ウソ?ホント?検証ビミョー

「ひじきは鉄分の王様」は鍋のおかげだった。成分表で鉄が約9分の1になった日

「ひじきは鉄分の王様」は鍋のおかげだった。成分表で鉄が約9分の1になった日

読む前に予想してみよう!

ほしひじきに含まれる鉄分の多くは、加工に使う鍋(鉄釜)に由来する

研究カード(どんな研究?)
対象
食品の成分分析+鉄なべの臨床試験
規模
公的データベース+レビュー(試験3件)+RCT(340人)
研究の種類
成分分析・系統的レビュー・RCT
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

ほしひじきの鉄は、鉄の釜でゆでると100gあたり58mg、ステンレス釜だと6.2mg。鉄の多くは海藻ではなく"鍋"から来ていた。

ひとことで言うとひじきの鉄分、じつは鍋から溶け出した鉄がほとんどだった!

もくじ
  1. ステンレス釜だと鉄は6.2mg、鉄釜だと58mg
  2. 「鉄の鍋で料理すると鉄が増える」は本当だった
  3. でも「どんでん返し」もあった
  4. 鉄は「量」より「吸収されるか」
  5. まとめ

「貧血気味なら、ひじきとレバーを食べなさい」

家庭科の授業や健康番組で、何度も聞いたアドバイスです。黒くて小さなひじきは、長いあいだ"鉄分の王様"として知られてきました。

ところが2015年、国の食品成分表が改訂されたとき、ひじきの鉄分は一気に約9分の1の値が載ることになります。ひじきが変わったわけではありません。変わったのは、ゆでる鍋でした。

01ステンレス釜だと鉄は6.2mg、鉄釜だと58mg

ほしひじきは、収穫した海藻を大きな釜でゆでたり蒸したりしてから乾燥させて作ります。昔はこの釜が鉄製でした。

つまり、ひじきの"鉄分"の大部分は、加工中に鉄の釜から溶け出した鉄だったのです。今はステンレス釜で作られるものが多く、スーパーのひじきが昔ほど鉄を含んでいるとは限りません。

02「鉄の鍋で料理すると鉄が増える」は本当だった

ここで発想を逆にすると、おもしろいことに気づきます。鍋から鉄が溶け出すなら、鉄の鍋は"鉄分のサプリ"になるのでは?

鉄鍋は料理に少しだけ鉄を"足して"くれる
鉄鍋は料理に少しだけ鉄を"足して"くれる

実際にこれを確かめた研究があります。英国リバプール熱帯医学校のゲールリグスらは2003年、鉄鍋で調理した食事が貧血を改善するかを調べた比較試験を集めて分析しました。条件を満たしたのは3件で、鉄不足の人ではヘモグロビン(血液の中で酸素を運ぶ成分)が上がる証拠がある程度ある、という結論でした。

03でも「どんでん返し」もあった

ところが、話はそう単純ではありません。カンボジアでは、料理に入れるだけで鉄が溶け出す魚の形をした鉄のかたまりが貧血対策として注目されました。ところが2017年に発表された、貧血の女性340人を3グループにくじ引きで分けた試験では、1年後のヘモグロビンは鉄のかたまりのグループでも、鉄のサプリのグループでも、何もしないグループと差がありませんでした。

研究チームによると、対象の女性たちは鉄不足の人が少なく、遺伝的な血液の病気が多かったのです。原因が鉄不足でなければ、鉄を足しても貧血は治らない。当たり前のようで、大事なポイントです。

04鉄は「量」より「吸収されるか」

鉄分は、食べた量がそのまま体に入るわけではありません。スイス連邦工科大学のハレルとエグリの2010年の総説によると、体に鉄の蓄えがほとんどない人では、鉄の吸収率は、肉や魚を含むふつうの食事で14〜18%、菜食中心の食事で5〜12%ほどと見積もられています。肉や魚に多い「ヘム鉄」は、植物の鉄より吸収されやすいことが知られています。

さらに、体の鉄が足りているかどうかで吸収率そのものが大きく変わります。だから「鉄分○mg」という数字だけで比べるのは、実は少し乱暴なのです。

05まとめ

  • ひじきの鉄分の多くは、加工に使った鉄の釜から来ていた
  • 鉄鍋で料理すると鉄は増えるが、貧血の改善には「原因が鉄不足か」が大事
  • 鉄は量より「吸収されるか」。いろいろな食品から少しずつが基本

判定は「ビミョー」。ひじきが悪者になったわけではありませんが、「鉄分の王様」の王冠は、実は鍋のものだったようです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn Japan, hijiki, a black seaweed, has long been famous as a great source of iron. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In Japan, hijiki, a black seaweed, has long been famous as a great source of iron. Then, in 2015, the official food composition table was revised. Dried hijiki was now listed in two ways, depending on whether it was made in an iron pot or a stainless steel pot.

