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頭を切っても「記憶」が戻る? 再生する虫プラナリアと“脳の外の記憶”の謎

頭を切っても「記憶」が戻る? 再生する虫プラナリアと“脳の外の記憶”の謎

読む前に予想してみよう!

プラナリアの再生を支えているのは、どんな細胞にもなれる幹細胞である

研究カード(どんな研究?)
対象
ナミウズムシ(Dugesia japonica)・シュミテア属のプラナリア
規模
数十匹(行動実験)・単一細胞移植(幹細胞実験)
研究の種類
自動化した行動訓練実験・放射線照射と細胞移植
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

プラナリアは小さな切れ端からでも体全体を再生する。頭を切って脳を作り直した個体が、切る前の訓練を「少し覚えていた」という実験もあるが、まだ慎重な検証が必要。

ひとことで言うとプラナリアは切っても体が元どおり。新しい頭でも、前のことを少し覚えていたかも?

もくじ
  1. 再生の主役は「なんにでもなれる細胞」
  2. 新しい頭に、古い記憶は残る?
  3. どんでん返し:まだ「答え」ではない
  4. まとめ

川の石の裏をのぞくと、ときどき1〜2cmほどの平たい虫が見つかります。三角形の頭に、寄り目のような2つの目。プラナリアです。

この虫は、体を切ると、それぞれの切れ端から頭も尾も全部そろった新しい個体が生えてきます。頭を切れば新しい頭が、しっぽを切れば新しいしっぽが。小さな断片からでも、体まるごと作り直してしまうのです。

そして、さらに不思議な問いがあります。「頭(脳)を作り直したプラナリアは、昔のことを覚えているのか?」

01再生の主役は「なんにでもなれる細胞」

プラナリアの体には、ネオブラストと呼ばれる、分裂する細胞がたくさん散らばっています。再生のとき、この細胞が増えて、神経や腸や筋肉など、必要な細胞に変わっていきます。

人間の大人の体にも幹細胞はありますが、多くは「血液だけ」「皮膚だけ」のように役割が決まっています。プラナリアは、何にでもなれる幹細胞を大人になっても体じゅうに持っている。これが、驚異的な再生力の秘密です。

切れ端それぞれが、頭からしっぽまでそろった1匹に戻っていく。
切れ端それぞれが、頭からしっぽまでそろった1匹に戻っていく。

02新しい頭に、古い記憶は残る?

再生した頭の中には、新しい脳ができます。では、切る前に覚えたことはどうなるのでしょう。

この問いは、1950〜60年代にアメリカの心理学者ジェームズ・マコーネルさんたちが取り組んだことで有名になりました。ただ、当時の実験は手作業で、観察する人の主観が入りやすく、結果がなかなか再現されませんでした。「訓練したプラナリアを別のプラナリアに食べさせると記憶が移る」という報告もありましたが、これは今では信頼できない結果とみなされています。

つまり、新しい脳になっても、記憶の「名残り」のようなものが体のどこかに残っていた可能性があるのです。

03どんでん返し:まだ「答え」ではない

ただし、この結果をそのまま「記憶は脳の外にある」と受け取るのは早すぎます。

  • 実験はまだ少数の研究室でしか行われておらず、別のチームによる十分な再現がありません
  • 効果は「完全に覚えていた」ではなく、再学習が少し速かったという控えめなもの
  • 頭を切っても、首から下に残った神経のネットワークが何らかの情報を保っていた可能性もあります

「脳がなくなっても記憶が残るなんて!」という見出しはインパクト大ですが、研究者自身も、慎重な検証が必要だと強調しています。

04まとめ

プラナリアは、たった1個の細胞から体を作り直せるほどの再生名人でした。そして、作り直した頭でも「昔の記憶の名残り」を持っていたかもしれない。

記憶はどこにしまわれているのか。その答えはまだ出ていませんが、川の石の裏の小さな虫が、脳科学の大きな謎へのヒントを握っているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPlanarians are flatworms that can regrow a complete body from a small piece. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Planarians are flatworms that can regrow a complete body from a small piece. Their secret is a type of stem cell called a neoblast. In 2011, Peter Reddien's team showed that a single neoblast could rebuild all the cells of a worm that had lost its ability to regenerate.

Does a worm with a new brain keep its old memories? In 2013, Tal Shomrat and Michael Levin used a computer-controlled machine to train worms.

Then they cut off the worms' heads. The heads grew back in about two weeks, and the trained worms relearned the task faster than untrained worms. The difference was small, and other laboratories have not fully repeated the experiment. Even so, it hints that some memory may be stored outside the head.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

プラナリアは、小さな断片から完全な体を再生できる扁形動物です。その秘密は、ネオブラストと呼ばれる幹細胞の一種です。2011年、ピーター・レディエンさんのチームは、再生能力を失った虫のあらゆる細胞を、たった1個のネオブラストが作り直せることを示しました。

では、新しい脳ができた虫は、古い記憶を保っているのでしょうか。2013年、タル・ショムラットさんとマイケル・レヴィンさんは、コンピューター制御の装置を使って虫を訓練しました。

それから虫の頭を切り落としました。頭は約2週間で再生し、訓練された虫は、訓練されていない虫よりも速く課題を覚え直しました。差は小さく、ほかの研究室はこの実験を十分には再現していません。それでも、記憶の一部が頭の外に蓄えられている可能性をうかがわせる結果です。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Reddien's team show in 2011?

Q2. How long did it take for the new heads to regrow?

Q3. What is the writer's attitude toward the 2013 result?

重要単語

  • regenerateC1
    動詞再生するPlanarians can regenerate a new head. re-(再び)+generate(生み出す)。名詞 regeneration「再生」は医療の文脈で入試頻出。
  • stem cellB2
    名詞(句)幹細胞Stem cells can turn into many types of cells. stem は植物の「茎」。いろいろな細胞が枝分かれしていく「幹」のイメージ。iPS細胞も induced pluripotent stem cell。
  • pluripotentC1
    形容詞多能性の(いろいろな細胞になれる)A single pluripotent cell rebuilt the whole worm. pluri-(多くの)+potent(力がある)。iPS細胞の P はこの語。
  • decapitateC1
    動詞頭を切り落とすThe researchers decapitated the trained worms. de-(取り去る)+capit(頭)。capital(首都・頭文字)、captain と同じ語根。
  • replicateC1
    動詞再現する、追試するOther labs need to replicate the result. 名詞 replication「追試」。科学では再現性(reproducibility)が信頼の鍵になる。
  • intriguingC1
    形容詞興味をそそるThe result is intriguing but needs more research. 動詞 intrigue「興味をそそる」。interesting より強く「謎めいていて気になる」ニュアンス。

動画でもっと知る

4コマでわかる

頭を切っても「記憶」が戻る? 再生する虫プラナリアと“脳の外の記憶”の謎の4コマ漫画
プラナリアは切っても切っても体を再生する。しかも、訓練したあと頭を切り落として新しい脳が生えた個体が、前の訓練を「なんとなく覚えていた」という実験がある。記憶はどこにしまわれているのか。ただし再現はまだこれから。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Wagner, Wang & Reddien (2011) Clonogenic Neoblasts Are Pluripotent Adult Stem Cells That Underlie Planarian Regeneration, Sciencedoi.org
  2. Shomrat & Levin (2013) An automated training paradigm reveals long-term memory in planaria and its persistence through head regeneration, Journal of Experimental Biologydoi.org
  3. Reddien (2018) The Cellular and Molecular Basis for Planarian Regeneration, Celldoi.org