ウソ?ホント?検証ウソ

「ウミガメは産卵の痛みで泣いている」はウソ。涙の正体は海水より濃い"塩"だった

「ウミガメは産卵の痛みで泣いている」はウソ。涙の正体は海水より濃い"塩"だった

読む前に予想してみよう!

ウミガメが産卵のときに流す涙は、痛みや悲しみの涙だ

研究カード(どんな研究?)
対象
ウミガメ・海の爬虫類
規模
実験動物の測定
研究の種類
生理学実験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

ウミガメの涙は、目の近くの「塩類腺」から出る濃い塩水。海水を飲んで暮らすため、体にたまった余分な塩を捨てている。産卵中だけでなく海の中でも出ている。

ひとことで言うとウミガメの涙は"塩の捨て口"。悲しくて泣いてるわけじゃない!

もくじ
  1. 涙の正体は「塩類腺」から出る濃い塩水
  2. なぜ塩を捨てる必要があるのか
  3. 赤ちゃんウミガメも、生まれてすぐ"泣く"
  4. では、なぜ産卵のときだけ「泣く」の?
  5. なぜ「痛みの涙」が広まったのか
  6. まとめ

夏の夜、砂浜に上がったウミガメが、ぽろぽろと涙を流しながら卵を産む――。

テレビの自然番組や観察会で、その姿に胸を打たれた人も多いでしょう。「産むのが痛くて泣いている」「子どもとの別れが悲しいんだ」と説明されることもあります。

ロマンチックな話ですが、科学的にはウソです。あの涙の正体は、もっと実用的なものでした。

01涙の正体は「塩類腺」から出る濃い塩水

ウミガメの目のうしろ側には、「塩類腺(えんるいせん)」という特別な器官があります。もともとは涙を作る腺が変化したもので、ここから出てくる液体が、私たちには"涙"に見えるのです。

02なぜ塩を捨てる必要があるのか

ウミガメは海で暮らし、クラゲや海藻などのエサと一緒に、たくさんの海水を飲みこみます。でも、私たち人間が海水を飲んではいけないように、塩分が体にたまりすぎるのは危険です。

人間の場合、余分な塩は腎臓でおしっこにして捨てます。ところが、爬虫類の腎臓は海水より濃いおしっこを作るのが苦手です。そのままでは、海水を飲めば飲むほど体の塩分が増えてしまいます。

実はウミガメは、海の中でも"涙"を流している。水の中なので気づかれないだけ
実はウミガメは、海の中でも"涙"を流している。水の中なので気づかれないだけ

そこで活躍するのが塩類腺です。血液中の余分な塩を、海水よりも濃い液体にして目のまわりから捨てる。これなら、海水を飲んでも、差し引きで"真水"を手に入れることができます。

03赤ちゃんウミガメも、生まれてすぐ"泣く"

2002年、米国ドレクセル大学のレイナらは、生まれたばかりのオサガメの赤ちゃんを調べました。陸の上では赤ちゃんの体はどんどん乾いて血液の塩分が濃くなりますが、海水に入ると海水を飲んで体重を増やし、塩類腺を使って体の塩分と水分のバランスを整えていました。

つまり塩類腺は、ウミガメが生まれた直後から使っている、海で生きるための必須装備なのです。

04では、なぜ産卵のときだけ「泣く」の?

答えはシンプルです。海の中では、涙が出ていても見えないから。

ウミガメは、ふだんから塩類腺で塩を捨てています。陸に上がる産卵のときだけ、人間がその姿を間近で見るので、「涙を流している」ように見えるのです。また、陸の上で目が乾いたり砂が入ったりするのを、この液体が防いでいるとも考えられています。

05なぜ「痛みの涙」が広まったのか

  • 涙=感情、という人間の感覚をそのまま当てはめてしまう
  • 産卵という特別な場面と重なり、物語として心に残る
  • 海の中の"涙"は見えないので、「産卵のときだけ」と思いこみやすい

