ウナギがどこで生まれるのか、人類は2000年以上わからなかった

読む前に予想してみよう!
ニホンウナギは、日本の川の上流で卵を産む
ニホンウナギは、日本から2000km以上南のマリアナ諸島西方の海で産卵していることがわかった。
- 対象
- ニホンウナギ・ヨーロッパウナギ
- 規模
- 長年の調査航海/発信器26匹(ヨーロッパ)
- 研究の種類
- 海洋調査・衛星標識による追跡
- 確かさ
- ★★★☆☆
毎日のように食べてきたウナギの生まれ故郷は長年の謎。ニホンウナギの卵が海で見つかったのは2009年のことだった。
ひとことで言うとウナギは日本から2000km以上はなれた海の真ん中で生まれていた!
夏の土用の丑の日。日本人は昔から、ウナギをとても身近な魚として食べてきました。
でも、そのウナギがどこで生まれているのか、あなたは知っていますか?
実はこれ、人類が2000年以上も答えを出せなかった、生物学の大きな謎でした。ニホンウナギの卵が初めて海で見つかったのは、なんと2009年のことです。
01アリストテレスは「泥から湧く」と考えた
ウナギの謎は、とにかく古くからありました。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、ウナギのお腹を調べても卵が見つからないことから、ウナギは泥の中から自然に湧いてくると考えたといわれています。
時代はぐっと下って19世紀。のちに精神分析で有名になるジークムント・フロイトは、若いころ、当時オーストリア領だったトリエステ(現在はイタリア)の海辺の研究所で、ウナギのオスの精巣を探して数百匹も解剖したものの、はっきり見つけられなかったと伝えられています。
なぜこんなに見つからなかったのか。答えは、ウナギが川では成熟せず、はるか遠くの海へ旅立ってから大人の体になるからでした。
02ヨーロッパのウナギは大西洋の「藻の海」へ
20世紀のはじめ、デンマークの研究者ヨハネス・シュミットは、大西洋で網を引き続け、ウナギの赤ちゃん(レプトセファルス)を集めました。レプトセファルスは、透明で柳の葉のような形をした、ウナギの幼生です。
小さな幼生ほど西へ、西へ。そうしてたどり着いたのが、北大西洋のサルガッソー海でした。海藻がたくさん浮かぶ、「藻の海」とも呼ばれる海域です。
ただし、大人のウナギがそこまで泳いでいく姿を直接追いかけた例はなかなかありませんでした。2022年に『Scientific Reports』に載った研究(Wright ら)では、アゾレス諸島から衛星発信器をつけて放した26匹のうち少なくとも1匹がサルガッソー海の産卵海域に到達したことが記録され、ようやく直接的な証拠が得られたのです。

03ニホンウナギの故郷を追いかけた日本の研究者
では、ニホンウナギは?
マリアナ諸島西方の海は、日本から2000km以上も南。ニホンウナギの親は、日本の川からそこまで泳いでいき、卵を産みます。生まれた幼生は海流にのって何か月もかけて東アジアの沿岸へ戻り、シラスウナギとなって川をさかのぼるのです。
04なぜ、そんなに遠くで産むの?
05謎が解けても、ウナギはピンチ
産卵場がわかってきた一方で、ニホンウナギは数を大きく減らし、国際自然保護連合(IUCN)の「絶滅危惧種」のリストに入っています。
卵から育てて親にし、さらに次の世代を産ませる「完全養殖」は、2010年に日本の研究機関が実験室で成功しました。ただし、大量に安く育てる技術はまだ発展途上です。私たちが食べているウナギの多くは、今も海から川に戻ってきた天然のシラスウナギを育てたものです。
06まとめ
アリストテレスもフロイトも解けなかったウナギの謎。その生まれ故郷が海で確かめられたのは、ほんの最近のことでした。
身近な食べ物ほど、実はまだ知らないことだらけ。次にウナギを見かけたら、遠いマリアナの海の新月の夜を思い浮かべてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAlthough eels have been eaten for centuries, where they are born remained a mystery for more than 2,000 years.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people in Japan eat eels. But for a very long time, nobody knew where eels were born. Aristotle thought eels came from mud. In 2009, Japanese scientists finally found Japanese eel eggs in the ocean.
