宇宙は「焼けたステーキ」の匂いがする? 宇宙飛行士たちの証言を検証

読む前に予想してみよう!
宇宙飛行士は宇宙遊泳中にヘルメットの中で宇宙の匂いを直接嗅いでいる
宇宙は真空で嗅げない。匂うのは船内に戻ってから、宇宙服や道具についた何かの匂い。
- 対象
- 宇宙遊泳後の宇宙服・月面活動後の月の砂
- 規模
- 宇宙飛行士の証言(少数)+関連する材料・化学研究
- 研究の種類
- 証言+仮説(直接検証なし)
- 確かさ
- ★☆☆☆☆
宇宙遊泳から戻った宇宙服には「焼けた金属」「ステーキ」のような匂いがつくと語られる。ただし原因はまだ仮説の段階。
ひとことで言うと宇宙から帰った服は、こげたお肉みたいな匂いがするらしい!
宇宙の匂いって、どんな匂いだと思いますか?「宇宙は真空だから匂いなんてない」──それが正解……のはずでした。
ところが、宇宙遊泳から船内に戻ってきた宇宙飛行士の何人かが、こんなふうに語っているのです。「焼けた金属みたいな匂いがする」「溶接の煙っぽい」「焼いたステーキのような匂いもする」。
宇宙には本当に「匂い」があるのでしょうか? 今日はこの不思議な証言を、科学の目で検証してみます。
01そもそも宇宙では「嗅げない」
まず大前提。匂いとは、空気中をただよう匂いの分子が鼻の奥のセンサーにくっつくことで感じるものです。
宇宙空間はほぼ真空(空気がほとんどない状態)。しかも宇宙遊泳中の宇宙飛行士は、密閉されたヘルメットの中で船から持ってきた空気を吸っています。つまり、宇宙空間そのものを直接嗅ぐことはできません。
では、証言の匂いはどこから来たのか?ポイントは「船内に戻ってから」匂うということです。宇宙服やヘルメット、持ち帰った道具の表面に何かがくっついていて、船内の空気に触れたときに匂い始める──そう考えられています。

02有力候補①:ひとつぶの「原子状酸素」
国際宇宙ステーション(ISS)が回っている高度400km前後には、ごくうすい大気が残っています。そこでは太陽の紫外線によって酸素分子(O₂)がバラバラになり、酸素原子が1個ずつ単独でただよっている状態があります。これを原子状酸素と呼びます。
原子状酸素はとても反応しやすく、人工衛星の表面の素材を少しずつ削ってしまうことが知られています。NASAのバンクスらは2004年の技術報告で、低軌道の原子状酸素がプラスチックなどの宇宙機材料をどれだけ侵食するかをまとめています。宇宙服の表面にもくっついて、船内の空気と出会ったときに反応し、金属っぽい、こげたような匂いを生むのでは……という説があります。
03有力候補②:宇宙にただよう「すすの分子」
もうひとつの候補が、多環芳香族炭化水素(PAH)。名前はいかついですが、ざっくり言うと炭素の六角形がいくつもつながった“すす”の仲間の分子です。焼き肉のこげ目や、車の排気ガスにも含まれています。
「宇宙はステーキの匂い」という表現は、このこげ目の分子のイメージとも重なり、よく話題になります。ただし、宇宙服についた匂いの原因がPAHだと確かめられたわけではありません。
04月の砂は「使ったあとの火薬」の匂い
宇宙の匂いの証言は、ISSだけではありません。アポロ計画で月面を歩いた宇宙飛行士たちは、着陸船に持ち込まれた月の砂(レゴリス)について、使用済みの火薬のような匂いがしたと語っています。
NASAのゲイアーが2005年にまとめた技術報告でも、アポロの宇宙飛行士たちが月の砂の匂いや、宇宙服・機器にこびりつく砂に悩まされた記録が整理されています。
面白いのは、地球に持ち帰った月の砂を研究室で嗅いでも、同じ匂いはしなかったと言われていること。月の砂は空気や湿気に触れたことがない「新鮮」な状態で、着陸船の空気に初めて触れた瞬間に何らかの反応が起きた可能性があります。実際、ウォレスらの2009年の研究では、細かく砕いたばかりの月の砂(や模擬砂)は化学的に反応しやすく、時間がたつと反応性が下がっていくことが示されています。
05まとめ
- 宇宙空間は真空なので、直接嗅ぐことはできない
- でも宇宙から戻った宇宙服には「焼けた金属」「ステーキ」のような匂いがつくと証言されている
- 原因は原子状酸素説やPAH説などの仮説で、まだ決着はついていない
「宇宙の匂い」は、実は宇宙と私たちの空気が出会った瞬間の匂いなのかもしれません。いつか宇宙旅行が当たり前になったら、あなたの鼻で確かめてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAstronauts returning from spacewalks have described a smell like burnt metal, welding fumes or even seared…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Astronauts say their spacesuits smell strange after a spacewalk. Some say it smells like burnt metal or cooked steak. But space has almost no air, so you cannot smell it directly.
