チョウチンアンコウの仲間には、メスにかみついて「体の一部」になるオスがいる。拒絶反応が起きない謎

読む前に予想してみよう!
深海のアンコウの仲間は、すべての種でオスがメスに一生くっついて暮らす
一生くっついて融合する種、一時的にくっつく種、くっつかない種があり、くっつき方は種によってさまざま。
- 対象
- 深海性のチョウチンアンコウ類(チョウチンアンコウ亜目)
- 規模
- 博物館標本・数十種の比較
- 研究の種類
- 形態学的レビュー・比較ゲノム解析
- 確かさ
- ★★★☆☆
深海のチョウチンアンコウの仲間には、小さなオスがメスにかみついたまま血管までつながる種がいる。免疫の大事な遺伝子を失っていて、拒絶反応が起きないことと関係しているとみられる。
ひとことで言うと深海アンコウの一部は、オスがメスにくっついて体がつながる。免疫がケンカしない!
真っ暗な深海に、頭の先から光るエサをぶら下げた魚がいます。チョウチンアンコウの仲間です。
この仲間の中には、とんでもない結婚のしかたをする種がいます。小さな小さなオスが、大きなメスの体にかみついて離れず、やがて皮ふも血管もつながって、メスの体の一部のようになってしまうのです。
それだけでも驚きですが、科学者が首をかしげたのは別の点でした。「なぜ拒絶反応が起きないのか?」
01広すぎる深海で、相手を逃さないために
深海は、とてつもなく広く、暗く、生き物の数もまばらです。せっかく出会えた相手を見失えば、次にいつ会えるかわかりません。
アメリカ・ワシントン大学の魚類学者セオドア・ピーチさんは、長年にわたって世界中の博物館の標本を調べ、深海のアンコウ類(チョウチンアンコウ亜目)の繁殖のしかたを整理してきました。
1匹のメスに複数のオスがくっついている標本も見つかっています。オスは、いわば「いつでも使える精子の供給係」になるわけです。

02本来なら、免疫が「よそ者」を攻撃するはず
ここで問題になるのが免疫です。
私たちの体は、自分以外の細胞を「よそ者」として見分け、攻撃するしくみを持っています。人間の臓器移植で拒絶反応が起きるのはこのためです。だから移植を受けた人は、免疫をおさえる薬を飲み続ける必要があります。
ところがアンコウのオスとメスは、別の個体なのに、血がまざり合ったまま平気で生きています。
つまり深海アンコウでは、免疫の一部を手放したことが、オスとメスの「合体」を可能にしたのかもしれません。
03免疫を捨てても大丈夫なの?
免疫は、細菌やウイルスと戦うための大切なしくみです。そのかなりの部分を失って、病気にならないのでしょうか。
研究チームは、これらの魚が、生まれつき備わった別の免疫(自然免疫)を強めて補っている可能性を挙げています。ただし、具体的にどう身を守っているのかは、まだわかっていません。
脊椎動物にとって「なくてはならない」と考えられてきた免疫のしくみを、手放しても生きていける動物がいる。この発見は、免疫の進化についての考え方を揺さぶるものでした。
04まとめ
チョウチンアンコウの仲間には、メスにかみつき、血管までつながって「体の一部」になるオスがいる。それを可能にしたとみられるのは、免疫の大事な部分を捨てるという、思い切った進化でした。
暗く広い深海で相手を手放さないための、究極の作戦。深海には、私たちの「当たり前」を覆す生き物がまだまだいます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the deep sea, it is dark and animals are few, so finding a mate is difficult.
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原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some anglerfish live in the deep, dark sea. It is hard for them to find a partner there. In some kinds, the tiny male bites the big female and never lets go. Slowly, their skin and blood join together.
The male becomes part of the female's body. Usually, a body attacks cells from another animal. Scientists found that these fish have lost some important genes. This may be why their bodies do not fight.
74 words ・ CEFR A2
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チョウチンアンコウの仲間には、深く暗い海にすむものがいます。そこでは相手を見つけるのが大変です。ある種類では、小さなオスが大きなメスにかみつき、決して離れません。ゆっくりと、皮ふと血液がつながっていきます。
オスはメスの体の一部になるのです。ふつう、体はほかの動物の細胞を攻撃します。科学者たちは、これらの魚がいくつかの大切な遺伝子を失っていることを発見しました。それが、体が争わない理由かもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
小さなオスがメスにかみつき体の一部になる話と、その理由がテーマなので C。
Q2. Why don't the fish's bodies fight each other?
these fish have lost some important genes. This may be why their bodies do not fight とあるので D。
Q3. In this passage, "never lets go" means the male ...
let go は「手を放す」。never lets go で「決して離さない」=くっついたままなので B。
In the deep sea, it is dark and animals are few, so finding a mate is difficult. In some deep-sea anglerfish, the male is much smaller than the female. When he finds her, he bites onto her body, and over time their skin and blood vessels join. The male then gets food from the female's blood and keeps producing sperm.
Normally, an immune system attacks tissue from another individual, which is why organ transplants can be rejected. In 2020, Jeremy Swann, Thomas Boehm and Theodore Pietsch studied the genomes of several anglerfish species. In species where males fuse, important immune genes were missing or no longer worked, which may explain the absence of rejection.
