ウソ?ホント?検証ウソ

「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソだった。ハチの羽が生む“小さな竜巻”の正体

「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソだった。ハチの羽が生む“小さな竜巻”の正体

読む前に予想してみよう!

ハチの飛行は、現代の科学でも説明できない謎のままだ

研究カード(どんな研究?)
対象
昆虫の羽の模型・実際の昆虫
規模
実験室での流体実験
研究の種類
実験研究
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「クマバチは理論上飛べない」は、飛行機の固い翼の計算を当てはめた誤解。羽ばたく羽が作る前縁渦などで十分な揚力が出ることが実験で示された。

ひとことで言うとハチは飛行機とちがう飛び方をしているから、ちゃんと飛べる!

もくじ
  1. 「飛べない説」はどこから来た?
  2. 正体①:羽のふちにできる「前縁渦」
  3. 正体②:油の中で羽ばたく「ロボバエ」
  4. どんでん返し:「謎」が解けた後の方が面白い
  5. まとめ

「クマバチは航空力学的には飛べないはずなのに、本人は飛べると信じているから飛べるのだ」――自己啓発の本やスピーチでよく聞く話です。

結論から言うと、「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソです。この話は、飛行機の“固い翼”の計算を、羽ばたく昆虫の羽にそのまま当てはめたことから生まれた誤解。実際には、ハチの羽ばたきが羽のふちに小さな竜巻のような渦を作り、それが大きな揚力を生んでいることが、実験で確かめられています。

01「飛べない説」はどこから来た?

この話のルーツとしてよく挙げられるのは、1930年代のフランスです。昆虫の飛行についての本の中で、「ハチの体重と羽の大きさで計算すると、飛ぶのに必要な揚力が出ない」という趣旨の話が紹介されたといわれています。

計算自体は「飛行機の翼のように、羽が一定の形・一定の角度でなめらかに空気を切る」と仮定したもの。ところが、ハチの羽は1秒間に何百回も前後に振られ、そのたびにくるっとひっくり返るまったく別の動き方をしています。前提が違えば、答えも違って当然です。

ちなみに日本では「クマバチ」の話として広まっていますが、海外では主にマルハナバチ(bumblebee)の話です。どちらも丸っこい体に小さめの羽という共通点があり、「本当に飛べるの?」と思われやすい見た目なのでしょう。

02正体①:羽のふちにできる「前縁渦」

飛行機の翼では、角度を急にしすぎると空気の流れが翼からはがれて「失速」します。ところが羽ばたく羽では、はがれかけた流れが渦となって羽の上に留まり、かえって揚力を増やすのです。羽ばたきが短い時間で切り返すからこそできる芸当です。

羽の前縁に張りつく渦が、飛行機の計算にはない揚力を生む
羽の前縁に張りつく渦が、飛行機の計算にはない揚力を生む

03正体②:油の中で羽ばたく「ロボバエ」

1999年には、米カリフォルニア大学バークレー校のディキンソンらが、さらに踏み込んだ実験をScience 誌に発表しました。

彼らは、ショウジョウバエの羽を大きくしたロボットの羽を作り、ミネラルオイルを満たした水槽の中でゆっくり羽ばたかせました。油の中で大きな羽をゆっくり動かすと、空気中の小さな羽の速い動きと「流れの性質」がそろうため、力をくわしく測れるのです。

その結果、揚力の源は前縁渦だけではありませんでした。羽を切り返すときにくるっと回転させる動きや、自分が直前に作った流れをもう一度とらえる動きからも、大きな力が生まれていたのです。

2005年には、ディキンソンを含む研究チームがミツバチを調べ、ミツバチが小さな振り幅で非常に速く羽ばたく独特のスタイルで体を支えていることも報告しました。ハチの仲間でも、飛び方の「流儀」はいろいろなのです。

04どんでん返し:「謎」が解けた後の方が面白い

「クマバチは飛べると信じているから飛べる」というお話は、気持ちを励ますたとえとしては魅力的です。でも科学的には、ハチは信念ではなく物理で飛んでいます。

そして本当に面白いのはここから。昆虫の羽ばたきの仕組みは、小型ドローンや羽ばたきロボットの設計にも応用が研究されています。「飛べないはず」という誤解が、むしろ新しい技術のヒントの宝庫だったわけです。

