火星の月フォボスは少しずつ落ちている。数千万年後、火星に「輪」ができるかもしれない

読む前に予想してみよう!
火星の衛星フォボスは、少しずつ火星から遠ざかっている
地球の月とは逆に、フォボスは潮の力で少しずつ火星に近づいている。
- 対象
- 火星の衛星フォボス
- 規模
- 探査機の観測データ+軌道・破壊のシミュレーション
- 研究の種類
- 観測と理論モデル
- 確かさ
- ★★★☆☆
火星の衛星フォボスは100年に約1.8mずつ火星に近づいている。数千万年後には火星に落ちるか、砕けて輪になると考えられている。日本の探査機MMXがその謎に挑む。
ひとことで言うと火星の月フォボスは、少しずつ火星に近づいて、いつかくだけて輪になるかも。
地球の月は、毎年少しずつ地球から遠ざかっています。ところが火星の月フォボスは、その逆。少しずつ火星に近づいているのです。
NASAによると、そのペースは100年で約1.8m。このまま近づき続けると、フォボスはいつか火星に落ちるか、砕けて輪になると考えられています。
もし輪になったら、火星は土星のような「輪のある惑星」になるかもしれません。
01フォボスは「火星すれすれ」を回る
火星には2つの小さな月があります。大きいほうがフォボス、小さいほうがダイモスです。
フォボスは、長さ27kmほどのジャガイモ形の天体。そして火星の地面から約6000kmという、とても低いところを回っています。地球の月が約38万km先にあるのと比べると、すれすれです。
しかもフォボスは、1日に約3回も火星のまわりを回ります。火星が1回自転するより速く回っているので、火星から見るとフォボスは西から昇って東に沈むのです。
02近づく理由は「潮の満ち引き」の逆転
地球の月が遠ざかる理由は、潮の力です。地球の自転が月の公転より速いので、地球のふくらみが月を前へ引っぱり、月は外へ押し出されていきます。
フォボスでは、これが逆になります。フォボスは火星の自転より速く回っているので、火星の潮のふくらみが後ろから引っぱる形になる。ブレーキをかけられたフォボスは、少しずつ内側へ落ちていくのです。

03落ちる? 砕ける?
NASAは、フォボスが5000万年以内に火星に衝突するか、砕けて輪になると紹介しています。どちらになるかは、フォボスの中身がどれくらい頑丈かによって変わります。
フォボスの表面には、何本もの平行な溝があります。アメリカのハーフォードらは2016年、この溝はフォボスが火星の潮の力ですでに引きのばされはじめている「ストレッチマーク(伸びた跡)」かもしれない、と報告しました。
04どんでん返し:フォボスは「輪から生まれた月」?
話はさらにスケールが大きくなります。
アメリカ・パデュー大学のヘッセルブロックとミントンは2017年、輪が月になり、月がまた輪になるというサイクルが、火星で何度もくり返されてきたかもしれない、という説を発表しました。
月が砕けて輪になる → 輪の外側のかけらが集まって、ひとまわり小さな新しい月ができる → その月がまた落ちて砕ける……。もしそうなら、いまのフォボスは、昔の月の「生まれ変わり」なのかもしれません。
05日本の探査機MMXが答えを取りに行く
フォボスの正体は、まだわかっていません。外から飛んできた小惑星が捕まったのか、火星に巨大な天体がぶつかって飛び散ったかけらからできたのか。
この謎に挑むのが、JAXAの火星衛星探査計画MMXです。フォボスに着陸して10g以上の砂を採り、地球に持ち帰る、世界初の挑戦。執筆時点で、H3ロケットによる打ち上げは2026年10月20日に予定されています。
06まとめ
- 火星の月フォボスは、潮の力で100年に約1.8mずつ火星に近づいている
- 数千万年後には、火星に落ちるか、砕けて火星の輪になると考えられている
- フォボスの正体を探るため、日本のMMXが砂を持ち帰りに行く
夜空の月はいつまでもそこにあるように見えます。でも宇宙では、月にも「始まり」と「終わり」があるのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOur Moon is slowly moving away from Earth, but Phobos, the larger moon of Mars, is doing the opposite.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Mars has two small moons. The bigger one is called Phobos. It goes around Mars very close to the planet. Phobos is slowly moving closer to Mars, about 1.8 meters every 100 years.
