動物・植物ホント

虫にかじられた植物は「助けて」の匂いを出す。天敵のハチを呼ぶ“SOSの化学”

虫にかじられた植物は「助けて」の匂いを出す。天敵のハチを呼ぶ“SOSの化学”

読む前に予想してみよう!

植物は、傷ついた仲間が出す匂いを受けとって自分の守りを固めることがある

研究カード(どんな研究?)
対象
トウモロコシ、野生タバコ、トマト、シロイヌナズナ
規模
実験室と野外
研究の種類
行動実験・化学分析・イメージング
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

イモムシにかじられたトウモロコシは特別な匂いを出し、イモムシに卵を産む寄生バチを呼び寄せる。近くの植物もその匂いを受けとって守りを固める。

ひとことで言うとかじられた植物は、においで「たすけて!」とボディガードをよぶ!

もくじ
  1. イモムシの「口の液」がスイッチ
  2. 野生の世界でも本当に効いていた
  3. 隣の植物は「匂いを飲みこんで」身構える
  4. まとめ

芝刈りのあとに広がる、あの青くさい匂い。夏らしくて好きだという人も多いでしょう。

でも植物の立場からすると、あれは「ケガをした!」というサイン。しかも植物は、この“匂いの言葉”を使って、自分を食べる虫の天敵をわざわざ呼び寄せていることがわかってきました。

01イモムシの「口の液」がスイッチ

ポイントは、植物が「ただの傷」と「イモムシにかじられた傷」を区別していること。そして出す匂いが、イモムシの天敵にとっての“ここにいるよ”の看板になっていることです。

寄生バチに卵を産みつけられたイモムシは、やがて体の中から食べられてしまいます。植物は、自分で戦うかわりに用心棒を呼んでいるわけです。

かじられた葉の匂いをたどって、イモムシの天敵がやってくる
かじられた葉の匂いをたどって、イモムシの天敵がやってくる

02野生の世界でも本当に効いていた

「実験室の話でしょ?」と思うかもしれません。そこでドイツ・マックスプランク研究所のケスラー(Kessler)さんとボールドウィン(Baldwin)さん(2001年、『Science』)は、アメリカの砂漠に自生する野生のタバコで確かめました。

植物が出す匂い物質をいくつか人工的に放出させたところ、

  • 天敵の虫が、害虫の卵を食べる率が上がった
  • ある匂い(リナロール)では、害虫の蛾が卵を産みに来にくくなった

研究チームは、匂いを出すことで害虫の数を9割以上減らせる可能性があると見積もりました。

03隣の植物は「匂いを飲みこんで」身構える

この匂いを受けとるのは、虫だけではありません。

日本の研究チーム(Sugimotoら、2014年、『PNAS』)は、イモムシに食べられているトマトの隣に別のトマトを置きました。すると隣の株は、空気中の青葉の匂い成分((Z)-3-ヘキセノール)を取りこみ、それをイモムシに効く物質に作りかえてためこんでいたのです。

さらに2023年、埼玉大学などのチーム(Aratani、Toyotaら、『Nature Communications』)は、シロイヌナズナが傷ついた植物の匂いを浴びると、葉の気孔から匂いが入り、細胞のカルシウム信号がすばやく広がる様子を映像でとらえました。植物の「嗅覚」のしくみの一端が、目で見えたのです。

04まとめ

植物はただ食べられているだけの“受け身の存在”ではありませんでした。かじられたら匂いで助けを呼び、仲間の匂いを感じたら先回りして守りを固める。

次に草刈りの匂いをかいだら、思い出してください。いまこの瞬間も、足元では“SOSの化学”が飛びかっているのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe fresh smell of cut grass is actually a sign that plants are damaged. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The fresh smell of cut grass is actually a sign that plants are damaged. In 1990, American researchers found that corn seedlings chewed by caterpillars released large amounts of special smelling chemicals. Damaging the leaves artificially was not enough, but adding liquid from a caterpillar's mouth caused the release.

Female parasitic wasps, which lay their eggs inside caterpillars, learned to use this smell to find their targets. In 2001, a study of wild tobacco showed that such smells helped predators eat more pest eggs. Nearby plants respond too. In 2014, a Japanese team found that tomato plants absorbed a smell from damaged neighbors and changed it into a substance that works against caterpillars.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

刈った草のさわやかなにおいは、実は植物が傷ついたというサインです。1990年、アメリカの研究者たちは、イモムシにかじられたトウモロコシの芽が、特別なにおいの化学物質を大量に出すことを発見しました。人工的に葉を傷つけるだけでは足りませんでしたが、イモムシの口から出る液を加えると、においが放出されました。

イモムシの体内に卵を産む寄生バチのメスは、このにおいを使って獲物を見つけることを学習しました。2001年、野生のタバコの研究では、こうしたにおいによって、捕食者が害虫の卵をより多く食べるようになることが示されました。近くの植物も反応します。2014年、日本のチームは、トマトが傷ついた隣の株から出たにおいを取りこみ、イモムシに効く物質に作りかえることを発見しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What caused corn to release the special smell?

Q3. Why might it be useful for a plant to tell caterpillar damage from other damage?

重要単語

  • herbivoreC1
    名詞植食者(植物を食べる動物)Caterpillars are common herbivores. herb(草)+vore(食べる)。carnivore(肉食動物)、omnivore(雑食動物)とセットで覚える。
  • parasitic waspC1
    名詞(句)寄生バチParasitic wasps lay their eggs inside caterpillars. parasite(寄生虫)の形容詞 parasitic。wasp はハチの中でもスズメバチ・アシナガバチ類を指すことが多い。
  • defenseB1
    名詞防御Plants have both direct and indirect defenses. イギリス綴りは defence。defend(守る)、defensive(防御的な)。
  • emitB2
    動詞放出するDamaged leaves emit a strong green smell. e-(外へ)+mit(送る)。名詞 emission は carbon emissions「炭素排出」で頻出。
  • neighborA2
    名詞隣のもの、近くの個体The neighbor plants responded to the smell. イギリス綴りは neighbour。neighborhood(近所)。
  • volatileC1
    形容詞・名詞揮発性の(物質)Corn releases volatiles when caterpillars chew it. 名詞で「揮発性物質」として複数形 volatiles でも使う。「不安定な」の意味も頻出。
  • deterC1
    動詞思いとどまらせる、阻止するThe smell deterred moths from laying eggs. deter A from ~ing「Aに~するのを思いとどまらせる」。名詞 deterrent(抑止力)。

動画でもっと知る

4コマでわかる

虫にかじられた植物は「助けて」の匂いを出す。天敵のハチを呼ぶ“SOSの化学”の4コマ漫画
刈った芝生の青くさい匂いは、植物の「ケガのサイン」。イモムシにかじられたトウモロコシは特別な匂いで、イモムシに卵を産む寄生バチを呼び寄せる。植物は用心棒を呼んでいた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Turlings, Tumlinson & Lewis (1990) Exploitation of Herbivore-Induced Plant Odors by Host-Seeking Parasitic Wasps, Sciencedoi.org
  2. Kessler & Baldwin (2001) Defensive Function of Herbivore-Induced Plant Volatile Emissions in Nature, Sciencedoi.org
  3. Sugimoto et al. (2014) Intake and transformation to a glycoside of (Z)-3-hexenol from infested neighbors reveals a mode of plant odor reception and defense, PNASdoi.org
  4. Aratani et al. (2023) Green leaf volatile sensory calcium transduction in Arabidopsis, Nature Communicationsdoi.org