114 words ・ CEFR B1
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深海は暗く、動物も少ないため、相手を見つけるのは難しいことです。深海のチョウチンアンコウの一部では、オスがメスよりずっと小さいです。オスはメスを見つけると体にかみつき、時間がたつと皮ふと血管がつながります。するとオスはメスの血液から栄養をもらい、精子を作り続けます。ふつう、免疫系はほかの個体の組織を攻撃します。
臓器移植で拒絶反応が起こりうるのはそのためです。2020年、ジェレミー・スワンさん、トーマス・ベームさん、セオドア・ピーチさんは、複数のアンコウの種のゲノムを調べました。オスが融合する種では、重要な免疫の遺伝子がなくなっていたり、もう働かなくなっていたりしました。これが拒絶反応が起きない理由かもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the male get from the female after fusing?
The male then gets food from the female's blood とあるので D。
Q2. Why can organ transplants be rejected?
an immune system attacks tissue from another individual, which is why organ transplants can be rejected とあるので A。
Q3. What can we infer from the 2020 study?
融合する種で免疫遺伝子が失われており、拒絶が起きない理由かもしれないと述べているので C。
In the vast, dark and thinly populated deep ocean, finding a mate is hard. Some anglerfish solve the problem in an extreme way. A dwarf male that locates a female may bite onto her and stay attached. In some species, their tissues and blood vessels eventually fuse, and the male lives on her blood while supplying sperm.
Theodore Pietsch, who has studied museum specimens for decades, sorted species into three groups. In some, males must fuse in order to mature. In others, fusion is optional, and in the rest, males attach only temporarily or not at all. Fusion poses an immunological puzzle, because vertebrate immune systems normally reject foreign tissue.
In 2020, Pietsch, Jeremy Swann and Thomas Boehm compared anglerfish genomes and found that fusing species had lost or disabled genes involved in antibody maturation and in T-cell recognition. Nobody knows how these fish fight infection without such defenses, though the authors suggest stronger innate immunity.
A genome comparison also cannot reveal the order of events. The immune losses may have made fusion possible, or fusion may have come first. One pattern stands out. The losses tended to be greatest in species that accept several males for life.
198 words ・ CEFR B2
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広大で暗く、生き物のまばらな深海では、相手を見つけるのが大変です。一部のアンコウは、この問題を極端な方法で解決しています。メスを見つけた非常に小さなオスが、メスにかみついてくっついたままでいることがあるのです。いくつかの種では、やがて組織と血管が融合し、オスはメスの血液で生きながら精子を供給します。
何十年も博物館の標本を研究してきたセオドア・ピーチさんは、種を3つのグループに分けました。あるグループでは、オスは成熟するために融合しなければなりません。別のグループでは融合は任意で、残りのグループでは、オスは一時的にくっつくだけか、まったくくっつきません。融合は免疫学上の謎を投げかけます。脊椎動物の免疫系はふつう、よその組織を拒絶するからです。
2020年、ピーチさん、ジェレミー・スワンさん、トーマス・ベームさんはアンコウのゲノムを比較し、融合する種では、抗体の成熟やT細胞による認識にかかわる遺伝子が失われたり働かなくなったりしていることを見つけました。こうした防御なしにこれらの魚がどうやって感染と戦っているのかは誰にも分かっていませんが、著者らは生まれつきの免疫が強いのではないかと考えています。
また、ゲノムの比較では、出来事の順序までは分かりません。免疫の喪失が融合を可能にしたのかもしれませんし、融合が先だったのかもしれません。一つ目立つ傾向があります。遺伝子の喪失は、一生のうちに複数のオスを受け入れる種で最も大きい傾向があったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What immunological puzzle does the passage describe?
vertebrate immune systems normally reject foreign tissue のに融合が起きる点が謎として示されているので B。
Q2. In which species did the immune losses tend to be greatest?
The losses tended to be greatest in species that accept several males for life. とあるので C。
Q3. According to the passage, what can the genome comparison not reveal?
A genome comparison also cannot reveal the order of events. とあり、免疫の喪失と融合のどちらが先かは分からないので D。
重要単語
- parasitismC1名詞寄生Sexual parasitism is found in some anglerfish.
parasite(寄生生物)の名詞形。para-(そばに)+sitos(食べ物)で「そばで食べる者」。 - fuseC1動詞融合するThe male's tissues fuse with the female's.
名詞 fusion は「融合」。nuclear fusion「核融合」、料理の「フュージョン」も同じ語。 - rejectionB2名詞拒絶(反応)Organ transplants can cause rejection.
動詞 reject「拒絶する」。re-(戻して)+ject(投げる)。inject, project と同じ語根。 - immune systemB2名詞(句)免疫系The immune system attacks foreign cells.
be immune to ~「~に免疫がある、~の影響を受けない」も入試頻出。 - dwarfC1形容詞・名詞非常に小さい、矮小なDwarf males are much smaller than females.
dwarf planet「準惑星」(冥王星など)でもおなじみ。複数形は dwarfs。 - correlationalC1形容詞相関的なCorrelational studies cannot show cause and effect.
correlation(相関)の形容詞。correlation does not imply causation「相関は因果を意味しない」は定番フレーズ。
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深海のチョウチンアンコウの仲間には、小さなオスがメスにかみついて、そのまま皮ふも血管もつながって「体の一部」になる種がいるらしい。臓器移植なら拒絶反応が起きるはずなのに。調べたら、免疫の大事な遺伝子がなくなっていた。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Pietsch (2005) Dimorphism, parasitism, and sex revisited: modes of reproduction among deep-sea ceratioid anglerfishes (Teleostei: Lophiiformes), Ichthyological Researchdoi.org
- Pietsch (2009) Oceanic Anglerfishes: Extraordinary Diversity in the Deep Sea, University of California Pressdoi.org
- Swann et al. (2020) The immunogenetics of sexual parasitism, Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。














