宇宙・NASAホント

火星の月フォボスは少しずつ落ちている。数千万年後、火星に「輪」ができるかもしれない

火星の月フォボスは少しずつ落ちている。数千万年後、火星に「輪」ができるかもしれない

読む前に予想してみよう!

火星の衛星フォボスは、少しずつ火星から遠ざかっている

研究カード(どんな研究?)
対象
火星の衛星フォボス
規模
探査機の観測データ+軌道・破壊のシミュレーション
研究の種類
観測と理論モデル
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

火星の衛星フォボスは100年に約1.8mずつ火星に近づいている。数千万年後には火星に落ちるか、砕けて輪になると考えられている。日本の探査機MMXがその謎に挑む。

ひとことで言うと火星の月フォボスは、少しずつ火星に近づいて、いつかくだけて輪になるかも。

もくじ
  1. フォボスは「火星すれすれ」を回る
  2. 近づく理由は「潮の満ち引き」の逆転
  3. 落ちる? 砕ける?
  4. どんでん返し:フォボスは「輪から生まれた月」?
  5. 日本の探査機MMXが答えを取りに行く
  6. まとめ

地球の月は、毎年少しずつ地球から遠ざかっています。ところが火星の月フォボスは、その逆。少しずつ火星に近づいているのです。

NASAによると、そのペースは100年で約1.8m。このまま近づき続けると、フォボスはいつか火星に落ちるか、砕けて輪になると考えられています。

もし輪になったら、火星は土星のような「輪のある惑星」になるかもしれません。

01フォボスは「火星すれすれ」を回る

火星には2つの小さな月があります。大きいほうがフォボス、小さいほうがダイモスです。

フォボスは、長さ27kmほどのジャガイモ形の天体。そして火星の地面から約6000kmという、とても低いところを回っています。地球の月が約38万km先にあるのと比べると、すれすれです。

しかもフォボスは、1日に約3回も火星のまわりを回ります。火星が1回自転するより速く回っているので、火星から見るとフォボスは西から昇って東に沈むのです。

02近づく理由は「潮の満ち引き」の逆転

地球の月が遠ざかる理由は、潮の力です。地球の自転が月の公転より速いので、地球のふくらみが月を前へ引っぱり、月は外へ押し出されていきます。

フォボスでは、これが逆になります。フォボスは火星の自転より速く回っているので、火星の潮のふくらみが後ろから引っぱる形になる。ブレーキをかけられたフォボスは、少しずつ内側へ落ちていくのです。

フォボスは少しずつ火星へ近づき、やがて砕けて輪になるかもしれない
フォボスは少しずつ火星へ近づき、やがて砕けて輪になるかもしれない

03落ちる? 砕ける?

NASAは、フォボスが5000万年以内に火星に衝突するか、砕けて輪になると紹介しています。どちらになるかは、フォボスの中身がどれくらい頑丈かによって変わります。

フォボスの表面には、何本もの平行な溝があります。アメリカのハーフォードらは2016年、この溝はフォボスが火星の潮の力ですでに引きのばされはじめている「ストレッチマーク(伸びた跡)」かもしれない、と報告しました。

04どんでん返し:フォボスは「輪から生まれた月」?

話はさらにスケールが大きくなります。

アメリカ・パデュー大学のヘッセルブロックとミントンは2017年、輪が月になり、月がまた輪になるというサイクルが、火星で何度もくり返されてきたかもしれない、という説を発表しました。

月が砕けて輪になる → 輪の外側のかけらが集まって、ひとまわり小さな新しい月ができる → その月がまた落ちて砕ける……。もしそうなら、いまのフォボスは、昔の月の「生まれ変わり」なのかもしれません。

05日本の探査機MMXが答えを取りに行く

フォボスの正体は、まだわかっていません。外から飛んできた小惑星が捕まったのか、火星に巨大な天体がぶつかって飛び散ったかけらからできたのか。

この謎に挑むのが、JAXAの火星衛星探査計画MMXです。フォボスに着陸して10g以上の砂を採り、地球に持ち帰る、世界初の挑戦。執筆時点で、H3ロケットによる打ち上げは2026年10月20日に予定されています。