The place was west of the Mariana Islands, more than 2,000 kilometers south of Japan. Adult eels swim there from Japanese rivers to lay their eggs. Their babies come back to Asia on ocean currents.
71 words ・ CEFR A2
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日本では多くの人がウナギを食べます。でもとても長いあいだ、ウナギがどこで生まれるのか誰も知りませんでした。アリストテレスは、ウナギは泥から生まれると考えました。2009年、日本の科学者たちがついに海でニホンウナギの卵を見つけました。
その場所はマリアナ諸島の西で、日本から2000キロ以上南でした。大人のウナギは日本の川からそこまで泳いでいき、卵を産みます。赤ちゃんは海流にのってアジアに戻ってきます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ウナギがどこで生まれるかという長年の謎と、その答えの話なので D。泥から生まれるのはアリストテレスの昔の考え。
Q2. When did scientists find Japanese eel eggs in the ocean?
In 2009, Japanese scientists finally found Japanese eel eggs とあるので A。
Q3. In this passage, "lay their eggs" means ...
lay eggs は「卵を産む」。lay(横たえる・産む)は lie(横になる)と混同しやすいので注意。正解は C。
Although eels have been eaten for centuries, where they are born remained a mystery for more than 2,000 years. Aristotle could not find eggs inside eels, so he believed they came from mud. The reason for the mystery is that eels do not become mature in rivers; they become adults only after traveling far out to sea.
In the early 20th century, a Danish scientist collected baby eels in the Atlantic and traced European eels to the Sargasso Sea. For Japanese eels, researchers at the University of Tokyo followed tiny larvae for many years and finally collected eggs west of the Mariana Islands in 2009. Today, however, the Japanese eel is listed as endangered.
114 words ・ CEFR B1
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ウナギは何世紀も食べられてきましたが、どこで生まれるのかは2000年以上も謎のままでした。アリストテレスはウナギの体内に卵を見つけられなかったので、ウナギは泥から生まれると信じていました。謎だった理由は、ウナギが川では成熟せず、はるか沖へ旅をしてから初めて大人になるからです。
20世紀のはじめ、デンマークの科学者が大西洋でウナギの赤ちゃんを集め、ヨーロッパウナギの生まれ故郷をサルガッソー海までたどりました。ニホンウナギについては、東京大学の研究者たちが何年も小さな幼生を追い続け、2009年についにマリアナ諸島の西で卵を採集しました。しかし今日、ニホンウナギは絶滅危惧種のリストに入っています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
2000年以上の謎から、ヨーロッパウナギ・ニホンウナギの産卵場が見つかるまでの流れを述べているので A。
Q2. Where were Japanese eel eggs collected in 2009?
collected eggs west of the Mariana Islands in 2009 とあるので C。サルガッソー海はヨーロッパウナギの産卵場。
Q3. Why was it hard to find out where eels are born?
The reason for the mystery is that eels do not become mature in rivers と理由が書かれているので B。
Freshwater eels have puzzled scientists for more than two thousand years. Aristotle, finding no eggs inside them, proposed that eels arose from mud, and the young Sigmund Freud reportedly dissected hundreds of eels in Trieste without clearly locating male reproductive organs. The difficulty arises because eels mature only after leaving rivers on a long oceanic migration. In the early 1900s, Johannes Schmidt traced ever-smaller larvae westward across the Atlantic to the Sargasso Sea, yet direct evidence of adults arriving there came only in 2022, when at least one of 26 satellite-tagged European eels was recorded reaching the spawning area.
For the Japanese eel, Katsumi Tsukamoto's team at the University of Tokyo narrowed down the spawning site step by step and, in 2009, collected wild eggs west of the Mariana Islands, more than 2,000 kilometers south of Japan. Spawning appears to occur around the new moon near a chain of seamounts. Even so, spawning itself has never been directly observed, and why eels travel so far to breed is still a matter of hypotheses. Meanwhile, the species is endangered.