The smell starts after the astronauts go back inside the station. Something on the suit may react with the air. Scientists have some ideas about the cause, but nobody has proved them yet.
64 words ・ CEFR A2
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宇宙飛行士たちは、宇宙遊泳の後、宇宙服が変わった匂いがすると言います。焼けた金属や焼いたステーキのような匂いだと言う人もいます。しかし宇宙にはほとんど空気がないので、直接匂いを嗅ぐことはできません。
匂いがし始めるのは、宇宙飛行士がステーションの中に戻ってからです。宇宙服についた何かが空気と反応しているのかもしれません。科学者たちは原因についていくつかの考えをもっていますが、まだ誰もそれを証明していません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙遊泳の後の宇宙服の匂いと、その原因についての文章なので D。
Q2. When does the smell start?
The smell starts after the astronauts go back inside the station. とあるので A。宇宙では直接嗅げない。
Q3. In this passage, "nobody has proved them yet" means ...
prove は「証明する」。まだ誰も証明していない=原因はまだ確かではない、という意味なので B。
Astronauts returning from spacewalks have described a smell like burnt metal, welding fumes or even seared steak. But we smell things when molecules in the air reach our noses, and space is almost a vacuum. During a spacewalk, astronauts also breathe air brought from the station inside a sealed helmet.
So the smell must come from something stuck to their suits that reacts once it meets the air inside. One idea involves atomic oxygen. Around 400 kilometers up, ultraviolet light splits oxygen molecules into single atoms, which react easily and are known to slowly damage satellite surfaces. Another idea involves soot-like molecules called PAHs, which are found widely in space. However, neither idea has been proven.
116 words ・ CEFR B1
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宇宙遊泳から戻った宇宙飛行士たちは、焼けた金属や溶接の煙、さらには焼いたステーキのような匂いを表現してきました。しかし、私たちが匂いを感じるのは空気中の分子が鼻に届くときであり、宇宙はほぼ真空です。宇宙遊泳中、宇宙飛行士は密閉されたヘルメットの中で、ステーションから持ってきた空気を吸ってもいます。
ですから、その匂いは宇宙服にくっついた何かが、中の空気に触れたとたんに反応して生じるに違いありません。ひとつの考えは、原子状酸素に関するものです。高度約400kmでは、紫外線が酸素分子をばらばらの原子に分けます。その原子はとても反応しやすく、人工衛星の表面を少しずつ傷めることが知られています。もうひとつの考えは、宇宙に広く存在するPAHと呼ばれる、すすのような分子に関するものです。しかし、どちらの考えも証明されていません。
4択リーディングクイズ
Q1. Why can't astronauts smell space directly?
space is almost a vacuum とあり、さらに密閉されたヘルメット内でステーションの空気を吸っていると書かれているので A。
Q2. What is atomic oxygen, according to the passage?
ultraviolet light splits oxygen molecules into single atoms とあるので C。D は PAH の説明。
Q3. What is the writer's position on the cause of the smell?
最終文 neither idea has been proven とあり、候補はあるが確定していないという立場なので D。
Astronauts coming back from spacewalks have compared the odor on their suits to burnt metal, welding fumes and seared steak. Space itself cannot be smelled, since it is nearly a vacuum and astronauts breathe station air inside sealed helmets, so the smell must come from material on their equipment that reacts after the airlock fills with air. One hypothesis points to atomic oxygen. At the altitude of the ISS, ultraviolet light breaks oxygen molecules into highly reactive single atoms, which a 2004 NASA report showed can erode spacecraft materials.
