やる気に頼らない。「仕組み」に頼る
やる気は、とても頼りにならないものです。やる気に満ちあふれている日もあれば、何もしたくない日もあります。やる気がある日だけ勉強していると、どうしても波ができてしまいます。
そこで大切になるのが、やる気がなくても自然と手が動く「習慣」を作ることです。歯みがきをするのに、毎回やる気を出す人はいません。英語の勉強も、同じように「いつものこと」にしてしまえば、ずっと楽に続けられます。
習慣になるまでどれくらいかかる?
「習慣は21日で身につく」という話を聞いたことがあるかもしれません。でも、これを裏付けるしっかりした研究は見当たりません。
2010年に発表された、イギリスの研究者Lallyらの研究では、参加者が新しい行動(水を飲む、運動するなど)を毎日続け、それが「自然にできる」状態になるまでの日数を調べました。その結果、かかった日数の中央値は66日で、人や行動によって18日から254日まで大きな幅がありました。また、ときどき1日休んでも、習慣化への影響は大きくなかったと報告されています。
ポイント:習慣化には2か月ほどかかると考えて、気長に。1日休んでも、ゼロに戻るわけではありません。
ここからは、習慣を作るための具体的なテクニックを紹介します。
テクニック①:if-thenプランニング(実行意図)
「いつ・どこで・何を」を決めておく
心理学者Peter Gollwitzerが研究してきた「実行意図(implementation intentions)」は、「もし(if)Xになったら、そのとき(then)Yをする」という形で、行動の計画を具体的に決めておく方法です。一般にはif-thenプランニングとも呼ばれます。
「英語を毎日がんばる」という目標だけだと、「いつやるか」をその都度決めなければなりません。そして、決めるのを先延ばしにしているうちに一日が終わってしまいます。if-thenプランニングでは、その判断をあらかじめ済ませておくのです。
実行意図に関する多くの研究をまとめた分析(GollwitzerとSheeranによるメタ分析)では、目標をただ立てるだけより、if-thenの形で計画したほうが、目標の達成につながりやすいという結果が示されています。
英語学習のif-then例
- もし朝食を食べ終わったら、単語アプリを5分開く
- もし電車に乗ったら、英語のポッドキャストを再生する
- もし塾から帰って手を洗ったら、長文を1本読む
- もし寝る前に歯をみがいたら、今日の単語を3つ思い出す
「障害」へのif-thenも作る
うまくいかなかったときのためのif-thenも作っておくと効果的です。
- もし疲れてやる気が出なかったら、単語を1個だけ見る
- もしスマホでSNSを開きそうになったら、まず単語アプリを開く
ポイント:「がんばる」ではなく「もし〜したら、〜する」。この形にするだけで、行動がぐっと具体的になります。
テクニック②:習慣の積み重ね(ハビット・スタッキング)
すでにある習慣に「くっつける」
「習慣の積み重ね(habit stacking)」は、ジェームズ・クリアーの著書『Atomic Habits(邦題:ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣)』で広く知られるようになった考え方です。すでに毎日やっている習慣のすぐあとに、新しい習慣をくっつける方法です。スタンフォード大学のBJ Foggも、既存の行動を「きっかけ」として使う方法を提唱しています。
毎日必ずやっている行動には、たとえば次のようなものがあります。
- 起きる、顔を洗う、朝ごはんを食べる
- 家を出る、電車に乗る、学校や会社に着く
- 帰宅する、お風呂に入る、歯をみがく、布団に入る
これらを「合図」として使い、次のように英語学習をつなげます。
- 顔を洗ったら → 英語の今日のひとことを声に出す
- 電車に乗ったら → リスニングを始める
- お風呂から出たら → 単語を10個覚える
- 布団に入ったら → 英語の本を1ページ読む
積み重ねのコツ
- 合図にするのは、毎日必ず、同じような時間にやっている行動
- くっつける英語学習は、合図のすぐあとにできる小さなこと
- 場所も合わせる(机で勉強するなら、机に座る行動を合図にする)
if-thenプランニングと習慣の積み重ねは、とても相性がいい組み合わせです。「もし〇〇したら」の〇〇に、すでにある習慣を入れればよいのです。
テクニック③:2分ルールで「始める」ハードルを下げる
