきりします。
ステップ1:単元のゴールを決める
ゴールは、生徒が単元末にできるようになっていることを、具体的な行動の形で書きます。
例:中学2年「職業・将来の夢」をテーマにした単元
- ×「不定詞を理解する」
- ○「将来就きたい職業とその理由を、不定詞を使って1分間話すことができる」
- ○「友だちの将来の夢について質問し、聞いた内容を3文で書くことができる」
ゴールを考えるときは、次の問いを自分に投げかけてみましょう。
- この単元の本文や文法を使って、生徒は現実のどんな場面で何ができるとよいか?
- 単元が終わった後も残ってほしい力は何か?
生徒向けのゴールの提示
単元の最初の授業で、英語でゴールを示します。
"At the end of this unit, you will talk about your future dream for one minute. You will also ask your friends about their dreams."
生徒がゴールを知っていると、毎時間の学習が「そのための練習」だと理解でき、取り組み方が変わります。
ステップ2:評価課題を決める
ゴールが決まったら、それができたかどうかを確かめる課題を決めます。
評価課題の例
- 話す:ペアで将来の夢についてやり取りし、教師が1分間のスピーチを聞く
- 書く:友だちにインタビューした内容を、3〜5文のレポートにまとめる
評価の基準を簡単に作る
3段階程度のシンプルな基準を用意します。
- A:理由を2つ以上述べ、不定詞を正しく使って1分間話せる
- B:理由を1つ述べ、不定詞を使って話せる(多少の誤りあり)
- C:職業名は言えるが、理由が言えない
この基準は、単元の最初に生徒にも見せておきます。"This is the checklist for your speech. Let's aim for A!"
評価課題と基準を先に作っておくと、毎時間の授業で「この活動は課題のどこにつながるのか」を判断しやすくなります。
ステップ3:毎時間の計画に落とし込む
評価課題から逆算して、7時間の単元計画を立てた例です。
- 1時間目:単元のゴールと評価課題の提示。本文Part 1の内容理解。"What do you want to be?" のやり取り
- 2時間目:不定詞(名詞的用法)の導入。"I want to be a … because I want to …"
- 3時間目:Part 2の内容理解。登場人物の夢と理由を読み取る
- 4時間目:不定詞(副詞的用法)。"I study hard to become a …"
- 5時間目:Part 3の内容理解。本文の表現をまとめた「使える表現リスト」を作る
- 6時間目:スピーチ原稿の作成とペアでのリハーサル(ペアを変えて3回)
- 7時間目:評価課題の実施(スピーチ・インタビュー・レポート)
ポイントは、本文と文法の学習が、最終課題の「部品集め」になっていることです。毎時間の最後に「今日の学びは、最終スピーチのどこで使える?」と振り返ると、生徒自身もつながりを意識できます。
"Which expression from today can you use in your final speech? Write it down."
高校の単元例:社会的なテーマで考える
高校では、本文のテーマが環境・テクノロジー・多文化共生など社会的な内容になることが多くなります。逆向き設計の手順は同じですが、ゴールに「考えを持ち、根拠とともに伝える」要素を入れると、単元に深みが出ます。
例:高校1年「食品ロス」をテーマにした単元(6時間)
ゴール:「食品ロスを減らすために高校生ができることを、本文の情報と自分の考えを組み合わせて、100語程度の意見文で書ける」
評価課題:意見文(100語程度)+4人グループでの意見交換
計画の例
- 1時間目:ゴールと評価課題の提示。テーマについて知っていることをペアで出し合う
- 2時間目:本文前半の内容理解。問題の現状を示す部分を読み取る
- 3時間目:本文後半の内容理解。取り組み例を表に整理する
- 4時間目:意見文の構成(主張・理由・例・結論)をモデル文で学ぶ
- 5時間目:意見文の下書き→ペアで読み合い→書き直し
- 6時間目:グループでの意見交換と意見文の清書・提出
"Your opinion must include one fact from the textbook and one idea of your own."
このように「本文の情報を1つ使う」と条件をつけると、読んだ内容を書く活動に生かす必然性が生まれ、単元全体がゴールに向かって一本の線でつながります。
40人クラスでの見取りの工夫
評価課題を40人分行うのは大変ですが、計画段階で工夫しておくと負担を分散できます。
- 途中で小さなチェックを入れる:4時間目あたりで「理由を1文言えるか」をペアで確認させ、言えない生徒を把握しておく。
- スピーチは同時進行と個別を組み合わせる:全員がペアでスピーチを練習している間に、教師は数人ずつ評価する。1時間で全員分を聞けなければ、次の時間の冒頭も使う。
- 記録用紙を事前に作る:名簿にA/B/Cの欄とメモ欄を作っておくと、聞きながら素早く記録できる。
- 自己評価と組み合わせる:生徒にも基準を使って自己評価させると、教師の見取りと照らし合わせられる。
よくある失敗と、明日からの一歩
よくある失敗
- ゴールが抽象的すぎる:「英語でコミュニケーションができる」では、評価課題が決められません。→具体的な行動と条件(何を・どれくらい)を入れる。
- 評価課題が単元の内容とつながっていない:本文や文法で学んだことを使わない課題だと、授業との関連が薄くなります。→単元で扱う表現を使う必然性がある課題にする。
- 計画どおりに進めることが目的になる:生徒の様子を見て調整する余地を残す。→予備の時間を1時間程度確保しておく。
明日からの一歩
次の単元の教科書をめくり、「単元末に生徒が何をできるようになっていればよいか」を1文で書いてみてください。それが決まれば、評価課題も毎時間の活動も、自然と見えてきます。



