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アリはケガした仲間を運び、傷をなめて治療し、ときには足を切断する。昆虫界の“救急医療”

アリはケガした仲間を運び、傷をなめて治療し、ときには足を切断する。昆虫界の“救急医療”

読む前に予想してみよう!

アリは、ケガをした仲間ならどんな重傷でも必ず助けて巣に運ぶ

研究カード(どんな研究?)
対象
マタベレアリ(Megaponera analis)、フロリダオオアリ(Camponotus floridanus)
規模
野外観察と実験室実験
研究の種類
行動実験・化学分析・微生物学
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

シロアリを狩るアフリカのアリは、ケガした仲間を巣へ運び、傷をなめて治療する。24時間以内の死亡率は、治療を受けると10%、受けないと80%。別のアリは感染を防ぐため足の切断まで行う。

ひとことで言うとアリは、ケガした仲間を運んで、手当てまでしていた!

もくじ
  1. シロアリと戦うアリの「負傷兵救出」
  2. 傷をなめて「消毒」していた
  3. 感染を見分けて「抗菌薬」をぬる
  4. 足を「切断」するアリまで
  5. まとめ

戦場でケガをした仲間を背負って運び、基地で手当てをする――。そんな“衛生兵”のような行動を、アリがしていることがわかってきました。

しかも、ただ運ぶだけではありません。傷口を消毒し、感染しているかどうかを見分け、ときには足を切断する。昆虫の世界の“救急医療”は、想像以上に本格的でした。

01シロアリと戦うアリの「負傷兵救出」

主役は、アフリカのサバンナにすむマタベレアリ(Megaponera analis)。このアリは、シロアリだけを狩る専門のハンターです。数百匹の隊列でシロアリの餌場を襲いますが、相手には強力なあごを持つ兵隊シロアリがいるため、戦いでケガをするアリも少なくありません。

研究チームの計算では、この救出行動のおかげで、コロニーは救出しない場合より約29%大きな規模を保てると見積もられました。

02傷をなめて「消毒」していた

翌年、チームはさらに巣の中をのぞきました(2018年、『Proceedings of the Royal Society B』)。

巣に運ばれたケガのアリのまわりに仲間が集まり、傷口を念入りになめていたのです。24時間以内の死亡率は、手当てを受けたアリでは10%、受けられなかったアリでは80%でした。死因はおそらく感染です。

ただし、全員が手当てを受けられるわけではありません。足を5本も失うような重傷のアリは、運ばれも治療もされませんでした。とはいえ、仲間が見捨てたわけではなさそうです。軽傷のアリは、仲間に触れられるとすぐ体を丸めて運ばれやすい姿勢になります。一方、重傷のアリは足をばたつかせ続けて、うまく持ち上げられませんでした。つまり、重傷のアリ自身が助けに協力しないために運ばれない、と考えられています。

逆に、軽傷のアリは仲間の近くでは歩くのが遅くなり、より「重傷っぽく」ふるまうこともありました。ただし論文は、本当にケガをしているのだから「ずる」ではない、と述べています。

巣の中では、仲間が傷口をていねいになめて手当てしていた
巣の中では、仲間が傷口をていねいになめて手当てしていた

03感染を見分けて「抗菌薬」をぬる

2023年、スイス・ローザンヌ大学などのチーム(Frankら、『Nature Communications』)は、さらに一歩進んだ発見をしました。

マタベレアリは、仲間の傷が細菌に感染しているかどうかを見分け、感染している傷には、胸の分泌腺(後胸腺)から出る抗菌物質をぬっていたのです。この“治療”で、感染したアリの死亡率は90%減りました。感染すると体の表面のにおいの成分が変わるため、仲間はそれで“診断”しているらしいのです。

04足を「切断」するアリまで

2024年には、アメリカ・フロリダにすむフロリダオオアリで、さらに衝撃的な行動が報告されました(Frankら、『Current Biology』)。

このアリは、マタベレアリが使う後胸腺を、進化の過程で失っています。そのかわり、太もも(腿節)にケガをした仲間の足を、付け根の部分でかみ切って切断していたのです。切断されたアリは、されなかったアリより生存率がずっと高くなりました。一方、すね(脛節)のケガでは切断せず、傷口の手当てに力を入れていました。ケガの場所によって治療法を使い分けていたのです。