まずは2分でできる形にする
「2分ルール」は、ジェームズ・クリアーが紹介している考え方で、新しい習慣を始めるときは、2分以内でできるくらい小さくするというものです。
- 「毎日1時間英語を勉強する」→「単語帳を開いて1ページ見る」
- 「毎日英語の本を読む」→「英語の本を1ページ読む」
- 「毎日シャドーイングをする」→「音声を1回再生する」
「そんなに小さくて意味があるの?」と思うかもしれません。でも、習慣づくりの最初の目的は、たくさんやることではなく、「毎日やる」ことを当たり前にすることです。そして多くの場合、始めてしまえば2分では終わらず、そのまま続けられるものです。
「やらない日」をなくすことが大事
2分ルールのいちばんの強みは、どんなに忙しい日や疲れた日でも「ゼロ」にしなくて済むことです。「今日は1時間できないから、やめておこう」ではなく、「今日は2分だけやろう」。これで、習慣のつながりを保つことができます。
少しずつ大きくする
2分の習慣が安定してきたら(目安として数週間)、5分、10分と少しずつ増やしていきましょう。いきなり大きくしすぎると、また続かなくなります。
※なお、「2分以内で終わる仕事はすぐやる」という、似た名前の仕事術(デビッド・アレンの『GTD』)もありますが、ここで紹介しているのは習慣づくりのための2分ルールです。
テクニック④:記録で「続いている」を見える化
記録はシンプルに
習慣を続けるうえで、記録はとても強い味方です。ただし、複雑な記録は続きません。いちばんシンプルなのは、カレンダーに印をつけるだけの方法です。英語を勉強した日に○をつける。それだけです。
○が続いていくと、「このつながりを切りたくない」という気持ちが自然と生まれます。これが、明日もやるための小さな後押しになります。
記録の例
- 紙のカレンダーやノートに、勉強した日に○
- 勉強時間やポモドーロの数を書き込む
- 習慣管理アプリでチェックをつける
- 多読なら、読んだ語数の合計を記録する
「2日連続で休まない」ルール
どんなに気をつけていても、休んでしまう日はあります。そのときに役立つのが、「1日休んでもいいけれど、2日連続では休まない」というルールです。前に紹介したLallyらの研究でも、たまに1日抜けても習慣化への影響は大きくなかったと報告されています。大切なのは、1日の休みを「もうダメだ」につなげないことです。
ポイント:記録の目的は、自分を責めることではなく、自分をほめること。○の数を数えて、がんばった自分を認めてあげましょう。
組み合わせ実例:英語習慣の設計図
ここまでのテクニックを組み合わせて、英語習慣の「設計図」を作ってみましょう。
ステップ1:目標を1つに絞る
最初から「単語もリスニングも多読も」と欲張らないこと。まずは1つだけ選びます。例:「英単語を毎日覚える」
ステップ2:2分バージョンを決める
例:「単語アプリを開いて、カードを5枚だけ見る」
ステップ3:合図となる習慣を選ぶ(習慣の積み重ね)
例:「朝ごはんを食べ終わったら」
ステップ4:if-thenの形で書き出す
例:「もし朝ごはんを食べ終わったら、単語アプリを開いてカードを5枚見る」
ステップ5:障害へのif-thenも作る
例:「もし寝坊して朝できなかったら、帰りの電車で5枚見る」
ステップ6:記録の方法を決める
例:「机の横のカレンダーに○をつける」
この設計図を紙に書いて、目につく場所に貼っておきましょう。1つ目の習慣が安定したら(数週間〜2か月ほど)、2つ目の習慣を同じ手順で追加します。
環境も味方につける
- 単語帳は机の上に開いた状態で置いておく
- スマホのホーム画面の1ページ目に単語アプリを置く
- SNSアプリはフォルダの奥にしまう
やりたいことは「すぐできる場所」に、やめたいことは「手間がかかる場所」に置く。これだけでも、行動は変わります。
まとめ:小さく始めて、長く続けよう
英語学習が続かないのは、あなたの意志が弱いからではありません。仕組みがまだないだけです。
- if-thenプランニングで、「いつ・どこで・何を」を決めておく
- 習慣の積み重ねで、すでにある習慣に英語をくっつける
- 2分ルールで、始めるハードルを思いきり下げる
- 記録で「続いている」を見える化する
- 習慣化には2か月ほどかかるつもりで、気長に。1日休んでも大丈夫
英語力は、毎日の小さな積み重ねで確実に伸びていきます。今日は、たった2分でかまいません。まずは設計図の1行目を書くところから始めてみましょう。



