電池の中の液体を固体に変えると何が起きる? 全固体電池が期待されるワケ

読む前に予想してみよう!
全固体電池は燃えやすい液体を使わないため、安全性が高まると期待されている
今の電池の電解液は燃えやすい有機溶媒。固体にすることで発火リスクを下げられると期待される。
- 対象
- 硫化物系などの固体電解質と全固体電池セル
- 規模
- 実験室スケールのセル
- 研究の種類
- 材料研究・レビュー
- 確かさ
- ★★★☆☆
電池の中の液体(電解液)を固体に置き換える全固体電池。燃えにくさや急速充電に期待が集まるが、固体同士をうまくくっつけ続けるのが難しく、大型の量産はこれから。
ひとことで言うと電池の「中の液体」を「固体」にした、次世代のバッテリー!
電気自動車(EV)のニュースで、「全固体電池で航続距離が大幅アップ」「充電時間が短く」といった見出しを見かけるようになりました。
名前はいかにも難しそうですが、アイデアはとてもシンプル。電池の中にある「液体」を「固体」に置き換える――ただそれだけです。
でも、たったそれだけの違いで、なぜこんなに期待されているのでしょうか。そして、なぜまだ私たちのスマホや車に入っていないのでしょうか。
01今の電池には「燃えやすい液体」が入っている
スマホやEVで使われるリチウムイオン電池の中では、リチウムイオンがプラス極とマイナス極の間を行き来しています。そのイオンが泳ぐ“プール”の役目をしているのが、電解液という液体です。
この電解液には有機溶媒という、燃えやすい液体が使われています。電池が強くぶつかったり、異常に熱くなったりしたときに発火事故が起きるのは、これが一因です。
全固体電池では、このプールを固体の電解質に置き換えます。イオンは液体の中を泳ぐ代わりに、固体の結晶のすき間をすり抜けて移動するのです。

02「固体の中をイオンが速く動く」という発見
以前は、固体の電解質の中ではイオンの動きが液体よりずっと遅く、室温では実用に足りないのがふつうでした。その常識を変えたきっかけの一つが、日本の研究です。
これで全固体電池は、「安全だけど性能はイマイチ」な電池から「安全で、しかも高性能かもしれない」電池へと見方が変わり、注目度が一気に上がりました。
03期待されている3つのメリット
- 燃えにくい:燃えやすい液体を使わないため、安全性が高まると期待される
- 熱に強い:高温でも性能が落ちにくく、冷却装置を簡単にできる可能性
- 急速充電・高エネルギー密度:材料の組み合わせしだいで、短い時間での充電や、より多くの電気を蓄えることにつながる可能性
04最大の難題は「固体同士の相性」
難しさの正体は、固体と固体のくっつき具合です。液体ならどんな形のすき間にも入り込めますが、固体同士はピッタリ密着させるのが大変です。
しかも電池は、充電・放電のたびに電極の材料がわずかにふくらんだり縮んだりします。そのたびに固体同士の間にすき間ができると、イオンが通れなくなり、性能が落ちてしまうのです。ほかにも、空気中の水分と反応しやすい材料があることや、製造コストなど、乗り越えるべき課題は多くあります。
自動車メーカーも目標を発表しています。トヨタ自動車は2027〜28年ごろ、日産自動車は2028年度までに、全固体電池を積んだEVを売り出すことを目指しています。ただし2026年10月時点では、全固体電池のEVが「本格的に普及した」とは言えない段階です。
05まとめ
全固体電池は、電池の中の液体を固体にするというシンプルな発想から生まれた次世代バッテリー。安全性や急速充電への期待は大きい一方、固体同士の接触という“地味だけど手ごわい”壁が残っています。
ニュースで「全固体電池搭載!」と見たら、「どのくらいの大きさの電池?」「いつ・どれだけ作れる?」に注目してみてください。
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
The batteries in phones and electric cars have a liquid inside. This liquid can catch fire. In a solid-state battery, the liquid is changed to a solid. People hope these batteries will be safer and charge faster.
