アリはケガした仲間を運び、傷をなめて治療し、ときには足を切断する。昆虫界の“救急医療”

読む前に予想してみよう!
アリは、ケガをした仲間ならどんな重傷でも必ず助けて巣に運ぶ
足を5本失うような重傷のアリは運ばれなかった。重傷のアリ自身が助けに協力しないためだと考えられている。
- 対象
- マタベレアリ(Megaponera analis)、フロリダオオアリ(Camponotus floridanus)
- 規模
- 野外観察と実験室実験
- 研究の種類
- 行動実験・化学分析・微生物学
- 確かさ
- ★★★★☆
シロアリを狩るアフリカのアリは、ケガした仲間を巣へ運び、傷をなめて治療する。治療がないと死亡率は10%→80%に。別のアリは感染を防ぐため足の切断まで行う。
ひとことで言うとアリは、ケガした仲間を運んで、手当てまでしていた!
戦場でケガをした仲間を背負って運び、基地で手当てをする――。そんな“衛生兵”のような行動を、アリがしていることがわかってきました。
しかも、ただ運ぶだけではありません。傷口を消毒し、感染しているかどうかを見分け、ときには足を切断する。昆虫の世界の“救急医療”は、想像以上に本格的でした。
01シロアリと戦うアリの「負傷兵救出」
主役は、アフリカのサバンナにすむマタベレアリ(Megaponera analis)。このアリは、シロアリだけを狩る専門のハンターです。数百匹の隊列でシロアリの餌場を襲いますが、相手には強力なあごを持つ兵隊シロアリがいるため、戦いでケガをするアリも少なくありません。
研究チームの計算では、この救出行動のおかげで、コロニーは救出しない場合より約29%大きな規模を保てると見積もられました。
02傷をなめて「消毒」していた
翌年、チームはさらに巣の中をのぞきました(2018年、『Proceedings of the Royal Society B』)。
運ばれたケガ人のアリに、仲間が集まり、傷口を念入りになめていたのです。この手当てを受けられないと、24時間以内の死亡率が10%から80%にはね上がりました。おそらく感染が原因です。
驚くのは、手当てする相手を選んでいること。足を5本も失うような重傷のアリは、運ばれも治療もされませんでした。ただしそれは仲間が見捨てたのではなく、重傷のアリ自身が助けに協力しない(じっと運ばれる姿勢をとらない)ためだと考えられています。逆に、軽傷のアリは仲間の近くでは動きが遅くなり、より「重傷っぽく」ふるまうこともありました(ただし論文は、本当にケガをしているので「ごまかし」ではない、と述べています)。

03感染を見分けて「抗菌薬」をぬる
2023年、スイス・ローザンヌ大学などのチーム(Frankら、『Nature Communications』)は、さらに一歩進んだ発見をしました。
マタベレアリは、仲間の傷が細菌に感染しているかどうかを見分け、感染している傷には、胸の分泌腺(後胸腺)から出る抗菌物質をぬっていたのです。この“治療”で、感染したアリの死亡率は90%減りました。感染すると体の表面のにおいの成分が変わるため、仲間はそれで“診断”しているらしいのです。
04足を「切断」するアリまで
2024年には、アメリカ・フロリダにすむフロリダオオアリで、さらに衝撃的な行動が報告されました(Frankら、『Current Biology』)。
このアリは、マタベレアリが使う後胸腺を進化の途中で失っています。そのかわり、太もも(腿節)にケガをした仲間の足を、付け根の部分でかみ切って切断していたのです。切断されたアリは、されなかったアリより生存率が大きく上がりました。いっぽう、すね(脛節)のケガでは切断せず、傷口の手当てに力を入れていました。ケガの場所によって治療法を使い分けていたのです。
05まとめ
アリは、ケガをした仲間を運び、なめて消毒し、感染を見分けて薬をぬり、ときには切断手術まで行っていました。それは“思いやり”というより、コロニー全体が生きのびるための、進化が磨き上げたしくみです。
それでも、小さな体で仲間の命を救う姿には、思わず「マジか」と声が出てしまいます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAn African ant called Megaponera analis hunts only termites, and many ants get hurt in these battles.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some ants in Africa hunt termites. During fights, some ants get hurt. Their friends carry them back home. In the nest, other ants lick the wounds to clean them. Without this care, many more hurt ants die.
Another kind of ant in Florida does something even more surprising. It bites off a friend's injured leg to stop an infection. These ants are like tiny doctors!
65 words ・ CEFR A2
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アフリカのあるアリはシロアリを狩ります。戦いの間に、ケガをするアリもいます。仲間たちはケガをしたアリを巣へ運んで帰ります。巣の中では、ほかのアリが傷をなめてきれいにします。この手当てがないと、ずっと多くのケガをしたアリが死んでしまいます。
フロリダにいる別の種類のアリは、さらに驚くべきことをします。感染を止めるために、仲間のケガをした足をかみ切るのです。これらのアリは、小さなお医者さんのようです!
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ケガをした仲間を運び、手当てするアリの話なので D。
Q2. What do ants in the nest do to the wounds?
other ants lick the wounds to clean them とあるので C。
Q3. In this passage, "injured" means ...
injured は「ケガをした」。前の get hurt と同じ意味なので A。
An African ant called Megaponera analis hunts only termites, and many ants get hurt in these battles. In 2017, German researchers showed that injured ants call for help with a chemical smell, and nestmates carry them back to the nest. When injured ants had to return alone, 32 percent of them died. Inside the nest, other ants lick the wounds.
In a later study, this care lowered the death rate within 24 hours from 80 percent to 10 percent. In 2023, scientists found that these ants can tell whether a wound is infected and apply germ-killing substances to it. Even more surprising, a Florida ant species was found in 2024 to bite off infected legs, which greatly improved survival.