05まとめ

アリは、ケガをした仲間を運び、なめて消毒し、感染を見分けて薬をぬり、ときには切断手術まで行っていました。それは“思いやり”というより、コロニー全体が生きのびるための、進化が磨き上げたしくみです。

それでも、小さな体で仲間の命を救う姿には、思わず「マジか」と声が出てしまいます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAn African ant called Megaponera analis hunts only termites, and many ants get hurt in these battles. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

An African ant called Megaponera analis hunts only termites, and many ants get hurt in these battles. In 2017, German researchers showed that injured ants call for help with a chemical smell, and nestmates carry them back to the nest. When injured ants had to return alone, 32 percent of them died. Inside the nest, other ants lick the wounds.

In a later study, this care lowered the death rate within 24 hours from 80 percent to 10 percent. In 2023, scientists found that these ants can tell whether a wound is infected and apply germ-killing substances to it. Even more surprising, a Florida ant species was found in 2024 to bite off infected legs, which greatly improved survival.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

マタベレアリと呼ばれるアフリカのアリはシロアリだけを狩り、その戦いで多くのアリがケガをします。2017年、ドイツの研究者たちは、ケガをしたアリが化学的なにおいで助けを求め、仲間がそのアリを巣へ運んで帰ることを示しました。ケガをしたアリが自力で帰らなければならなかったとき、その32%が死にました。巣の中では、ほかのアリが傷をなめます。その後の研究では、この手当てによって24時間以内の死亡率が80%から10%に下がりました。

2023年、科学者たちは、このアリが傷が感染しているかどうかを見分け、そこに細菌を殺す物質をぬることを発見しました。さらに2024年には、フロリダのアリの一種が感染した足をかみ切ることまでわかりました。それによって、生存率が大きく上がったのです。

4択リーディングクイズ

Q1. How do injured ants call for help?

Q2. What happened to the death rate within 24 hours when wounds were cared for?

Q3. What can we infer from the 2023 study?

重要単語

  • injuredB1
    形容詞ケガをしたThe injured ant was carried back to the nest. 動詞 injure、名詞 injury。the injured で「負傷者たち」。
  • rescueB1
    名詞・動詞救助(する)Rescue behavior saves many workers. come to the rescue「助けに来る」。rescue A from B「AをBから救う」。
  • woundB2
    名詞傷Nestmates cleaned the wound carefully. 発音は /wuːnd/(ウーンド)。wind の過去形 wound /waʊnd/ と区別。
  • infectionB2
    名詞感染Treatment reduced deaths from infection. 動詞 infect、形容詞 infectious(感染性の)。
  • amputateC1
    動詞切断するThe ants amputated the injured leg. 名詞 amputation。医学の文脈で使われる硬い語。
  • antimicrobialC1
    形容詞抗菌性のThe ants apply antimicrobial substances to wounds. anti-(反対)+microbe(微生物)。antibiotic(抗生物質)も同じ anti-。

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4コマでわかる

アリはケガした仲間を運び、傷をなめて治療し、ときには足を切断する。昆虫界の“救急医療”の4コマ漫画
アフリカのマタベレアリは、ケガした仲間を巣へ運び、傷をなめて手当てする。24時間以内の死亡率は、手当てを受けると10%、受けないと80%。別のアリは感染を防ぐため仲間の足を“切断”までしていた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Frank et al. (2017) Saving the injured: Rescue behavior in the termite-hunting ant Megaponera analis, Science Advancesdoi.org
  2. Frank, Wehrhahn & Linsenmair (2018) Wound treatment and selective help in a termite-hunting ant, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
  3. Frank et al. (2023) Targeted treatment of injured nestmates with antimicrobial compounds in an ant society, Nature Communicationsdoi.org
  4. Frank et al. (2024) Wound-dependent leg amputations to combat infections in an ant society, Current Biologydoi.org