In tens of millions of years, it may crash into Mars. Or it may break into pieces and make a ring around Mars. A Japanese spacecraft called MMX plans to visit Phobos.
65 words ・ CEFR A2
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火星には2つの小さな月があります。大きいほうはフォボスと呼ばれます。フォボスは火星のすぐ近くを回っています。フォボスは100年に約1.8メートルずつ、ゆっくり火星に近づいています。
数千万年後には、火星に衝突するかもしれません。あるいは、ばらばらに砕けて火星のまわりに輪をつくるかもしれません。MMXという日本の探査機が、フォボスを訪れる計画です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フォボスが火星に近づき、衝突するか輪になるかという将来の話が中心なので B。
Q2. How fast is Phobos moving closer to Mars?
about 1.8 meters every 100 years とあるので C。単位と期間の両方を確認しよう。
Q3. In this passage, "crash into" means ...
crash into ~ は「~に激しくぶつかる」。近づき続けた結果、火星に衝突するという意味なので D。
Our Moon is slowly moving away from Earth, but Phobos, the larger moon of Mars, is doing the opposite. NASA says it is getting closer to Mars by about 1.8 meters every 100 years. Phobos orbits only about 6,000 kilometers above the Martian surface and goes around the planet about three times a day, faster than Mars spins.
Because of this, the tidal pull of Mars acts like a brake, and Phobos slowly spirals inward. Within about 50 million years, it will either crash into Mars or be torn apart to form a ring. To learn where Phobos came from, Japan's MMX mission plans to collect samples from its surface and bring them back to Earth.
116 words ・ CEFR B1
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私たちの月はゆっくり地球から遠ざかっていますが、火星の大きいほうの月フォボスは、その逆です。NASAによると、フォボスは100年に約1.8メートルずつ火星に近づいています。フォボスは火星の地表からわずか約6000キロメートルの高さを回り、1日に約3回、火星の自転より速く火星のまわりを回っています。
そのため、火星の潮の力がブレーキのように働き、フォボスはゆっくりとらせんを描いて内側へ近づいていきます。およそ5000万年以内に、フォボスは火星に衝突するか、引きちぎられて輪になるでしょう。フォボスがどこから来たのかを知るため、日本のMMX計画は、その表面から試料を採って地球に持ち帰ることを計画しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フォボスが火星に近づく理由と、衝突か輪になるという将来を説明しているので C。
Q2. How often does Phobos go around Mars?
goes around the planet about three times a day とあるので A。
Q3. What does the writer mean by saying the pull of Mars "acts like a brake"?
ブレーキのように働いた結果 Phobos slowly spirals inward(内側へ近づく)とあるので B。
While Earth's Moon is slowly receding, Phobos, the larger of Mars's two moons, is spiraling inward by roughly 1.8 meters per century. This potato-shaped body, about 27 kilometers long, orbits only about 6,000 kilometers above the surface, circling Mars roughly three times a day. Because it moves faster than Mars rotates, the tidal bulge it raises trails behind it and drags it backward, shrinking its orbit. Its fate depends on how strong its interior is.
In 2015, researchers at the University of California, Berkeley calculated that tidal forces would probably tear Phobos apart within 20 to 40 million years, creating a ring that might last between one million and 100 million years. Long grooves on its surface have been interpreted as "stretch marks" from tidal stress, though other explanations exist. A 2017 study even proposed that Mars may repeatedly cycle between moons and rings, making Phobos the descendant of earlier moons.
Scientists disagree on its origin: it could be a captured asteroid or debris from a giant impact. Japan's MMX mission, planned as of writing for launch in October 2026, aims to bring back samples to help settle the question.
