「電車の座席は菌だらけ」は半分ホント。DNAを調べたら主役は"みんなの皮膚の常在菌"だった

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電車の座席から見つかる細菌の多くは、人の皮膚や口にふだんからいる菌だ
地下鉄の調査では、座席や手すりは人の皮膚・口の常在菌が中心だった。
- 対象
- 都市の地下鉄・公共交通の表面
- 規模
- 60都市・4,728サンプルなど
- 研究の種類
- メタゲノム解析(観察研究)
- 確かさ
- ★★★☆☆
電車の座席やつり革には確かに微生物がたくさんいる。でも多くは人の皮膚や口の常在菌。「ペスト菌発見」の報道は、のちに"証拠不十分"とされた。
ひとことで言うと菌はいる。でもほとんどは、人の肌にいつもいる仲間だった!
「電車の座席って、菌だらけらしいよ。つり革なんてトイレより汚いって」
テレビやネットで、こんな話を見かけたことはありませんか。満員電車でつり革をにぎるたび、ちょっとゾッとする人もいるかもしれません。
調べてみると、「菌がたくさんいる」こと自体はホントです。でも、その中身を知ると、ゾッとする必要はあまりなさそうだとわかります。
01地下鉄の「DNA地図」を作った研究者たち
2010年代、都市の微生物を丸ごと調べる研究が一気に進みました。使われたのは「メタゲノム解析」という方法です。綿棒で表面をこすり、そこに残ったDNAを片っ端から読んで、どんな生き物がいたかを調べます。
つまり電車の座席にいる菌の多くは、私たちの体にいつもいるのと同じ仲間。乗客の肌や息から、毎日うつっていくのです。
02「地下鉄からペスト菌」騒動の真相
一方で、こんな騒ぎもありました。
2015年、米国コーネル大学のメイソンらのチームが、ニューヨークの地下鉄全体の表面を調べた結果を発表しました。見つかった生き物は細菌やウイルスなど1,688種類(分類群)にのぼり、多くは皮膚に関係する無害な菌。ところが、炭疽菌やペスト菌のDNAの断片が見つかったという内容が、大きく報道されたのです。

これに対し、ニューヨーク市の保健当局や米国疾病対策センター(CDC)の専門家たちは同じ雑誌で反論を出しました。タイトルはずばり「ニューヨーク地下鉄にペスト菌や炭疽菌がいる証拠はない」。DNAの断片が、よく似た無害な菌のものと見分けられていなかった可能性などが指摘されたのです。
これは研究の「どんでん返し」の好例です。DNAの断片が見つかることと、生きた病原体がいて病気を起こせることは、まったく別の話なのです。
03世界60都市でも、主役は意外な顔ぶれ
その後、世界の研究者が協力した「MetaSUB」という国際プロジェクトは、2021年に60都市の公共交通から集めた4,728サンプルの解析を発表しました。
都市ごとに微生物の"顔ぶれ"は気候や地域によって違い、サンプルの97%で見つかる共通の31種(人の常在菌とは別の微生物)もありました。データベースに載っていない未知のウイルスや細菌も大量に見つかり、都市はまだまだ未知の微生物の宝庫だということもわかりました。
04なぜ「菌だらけ=危険」と思ってしまうのか
- 「菌」という言葉が、病気の原因というイメージと強く結びついている
- 「トイレより○倍」のような比較は、数の多さだけで、種類や危険度を表していない
- 目に見えないものは、想像で大きく怖くなりやすい
実際には、私たちの皮膚や口にも、常に大量の菌がすんでいます。電車の座席にいる菌も、その多くは同じ仲間です。
05まとめ
- 電車の座席やつり革には、確かにたくさんの微生物がいる
- でもその多くは、人の皮膚や口にふだんからいる常在菌
- 「地下鉄からペスト菌」は、のちに専門家が「証拠不十分」と反論した
判定は「ビミョー」。菌はいる。でも"菌だらけ=危険"ではない。いちばんの対策は、つり革を避けることより、手を洗うことでした。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2016, a team of American researchers collected samples from seats, handrails, and touch screens in the…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people think train seats are full of germs. It is true that there are many tiny living things on seats and handles.
But scientists studied the DNA on subway seats in Boston. Most of the bacteria were the same kinds that live on our skin and in our mouths every day. They are usually harmless. So you do not need to be scared. Just wash your hands when you get home.
72 words ・ CEFR A2
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多くの人は、電車の座席は菌だらけだと思っています。座席や手すりにとても小さな生き物がたくさんいるのは本当です。
でも、科学者たちがボストンの地下鉄の座席のDNAを調べました。細菌のほとんどは、毎日私たちの皮膚や口にすんでいるのと同じ種類でした。それらはふつう無害です。だから、怖がる必要はありません。家に帰ったら手を洗えばよいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
電車の座席にいる菌がどんな種類なのかを説明しているので B。
Q2. Where do most of the bacteria on subway seats usually live?
the same kinds that live on our skin and in our mouths とあるので D。
Q3. In this passage, "harmless" means ...
harm(害)+-less(~のない)で「害のない」なので A。
In 2016, a team of American researchers collected samples from seats, handrails, and touch screens in the Boston subway. Then they read the DNA in each sample. Train seats and straps have a reputation for being covered in germs, and in one sense that is true. The surfaces did carry microbes.
But the type of surface mattered more than the train line or station. On every surface, the main microbes were bacteria that normally live on human skin and in the mouth. The researchers also reported that the surfaces were not hot spots for drug-resistance genes.
So most of the bacteria on a train seat are the same kinds that already live on our own bodies. Washing your hands after a ride is still a good habit.
