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宇宙・NASA

地球の雲は普通、小さなチリにくっついてできるのに、火星の長さ1800kmにもなる雲はチリなしで凍っているらしい

地球の雲は普通、小さなチリにくっついてできるのに、火星の長さ1800kmにもなる雲はチリなしで凍っているらしい

読む前に予想してみよう!

火星のアルシア山から伸びる細長い雲は、火山の噴煙だ

研究カード(どんな研究?)
対象
火星のアルシア山の細長い雲
規模
火星の天気をコンピューターで計算して雲を再現(探査機の観測と比較)
研究の種類
コンピューターシミュレーション研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

地球の雲の粒は、空気中にただよう目に見えないほど小さなチリに、水蒸気がくっついてできる。ところが火星の火山の西に朝だけ伸びる、長さ1800kmにもなる雲は、チリにくっつかずに水蒸気がそのまま氷になってできているらしい。火星の天気をコンピューターで計算し、そう考えたときに雲をうまく再現できた。

ひとことで言うと地球の雲と違って、火星の長い雲はチリなしで水蒸気がそのまま氷になったのかも!

もくじ
  1. 夜明けに生まれ、昼前には消える1,800kmの雲
  2. 地球の雲の粒は、小さなチリにくっついてできる
  3. 水蒸気がチリなしで直接凍ると計算したら、雲を再現できた
  4. 注意:「見た」のではなく「計算で再現できた」
  5. まとめ

火星の赤道の少し南に、アルシア山という火山があります。高さは約20km(ESAの説明)で、富士山のおよそ5倍。とがった山ではなく、すそ野がとても広い、なだらかな形の火山です。

火星の南半球が春から夏になる数か月のあいだ、この火山の西側から、毎朝、白く細長い雲が伸びていきます。長さは最大で約1,800km。北海道の稚内から鹿児島までの直線距離とほぼ同じです。そして昼前には消えてしまいます。

2026年10月7日、この雲の正体に迫る論文が、科学誌『Nature Geoscience』に載りました。結論は「この雲は、空気中のチリにくっつかずに、水蒸気がそのまま凍ってできているらしい」。地球や金星のはるか上空で、理論の上では起こりうるとされてきたものの、自然界ではまだ一度も観測されたことのない雲の作り方です。

01夜明けに生まれ、昼前には消える1,800kmの雲

この雲は、英語で「アルシア山の細長い雲(Arsia Mons Elongated Cloud)」と呼ばれています。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機マーズ・エクスプレスの画像で2018年に注目されました。昔の画像を探し直すと、1977年にNASAのバイキング2号が撮った写真にも写っていました。

長く見落とされていたのには、理由があります。火星を回る探査機の多くは、いつも午後の時間帯の地域を撮る軌道を回っています。朝だけ現れて昼前に消える雲は、写りにくかったのです。

同じ研究者らが2021年に発表した観測の論文によると、雲の1日はこう進みます(時刻は、火星の1日を24等分した「火星の時計」)。

  • 夜明け前:火山の西の斜面の上で、雲の「頭」ができる
  • 日の出から約2.5時間:雲が西へ、秒速約170m(時速約600km)で伸びていく。高さは、火星の"海面"にあたる基準の高さから約45km
  • 朝8時半ごろ:雲が火山から離れ、西へ流されながら薄くなっていく
  • 昼前:蒸発して見えなくなる(午後まで残らない)

雲の幅は、たいてい200km未満。長さに比べると、まさに細い"しっぽ"です。しかもこの季節は、火星の空にチリが多く、雲があまりできない時期にあたります。

朝、火山の西側から雲が夜の側へ伸びていく(イメージ)
朝、火山の西側から雲が夜の側へ伸びていく(イメージ)

02地球の雲の粒は、小さなチリにくっついてできる

地球の雲は、湿った空気が冷えて、水蒸気が水や氷の粒に変わってできます。このとき水蒸気は、何もない空中でいきなり粒になるのではありません。塩、花粉、すす、チリなどのとても小さな粒にくっついて、粒になります。この小さな粒が、雲の粒の「芯」です。火星では、チリが芯になると考えられてきました。

芯なしで、水蒸気だけが直接氷の粒になる作り方も、理論の上ではありえます。ただし、そのためには空気が極端に湿っていなければなりません。ESAの説明では、必要な湿り気は、ふだん地球で私たちが経験する湿度の10万倍以上です。湿度100%は、空気が含みきれる量ちょうどの水蒸気を含んだ状態。それを桁違いに超えなければならないのです。普通はそこまで湿る前に、空中の芯に水蒸気がくっついて雲ができてしまいます。

今回の論文の著者の一人、マーッタネンさんらは、2005年の論文で次のように結論していました。火星の雲は、おもにチリを芯にしてできる。芯なしの作り方は、空気が含みきれる量を大きく超える水蒸気が必要なので、起こりそうにない。

地球では、夏の極地方のはるか上空(中間圏と呼ばれる、地上から50〜85kmほどの空気の層)にできる雲で、芯なしの作り方が起きているのではないかという仮説が出されてきました(2009年の研究など)。ESAによると、金星の上空でも可能性が指摘されていました。でも、どこでも実際に見つかった例はありません。

03水蒸気がチリなしで直接凍ると計算したら、雲を再現できた

研究したのは、フランス・パリの気象力学研究所(LMD)のエルナンデス=ベルナルさんたち4人です。エルナンデス=ベルナルさんは、2021年の観測の論文も中心になってまとめた研究者です。

チームは、火星の天気をコンピューターで計算する「気象モデル」を使いました。雲の芯はチリだけという、これまでの前提で計算しても、この細長い雲はうまく再現できませんでした。そこで、芯なしで水蒸気から直接氷ができる仕組みを計算に加えたところ、細長い雲の特徴を再現できたのです。

