月は毎年3.8cmずつ地球から逃げている。犯人は「潮の満ち引き」だった

読む前に予想してみよう!
月が遠ざかるのと同時に、地球の1日は少しずつ長くなる
潮の満ち引きが地球の自転にブレーキをかけ、そのぶん月が遠ざかる。1日の伸びはごくわずか。
- 対象
- 地球と月の距離
- 規模
- 50年以上のレーザー測距データ
- 研究の種類
- 観測(月レーザー測距)+力学モデル
- 確かさ
- ★★★★★
アポロが月面に置いた鏡にレーザーを当てて測ると、月は年に約3.8cmずつ遠ざかっている。原因は潮の満ち引きで、地球の1日も少しずつ長くなっている。
ひとことで言うと月は1年に、つめがのびるくらいの速さで地球からはなれているよ。
夜空にいつも浮かんでいる月。実はその月、毎年少しずつ地球から離れているって知っていましたか?
その距離、1年で約3.8cm。だいたい、爪がのびる速さと同じくらいです。「ちょっとだけじゃん」と思うかもしれません。でも、この小さな「お別れ」が、地球の1日の長さまで変えているのです。
01月までの距離を「ミリ単位」で測る方法
約38万kmも離れた月までの距離を、どうやってミリ単位で測るのでしょう?
答えは、月に置かれた鏡です。
1969年のアポロ11号をはじめ、アポロ14号・15号の宇宙飛行士たちは、月面に反射鏡(リフレクター)を設置しました。これは、どの方向から来た光もそのまま来た方向へ跳ね返す特別な鏡です。自転車の反射板と同じしくみですね。
地球からこの鏡に向けてレーザー光を発射し、跳ね返って戻ってくるまでの時間(約2.5秒)を正確に測る。光の速さはわかっているので、そこから距離が計算できます。これを月レーザー測距といいます。

その後も測定は続き、NASAジェット推進研究所のウィリアムズとボッグスが2016年に発表した解析でも、遠ざかる速さは年に約3.8cmと確かめられています。いまでは、アメリカのマーフィーらが進めるような最新の観測で、月までの距離をミリ単位で測れるようになりました。
02犯人は「潮の満ち引き」
では、なぜ月は遠ざかるのでしょう? 犯人は、海の潮の満ち引き(潮汐)です。
月の引力は、地球の海を引っぱってふくらみを作ります。これが満潮です。ところが地球の自転は月の公転よりずっと速いので、この海のふくらみは、月の真下より少し先に引きずられてしまいます。
すると、先回りしたふくらみが月を前へ前へと引っぱることになり、月は地球の自転から少しずつエネルギーと角運動量をもらって、外側の軌道へと移っていくのです。
03地球の1日も、少しずつ長くなる
この話には続きがあります。
海のふくらみが月を引っぱるということは、逆に言えば、月も海のふくらみを引っぱり返している。その結果、地球の自転にはブレーキがかかります。
つまり、月が遠ざかるのと同時に、地球の1日は少しずつ長くなっているのです。ただしその伸びはごくわずかで、100年でおよそ1000分の2秒前後。私たちが気づくことはまずありません。
それでも、何億年という時間をさかのぼると話は別。大昔の地球では、1日はいまよりずっと短かったと考えられています。
04皆既日食が見られなくなる日
月が遠ざかると、もうひとつ困ることがあります。皆既日食です。
皆既日食は、月がちょうど太陽をすっぽり隠すことで起きます。これは、月と太陽の見かけの大きさがほぼ同じという、すごい偶然のおかげ。月が遠ざかって見かけが小さくなると、いつか太陽を完全には隠せなくなり、皆既日食は見られなくなると考えられています。といっても、それは数億年先の話です。
05まとめ
- 月は年に約3.8cm、地球から遠ざかっている
- 測定に使われているのは、アポロが月に置いた鏡とレーザー
- 原因は潮の満ち引き。そのせいで地球の1日も少しずつ長くなっている
今夜の月は、昨日の月より、ほんの少しだけ遠くにいます。そう思うと、ちょっとだけ名残惜しく見えてきませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerApollo astronauts, starting with the Apollo 11 crew in 1969, placed special mirrors on the Moon that…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
The Moon is moving away from the Earth by about 3.8 centimeters every year. That is about as fast as your fingernails grow.