127 words ・ CEFR B1
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2016年、アメリカの研究チームが、ボストンの地下鉄の座席、手すり、タッチパネルからサンプルを集めました。そして、それぞれのサンプルに含まれるDNAを読みました。電車の座席やつり革は菌だらけだと思われていますが、ある意味ではそれは本当です。表面には確かに微生物がいました。
しかし、路線や駅よりも、表面の種類のほうが重要でした。どの表面でも、主な微生物は、ふだん人の皮膚や口にすんでいる細菌でした。研究者たちはまた、それらの表面が薬剤耐性遺伝子のたまり場にはなっていなかったと報告しています。
つまり、電車の座席にいる細菌の多くは、すでに私たち自身の体にすんでいるのと同じ種類なのです。それでも、乗車後に手を洗うのは良い習慣です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ボストンの地下鉄の表面の微生物を調べた研究の結果を紹介しているので C。
Q2. According to the passage, what mattered most in deciding which microbes were found?
the type of surface mattered more than the train line or station とあるので D。
Q3. Which statement would the writer most likely agree with?
多くは私たちの体にすむのと同じ種類の細菌で、耐性遺伝子のたまり場でもなかったと述べているので B。
The claim that train seats are "covered in germs" is accurate in a narrow sense but misleading overall. Using metagenomic analysis, in which researchers swab a surface and sequence all the DNA present, a 2016 study of the Boston subway found that the type of surface, such as seats, handrails, or touch screens, shaped microbial communities more than the line or station did. The dominant organisms everywhere were commensal bacteria from human skin and mouths, and the surfaces did not appear to be reservoirs of drug-resistance or disease-causing genes.
A more alarming story emerged in 2015, when a team mapping the New York subway reported DNA fragments resembling plague and anthrax bacteria. Experts from the city's health department and the CDC soon published a response arguing that there was no evidence for these pathogens, pointing out that the fragments may not have been distinguished from closely related harmless species. The episode illustrates a key limitation: detecting DNA is not the same as finding living, infectious organisms. Later, an international project analyzing 4,728 samples from 60 cities found that urban microbes vary with climate and include many unknown species.
188 words ・ CEFR B2
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電車の座席は「菌に覆われている」という主張は、狭い意味では正確ですが、全体としては誤解を招きます。表面を綿棒でこすってそこにあるDNAをすべて読み取るメタゲノム解析を使った、ボストンの地下鉄についての2016年の研究では、座席・手すり・タッチパネルといった表面の種類のほうが、路線や駅よりも微生物の集団の構成を左右していることがわかりました。どこでも優勢だったのは人の皮膚や口に由来する常在菌で、表面は薬剤耐性遺伝子や病原性遺伝子のたまり場にはなっていないようでした。もっと不安をあおる話が出たのは2015年のことです。
ニューヨークの地下鉄の地図を作っていたチームが、ペスト菌や炭疽菌に似たDNAの断片を報告したのです。市の保健当局とCDCの専門家たちはすぐに、これらの病原体がいる証拠はないと主張する反論を発表し、断片がよく似た無害な菌のものと区別されていなかった可能性を指摘しました。この一件は重要な限界を示しています。DNAを検出することは、生きていて感染力のある生物を見つけることと同じではないのです。その後、60都市の4,728サンプルを解析した国際プロジェクトでは、都市の微生物は気候によって異なり、未知の種も数多く含まれていることがわかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the author's main point?
冒頭の「狭い意味では正確だが誤解を招く」と、常在菌が中心・ペスト菌報道は証拠なし、という流れから A。
Q2. Why did the experts reject the report of plague DNA in New York?
the fragments may not have been distinguished from closely related harmless species と指摘されているので C。
Q3. What does the New York episode show about studies like these?
detecting DNA is not the same as finding living, infectious organisms と限界が明示されているので A。
重要単語
- microbeB2名詞微生物Microbes are everywhere in our cities.
micro-(小さい)+bio(生命)。microorganism と同じ意味。microbiome は「微生物叢」。 - commensalC1形容詞常在の、共生のCommensal bacteria live on our skin without harming us.
com-(共に)+mensa(食卓)=同じ食卓で食べる仲間、が語源。 - pathogenC1名詞病原体Only a few bacteria are dangerous pathogens.
patho-(病気)+-gen(生み出すもの)。pathology(病理学)と同じ語根。 - sequenceB2動詞・名詞(DNAの)配列を読む/順序、配列The team sequenced DNA from subway surfaces.
名詞「順序・連続」が基本。in sequence「順番に」。生物学では動詞で使う。 - surfaceB1名詞表面Wipe the surface with a clean cloth.
sur-(上)+face(顔)。on the surface「表面上は、見かけは」も頻出。 - reservoirC1名詞貯水池、たまり場(保有源)The surfaces were not reservoirs of resistance genes.
本来は「貯水池」。医学では病原体を保ち続ける場所や生物の意味で使う。
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「電車の座席は菌だらけ」はある意味ホント。でもボストンの地下鉄を調べたら、座席もつり革も主役は人の皮膚や口にいつもいる常在菌。NYの地下鉄で「ペスト菌のDNA発見」と騒がれた件は、のちに証拠不十分とされたらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Hsu et al. (2016) Urban transit system microbial communities differ by surface type and interaction with humans and the environment, mSystemsdoi.org
- Afshinnekoo et al. (2015) Geospatial resolution of human and bacterial diversity with city-scale metagenomics, Cell Systemsdoi.org
- Ackelsberg et al. (2015) Lack of evidence for plague or anthrax on the New York City subway, Cell Systemsdoi.org
- Danko et al. (2021) A global metagenomic map of urban microbiomes and antimicrobial resistance, Celldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













