字幕と吹き替えで訳が違う理由
英語字幕と英語吹き替えは、それぞれ次のような制約の中で作られています。
字幕(sub)の制約
- 一度に表示できる文字数に限りがある
- 視聴者が読み切れる速さでなければならない
- そのため、情報を短く圧縮することが多い
吹き替え(dub)の制約
- キャラクターの口の動き(口パク)の長さに合わせる必要がある
- 声に出して自然に聞こえる英語でなければならない
- そのため、言い回しを大きく変えることもある
つまり、字幕は「短く正確に」、吹き替えは「自然に聞こえるように」を優先する傾向があります。どちらが正しいかではなく、目的が違うのです。
ポイント:訳の違いは「翻訳者の工夫のあと」。そこに意訳のヒントが詰まっています。
意訳の型①:日本語特有の表現を置き換える
日本語には、英語にぴったり当てはまる言葉がない表現がたくさんあります。代表的なのが「いただきます」「よろしくお願いします」「お疲れさま」です。
自作の例で考えてみましょう。
- 「よろしくお願いします」(初対面で)→ Nice to meet you. / I look forward to working with you.
- 「お疲れさま」(部活の後で)→ Good job today. / See you tomorrow.
- 「ただいま」→ I'm home. / I'm back.
同じ「よろしく」でも、場面によって英語はまったく変わります。訳すときは言葉ではなく、その場面で相手に何を伝えたいかを考えるのがコツです。
意訳の型②:主語と敬語の処理
日本語は主語を省略しやすく、英語は主語が必要です。また、日本語の敬語やキャラクターの口調(「〜ですわ」「〜でござる」など)は、英語ではそのまま再現できません。
英語では、次のような方法で丁寧さや個性を表現します。
- 丁寧さ:Could you...? / Would you mind...? を使う
- 堅い口調:省略形を使わない(I do not / It is)
- くだけた口調:gonna、wanna、yeah などを使う
- 呼び方:先輩・後輩の関係は、名前の呼び方や話し方の違いで表現する
自作の例:
- 「先輩、手伝ってもらえますか」→ Could you help me with this?(丁寧さで上下関係を表す)
- 「お前も来いよ」→ You're coming too, right?(くだけた口調で親しさを表す)
一人称・二人称の違いにも注目
日本語には「俺」「僕」「私」「わし」など多くの一人称がありますが、英語ではすべて I になります。そのため英語版では、キャラクターの個性を一人称ではなく、語彙の選び方や文の長さ、話すスピードなどで表現しています。英語版を聞くときは「このキャラらしさはどこで出しているのか」を探してみると、表現の工夫がよく見えてきます。
比較学習の手順:同じ場面を2回見る
意訳を学ぶには、同じ場面を字幕と吹き替えで見比べるのがいちばんです。正規の配信サービスで、音声と字幕を切り替えられる作品を使いましょう。
- 日本語音声+英語字幕で1分の場面を見て、英語字幕をノートに要約する(丸写しではなく、どんな言い方の工夫があったかを書く)
- 英語吹き替え+英語字幕(dubtitles)で同じ場面を見る
- 違いを3つの観点でメモする
- 長さ:どちらが短い?
- 言い回し:どんな表現に置き換えている?
- 情報:どちらかで省かれた情報はある?
- 自分ならどう訳すかを考え、自作の例文で1つ書いてみる
ポイント:作品のセリフを大量に書き写す必要はありません。「どんな工夫があったか」を自分の言葉で残すのが学びになります。
意訳の型③:ダジャレ・文化ネタの処理
言葉遊びや日本の文化に根ざしたネタは、翻訳者がもっとも苦労する部分です。対応の仕方には、主に次のような型があります。
- 英語の言葉遊びに置き換える:似た面白さを持つ英語のダジャレに作り替える
- 説明を加える:字幕の注釈などで背景を補う
- 別の笑いに変える:その場面の目的(笑わせる)を優先して内容を変える
- 一般的な言葉にする:たとえば日本特有の食べ物を、わかりやすい言い方にする
自作の例:
- 「こたつから出られない」→ I can't get out from under the kotatsu.(そのまま残す)/ It's too cozy under the heated table.(説明的に言い換える)
どの型が選ばれているかを見分けられるようになると、翻訳の面白さが一気にわかるようになります。
意訳の力を英作文・スピーキングに生かす
字幕と吹き替えの比較で身につけた意訳の感覚は、アニメを見るとき以外にも役立ちます。特に、英作文やスピーキングで「日本語の文をそのまま英語にできない」と困ったときに力を発揮します。
「言いたいこと」に分解する
日本語の文をそのまま訳そうとすると、難しい単語や複雑な文になりがちです。まずは「結局、何を伝えたいのか」を短い日本語に言い換えてから英語にしてみましょう。
自作の例:
- 元の日本語:「部活が忙しすぎて、宿題に手が回らない」
- 言いたいこと:部活で忙しい → 宿題をする時間がない
- 英語:I'm so busy with club activities that I don't have time for homework.
翻訳者の視点で自分の文を見直す
自分が書いた英文を、字幕の翻訳者のように「もっと短くできないか」、吹き替えの翻訳者のように「声に出して自然か」という2つの視点で見直すと、英文の質が上がります。
- 短くする:Because I was very tired, I went to bed early. → I was tired, so I went to bed early.
- 自然にする:I am very happy to meet you. → It's great to meet you.
英検・大学入試への応用
英検のライティングや大学入試の和文英訳では、難しい日本語をやさしい英語で表現する力が問われます。「直訳できない表現は、場面と目的を考えて言い換える」という意訳の考え方は、そのまま得点力につながります。
ポイント:意訳は「ずるい近道」ではなく、伝える力そのもの。アニメで楽しく鍛えましょう。
よくある失敗と1週間メニュー
よくある失敗
- どちらかの訳を「間違い」と決めつける:目的が違うだけのことが多いです
- 直訳にこだわる:英作文でも、場面に合った自然な英語を優先しましょう
- 見比べる場面が長すぎる:1分程度に絞ると、違いがはっきり見えます
意訳トレーニング1週間メニュー
- 月:「よろしく」「お疲れさま」を場面別に英語で3通り書く
- 火:好きな作品の1分の場面を英語字幕で見て要約
- 水:同じ場面を英語吹き替えで見て、違いを3つメモ
- 木:自分ならどう訳すか、自作の例文で1つ書く
- 金:公式のローカライズ解説動画を見て、翻訳者の考え方を知る
- 土:日常の日本語の一言(「いってきます」など)を3つ英訳
- 日:1週間のメモを見返す