05まとめ

「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソ。飛行機の翼の計算をそのまま当てはめたのが間違いで、羽ばたく羽がつくる渦や回転が、十分な揚力を生んでいました。

次にブーンと飛ぶクマバチを見かけたら、その羽のふちで小さな竜巻がくるくる回っている様子を想像してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people have heard that bumblebees should not be able to fly according to the laws of aerodynamics. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many people have heard that bumblebees should not be able to fly according to the laws of aerodynamics. This idea is a misconception. It comes from calculations that treated a bee's wing like the stiff wing of an airplane, which moves smoothly at a fixed angle.

In fact, insects flap their wings very quickly and flip them at the end of each stroke. In 1996, researchers in Cambridge found that a flapping wing creates a vortex that stays on its front edge and greatly increases lift. In 1999, another team moved large robotic wings in oil and found that turning the wing and catching air from the previous stroke also produce force.

112 words ・ CEFR B1

和訳を見る

マルハナバチは空気力学の法則によれば飛べないはずだ、という話を聞いたことがある人は多いでしょう。この考えは誤解です。それは、ハチの羽を、一定の角度でなめらかに動く飛行機の固い翼のように扱った計算から来ています。

実際には、昆虫はとても速く羽ばたき、ひと振りごとの終わりに羽をひっくり返します。1996年、ケンブリッジの研究者たちは、羽ばたく羽が前のふちに張りつく渦を作り、それが揚力を大きく高めることを発見しました。1999年には、別のチームが大きなロボットの羽を油の中で動かし、羽を回転させる動きや、直前のひと振りで生まれた空気の流れをとらえる動きからも力が生まれることを見つけました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What did the 1996 study find?

Q3. Why was the original calculation wrong?

重要単語

  • liftB1
    名詞揚力Wings produce lift by moving air downward. 動詞では「持ち上げる」。英国では「エレベーター」も lift。give ~ a lift「~を車に乗せてあげる」。
  • aerodynamicsC1
    名詞空気力学The aerodynamics of insects differ from those of airplanes. aero-(空気)+dynamics(力学)。形容詞 aerodynamic は「空気抵抗の少ない」の意味でも使う。
  • vortexC1
    名詞渦A small vortex forms on the edge of the wing. 複数形は vortices または vortexes。whirlpool(渦潮)、tornado(竜巻)も渦の仲間。
  • flapB2
    動詞羽ばたくBees flap their wings hundreds of times a second. flap one's wings「羽ばたく」。名詞では「(封筒・ポケットの)ふた」。flutter は「パタパタ小刻みに羽ばたく」。
  • misconceptionC1
    名詞誤解It is a common misconception that bees cannot fly. mis-(誤って)+conception(考え)。It is a common misconception that ~ は英作文でも使える便利な型。
  • assumptionB2
    名詞前提、仮定The calculation was based on a wrong assumption. 動詞 assume(仮定する・思い込む)。on the assumption that ~「~という前提で」。批判的思考の文章で頻出。

4コマでわかる

「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソだった。ハチの羽が生む“小さな竜巻”の正体の4コマ漫画
「クマバチは航空力学的には飛べないのに、飛べると信じているから飛べる」という有名な話、実はウソ。ロボットの羽を油の中で動かす実験で、羽ばたきが作る渦や、羽の回転が揚力を生むことがわかった。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Ellington, van den Berg, Willmott & Thomas (1996) Leading-edge vortices in insect flight, Naturedoi.org
  2. Dickinson, Lehmann & Sane (1999) Wing Rotation and the Aerodynamic Basis of Insect Flight, Sciencedoi.org
  3. Sane (2003) The aerodynamics of insect flight, Journal of Experimental Biologydoi.org
  4. Altshuler, Dickson, Vance, Roberts & Dickinson (2005) Short-amplitude high-frequency wing strokes determine the aerodynamics of honeybee flight, PNASdoi.org