夏休みの宿題が終わらないのは意志が弱いせいだけじゃない。「計画錯誤」の正体

読む前に予想してみよう!
「最悪の場合でも何日で終わる?」と聞かれて答えた日数なら、たいてい間に合う
卒論の実験では、「最悪の場合」の予想日数までに終えられた学生は半数に満たない約49%で、予想の平均(約49日)も実際の平均(約55日)を下回った。
- 対象
- 大学生など
- 規模
- 各実験 数十〜百数十人
- 研究の種類
- 予測と実績の比較研究・実験・レビュー
- 確かさ
- ★★★★☆
人は作業にかかる時間を、過去の経験があってもなお短く見積もってしまう。卒業論文の実験では、予想34日に対して実際は平均55日かかった。
ひとことで言うと「すぐ終わる」は脳のいつものカンちがい。多めに見積もろう!
「宿題なんて、最後の1週間でやれば余裕でしょ」
そう言っていたはずが、気づけば8月31日の夜。ドリルと絵日記を前に、家族総出の大騒ぎ…。
毎年くり返してしまうこの悲劇。実は、意志が弱いからだけではありません。人間には、作業にかかる時間を短く見積もってしまうクセがあるんです。心理学では「計画錯誤」と呼ばれます。
01ノーベル賞学者が名付けた「計画のワナ」
この現象に名前をつけたのは、のちにノーベル経済学賞を受賞する心理学者カーネマンさんと、共同研究者のトヴェルスキーさん。1979年の論文のことです。
計画錯誤のポイントは、過去に何度も遅れた経験があるのに、次こそは大丈夫だと思ってしまうところ。去年も宿題が終わらなかったのに、今年もやっぱり「余裕でしょ」と思ってしまうのです。
02卒業論文で確かめた「予想と現実」
「最悪の場合」を想像しても、まだ少し甘くなりがち。これが計画錯誤のこわいところです。
03世界的な建物でも起きていた
計画錯誤は、個人の宿題だけの話ではありません。
有名なのが、オーストラリアのシドニー・オペラハウス。もともとは1963年ごろの完成予定でしたが、実際の完成は1973年。費用も当初の見積もりを大幅に上回ったといわれています。
大きなプロジェクトほど、予想外のトラブルが積み重なって遅れやすいのです。デンマーク出身の計画学者フライヴビヤさんらは、世界の道路・鉄道・橋やトンネルなどの交通インフラ事業のデータを集め、予算超過が「例外」ではなく「ふつう」であることを示してきました。ただし巨大事業の見積もりの甘さには、心理だけでなく、予算を通すために見積もりを甘くする政治的な事情も絡んでいると指摘されています。

04なぜ短く見積もってしまうの?
研究者たちは、主な理由として次のようなものを挙げています。
- 「うまくいく場面」ばかり想像する:途中で寝坊する、友だちに遊びに誘われる、といったジャマを計算に入れない
- 過去の失敗を「特別な例外」と考える:「去年は風邪をひいたから遅れただけ」
- 早く終わってほしいという願望が、予想を楽観的にゆがめる
たとえるなら、カーナビの到着予想を「全部の信号が青だった場合」で計算しているようなもの。現実には、必ずどこかで赤信号に引っかかります。
05「分解」と「過去の自分」で見積もり直す
対策として、研究で効果が示されているのが作業を細かく分解する方法です。
2004年、アメリカのクルーガーさんらの実験では、作業を小さなステップに分けて書き出した人のほうが、所要時間をより現実的に見積もれる傾向がありました。ただし、この効果が出やすいのは「いくつもの工程がある複雑な作業」で、単純な作業では差が小さかったと報告されています。
もう一つは、「今回の計画」ではなく「過去の似た作業に実際どれくらいかかったか」を基準にすること。専門家はこれを「外からの視点」と呼び、巨大プロジェクトの見積もりでは「参照クラス予測」という手法として実際に使われています。
計画を立てても手がつかない「先延ばし」の方は、先延ばしのメタ分析の記事で。
06まとめ
宿題が終わらないのは、意志の弱さだけではなく、多くの人が持っている見積もりのクセのせい。最悪の想定でも、まだ少し甘くなりがちなのです。
だからこそ、「自分はきっと短く見積もっている」と最初から疑ってかかる。それが、8月31日の悲劇を防ぐいちばんの近道かもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe planning fallacy is our tendency to underestimate how long a task will take, even when we know that…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many students say, "I can finish my summer homework in the last week." But they often can't. People usually think a job will take less time than it really does. This is called the planning fallacy.