But there is a big problem. The solid parts do not stay close together easily. So large batteries for cars are still difficult to make.
62 words ・ CEFR A2
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携帯電話や電気自動車の電池の中には液体が入っています。この液体は燃えることがあります。全固体電池では、その液体が固体に変えられています。人々は、こうした電池がより安全で、より速く充電できるようになることを期待しています。
しかし、大きな問題があります。固体の部品同士は、なかなかぴったりくっついたままでいてくれないのです。そのため、車用の大きな電池はまだ作るのが難しいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
電池の中の液体を固体にした全固体電池が主題なので A。
Q2. What is the big problem with solid-state batteries?
The solid parts do not stay close together easily. とあるので C。
Q3. In this passage, "catch fire" means ...
catch fire は「火がつく・燃え出す」なので B。
News about electric cars often mentions all-solid-state batteries, which could offer longer driving ranges and shorter charging times. The idea is simple. The liquid inside a lithium-ion battery is replaced with a solid.
In today's batteries, ions swim through a liquid called an electrolyte, but this liquid contains flammable chemicals. In a solid-state battery, ions pass through gaps in a solid crystal instead. For a long time, ions moved much more slowly in solids than in liquids.
However, in 2011 a Japanese research team that included Toyota researchers discovered a solid material in which ions moved about as fast as in a liquid. Even so, it is hard to keep solids in close contact, especially because electrodes swell and shrink during charging. Large batteries for cars are still being developed.
130 words ・ CEFR B1
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電気自動車のニュースではよく全固体電池が話題になります。より長い航続距離とより短い充電時間をもたらすかもしれない電池です。考え方はシンプルです。リチウムイオン電池の中の液体を、固体に置き換えるのです。
今日の電池では、イオンは電解液と呼ばれる液体の中を泳いでいますが、この液体には燃えやすい化学物質が含まれています。全固体電池では、イオンは代わりに固体の結晶のすき間を通り抜けます。長い間、固体の中では、イオンは液体の中よりずっとゆっくりしか動けませんでした。
しかし2011年、トヨタの研究者も加わった日本の研究チームが、イオンが液体の中とほぼ同じくらい速く動く固体の材料を発見しました。それでも、固体同士をぴったりくっつけておくのは難しいのです。充電中に電極がふくらんだり縮んだりするので、なおさらです。車用の大きな電池はまだ開発中です。
4択リーディングクイズ
Q1. Why can today's lithium-ion batteries catch fire?
this liquid contains flammable chemicals とあるので A。
Q2. What did the Japanese research team discover in 2011?
a solid material in which ions moved about as fast as in a liquid とあるので B。
Q3. Why is it difficult to keep the solid parts in close contact?
because electrodes swell and shrink during charging とあるので D。
All-solid-state batteries have become a fixture of electric vehicle headlines, but the underlying concept is straightforward: the liquid electrolyte in a conventional lithium-ion cell is replaced by a solid one. Because the organic solvents in liquid electrolytes are flammable, a solid alternative could reduce fire risk, tolerate higher temperatures, simplify cooling systems and, depending on materials, enable faster charging and higher energy density.
For many years, however, ions moved too sluggishly through most solids at room temperature for practical use. That changed in 2011, when a team led by Ryoji Kanno, working with Toyota, reported in Nature Materials a sulfide material whose ionic conductivity rivaled that of liquid electrolytes; in 2016 the group demonstrated high-power solid-state cells. The main remaining obstacle lies at the interfaces between solid components.
Unlike a liquid, a solid cannot flow into every gap, and because electrode materials expand and contract during each cycle, contact can be lost and performance degraded. Some sulfide materials also react with moisture, and many laboratory cells are tested under high pressure that differs from real conditions. Small solid-state batteries already power some electronic components. For electric cars, however, mass production is still in preparation.