The difference was huge. In 100 grams of hijiki from an iron pot, there were 58 milligrams of iron. Hijiki from a stainless steel pot had only 6.2 milligrams. Other nutrients were almost the same.

So most of the iron had come from the pot itself during processing. The same thing can happen in a home kitchen. A review of three studies found some evidence that food cooked in iron pots can raise hemoglobin in people who lack iron.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本では、黒い海藻であるひじきは、鉄をたっぷりとれる食品として長いあいだ有名でした。ところが2015年、公式の食品成分表が改訂されました。ほしひじきは、鉄釜で作ったものかステンレス釜で作ったものかによって、2通りで載るようになったのです。

その差は大きなものでした。鉄釜のひじき100gには58ミリグラムの鉄が含まれていました。ステンレス釜のひじきには、6.2ミリグラムしかありませんでした。ほかの栄養素はほとんど同じでした。

つまり、鉄の大部分は加工中に釜そのものから出てきたものだったのです。同じことは家庭の台所でも起こりえます。3件の研究をまとめたレビューでは、鉄鍋で調理した食事が、鉄の足りない人のヘモグロビンを上げうるという証拠がある程度見つかりました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. How was dried hijiki listed in the 2015 food table?

Q3. What can we infer about cooking in an iron pot at home?

重要単語

  • iron deficiencyB2
    名詞(句)鉄欠乏Iron deficiency is common among young women. deficiency は「不足・欠乏」。形容詞 deficient、vitamin D deficiency のように使う。
  • absorptionB2
    名詞吸収Vitamin C can increase iron absorption. 動詞 absorb の名詞形。つづりは b→p に変わる点に注意(absorb → absorption)。
  • stainless steelB1
    名詞(句)ステンレス鋼Stainless steel pots do not release much iron. stain(しみ)+-less(~のない)=さびにくい鋼。
  • anemiaC1
    名詞貧血Anemia can make you feel tired. 英国つづりは anaemia。an-(ない)+-emia(血液の状態)が語源。
  • compositionB2
    名詞成分、組成The food composition table was revised in 2015. 動詞 compose(構成する)。「作文・作曲」の意味もある多義語。
  • hemoglobinC1
    名詞ヘモグロビン(血液中で酸素を運ぶ成分)Doctors measure hemoglobin to check for anemia. hemo-(血)+globin(たんぱく質)。鉄を含むため、鉄不足で値が下がる。
  • leachC1
    動詞(成分が)溶け出すIron can leach from the pot into the food. leach from A into B「AからBへ溶け出す」。同音の leech(ヒル)と混同注意。

4コマでわかる

「ひじきは鉄分の王様」は鍋のおかげだった。成分表で鉄が約9分の1になった日の4コマ漫画
「鉄分といえば、ひじき」の常識。国の食品成分表を見ると、ステンレス釜で作ったほしひじきの鉄は100gあたり6.2mg、鉄釜なら58mg。鉄の大部分は海藻じゃなくて"鍋"から来ていたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. 日本食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省)mext.go.jp
  2. Hurrell & Egli (2010) Iron bioavailability and dietary reference values, The American Journal of Clinical Nutritiondoi.org
  3. Geerligs, Brabin & Omari (2003) Food prepared in iron cooking pots as an intervention for reducing iron deficiency anaemia in developing countries: a systematic review, Journal of Human Nutrition and Dieteticsdoi.org
  4. Rappaport et al. (2017) Randomized controlled trial assessing the efficacy of a reusable fish-shaped iron ingot to increase hemoglobin concentration in anemic, rural Cambodian women, The American Journal of Clinical Nutritiondoi.org