In one study, university students thought their final paper would take about 34 days. It really took about 55 days. To plan better, break a big job into small steps.
66 words ・ CEFR A2
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多くの生徒は「夏休みの宿題は最後の1週間で終わらせられる」と言います。でも、たいていは終わりません。人はふつう、作業が実際よりも短い時間で終わると考えます。これは計画錯誤と呼ばれます。
ある研究で、大学生は卒業論文に約34日かかると考えていました。実際には約55日かかりました。もっとうまく計画するには、大きな作業を小さなステップに分けましょう。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
作業時間を短く見積もる「計画錯誤」がテーマなので C。
Q2. How long did the final paper really take?
It really took about 55 days. とあるので D。34日は予想。
Q3. In this passage, "break a big job into small steps" means ...
break A into B は「AをBに分ける」。大きな作業を小さな段階に分ける、なので A。
The planning fallacy is our tendency to underestimate how long a task will take, even when we know that similar tasks took longer in the past. The term was introduced by Daniel Kahneman and Amos Tversky in 1979. In a 1994 study, university students predicted that their final thesis would take about 34 days, but it actually took about 55 days, and only about 30% finished as predicted.
Even when asked how long it would take if everything went badly, they guessed about 49 days, which was still a bit short. One reason is that we imagine things going smoothly and forget about interruptions. Breaking a task into steps and checking how long similar tasks really took can help.
119 words ・ CEFR B1
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計画錯誤とは、似た作業が過去に長くかかったと知っていても、作業にかかる時間を短く見積もってしまう傾向です。この用語は1979年にダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによって導入されました。1994年の研究では、大学生は卒業論文に約34日かかると予想しましたが、実際には約55日かかり、予想どおりに終えたのは約30%だけでした。
すべてが悪く進んだ場合にどれくらいかかるかと聞かれたときでさえ、彼らの予想は約49日で、それでもまだ少し短めでした。理由の1つは、私たちは物事が順調に進む場面を想像し、途中で入るじゃまを忘れてしまうことです。作業をステップに分け、似た作業に実際どれくらいかかったかを確かめることが役に立ちます。
4択リーディングクイズ
Q1. About what percentage of students finished their thesis as predicted?
only about 30% finished as predicted とあるので A。
Q2. What was surprising about the "worst-case" prediction?
最悪の場合の予想約49日でも which was still a bit short(実際の約55日よりやや短い)なので C。
Q3. Why do people tend to make this mistake, according to the passage?
we imagine things going smoothly and forget about interruptions とあるので C。
In a 1994 Canadian study, students writing an undergraduate thesis predicted that it would take them about 34 days on average. It took about 55, and only around 30% finished by the date they had predicted.
Even their "worst-case" estimates, which averaged about 49 days, still fell slightly short. Kahneman and Tversky had named this tendency the planning fallacy in 1979. We underestimate the time our own tasks will take, even when we know that similar tasks have overrun before.
Researchers point to several causes. People imagine optimistic scenarios that leave out obstacles, treat past delays as special exceptions, and let their wish to finish early color their forecasts. The bias also affects huge projects. The Sydney Opera House was originally expected to be finished around 1963 and was completed only in 1973.
Data on infrastructure projects show that cost overruns are the norm, although political incentives to win approval also play a role there. Two remedies have empirical support. In a 2004 experiment, breaking a task into its components produced more realistic estimates, though mainly for complex tasks. Basing forecasts on how long comparable tasks actually took, an approach known as the outside view, can also reduce optimism.
