やる気には「種類」がある
心理学では、やる気(動機づけ)を大きく2つに分けて考えます。
- 外発的動機づけ:ほめられたい、怒られたくない、ご褒美がほしい、資格が必要だから、など「外からの理由」で動くやる気
- 内発的動機づけ:面白いから、知りたいから、上達するのが楽しいから、など「活動そのもの」から生まれるやる気
「受験に必要だから英単語を覚える」は外発的、「洋楽の歌詞の意味がわかるのがうれしいから英語を調べる」は内発的です。
どちらが良い・悪いではありません。試験や仕事のような外からの理由は、行動を始めるきっかけとしてとても強力です。ただ、外からの理由だけに頼っていると、試験が終わったとたんにやる気がゼロになりがちです。
長く英語を続けるには、外からの理由をきっかけにしつつ、少しずつ「英語そのものが楽しい」部分を増やしていくことが大切です。
ポイント:「やる気がない」と感じたら、まず「自分はいま、何のために英語をやっているのか」を書き出してみましょう。外と内、どちらの理由が多いかが見えてきます。
自己決定理論:やる気を育てる3つの栄養
心理学者のデシとライアン(Deci & Ryan)が提唱した「自己決定理論」では、人が意欲的に活動するためには、次の3つの基本的な欲求が満たされることが大切だと考えます。
- 自律性:自分で選んで、自分で決めている感覚
- 有能感:「できた」「上達している」という感覚
- 関係性:人とつながっている、認められている感覚
この3つがそろうと、外から始まったやる気も、だんだん自分の中から湧いてくるものに変わっていくとされています。逆に、どれかが欠けると、やる気はしぼみやすくなります。
たとえば、
- 教材も時間もすべて人に決められている → 自律性が足りない
- 難しすぎて、いつまでたってもわからない → 有能感が足りない
- 一人きりで、誰にも進歩を見てもらえない → 関係性が足りない
「最近やる気が出ない」と感じたら、この3つのうちどれが足りていないかを考えてみると、対策が見えてきます。
3つの欲求を満たす英語学習の工夫
自律性を高める:「選ぶ」部分を作る
- 教材を2つ候補に出して、自分で選ぶ
- 今日の勉強の順番を自分で決める(単語が先か、リスニングが先か)
- 学校や試験の勉強とは別に、「好きな英語」の時間を15分だけ作る(好きな動画、洋楽、ゲームの英語版など)
同じ内容でも、「やらされている」より「自分で選んだ」ほうが続きます。
有能感を高める:「できた」を見える化する
- 難易度を「少し頑張れば届く」レベルにする
- 1か月前に解いた問題をもう一度解いて、成長を確かめる
- 覚えた単語数、読んだ語数、聞いた時間などを記録する
関係性を高める:「一人」をやめる
- 友だちや家族に、今週の目標を伝える
- 同じ試験を受ける人と、週1回だけ進み具合を報告しあう
- オンライン英会話などで、英語で話す相手を作る
ポイント:3つ全部を一気に満たす必要はありません。いま一番足りないものを1つだけ補うところから始めましょう。
目標設定のコツ:具体的に、少し難しく
目標の立て方についても、長く研究されてきました。ロックとレイサム(Locke & Latham)の目標設定理論では、「ベストを尽くす」のようなあいまいな目標より、具体的で、少し難しい目標のほうが成果につながりやすいとされています。
- あいまい:英語をがんばる
- 具体的:今月中に、単語帳の1〜400番を「見て意味が言える」状態にする
結果目標とプロセス目標を分ける
目標には2種類あります。
- 結果目標:TOEICで650点、英検2級合格 など、最終的に達成したい結果
- プロセス目標:毎日単語30語、週3回シャドーイング15分 など、自分の行動
結果目標は、試験の出来や問題との相性など、自分ではコントロールできない部分も含みます。一方、プロセス目標は自分の行動なので、毎日「できた・できなかった」がはっきりわかります。
大きな方向は結果目標で決め、毎日の手応えはプロセス目標で得る。この組み合わせが、やる気を保つうえでとても効果的です。
WOOPで「つまずき」まで計画する
心理学者のガブリエル・エッティンゲン(Gabriele Oettingen)らは、目標を思い描くだけでなく、それをじゃまする障害まで具体的に考える方法を研究し、「WOOP」という手順にまとめています。
- W(Wish)願い:達成したいこと
- O(Outcome)結果:達成したら、どんないいことがあるか
- O(Obstacle)障害:それをじゃまする、自分の中の障害は何か
- P(Plan)計画:障害が起きたら、どうするか
英語学習での記入例
- W:3か月後の英検準2級に合格したい
- O:合格したら、自信を持って2級の勉強に進める。家族にも報告できる
- O:部活から帰ると疲れて、ついスマホで動画を見てしまう
- P:帰宅したら、スマホを充電器に置く前に単語アプリを10分だけやる
ポイントは、障害を「時間がない」のような外の理由ではなく、「疲れて動画を見てしまう」のような自分の行動レベルで書くことです。そうすれば、具体的な対策が立てられます。
ポイント:楽しい未来だけを想像すると、なぜか行動につながりにくいことがあります。「じゃまになるもの」を先に見つけておくのがコツです。
1週間のモチベーション設計メニュー
- 1日目:英語をやる理由を、外発的・内発的に分けて5つ書き出す
- 2日目:結果目標を1つ、プロセス目標を2つ決める
- 3日目:WOOPを書いて、机の前に貼る
- 4日目:「好きな英語」の時間を15分作る(動画、洋楽、ゲームなど)
- 5日目:1か月前にやった問題をもう一度解いて、成長を確かめる
- 6日目:家族や友だちに、今週できたことを1つ話す
- 7日目:プロセス目標の達成日数を数え、来週の目標を調整する
よくある失敗
- ご褒美に頼りすぎる:「1時間勉強したらお菓子」のようなご褒美は、始めるきっかけとしては便利です。ただ、もともと楽しんでいた活動にご褒美をつけると、かえって楽しさが感じにくくなる場合があることも知られています。ご褒美はほどほどにしましょう。
- 目標が高すぎる:「毎日3時間」は、最初の数日はできても続きません。有能感を育てるためにも、確実に達成できるところから。
- やる気が出るまで待つ:やる気は、行動を始めたあとから湧いてくることも多いものです。まず5分だけ始めてみましょう。
まとめ:やる気は「育てる」もの
モチベーションは、突然どこかから降ってくるものではありません。自分で選ぶ(自律性)、できたと感じる(有能感)、人とつながる(関係性)。この3つの栄養を与えることで、少しずつ育っていくものです。
そして、具体的で少し難しい目標を決め、じゃまになるものまで先に計画しておく。そうすれば、やる気が下がった日でも、行動が止まりにくくなります。
今日は、WOOPを1つだけ書いてみてください。「願い・結果・障害・計画」の4行です。書き終えたら、その計画を今夜さっそく試してみましょう。