194 words ・ CEFR B2
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全固体電池は電気自動車の見出しの定番になりましたが、その根底にある考え方は単純です。従来のリチウムイオン電池の液体の電解質を、固体のものに置き換えるのです。
液体の電解質に含まれる有機溶媒は燃えやすいため、固体の代替物は火災のリスクを減らし、より高い温度に耐え、冷却システムを簡単にし、材料によってはより速い充電とより高いエネルギー密度を可能にするかもしれません。しかし長年、ほとんどの固体の中では、室温でのイオンの動きが鈍すぎて実用になりませんでした。それが変わったのは2011年で、トヨタと協力した菅野了次率いるチームが『Nature Materials』に、イオン伝導度が液体の電解質に匹敵する硫化物の材料を報告しました。2016年には、同グループが高出力の全固体電池を実証しました。
残る主な障害は、固体の部品同士の界面にあります。液体と違って固体はあらゆるすき間に流れ込むことができず、電極の材料は充放電のたびに膨張と収縮を繰り返すため、接触が失われて性能が低下することがあります。また一部の硫化物材料は湿気と反応し、多くの実験室のセルは実際の条件とは異なる高い圧力のもとで試験されています。小型の全固体電池は、すでに一部の電子部品で使われています。しかし電気自動車向けについては、大量生産はまだ準備の段階です。
4択リーディングクイズ
Q1. Which is NOT mentioned as a possible advantage of solid electrolytes?
火災リスクの低下・高温への強さ・冷却の簡素化・急速充電などは書かれているが、車体の軽さは書かれていないので D。
Q2. Where does the main remaining obstacle lie, according to the passage?
The main remaining obstacle lies at the interfaces between solid components. とあるので B。
Q3. Why might laboratory results be overly optimistic?
many laboratory cells are tested under high pressure that differs from real conditions とあり、実際の条件との差を示しているので A。
重要単語
- electrolyteC1名詞電解質、電解液The liquid electrolyte can catch fire.
electro-(電気)+lyte(分解されるもの)。スポーツドリンクの「電解質」も同じ語。 - solid-stateC1形容詞固体の(固体だけでできた)Solid-state batteries use no liquid inside.
PCの SSD(solid-state drive)も同じ発想で「可動部や液体を使わない」。 - ionic conductivityC1名詞(句)イオン伝導度The new material has high ionic conductivity.
conduct(伝える・導く)→ conductivity(伝導度)。conductor は「指揮者/導体」。 - interfaceC1名詞界面(物と物の境目)Problems often happen at the interface between solids.
inter-(間)+face(面)。IT では「つなぐ仕組み」、材料科学では「境界面」。 - mass productionB2名詞(句)大量生産Mass production is still a challenge.
mass は「大量の・大衆の」。mass media, mass-produce(動詞)も合わせて。 - flammableC1形容詞燃えやすい、可燃性のMany liquid electrolytes are flammable.
inflammable も「燃えやすい」で同じ意味(否定ではない!)という引っかけが有名。反対は non-flammable。 - contractB2動詞縮む、収縮するElectrode materials expand and contract during charging.
名詞「契約」が有名だが、動詞では「縮む」。expand(膨張する)と対で出る。アクセントは動詞が後ろ。
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電池の中にある“液体”を“固体”に変えるだけの全固体電池。燃えにくくて急速充電にも強いと期待されてるけど、最大の難題は「固体同士がピッタリくっついてくれない」ことらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Kamaya et al. (2011) A lithium superionic conductor, Nature Materialsdoi.org
- Kato et al. (2016) High-power all-solid-state batteries using sulfide superionic conductors, Nature Energydoi.org
- Janek & Zeier (2016) A solid future for battery development, Nature Energydoi.org
- Janek & Zeier (2023) Challenges in speeding up solid-state battery development, Nature Energydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