Scientists know this because astronauts left special mirrors on the Moon. People on Earth shoot a laser at the mirrors and measure how long the light takes to come back. The cause is ocean tides. Because of the tides, Earth's days are also getting a little longer.
70 words ・ CEFR A2
和訳を見る
月は毎年約3.8cmずつ地球から遠ざかっています。これは、手の爪がのびるのと同じくらいの速さです。
科学者たちがこのことを知っているのは、宇宙飛行士が月に特別な鏡を置いてきたからです。地球の人々はその鏡にレーザーを当て、光が戻ってくるまでにかかる時間を測ります。原因は海の潮の満ち引きです。潮の満ち引きのせいで、地球の1日も少しずつ長くなっています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
月が毎年少しずつ地球から遠ざかっていること、その測り方と原因についての文章なので C。
Q2. How do scientists measure the distance to the Moon?
shoot a laser at the mirrors and measure how long the light takes to come back とあるので A。
Q3. In this passage, "moving away from" means ...
move away from ~ は「~から離れていく」。月が地球から遠ざかっているという意味なので B。
Apollo astronauts, starting with the Apollo 11 crew in 1969, placed special mirrors on the Moon that reflect light straight back in the direction it came from. Scientists on Earth fire lasers at these mirrors and time how long the light takes to return, about 2.5 seconds. Because the speed of light is known, they can calculate the distance.
A 1994 report showed that the Moon is moving away by about 3.8 centimeters a year, and a 2016 analysis confirmed this. The cause is ocean tides. The Earth spins faster than the Moon orbits, so the ocean bulge is pulled slightly ahead of the Moon. This bulge pulls the Moon forward, pushing it into a wider orbit, while Earth's rotation slows down.
122 words ・ CEFR B1
和訳を見る
1969年のアポロ11号の乗組員をはじめとするアポロの宇宙飛行士たちは、来た方向へ光をそのまま跳ね返す特別な鏡を月面に置きました。地球の科学者たちはその鏡に向けてレーザーを発射し、光が戻ってくるまでの時間、約2.5秒を測ります。光の速さは分かっているので、距離を計算できるのです。
1994年の報告で、月が1年に約3.8cmずつ遠ざかっていることが示され、2016年の解析でもそれが確かめられました。原因は海の潮の満ち引きです。地球は月が公転するよりも速く自転しているので、海のふくらみは月より少し先へ引きずられます。このふくらみが月を前へ引っぱり、月をより大きな軌道へ押し出す一方で、地球の自転は遅くなるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is special about the mirrors on the Moon?
special mirrors ... that reflect light straight back in the direction it came from とあるので B。
Q2. Why is the ocean bulge pulled slightly ahead of the Moon?
The Earth spins faster than the Moon orbits, so the ocean bulge is pulled slightly ahead of the Moon. とあるので A。
Q3. What can we infer about the length of a day on Earth?
最終文で Earth's rotation slows down とあるので、自転が遅くなる=1日が少しずつ長くなると推論できる。D。
The Moon is drifting away from Earth at about 3.8 centimeters per year. This figure comes from lunar laser ranging: since 1969, scientists have fired lasers at reflectors left by Apollo astronauts and timed the light's round trip of about 2.5 seconds, a technique now precise to the millimeter. The cause is tidal friction. Because the Earth rotates much faster than the Moon orbits, the ocean bulge raised by the Moon's gravity is dragged slightly ahead of it.
The bulge tugs the Moon forward, transferring energy that lifts it into a higher orbit, while the Moon's pull on the bulge acts as a brake on Earth's spin. Consequently, our days are lengthening, though only by around two thousandths of a second per century. Over hundreds of millions of years, the Moon will appear too small to cover the Sun completely, ending total solar eclipses. Two cautions apply, however.