ESAの説明をもとにすると、雲ができる流れはこうです。

  1. 風が火山のそばを流れると、空気が上下にうねる大きな「波」ができる
  2. 波が湿った空気を、数分で数kmも持ち上げる
  3. 高く上がった空気は一気に冷え、10分で約30度も温度が下がる。冷えた空気は水蒸気をあまり含めないため、湿り気(湿度)が急に高まる
  4. モデルの中では、ここで芯を待たずに、水蒸気が直接氷の粒になる

04注意:「見た」のではなく「計算で再現できた」

この研究は、芯なしで氷の粒ができる瞬間を、探査機が直接とらえたものではありません。気象モデルで「芯なし」を入れたら雲を再現できた、という結果です。

  • ESAの記事でも、モデルの雲には観測と完全には合わない部分があると書かれている
  • 論文の最初の短いまとめ(要旨)も、「示した」とは書いていない。「強く示唆する(strongly suggests)」という言い方にとどめている

05まとめ

雲の粒は、小さなチリにくっついてできる。これは地球の雲のでき方の基本です。火星のアルシア山で毎朝伸びる1,800kmの雲は、チリなしで水蒸気がそのまま凍る、その例外かもしれません。

ただし、今はまだ「計算で再現できた」段階です。著者らは要旨で、この結果は、地球の一部の雲、もしかするとほかの惑星の雲の作り方についても、今の前提を問い直すものだと書いています。火山の西で雲が生まれる瞬間の氷の粒を、探査機が詳しく測れる日が来れば、答えにもっと近づけるでしょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEvery morning for a few months of the Martian year, a thin cloud of water ice starts to form on the west… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Every morning for a few months of the Martian year, a thin cloud of water ice starts to form on the west side of Arsia Mons, a volcano about 20 kilometers high. For about two and a half hours it stretches west at roughly 170 meters per second, and it can reach 1,800 kilometers. By noon it has disappeared.

Clouds usually need tiny specks, such as dust or salt, for water vapor to stick to. A team in Paris added another process to a computer model of the weather on Mars, in which water vapor freezes straight into ice with no speck at all. With this change, the model finally produced the long cloud. This process needs extremely humid air, and nobody has ever directly observed it in nature.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

火星の1年のうち数か月、毎朝、高さ約20キロメートルの火山アルシア山の西側で、水の氷でできた細い雲ができ始める。約2時間半のあいだ、雲は秒速およそ170メートルで西へのび、1,800キロメートルに達することもある。昼までには消えている。

雲にはふつう、水蒸気がくっつくための、チリや塩のような小さな粒が必要だ。パリの研究チームは、火星の天気を計算するコンピューターモデルに、水蒸気が粒なしでそのまま氷に凍るという、もう一つの過程を加えた。こうして、モデルはようやく長い雲を作り出した。この過程には極端に湿った空気が必要で、自然界で直接観測した人はこれまでいない。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How fast does the cloud stretch to the west?

Q3. What can we infer about the team's result?

重要単語

  • elongatedC1
    形容詞細長くのびたThe elongated cloud stretched far to the west. long と同じ語源。elongate は「長くする・のびる」。an elongated shape(細長い形)のように形を説明するときに使う
  • water vaporB1
    名詞水蒸気Water vapor turns into ice when the air gets very cold. イギリス式のつづりは vapour。vapor は「ヴェイパー」と読む。evaporate(蒸発する)も同じ仲間の語
  • humidityB2
    名詞湿度、湿り気The humidity rose quickly as the air cooled. 形容詞は humid(じめじめした)。high humidity(高い湿度)、relative humidity(相対湿度)の形でよく出る
  • speckC1
    名詞小さな粒、しみA speck of dust can help a cloud drop form. a speck of ~ で「ほんの小さな~」。a speck of dust(ちりひとつ)はよく使う組み合わせ
  • freezeA2
    動詞凍る、凍らせるWater vapor can freeze straight into ice. freeze - froze - frozen と変化する。freeze into ~ で「凍って~になる」
  • simulationB2
    名詞(コンピューターによる)模擬計算、シミュレーションThe simulation showed a long cloud next to the volcano. 動詞は simulate(まねる・再現する)。similar(似ている)と同じく「似せる」という語源
  • volcanoA2
    名詞火山Arsia Mons is a huge volcano on Mars. 複数形は volcanoes。ローマ神話の火の神ウルカヌス(Vulcan)が語源。形容詞は volcanic
雲の粒は普通、空気中の目に見えないほど小さなチリに水蒸気がくっついてできる。ところが火星の火山の西に朝だけ伸びる、長さ1800kmにもなる雲は、チリなしで水蒸気がそのまま氷になっているらしい。自然界ではまだ観測例のないでき方で、今回はコンピューターの計算で再現した段階。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Hernández-Bernal et al. (2026) Homogeneous ice nucleation from water vapour suggested by elongated clouds on Mars, Nature Geosciencedoi.org
  2. Hernández-Bernal et al. (2021) An Extremely Elongated Cloud Over Arsia Mons Volcano on Mars: I. Life Cycle, Journal of Geophysical Research: Planetsdoi.org
  3. Määttänen et al. (2005) Nucleation studies in the Martian atmosphere, Journal of Geophysical Research: Planetsdoi.org
  4. Maltagliati et al. (2011) Evidence of Water Vapor in Excess of Saturation in the Atmosphere of Mars, Sciencedoi.org
  5. Zasetsky et al. (2009) Thermodynamics of homogeneous nucleation of ice particles in the polar summer mesosphere, Atmospheric Chemistry and Physicsdoi.org