茶トラ猫の毛色の謎、ついに解明。犯人はDNAの小さな「欠け」だった

読む前に予想してみよう!
茶トラ猫のオレンジ色の遺伝子は、他の哺乳類と同じ毛色遺伝子で説明できた
猫のオレンジ色は他の動物の毛色遺伝子では説明できず、長年の謎だった。原因はARHGAP36という遺伝子の領域(イントロン内)にあるDNAの欠けだった。
- 対象
- 家ネコ(茶トラ・サビ・ミケなど)
- 規模
- 多数の猫のゲノム・DNA試料
- 研究の種類
- 遺伝学的解析+皮膚組織の遺伝子発現解析
- 確かさ
- ★★★★☆
茶トラ猫やミケ猫のオレンジ色は、X染色体上のARHGAP36という遺伝子の領域にある約5千塩基の「欠け」が原因だった。日米の2チームが同時に発表。
ひとことで言うと茶トラの毛の色は、遺伝子の小さな「欠け」で決まっていた!
ふわふわのオレンジ色の毛並み。茶トラ猫は、世界中で愛されている猫のひとつです。
でも、なぜ茶トラ猫はオレンジ色なのか、その原因となる遺伝子は、なんと長い間わかっていませんでした。オレンジ色を決める遺伝子が「X染色体の上にある」ことは古くから知られていたのに、肝心の正体がつかめなかったのです。
2025年5月、ついにその謎が解けました。しかも、アメリカと日本の2つのチームが、同じ日に同じ答えを発表したのです。
01犯人は、遺伝子の中の「5000文字の欠け」
スタンフォードのチームは、オレンジ色の毛が生える皮膚の細胞では、ARHGAP36という遺伝子がほかの色の毛の部分よりもずっと活発に働いていることを発見しました。ふつうの猫の色素細胞では、この遺伝子はほとんど働いていません。DNAの一部が欠けたことで、遺伝子の働きを調節する部分が変わり、色素細胞で遺伝子が「オン」になってしまうと考えられています。
02黒い色素を作る指令が弱まる
毛の色は、メラニンという色素で決まります。メラニンには大きく分けて、
- 黒〜茶色のメラニン(ユーメラニン)
- 黄〜オレンジのメラニン(フェオメラニン)
の2種類があります。
研究によると、ARHGAP36が色素を作る細胞で働きすぎると、黒っぽいメラニンを作る遺伝子たちの働きが弱まり、代わりにオレンジ系のメラニンが作られやすくなるようです。

03茶トラにオスが多く、ミケにメスが多い理由
この遺伝子がX染色体にあることが、猫の毛色の有名な「性別の偏り」を説明します。
- オスはX染色体を1本しか持たないので、そこにオレンジの変異があれば全身オレンジ系(茶トラ)になりやすい
- メスはX染色体を2本持ち、細胞ごとにどちらか1本がランダムにオフになる。そのため、片方のX染色体だけにオレンジの変異を持つメスは、オレンジの部分と黒の部分がまだらに混ざるサビ猫やミケ猫になる
ミケ猫がほぼメスばかりなのは、このしくみのため。今回の研究で、その主役の遺伝子が、ついに特定されたわけです。
この「欠け」は、世界の多くのオレンジ色の猫に共通して見られ、研究チームは、オレンジ色の起源は1回だけだった可能性を指摘しています。
04まとめ
身近な猫の毛色にも、つい最近まで解けなかった謎が隠れていました。
そして、そのナゾ解きに日本のチームも大きく貢献していたのは、ちょっとうれしいポイント。今度茶トラ猫を見かけたら、「DNAの小さな欠けがキミの色を作ってるんだね」と心の中で話しかけてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerScientists have long known that the gene for orange fur in cats is on the X chromosome, but they could not…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Orange cats are loved all over the world. But for many years, nobody knew which gene made them orange. In 2025, a team in the United States and a team in Japan shared the answer on the same day.
Part of the DNA, about 5,000 letters long, is missing in orange cats. Because of this, the cats make less dark color in their fur. This change is on the X chromosome.
71 words ・ CEFR A2
和訳を見る
茶トラ猫は世界中で愛されています。しかし長い間、どの遺伝子が猫をオレンジ色にしているのか、だれも知りませんでした。2025年、アメリカのチームと日本のチームが、同じ日にその答えを発表しました。
オレンジ色の猫では、DNAの一部、約5000文字分が欠けています。このため、その猫たちは毛の中に黒っぽい色をあまり作りません。この変化はX染色体の上にあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
猫がオレンジ色になる遺伝的な原因が見つかった、という内容なので A。
Q2. About how long is the missing part of the DNA?
Part of the DNA, about 5,000 letters long, is missing とあるので B。
Q3. In this passage, "missing" means ...
missing は「欠けている・なくなっている」。DNAの一部が存在しないという意味なので D。
Scientists have long known that the gene for orange fur in cats is on the X chromosome, but they could not identify it. In May 2025, a team at Stanford University and a team at Kyushu University solved this mystery at the same time. Both found that orange cats lack about 5,000 letters of DNA in the region of a gene called ARHGAP36.
Because of this missing piece, the gene becomes active in pigment cells, and the cells make less dark pigment and more orange pigment. This also explains why orange cats are often male. Males have only one X chromosome, while females have two, so females with one orange copy often have patches of orange and black, like calico cats.