ウミガメに感情移入する気持ちは、自然を大切にする心にもつながります。ただ、本当の理由を知ると、海で生きるための見事な仕組みに、別の感動が生まれるはずです。

06まとめ

  • ウミガメの"涙"は、塩類腺から出る海水より濃い塩水
  • 海水を飲んで暮らすため、余分な塩を捨てている
  • 海の中でも出ているが、陸に上がる産卵のときにだけ目立つ

判定は「ウソ」。ウミガメは泣いているのではなく、海で生きるための"排水作業"中でした。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people are moved when they see a sea turtle crying while it lays its eggs. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many people are moved when they see a sea turtle crying while it lays its eggs. However, the turtle is not crying from pain or sadness. Behind each eye, it has a salt gland, which developed from a gland that makes tears. Sea turtles swallow a lot of seawater with their food, but reptile kidneys cannot make urine saltier than seawater.

Instead, the salt glands remove extra salt from the blood. A 1989 study of green sea turtles showed that this fluid can be much saltier than seawater. The turtles produce these "tears" in the ocean too, but we only notice them when the turtles come onto land.

108 words ・ CEFR B1

和訳を見る

卵を産みながら涙を流すウミガメを見て、心を動かされる人はたくさんいます。しかし、ウミガメは痛みや悲しみで泣いているのではありません。それぞれの目のうしろには塩類腺があり、これは涙を作る腺が変化したものです。ウミガメはエサと一緒に海水をたくさん飲みこみますが、爬虫類の腎臓は海水より塩辛い尿を作ることができません。

その代わりに、塩類腺が血液から余分な塩を取り除くのです。1989年のアオウミガメの研究では、この液体が海水よりもずっと塩辛くなりうることが示されました。ウミガメは海の中でもこの「涙」を出していますが、私たちが気づくのはウミガメが陸に上がったときだけなのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. Why can't sea turtles remove salt with their kidneys alone?

Q3. Why do people think sea turtles cry only when they lay eggs?

重要単語

  • salt glandC1
    名詞(句)塩類腺Sea turtles use salt glands to remove extra salt. gland は「腺」。sweat gland(汗腺)、tear gland(涙腺)も同じ形。
  • secreteC1
    動詞分泌するThe gland secretes very salty fluid. 名詞 secretion(分泌物)。secret(秘密)と同語源で「分けて出す」が原義。
  • tearA2
    名詞涙A tear rolled down the turtle's face. 発音は /tɪə/(ティア)。動詞 tear /teə/(テア=引き裂く)とは発音が違う。
  • seawaterB1
    名詞海水Humans cannot drink seawater safely. 反対は fresh water(真水・淡水)。salt water とも言う。
  • kidneyB2
    名詞腎臓Our kidneys remove extra salt from the blood. liver(肝臓)、lung(肺)とまとめて臓器の語彙を覚えよう。
  • concentratedB2
    形容詞濃い、濃縮されたThe fluid is more concentrated than seawater. 動詞 concentrate は「集中する」も「濃縮する」も。反対は diluted(薄められた)。

4コマでわかる

「ウミガメは産卵の痛みで泣いている」はウソ。涙の正体は海水より濃い"塩"だったの4コマ漫画
「ウミガメは産卵の痛みで涙を流す」という感動話。実はあの涙は、目の近くの「塩類腺」から出る海水より濃い塩水。海水を飲んで暮らすウミガメが、余分な塩を捨てている"排水口"だったらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Schmidt-Nielsen & Fänge (1958) Salt glands in marine reptiles, Naturedoi.org
  2. Nicolson & Lutz (1989) Salt gland function in the green sea turtle Chelonia mydas, Journal of Experimental Biologydoi.org
  3. Reina, Jones & Spotila (2002) Salt and water regulation by the leatherback sea turtle Dermochelys coriacea, Journal of Experimental Biologydoi.org
  4. Hudson & Lutz (1986) Salt gland function in the leatherback sea turtle, Dermochelys coriacea, Copeiadoi.org