190 words ・ CEFR B2
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地球の月がゆっくり遠ざかっている一方で、火星の2つの月のうち大きいほうのフォボスは、100年におよそ1.8メートルずつ、らせんを描いて内側へ近づいています。長さ約27キロメートルのジャガイモ形のこの天体は、地表からわずか約6000キロメートルの高さを、1日におよそ3回のペースで回っています。火星の自転より速く動いているため、フォボスが引き起こす潮のふくらみはフォボスより遅れ、フォボスを後ろへ引きずって軌道を縮めていきます。その運命は、内部がどれだけ頑丈かによって決まります。
2015年、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちは、フォボスはおそらく2000万〜4000万年以内に潮の力で引きちぎられ、100万年から1億年ほど続くかもしれない輪をつくると計算しました。表面にある長い溝は、潮のひずみによる「ストレッチマーク(伸びた跡)」と解釈されてきましたが、ほかの説明もあります。2017年の研究は、火星では月と輪が何度も入れ替わってきた可能性があり、フォボスは昔の月の子孫かもしれないとまで提案しました。その起源については意見が分かれています。
捕獲された小惑星かもしれないし、巨大衝突の破片かもしれないのです。執筆時点で2026年10月の打ち上げが予定されている日本のMMX計画は、この問題に決着をつける助けとして試料の持ち帰りを目指しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Which best summarizes the passage?
フォボスが内側へ近づき砕ける可能性と、内部の強さがはっきりせず、起源にも意見の分かれがあることを述べているので A。MMX は打ち上げ予定の段階。
Q2. According to the 2015 calculation, what will most likely happen to Phobos?
tidal forces would probably tear Phobos apart ..., creating a ring とあるので D。
Q3. Why does the author mention that "other explanations exist" for the grooves?
溝を潮のひずみの跡とする解釈を紹介しつつ、ほかの説明もあると添えて、確定ではないことを示しているので C。
重要単語
- spiralB2動詞・名詞らせん状に進む/らせんPhobos is spiraling toward Mars.
spiral staircase「らせん階段」。比喩で prices spiral「物価が急上昇する」とも言う。 - tidal forceC1名詞(句)潮汐力Tidal forces may tear Phobos apart.
tide(潮)の形容詞 tidal。引力の強さが場所によって違うことで生じる、物を引きのばす力。 - grooveC1名詞溝Long grooves cover the surface of Phobos.
レコードの溝、タイヤの溝など。音楽の「グルーヴ(ノリ)」も同じ語。 - captured asteroidC1名詞(句)捕獲された小惑星Some think Phobos is a captured asteroid.
capture(捕らえる)の過去分詞。惑星の重力に捕まって衛星になった小惑星のこと。 - sample returnC1名詞(句)試料の持ち帰りMMX is a sample return mission.
日本の「はやぶさ」シリーズで有名になった方式。sample return mission の形でよく使う。 - ringA2名詞輪、環Mars may have a ring in the future.
指輪、ボクシングのリング、電話が鳴る(ring)など意味が多い。惑星の環は rings と複数形が多い。 - recedeC1動詞遠ざかる、後退するEarth's Moon is slowly receding.
re-(後ろへ)+cede(行く)。a receding hairline「後退する生え際」。名詞は recession(景気後退)。
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- Phobos(NASA Science)science.nasa.gov
- MMX ミッション概要(JAXA)mmx.jaxa.jp
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地球の月は遠ざかっているのに、火星の月フォボスは逆に火星へ近づいている。NASAによると100年で約1.8m。数千万年後には火星に落ちるか、砕けて「火星の輪」になるらしい。その砂を持ち帰る日本の探査機MMXも出発間近。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Black & Mittal (2015) The demise of Phobos and development of a Martian ring system, Nature Geosciencedoi.org
- Hesselbrock & Minton (2017) An ongoing satellite–ring cycle of Mars and the origins of Phobos and Deimos, Nature Geosciencedoi.org
- Hurford et al. (2016) Tidal disruption of Phobos as the cause of surface fractures, Journal of Geophysical Research: Planetsdoi.org
- NASA Science, Phobosscience.nasa.gov
- JAXA, MMX ミッション概要・ミッションフローmmx.jaxa.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