Another candidate is polycyclic aromatic hydrocarbons, soot-like molecules that a 2008 review described as widespread in space. Apollo astronauts reported that lunar dust smelled like spent gunpowder, yet the same dust reportedly lost that smell once it was in laboratories on Earth; a 2009 study found that freshly ground lunar dust is chemically reactive but becomes less so over time. Even so, the evidence is weak. The descriptions come from a small number of personal accounts, almost no chemical analysis of the odor has been published, and ordinary explanations, such as gases released by suit materials or heated equipment, have not been ruled out.
193 words ・ CEFR B2
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宇宙遊泳から戻ってきた宇宙飛行士たちは、宇宙服の匂いを焼けた金属、溶接の煙、焼いたステーキにたとえてきました。宇宙そのものの匂いを嗅ぐことはできません。宇宙はほぼ真空で、宇宙飛行士は密閉されたヘルメットの中でステーションの空気を吸っているからです。したがって、その匂いは装備についた物質から生じ、エアロックが空気で満たされた後に反応しているに違いありません。ひとつの仮説は原子状酸素に注目しています。ISSの高度では、紫外線が酸素分子を非常に反応しやすい単独の原子に分解し、2004年のNASAの報告によると、それは宇宙機の材料を侵食することがあります。
もうひとつの候補は多環芳香族炭化水素で、2008年のレビューで宇宙に広く存在すると説明された、すすのような分子です。アポロの宇宙飛行士たちは月の砂が使用済みの火薬のような匂いがしたと報告していますが、同じ砂が地球の研究室に持ち込まれるとその匂いがしなくなったと言われています。2009年の研究では、砕いたばかりの月の砂は化学的に反応しやすいものの、時間がたつと反応性が下がることが分かりました。それでも、証拠は弱いものです。匂いの表現は少数の個人的な証言に基づいており、匂いの化学分析はほとんど発表されておらず、宇宙服の素材から出るガスや加熱された機器といった、ありふれた説明も否定されていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
原子状酸素説・PAH説などを紹介したうえで、Even so, the evidence is weak. とまとめているので C。
Q2. What did the 2009 study find about freshly ground lunar dust?
freshly ground lunar dust is chemically reactive but becomes less so over time とあるので B。
Q3. Which ordinary explanation has NOT been ruled out, according to the passage?
ordinary explanations, such as gases released by suit materials or heated equipment, have not been ruled out とあるので A。
重要単語
- spacewalkB2名詞宇宙遊泳・船外活動The astronaut finished a six-hour spacewalk.
正式には EVA(extravehicular activity)。extra-(外の)+vehicular(乗り物の)。 - odorB2名詞匂い(とくに不快な匂い)A strange odor came from the spacesuit.
イギリス式は odour。smell より硬い語。good smell には scent / aroma を使うことが多い。 - airlockC1名詞エアロック(気密室)Astronauts return through the airlock.
air+lock(閉じる)。気圧の違う2つの空間をつなぐ小部屋。 - atomic oxygenC1名詞(句)原子状酸素Atomic oxygen slowly damages satellite surfaces.
ふつうの酸素は O₂(分子)。それが分かれて O が1個ずつになった状態。atomic は atom(原子)の形容詞。 - hypothesisB2名詞仮説This idea is still only a hypothesis.
複数形は hypotheses。test a hypothesis「仮説を検証する」は研究系英文の定番。 - erodeC1動詞侵食する・むしばむAtomic oxygen can erode spacecraft materials.
名詞 erosion(侵食)。比喩的に erode trust「信頼をむしばむ」とも使う。 - rule outB2動詞(句)(可能性を)排除するOther causes have not been ruled out.
「定規(rule)で線を引いて消す」イメージ。研究の限界を述べる文で非常によく出る。
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宇宙遊泳から戻った宇宙飛行士が「宇宙服から焼けた金属やステーキみたいな匂いがした」と語っている。でも宇宙は真空で嗅げないはず。じゃあ何の匂い? 正体はまだ仮説の段階らしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Tielens (2008) Interstellar Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Molecules, Annual Review of Astronomy and Astrophysicsdoi.org
- Banks, de Groh & Miller (2004) Low Earth Orbital Atomic Oxygen Interactions With Spacecraft Materials, NASA Technical Memorandum (NTRS)ntrs.nasa.gov
- Gaier (2005) The Effects of Lunar Dust on EVA Systems During the Apollo Missions, NASA Technical Memorandum (NTRS)ntrs.nasa.gov
- Wallace et al. (2009) Lunar dust and lunar simulant activation and monitoring, Meteoritics & Planetary Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。








