自己調整学習の3つの段階
教育心理学者のバリー・ジマーマンらの研究では、自己調整学習は次のような循環する段階で説明されています。
- 予見(計画):目標を立て、どう学ぶかを計画する
- 遂行(実行):学習に取り組みながら、自分の状態をモニターし、やり方を調整する
- 自己省察(振り返り):結果を振り返り、うまくいった理由・いかなかった理由を考え、次の計画に生かす
この3つがぐるぐると回ることで、生徒は少しずつ「自分で学べる人」になっていきます。
英語の授業に当てはめると、例えば次のようになります。
- 予見:「この単元の終わりに、自分の週末について5文で話せるようになる」と目標を立てる
- 遂行:練習しながら「過去形がまだ言えない」と気づき、動詞の過去形リストを作る
- 自己省察:「5文話せたが、つなぎの言葉が使えなかった。次は and や so を使う」と振り返る
ポイント:自己調整学習は「生徒に任せる」ことではなく、「計画→実行→振り返り」のサイクルを回す型を先生が教えることから始まります。
予見:目標設定の型
多くの生徒は、「英語をがんばる」のような漠然とした目標を立てがちです。具体的で、自分で確かめられる目標を立てる練習をさせましょう。
目標設定シートの例(単元の始めに)
- この単元のゴール(先生から提示):I can talk about my summer vacation.
- 自分の目標:夏休みの出来事を、理由も入れて5文以上で話す
- そのためにやること:
- 教科書の新出単語を毎日5個練習する
- 本文を毎日3回音読する
- 自分の夏休みの話を先に日本語でメモしておく
- 今の自分の自信度:1 2 3 4 5
目標の立て方のポイント
- 行動レベルで書く:「単語をがんばる」ではなく「毎日5個練習する」
- 確かめられる形にする:「5文以上」「10問中8問」など
- 少し背伸びする:今の力で確実にできることより、少しだけ上を
最初は先生が例を多めに示し、2、3単元経験するうちに、自分で立てられるよう支えを減らしていきます。
遂行:学習方略を教える
自己調整がうまくいかない理由の一つは、生徒が「学び方」の選択肢を知らないことです。英語の学習方略を明示的に教えましょう。
教えたい学習方略の例
- 単語:見て書くだけでなく、意味から英語を思い出すテスト形式で練習する。忘れかけたころに復習する
- 音読:リピート、オーバーラッピング(音声と同時に読む)、シャドーイング(音声を追いかけて言う)など段階をつける
- リスニング:聞く前に何を聞き取るかを決める。聞けなかった部分をスクリプトで確認し、もう一度聞く
- ライティング:書く前にアイデアをメモする。書いた後に、主語と動詞、時制をチェックリストで確認する
モニタリングの声かけ
活動の途中で、生徒が自分の状態を確認する習慣をつけます。
- 「今のやり方で覚えられている?10点満点で何点くらい?」
- 「うまくいかない時は、別のやり方に変えていいよ」
- 英語で:How is it going? Is this way working for you?
学習方略は、一度紹介しただけでは使われません。授業の中で実際に試す時間をとり、「どのやり方が自分に合っていたか」を振り返らせることで、生徒の引き出しが増えていきます。
自己省察:振り返りの型
振り返りが「楽しかった」「がんばった」だけで終わると、次の学習に生かせません。振り返りにも型を示しましょう。
振り返りの3つの問い
- What did I learn?(何ができるようになったか)
- What was difficult?(何が難しかったか。なぜか)
- What will I do next?(次に何をするか)
振り返りの例
- できるようになったこと:過去形を使って、週末の話を4文で話せた
- 難しかったこと:went や ate など不規則な過去形がすぐに出てこなかった。練習が足りなかった
- 次にやること:不規則動詞の過去形を10個、カードにして毎日練習する
振り返りを共有する
書いた振り返りを、ペアで見せ合う時間を1〜2分とるのも効果的です。「友達はこんな練習方法を試していたのか」と気づくことで、自分の学び方の引き出しが増えます。先生が「今日の振り返りから」として、いくつかの工夫をクラス全体に紹介するのもよいでしょう。
原因の考え方
振り返りで大切なのは、うまくいかなかった原因を「自分は英語の才能がない」ではなく、「練習の量ややり方」など変えられるものに求めることです。「なぜ難しかった?」と聞いた時に「頭が悪いから」と答える生徒には、「どんな練習をしたらできそう?」と問い直し、行動に目を向けさせます。
評価とのつなげ方
自己調整学習の力は、「主体的に学習に取り組む態度」の評価と関係が深いものです。ただし、振り返りシートの記述量や、提出したかどうかだけで評価するのは避けたいところです。
評価の考え方の例
- 目標設定シートと振り返りシートを、単元の学習と一緒に見る
- 振り返りで挙げた「次にやること」が、次の単元で実際に行われているかを見る
- パフォーマンス課題の結果だけでなく、改善のプロセスが見えるかを見る
生徒へのフィードバック
振り返りシートには、短くても具体的なコメントを返します。
- 「不規則動詞をカードで練習する計画、とてもいいですね。1週間後に成果を教えてください」
- 「難しかった理由がはっきり書けています。そこがわかれば次は伸びます」
コメントで「計画→実行→振り返り」のサイクルを先生が一緒に回していることを示すと、生徒は振り返りを形式的な作業ではなく、自分の学びのための道具として使うようになります。
よくある失敗と1単元の実践プラン
よくある失敗
- 振り返りを書かせるだけで終わる:書いた内容を次の授業で取り上げない、コメントを返さないと、形だけの作業になります
- いきなり生徒に全部任せる:目標設定も学習方略も、最初は先生が型と例を示し、少しずつ任せていきます
- 振り返りの時間が毎回長すぎる:毎時間は1〜2分の短い振り返り、単元の終わりにじっくり、というメリハリを
- できなかったことばかり書かせる:できるようになったことを先に書かせ、成長を実感させます
1単元の実践プラン
- 単元1時間目:単元のゴールを示し、目標設定シートを書く(10分)
- 毎時間の最後:1〜2分で「今日できたこと」「次にやること」を一行ずつ書く
- 単元の中盤:目標に対する進み具合を確認し、必要ならやり方を変える
- 単元の最後:パフォーマンス課題の後、振り返りの3つの問いでじっくり振り返る(10分)
- 次の単元の始め:前の単元の「次にやること」を見直してから、新しい目標を立てる
ポイント:自己調整学習は、先生が教える「型」と、毎時間の小さな振り返りの積み重ねで育ちます。まずは次の単元の始めに、目標設定シートを1枚配ってみてください。