199 words ・ CEFR B2
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1994年のカナダの研究で、卒業論文を書いている学生たちは、平均で約34日かかると予想しました。実際には約55日かかり、予想した日までに終えたのは約30%だけでした。
「最悪の場合」の見積もりでさえ平均約49日で、現実にはわずかに届きませんでした。カーネマンとトヴェルスキーは1979年、この傾向を「計画錯誤」と名づけていました。私たちは、似た作業が以前に予定をオーバーしたと知っていても、自分の作業にかかる時間を少なく見積もってしまうのです。研究者たちはいくつかの原因を挙げています。
人は障害を省いた楽観的なシナリオを思い描き、過去の遅れを特別な例外として扱い、早く終えたいという願いで予測をゆがめてしまいます。このバイアスは巨大なプロジェクトにも影響します。シドニー・オペラハウスは、もともと1963年ごろに完成する予定でしたが、完成したのは1973年でした。インフラ事業のデータでは、予算超過が当たり前になっています。
ただし、そこには承認を得たいという政治的な動機も関わっています。2つの対策には実証的な裏づけがあります。2004年の実験では、作業を要素に分けると、より現実的な見積もりになりました。ただし、それは主に複雑な作業の場合でした。また、似た作業に実際どれだけかかったかをもとに予測する、「外部の視点」と呼ばれる方法も、楽観を減らすことができます。
4択リーディングクイズ
Q1. Which of the following is NOT given as a cause of the planning fallacy?
障害を省いたシナリオ、過去の遅れを例外扱い、早く終えたい願いの3つが挙げられている。計画する時間不足は本文にないので D。
Q2. What does the author say about large infrastructure projects?
cost overruns are the norm, although political incentives to win approval also play a role there とあるので B。
Q3. What limitation is mentioned for breaking a task into components?
though mainly for complex tasks とあり、効果が主に複雑な作業に限られるので A。
重要単語
- underestimateB2動詞少なく見積もるI always underestimate how long homework takes.
under-(下に)+estimate。反対は overestimate。名詞としても使える。 - deadlineB1名詞締め切りThe deadline for the report is Friday.
meet the deadline(締め切りに間に合わせる)、miss the deadline(間に合わない)がコロケーション。 - estimateB2名詞・動詞見積もり/見積もるCan you estimate the cost of the trip?
発音は名詞 /ˈestɪmət/、動詞 /ˈestɪmeɪt/ で異なる。rough estimate=ざっとした見積もり。 - fallacyC1名詞誤った考え、誤謬It is a fallacy that more hours always mean more learning.
planning fallacy, gambler's fallacy など「~の誤謬」の形で心理学用語に多い。 - break downB1句動詞(細かく)分解する、故障するBreak down a big task into smaller steps.
自動詞では「故障する・泣き崩れる」。名詞 breakdown(内訳・故障)。 - overrunC1動詞・名詞(予定・予算を)超過する/超過The project overran its budget.
cost overrun=予算超過。over(越えて)+run。 - scenarioB2名詞筋書き、想定In the worst-case scenario, we will be a week late.
worst-case scenario(最悪の場合の想定)は定番表現。複数形 scenarios。
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夏休みの宿題が終わらないのは、意志が弱いからとは限らない。人は作業時間を短く見積もるクセ「計画錯誤」を持っているらしい。卒論の実験では、予想34日に対して実際は平均55日。「最悪の場合」の予想より長くかかった人も、約半数いたんだとか。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Buehler, Griffin & Ross (1994) Exploring the "planning fallacy": Why people underestimate their task completion times, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Kahneman & Tversky (1979/1982) Intuitive prediction: Biases and corrective procedures, Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases(再録)doi.org
- Kruger & Evans (2004) If you don't want to be late, enumerate: Unpacking reduces the planning fallacy, Journal of Experimental Social Psychologydoi.org
- Buehler, Griffin & Peetz (2010) The planning fallacy: Cognitive, motivational, and social origins, Advances in Experimental Social Psychologydoi.org
- Flyvbjerg (2006) From Nobel Prize to project management: Getting risks right, Project Management Journaldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