119 words ・ CEFR B1
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マタベレアリと呼ばれるアフリカのアリはシロアリだけを狩り、その戦いで多くのアリがケガをします。2017年、ドイツの研究者たちは、ケガをしたアリが化学的なにおいで助けを求め、仲間がそのアリを巣へ運んで帰ることを示しました。ケガをしたアリが自力で帰らなければならなかったとき、その32%が死にました。巣の中では、ほかのアリが傷をなめます。
その後の研究では、この手当てによって24時間以内の死亡率が80%から10%に下がりました。2023年、科学者たちは、このアリが傷が感染しているかどうかを見分け、そこに細菌を殺す物質をぬることを発見しました。さらに驚いたことに、2024年には、フロリダのアリの一種が感染した足をかみ切り、それによって生存率が大きく上がることがわかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. How do injured ants call for help?
injured ants call for help with a chemical smell とあるので A。
Q2. What happened to the death rate within 24 hours when wounds were cared for?
lowered the death rate within 24 hours from 80 percent to 10 percent とあるので B。
Q3. What can we infer from the 2023 study?
感染しているかを見分けて抗菌物質をぬるので、感染の有無で手当てを変えていると推測でき D。
Medical care is usually thought of as something only humans provide. Megaponera analis, an African ant that hunts only termites, suggests otherwise. Its prey is defended by soldier termites, and the ants are often injured in the attack. In 2017, a team led by Erik Frank reported that an injured ant releases chemical signals from glands near its jaws, and nestmates respond by carrying it home.
When injured ants were made to walk back alone, 32 percent died. A model estimated that this rescue behavior lets colonies be about 29 percent larger. It looks like compassion, but it is better explained as an evolved way of keeping the colony's workforce alive.
A follow-up study found that nestmates lick the wounds inside the nest. Without that treatment, the death rate within 24 hours rose from 10 percent to 80 percent, probably because of infection. Ants that had lost five legs were not rescued, apparently because they did not cooperate with their helpers.
In 2023, the team showed that the ants can detect infected wounds and apply antimicrobial secretions, cutting mortality by 90 percent. Florida carpenter ants go even further. They amputate legs with thigh injuries, which improves the injured ants' survival.
200 words ・ CEFR B2
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医療はふつう、人間だけが行うものだと考えられています。シロアリだけを狩るアフリカのアリ、マタベレアリは、そうではないことを示しています。獲物のシロアリは兵隊シロアリに守られており、このアリは攻撃の際にしばしばケガをします。2017年、エリック・フランク率いるチームは、ケガをしたアリがあごの近くの分泌腺から化学信号を出し、仲間がそれに応えてそのアリを巣へ運んで帰ることを報告しました。
ケガをしたアリを自力で歩いて帰らせると、32%が死にました。モデルによる推定では、この救出行動のおかげでコロニーは約29%大きくなれます。思いやりのように見えますが、コロニーの働き手を生かしておくために進化したしくみと考えるほうがうまく説明できます。続く研究では、仲間が巣の中で傷をなめることがわかりました。
その手当てがないと、24時間以内の死亡率は10%から80%に上がりました。おそらく感染が原因です。5本の足を失ったアリは救出されませんでしたが、それはそのアリが助け手に協力しなかったためのようです。
2023年、チームは、このアリが感染した傷を見分け、抗菌性の分泌物をぬることで死亡率を90%減らすことを示しました。フロリダオオアリはさらに上をいきます。太ももをケガした仲間の足を切断し、ケガをしたアリが生き延びる率を高めるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What assumption does the passage challenge?
冒頭 Medical care is usually thought of as something only humans provide. のあと suggests otherwise と続くので B。
Q2. Why were ants with five missing legs not rescued?
apparently because they did not cooperate with their helpers とあるので C。仲間が見捨てたのではない点に注意。
Q3. How does the author interpret the rescue behavior?
It looks like compassion, but it is better explained as an evolved way of keeping the colony's workforce alive. とあるので D。
重要単語
- injuredB1形容詞ケガをしたThe injured ant was carried back to the nest.
動詞 injure、名詞 injury。the injured で「負傷者たち」。 - rescueB1名詞・動詞救助(する)Rescue behavior saves many workers.
come to the rescue「助けに来る」。rescue A from B「AをBから救う」。 - woundB2名詞傷Nestmates cleaned the wound carefully.
発音は /wuːnd/(ウーンド)。wind の過去形 wound /waʊnd/ と区別。 - infectionB2名詞感染Treatment reduced deaths from infection.
動詞 infect、形容詞 infectious(感染性の)。 - amputateC1動詞切断するThe ants amputated the injured leg.
名詞 amputation。医学の文脈で使われる硬い語。 - antimicrobialC1形容詞抗菌性のThe ants apply antimicrobial substances to wounds.
anti-(反対)+microbe(微生物)。antibiotic(抗生物質)も同じ anti-。
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- 論文全文:Frank et al. 2018(NIH PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- 論文全文:Frank et al. 2023(NIH PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
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アフリカのマタベレアリは、ケガした仲間を巣へ運び、傷をなめて手当てする。治療がないと24時間以内の死亡率は10%→80%に。別のアリは感染を防ぐため仲間の足を“切断”までしていた。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Frank et al. (2017) Saving the injured: Rescue behavior in the termite-hunting ant Megaponera analis, Science Advancesdoi.org
- Frank, Wehrhahn & Linsenmair (2018) Wound treatment and selective help in a termite-hunting ant, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
- Frank et al. (2023) Targeted treatment of injured nestmates with antimicrobial compounds in an ant society, Nature Communicationsdoi.org
- Frank et al. (2024) Wound-dependent leg amputations to combat infections in an ant society, Current Biologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