Today's rate is unusually fast, probably because the current shape of the oceans amplifies tidal friction, so projecting it backward does not match the Moon's age. In addition, the measured lengthening of the day is smaller than tides alone would predict, partly because of land rising after ice sheets melted.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
月は1年に約3.8cmの速さで地球から遠ざかっています。この数値は月レーザー測距によって得られたものです。1969年以来、科学者たちはアポロの宇宙飛行士が残した反射鏡にレーザーを当て、約2.5秒かかる光の往復時間を測ってきました。この方法は、今ではミリ単位の精度に達しています。原因は潮汐による摩擦です。
地球は月が公転するよりもはるかに速く自転しているので、月の引力で生じた海のふくらみは月より少し先へ引きずられます。このふくらみが月を前へ引っぱり、エネルギーを渡して月をより高い軌道へ押し上げる一方、月がふくらみを引っぱる力は地球の自転のブレーキとしてはたらきます。その結果、私たちの1日は長くなっていますが、その伸びは100年でおよそ1000分の2秒にすぎません。数億年のうちには、月は小さく見えすぎて太陽を完全には隠せなくなり、皆既日食は起こらなくなるでしょう。ただし、注意点が2つあります。
現在の後退速度は異常に速く、おそらく今の海の形が潮汐の摩擦を強めているためで、この速さで過去をさかのぼると月の年齢と合いません。また、実際に測定された1日の伸びは潮汐だけから予測される値より小さく、その理由のひとつは、氷床が溶けた後に陸地が隆起していることです。
4択リーディングクイズ
Q1. What causes the Moon to move away from the Earth?
The cause is tidal friction. とあり、先回りした海のふくらみが月を前へ引っぱって高い軌道へ押し上げると説明されているので B。
Q2. According to the passage, what will happen over hundreds of millions of years?
the Moon will appear too small to cover the Sun completely, ending total solar eclipses とあるので C。
Q3. Why does projecting today's rate backward not match the Moon's age?
Today's rate is unusually fast, probably because the current shape of the oceans amplifies tidal friction とあるので A。
重要単語
- recedeC1動詞遠ざかる・後退するThe Moon recedes from Earth every year.
re-(後ろへ)+cede(行く)。名詞 recession は「景気後退」。proceed, exceed も同じ cede/ceed の仲間。 - retroreflectorC1名詞再帰反射器(来た方向へ光を返す鏡)Apollo astronauts placed a retroreflector on the Moon.
retro-(後ろへ)+reflector。自転車の反射板も同じしくみ。retro(レトロ)は「過去へ戻る」の意味から。 - tideB1名詞潮・潮汐The Moon's gravity causes ocean tides.
high tide(満潮)/low tide(干潮)。the tide is turning「形勢が変わりつつある」という比喩も頻出。 - rotationB2名詞自転・回転Earth's rotation is slowly getting slower.
rotate(回転する)の名詞形。天体では rotation=自転、revolution=公転と区別する。 - total solar eclipseC1名詞(句)皆既日食A total solar eclipse makes the sky dark during the day.
eclipse は「食」。lunar eclipse は「月食」。比喩で「影を薄くする」という動詞にもなる。 - frictionB2名詞摩擦Tidal friction slows down Earth's spin.
物理の「摩擦」のほか、人間関係の「あつれき」の意味でも使う(friction between countries)。 - lengthenB2動詞長くなる・長くするOur days are slowly lengthening.
形容詞+-en で動詞になる型。shorten, widen, strengthen も同じ作り。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- Tides(NASA Science)science.nasa.gov
4コマでわかる

このネタ、誰かに教えたくなった?
月は毎年約3.8cmずつ地球から遠ざかっている。アポロ宇宙飛行士が月に置いた鏡にレーザーを当てて測った数字。犯人は潮の満ち引きで、そのせいで地球の1日も少しずつ長くなっているらしい。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Dickey et al. (1994) Lunar Laser Ranging: A Continuing Legacy of the Apollo Program, Sciencedoi.org
- Williams & Boggs (2016) Secular tidal changes in lunar orbit and Earth rotation, Celestial Mechanics and Dynamical Astronomydoi.org
- Murphy (2013) Lunar laser ranging: the millimeter challenge, Reports on Progress in Physicsdoi.org
- NASA, Tides, NASA Sciencescience.nasa.gov
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











