今週のスラングまとめスラング考現学 第9回
今週のまとめ:ボウル飯、別々の夕飯、友達づきあい代――財布から生まれた新語5つ
原田英語がお届けします
日曜日のコーナー「今週のスラングまとめ」…今週辞書に加わった新語から、特におもしろい語をピックアップして小ネタつきでおさらい。 コーナー一覧
日曜日は「今週のスラングまとめ」です。この1週間で辞書に加わった語を並べてみると、食べ物とお金の話がやけに多いことに気づきました。物価が上がると、ことばも増える。今週は、財布の中身が生んだ新語を中心に5つ選びました。
1slop bowl:20ドルのランチを自虐する
1語目はslop bowlです。ご飯や穀物の上に、肉・野菜・ソースを好きに選んで盛ってもらう、アメリカのチェーン店のボウル飯のこと。slopは豚のえさのような、どろどろの食べ物を指します。混ぜると何が何だかわからなくなる見た目を、自分でからかっているわけです。
ポイントは、1杯15〜20ドルという値段です。毎日のお昼にそれだけ払っているのに、出てくるのは「えさ」。高いのにありがたみがないという会社員の嘆きが、この2語に詰まっています。
日本語の「また牛丼」「社食でいいや」に近い自虐ですが、値段への皮肉が入るぶん、少し苦い言葉です。もとの slop bowl は、紅茶セットの「茶こぼし」を指す古い英語でした。
2food divorce:離婚じゃなくて夕飯だけ別々
2語目はfood divorce。直訳は「食べ物の離婚」ですが、別れる話ではありません。恋人や夫婦が、それぞれ食べたいものを自分で用意して、夕飯を別々にとるスタイルのことです。
糖質制限をしている人と、パスタが食べたい人。仕事の終わる時間がばらばらの二人。献立をそろえようとするたびにもめるなら、いっそ分けてしまおう、という考え方です。9月にアメリカのニュースサイトやラジオ局のサイトが、カップルの新しい傾向として次々に取り上げました。
賛否ははっきり分かれます。「ケンカが減った」という人もいれば、「一緒に食べないと会話が消える」という専門家もいます。英語の divorce を軽く使う言い方には、ほかにも寝室を分ける sleep divorce があり、〜 divorce は「生活の一部だけ別にする」という型になりつつあります。
3フレンドフレーション:友達に会うのも物価高
3語目は日本語からフレンドフレーション。friend(友達)と inflation(物価上昇)を合わせた語で、略して「フレフレ」とも言います。カフェ代、プレゼント代、イベント代が上がって、友達と会うたびにお金が飛んでいく。だから会う回数や相手をしぼる、という動きです。
もとは英語の friendflation で、イギリスやアメリカの記事で使われ、韓国でも若者が集まりを減らしているというニュースになりました。日本でも、Z世代の人間関係を表す言葉として記事が続いています。
同じ週に高校生の流行語ランキングで3位に入ったフレネミーと並べると、今の若者が友達づきあいにかなり疲れていることがうかがえます。ただし、家飲みやピクニックに切り替えて安く楽しむ工夫の話にもなっていて、暗い話ばかりではありません。
4the rabbit got me:あの日を境に変わった
4語目はお金から離れて、the rabbit got me。『不思議の国のアリス』で、懐中時計を持った白ウサギがアリスを不思議な世界へ連れていく場面になぞらえた言い回しです。失恋や挫折など、ある出来事を境に人生が変わってしまったことを「ウサギにつかまった」と言います。
TikTokでは、幸せそうな昔の動画に Me before the rabbit got me と字幕をつけ、次のカットでその後の姿を見せる二部構成が定番になりました。時計を指さす白ウサギの画像がセットで使われます。
日本語なら「あの頃の私に戻りたい」「闇落ち前」あたりが近い感覚です。重い話を、童話のウサギを借りて少しだけ軽く言えるところが、この言葉が広まった理由でしょう。
5Viking rap:ダサいのに聴いてしまう
最後はViking rap。入れ墨だらけのヴァイキングがカメラをにらみつけ、ヴァルハラや狼への誓いをトラップ調で歌う動画のことです。歌っている人物も、曲も、映像も、ほとんどが生成AIで作られています。
2026年の2月末ごろからTikTokで次々にヒットし、800万回以上再生された曲も出ました。若い人は「ダサい」と笑いながら、ついリピートしてしまうネタ枠として楽しんでいます。一方で、実在の歌手だと思い込む大人も多く、アメリカのメディアが子ども文化の解説として取り上げたほどです。
ここで1語目の slop がまた出てきます。AIで量産された中身の薄い作品を、まとめて slop と呼ぶからです。ボウル飯もAIの歌も同じ slop。安っぽいけどやめられないものを、英語の若者はこの1語で片づけています。
物価、AI、友達づきあい。今週の新語は、どれも今の暮らしの小さな困りごとから生まれていました。来週も、いま本当に使われている言葉を毎日お届けします。
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