原田英語のスラング・新語辞典

ヒップホップ・洋楽スラング解剖スラング考現学 第10回

「Beez in the Trap」の beez はハチじゃない――「いつも」を表す英語の be

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月曜日のコーナー「ヒップホップ・洋楽スラング解剖」…最新のヒップホップ・R&B・ポップの曲名や、話題の曲から広まった超絶スラングを解剖。意味・由来・なぜバズったか、知って得するうんちくまで。 コーナー一覧

月曜日は「ヒップホップ・洋楽スラング解剖」です。ニッキー・ミナージュの2012年の曲「Beez in the Trap」が、90年代のロックと混ぜたマッシュアップでTikTokに戻ってきました。ハチ(bees)のことだと思った人が多いのですが、beez は英語の文法の話につながる言葉です。

114年前の曲が、また検索されている

「Beez in the Trap」は、ニッキー・ミナージュがラッパーの2 Chainz(トゥー・チェインズ)を迎えて2012年に出した曲です。アルバム『Pink Friday: Roman Reloaded』に入っていて、アメリカのチャートでは最高48位でした。

大ヒットというほどではなかったこの曲が、2025年の秋からTikTokで急に使われ始めました。きっかけは、DJ Auxlord(オークスロード)というDJが作ったマッシュアップです。4ノン・ブロンズの1993年のヒット曲「What's Up」と、ニッキーのこの曲をつなげた音源でした。

元の動画は600万回以上再生され、この音源を使った動画は100万本を超えたと報じられています。2人が背中合わせで立ち、ひとりがロックのサビを、もうひとりがニッキーのパートを歌うのが定番のやり方です。そして見た人の多くが、同じ疑問を検索しました。beez って何?

2ニッキー本人の答えは「I'm always」

答えを出したのはニッキー本人です。イギリスのトーク番組に出たとき、beez は「I'm always(私はいつも)」という意味だと説明しています。the trap は「お金を稼ぐ場所ならどこでも」。つまり曲名は「私はいつも稼ぎ場にいる」という意味になります。

trap はもともと、違法な取引が行われる場所を指すヒップホップの言葉で、そうした家はtrap houseと呼ばれます。ただニッキーの説明では、もっと広く「仕事場」「稼ぐ現場」のような使い方です。

ハチの bees とは発音が同じなので、英語圏の人でも勘違いはよくあります。今日の辞書にはbeezとして加えました。

3「いつもそう」を表す、習慣の be

beez の正体は be's、つまり be に s がついた形です。ふつうの英語なら I am や she is と、be は形を変えます。ところがアフリカ系アメリカ人の英語(AAVE)では、形を変えない be をそのまま置いて「習慣としていつもそうだ」を表す使い方があります。言語学では「習慣の be」と呼ばれます。

たとえば She is working は「彼女は今働いている」。これが She be working になると「彼女はいつも働いている」です。今この瞬間のことなのか、いつものことなのかを、be 一語で言い分けています。

標準的な英語ではこの区別をするのに usually や always を足す必要があります。AAVEは崩れた英語だと思われがちですが、標準英語にはない区別を文法の中に持っているわけです。

4クッキーモンスターで確かめた実験

この be の働きを、子どもたちで確かめた有名な実験があります。アメリカの研究者ジャニス・ジャクソンさんが、セサミストリートの絵を子どもたちに見せました。病気のクッキーモンスターがクッキーを持たずにベッドで寝ていて、そばでエルモがクッキーを食べている絵です。

「Who is eating cookies?(今クッキーを食べているのは誰?)」と聞くと、全員がエルモを指しました。ところが「Who be eating cookies?」と聞くと、AAVEをふだん話す子どもたちはクッキーモンスターを指したのです。

今は食べていなくても、いつもクッキーを食べているのはクッキーモンスターだからです。5〜6歳の子どもでも、この区別をきちんとつけていたと紹介されています。

5日本語だと「〜しがち」「〜が定位置」

日本語で「習慣の be」に近いのは、「いつも〜してる」「〜しがち」「〜が定位置」あたりです。「弟、夜中はだいたい台所にいる」のような言い方が、ちょうど My brother be in the kitchen at night の感覚です。

ほかにもAAVEから一般の英語に広がった言葉はたくさんあります。「〜するつもり」のfinna、「あなたたち」のy'all(南部の英語とも共通)などは、今ではSNSで人種や地域を問わず見かけます。

ただ、文法ごとまねをすると、からかっているように聞こえることもあります。beez は意味がわかれば十分で、自分で使うなら友達同士の冗談くらいにとどめておくのが無難です。

ハチだと思っていた beez が、実は英語の文法の奥にある「いつも」の印でした。来週の月曜日も、話題の曲から生まれたスラングを一つ取り上げます。明日の「見出しの気になる言葉」もお楽しみに。

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