121 words ・ CEFR B1
和訳を見る
猫のオレンジ色の毛の遺伝子がX染色体の上にあることは昔から知られていましたが、科学者たちはそれを特定できずにいました。2025年5月、スタンフォード大学のチームと九州大学のチームが、同時にこの謎を解きました。どちらのチームも、オレンジ色の猫ではARHGAP36という遺伝子の領域でDNAが約5000文字分欠けていることを見つけたのです。
この欠けた部分のせいで、その遺伝子が色素細胞で活発に働き、細胞は黒っぽい色素を少なく、オレンジ色の色素を多く作るようになります。これは、茶トラ猫にオスが多い理由も説明します。オスはX染色体を1本しか持たず、メスは2本持っているため、オレンジの遺伝子を1つ持つメスは、ミケ猫のようにオレンジと黒のまだら模様になることが多いのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What mystery did the two teams solve?
they could not identify it(オレンジの毛の遺伝子を特定できなかった)という謎を solved this mystery とあるので C。
Q2. What happens because of the missing piece of DNA?
the gene becomes active in pigment cells, and the cells make less dark pigment とあるので D。
Q3. Why are cats with patches of orange and black, like calico cats, usually female?
メスはX染色体を2本持ち、オレンジの遺伝子を1つ持つとまだら模様になると述べているので B。オスは茶トラになりやすいので C は誤り。
Scientists worked out long ago that the orange coat of domestic cats is sex-linked, meaning its gene lies on the X chromosome. Finding the gene itself took decades longer, partly because the orange variants known in other mammals could not explain it. In May 2025, two independent teams, one at Stanford University and one at Kyushu University, published the same answer in Current Biology.
Orange cats carry a deletion of about 5,000 DNA letters in a non-coding part of the ARHGAP36 gene region. The Stanford group showed that ARHGAP36 is far more active in skin cells that produce orange fur, apparently because the deletion alters a regulatory "switch." The extra activity holds back genes needed to make dark melanin, which lets orange pigment take over. Males have one X chromosome.
Females have two, and in each cell one of them is randomly switched off. That is why orange cats are often male and calico cats are almost always female. Exactly how the deletion changes gene activity is still being worked out, and nobody yet knows whether it affects health or personality. Many orange cats share the same deletion, so it probably arose only once.
194 words ・ CEFR B2
和訳を見る
オレンジ色の家ネコの毛が伴性、つまりその遺伝子がX染色体上にあることは、ずっと前に交配の記録から分かっていました。しかし遺伝子そのものを見つけるには、さらに何十年もかかりました。その理由の一つは、ほかの哺乳類で知られているオレンジ色の変異では説明できなかったことです。2025年5月、スタンフォード大学と九州大学の互いに独立した2つのチームが、『Current Biology』で同じ答えを発表しました。
オレンジ色の猫は、ARHGAP36遺伝子の領域のうち、たんぱく質の設計図ではない部分に、約5000文字分のDNAの欠失を持っているのです。スタンフォードのグループは、オレンジ色の毛を作る皮膚の細胞ではARHGAP36がはるかに活発に働いていることを示しました。欠失によって調節の「スイッチ」が変わるためだと考えられます。この余分な働きが、黒っぽいメラニンを作るのに必要な遺伝子をおさえ、オレンジ色の色素が優勢になります。
オスはX染色体を1本持っています。メスは2本持ち、細胞ごとにどちらか1本がランダムにオフになります。そのため、茶トラ猫にはオスが多く、ミケ猫はほぼ必ずメスなのです。欠失が遺伝子の働きを具体的にどう変えるのかはまだ調べている途中で、健康や性格に影響するかどうかも誰にも分かっていません。多くのオレンジ色の猫が同じ欠失を持っているので、この欠失はおそらく一度だけ生じたのでしょう。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, why had the gene been so hard to identify?
partly because the orange variants known in other mammals could not explain it とあるので A。
Q2. What does the deletion appear to do?
far more active ... apparently because the deletion alters a regulatory "switch" とあるので C。性格への影響は誰にも分かっていないとされている。
Q3. Which statement would the author most likely agree with?
so it probably arose only once と述べる一方、仕組みの詳細や健康・性格への影響はまだ分かっていないとしているので D。2チームは the same answer(B×)。
重要単語
- deletionC1名詞(DNAの)欠失、削除A small deletion in the DNA changed the fur color.
delete(削除する)の名詞形。パソコンの Delete キーと同じ語。 - pigmentB2名詞色素Melanin is the pigment that colors our hair.
pigmentation(色素沈着)も一緒に。絵の具の「顔料」の意味でも使う。 - chromosomeB2名詞染色体Female cats have two X chromosomes.
chromo-(色)+some(体)。染色すると色がつくことから。発音は /ˈkroʊməsoʊm/(クロモソウム)。 - mutationB2名詞突然変異The mutation appears only in domestic cats.
mutate(変異する)の名詞形。ミュータント(mutant)と同じ語源。 - inheritB2動詞(遺伝的に)受け継ぐKittens inherit coat colors from their parents.
inherit A from B「B から A を受け継ぐ」。財産の「相続する」の意味も。名詞は inheritance。 - independentB2形容詞独立した、別々のTwo independent teams reached the same answer.
研究では「別々に行われた」の意味。独立した研究が同じ結論に達すると、結果の信頼性が高まる。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
このネタ、誰かに教えたくなった?
茶トラ猫のオレンジ色、実は何十年も原因の遺伝子が分かっていなかったらしい。2025年、アメリカと日本の2チームが同時に、X染色体の遺伝子ARHGAP36の領域にある約5000文字分のDNAの「欠け」が犯人だと突き止めた。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(3件)タップで表示
- Kaelin et al. (2025) Molecular and genetic characterization of sex-linked orange coat color in the domestic cat, Current Biologydoi.org
- Toh et al. (2025) A deletion at the X-linked ARHGAP36 gene locus is associated with the orange coloration of tortoiseshell and calico cats, Current Biologydoi.org
- Lyon (1961) Gene Action in the X-chromosome of the Mouse (Mus musculus L.), Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