178 words ・ CEFR B2
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淡水ウナギは2000年以上も科学者を悩ませてきました。アリストテレスはウナギの体内に卵を見つけられず、ウナギは泥から生じると唱えました。若き日のジークムント・フロイトもトリエステで数百匹のウナギを解剖したものの、オスの生殖器官をはっきり見つけられなかったと伝えられています。この難しさは、ウナギが川を離れて長い海の回遊に出てから初めて成熟することから生じています。1900年代初め、ヨハネス・シュミットは、より小さな幼生を追って大西洋を西へたどり、サルガッソー海にたどり着きました。
しかし大人のウナギがそこに到達する直接の証拠が得られたのは2022年になってからで、衛星発信器をつけた26匹のヨーロッパウナギのうち少なくとも1匹が産卵海域に到達したことが記録されました。ニホンウナギについては、東京大学の塚本勝巳さんのチームが産卵場を段階的に絞り込み、2009年に日本から2000キロ以上南のマリアナ諸島西方で天然の卵を採集しました。産卵は新月のころ、海山の列の近くで行われるようです。それでも、産卵そのものはまだ直接観察されておらず、なぜウナギがそれほど遠くまで旅をして繁殖するのかは、いまだ仮説の段階です。一方で、この種は絶滅の危機にあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
古代からの謎、ヨーロッパウナギとニホンウナギの産卵場の特定、そして未解明の点までを述べているので C。
Q2. What did the 2022 study show?
at least one of 26 satellite-tagged European eels was recorded reaching the spawning area とあるので D。26匹全部ではない。
Q3. According to the passage, which of the following is still unknown?
why eels travel so far to breed is still a matter of hypotheses とあるので A。卵は2009年に採集済みなので B は誤り。
重要単語
- spawnC1動詞(魚が)産卵するJapanese eels spawn far out in the Pacific Ocean.
名詞で「(魚の)卵」。ゲーム用語の「スポーン(出現)」もここから。spawning ground「産卵場」。 - larvaC1名詞幼生、幼虫(複数形 larvae)Eel larvae drift on ocean currents.
複数形 larvae の発音は /ˈlɑːviː/。ラテン語由来の -a → -ae 型(antenna → antennae)。 - migrationB2名詞回遊、移動、移住Eels make a long migration to the sea.
migrate(移動する)の名詞形。immigration(入国移住)・emigration(出国移住)と合わせて覚える。 - seamountC1名詞海山The eggs were found near a chain of seamounts.
sea+mount(山)。海底からそびえ、海面には届かない山のこと。 - endangeredB2形容詞絶滅の危機にあるThe Japanese eel is listed as endangered.
endangered species「絶滅危惧種」は入試の超頻出語。dangerous(危険な)とは意味が違う。 - matureB2動詞・形容詞成熟する/成熟したEels mature only after they leave the rivers.
名詞は maturity。immature「未熟な」も頻出。 - dissectC1動詞解剖するFreud dissected hundreds of eels.
dis-(離して)+sect(切る)。section(区分)、insect(体が節で切れた虫)と同語源。
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アリストテレスは「ウナギは泥から湧く」と考え、若き日のフロイトはウナギのオスを探して何百匹も解剖したらしい。ニホンウナギの卵が初めて海で見つかったのは、なんと2009年。身近な魚が、実はとんでもない謎の生き物だった。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Tsukamoto et al. (2011) Oceanic spawning ecology of freshwater eels in the western North Pacific, Nature Communicationsdoi.org
- Wright et al. (2022) First direct evidence of adult European eels migrating to their breeding place in the Sargasso Sea, Scientific Reportsdoi.org
- Righton et al. (2016) Empirical observations of the spawning migration of European eels: The long and dangerous road to the Sargasso Sea, Science Advancesdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