06まとめ

  • 火星の月フォボスは、潮の力で100年に約1.8mずつ火星に近づいている
  • 数千万年後には、火星に落ちるか、砕けて火星の輪になると考えられている
  • フォボスの正体を探るため、日本のMMXが砂を持ち帰りに行く

夜空の月はいつまでもそこにあるように見えます。でも宇宙では、月にも「始まり」と「終わり」があるのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOur Moon is slowly moving away from Earth, but Phobos, the larger moon of Mars, is doing the opposite. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Our Moon is slowly moving away from Earth, but Phobos, the larger moon of Mars, is doing the opposite. NASA says it is getting closer to Mars by about 1.8 meters every 100 years. Phobos orbits only about 6,000 kilometers above the Martian surface and goes around the planet about three times a day, faster than Mars spins.

Because of this, the tidal pull of Mars acts like a brake, and Phobos slowly spirals inward. Within about 50 million years, it will either crash into Mars or be torn apart to form a ring. To learn where Phobos came from, Japan's MMX mission plans to collect samples from its surface and bring them back to Earth.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

私たちの月はゆっくり地球から遠ざかっていますが、火星の大きいほうの月フォボスは、その逆です。NASAによると、フォボスは100年に約1.8メートルずつ火星に近づいています。フォボスは火星の地表からわずか約6000キロメートルの高さを回り、1日に約3回、火星の自転より速く火星のまわりを回っています。

そのため、火星の潮の力がブレーキのように働き、フォボスはゆっくりとらせんを描いて内側へ近づいていきます。およそ5000万年以内に、フォボスは火星に衝突するか、引きちぎられて輪になるでしょう。フォボスがどこから来たのかを知るため、日本のMMX計画は、その表面から試料を採って地球に持ち帰ることを計画しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How often does Phobos go around Mars?

Q3. What does the writer mean by saying the pull of Mars "acts like a brake"?

重要単語

  • spiralB2
    動詞・名詞らせん状に進む/らせんPhobos is spiraling toward Mars. spiral staircase「らせん階段」。比喩で prices spiral「物価が急上昇する」とも言う。
  • tidal forceC1
    名詞(句)潮汐力Tidal forces may tear Phobos apart. tide(潮)の形容詞 tidal。引力の強さが場所によって違うことで生じる、物を引きのばす力。
  • grooveC1
    名詞溝Long grooves cover the surface of Phobos. レコードの溝、タイヤの溝など。音楽の「グルーヴ(ノリ)」も同じ語。
  • captured asteroidC1
    名詞(句)捕獲された小惑星Some think Phobos is a captured asteroid. capture(捕らえる)の過去分詞。惑星の重力に捕まって衛星になった小惑星のこと。
  • sample returnC1
    名詞(句)試料の持ち帰りMMX is a sample return mission. 日本の「はやぶさ」シリーズで有名になった方式。sample return mission の形でよく使う。
  • ringA2
    名詞輪、環Mars may have a ring in the future. 指輪、ボクシングのリング、電話が鳴る(ring)など意味が多い。惑星の環は rings と複数形が多い。
  • recedeC1
    動詞遠ざかる、後退するEarth's Moon is slowly receding. re-(後ろへ)+cede(行く)。a receding hairline「後退する生え際」。名詞は recession(景気後退)。

動画でもっと知る

4コマでわかる

火星の月フォボスは少しずつ落ちている。数千万年後、火星に「輪」ができるかもしれないの4コマ漫画
地球の月は遠ざかっているのに、火星の月フォボスは逆に火星へ近づいている。NASAによると100年で約1.8m。数千万年後には火星に落ちるか、砕けて「火星の輪」になるらしい。その砂を持ち帰る日本の探査機MMXも出発間近。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Black & Mittal (2015) The demise of Phobos and development of a Martian ring system, Nature Geosciencedoi.org
  2. Hesselbrock & Minton (2017) An ongoing satellite–ring cycle of Mars and the origins of Phobos and Deimos, Nature Geosciencedoi.org
  3. Hurford et al. (2016) Tidal disruption of Phobos as the cause of surface fractures, Journal of Geophysical Research: Planetsdoi.org
  4. NASA Science, Phobosscience.nasa.gov
  5. JAXA, MMX ミッション概要・ミッションフローmmx.jaxa.jp