ウソ?ホント?検証ウソ

「体は7年で全部入れ替わる」はウソ。一生入れ替わらない細胞は核実験の"置き土産"でわかった

「体は7年で全部入れ替わる」はウソ。一生入れ替わらない細胞は核実験の"置き土産"でわかった

読む前に予想してみよう!

人間の体の細胞は、7年たつとすべて新しいものに入れ替わる

研究カード(どんな研究?)
対象
亡くなった人の組織・既存データ
規模
数十人分の組織+全身の推計
研究の種類
放射性炭素年代測定・定量推計
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

血液や腸の細胞は数日〜数か月で入れ替わるが、大脳の神経細胞や目のレンズの中心は生まれた頃のまま。「7年で全部」はウソだった。

ひとことで言うとすぐ生まれ変わる細胞もあれば、一生いっしょの細胞もある!

もくじ
  1. 核実験の「炭素14」が細胞の時計になった
  2. 速い細胞、遅い細胞、入れ替わらない細胞
  3. なぜ「7年」が広まったのか
  4. まとめ

「人間の体は7年で全部入れ替わるんだって。だから7年前の自分は、別人みたいなもの」

ちょっと哲学的で、つい人に話したくなる雑学です。失恋した友だちを励ますのに使った人もいるかもしれません。

でも、科学的に調べると答えははっきりしています。全部は入れ替わらない。しかも、それを確かめた方法がかなり意外でした。カギになったのは、冷戦時代の核実験です。

01核実験の「炭素14」が細胞の時計になった

1950〜60年代、地上での核実験によって、大気中の炭素14(放射線を出す炭素の仲間)が急に増えました。1963年に地上核実験が制限されると、その量は少しずつ減っていきます。

細胞は分裂してDNAを作るとき、そのとき食べ物から取りこんだ炭素を使います。食べ物の炭素は、もとをたどれば大気の二酸化炭素。つまり、DNAの中の炭素14の量を測れば、その細胞が「何年ごろ生まれたか」がわかるのです。

それまで、人間の細胞の"年齢"を直接測るのはとても難しいことでした。動物なら目印になる物質を注射して追いかけられますが、健康な人に同じことはできません。核実験という負の歴史が、皮肉にも人体に刻まれた年代測定のスタンプになったわけです。

02速い細胞、遅い細胞、入れ替わらない細胞

同じ方法やほかのデータから、細胞ごとの「入れ替わりスピード」がだんだん見えてきました。

  • 血液や腸の表面の細胞:数日〜数か月で入れ替わる。イスラエル・ワイツマン科学研究所のセンダーとミロ(2021年)の推計では、体全体で1日に約3300億個の細胞が入れ替わり、その約9割は血液の細胞
  • 脂肪細胞:1年で約1割が入れ替わる(2008年の研究)
  • 心臓の筋肉の細胞:25歳で年に約1%、75歳で約0.45%。一生のうちに入れ替わるのは半分未満(2009年の研究)
  • 目のレンズの中心部のタンパク質:生まれた頃に作られたものが、一生そのまま(2008年の研究)
体は「全部いっぺんに建て替わる」のではなく、場所ごとにペースがまるで違う
体は「全部いっぺんに建て替わる」のではなく、場所ごとにペースがまるで違う

つまり体は、「7年で全部」どころか、数日で入れ替わる部分から、一生ほとんど変わらない部分までがまざった、ペースのバラバラな集合体だったのです。

03なぜ「7年」が広まったのか

それでも「7年説」が根強いのには、理由がありそうです。

  • 半分は本当だから:皮膚や血液など、目に見えて入れ替わる細胞は確かに多い
  • 数字がちょうどいい:「7」は覚えやすく、人生の区切りとしても語りやすい
  • 体の成分も入れ替わる:細胞そのものが残っていても、中の分子は少しずつ入れ替わることが多く、「何かが入れ替わる」という感覚は正しい

信じていた人が間違っていたというより、本当の一部分を、全体に広げすぎてしまった話と言えます。

04まとめ

  • 「7年で全部入れ替わる」はウソ
  • 血液や腸の細胞は速く、心臓はゆっくり、大脳の神経や目のレンズの中心は一生ほぼそのまま
  • それを確かめたのは、核実験が大気に残した炭素14という"時計"だった

7年前のあなたと今のあなた。全部が別物ではなく、ずっと一緒の細胞もちゃんといるようです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA popular saying claims that the human body completely renews itself every seven years. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A popular saying claims that the human body completely renews itself every seven years. Scientists in Sweden tested this idea in an unusual way. Nuclear bomb tests in the 1950s and 1960s added a large amount of carbon-14 to the air. Because cells use carbon from food when they make new DNA, the level of carbon-14 in DNA shows when a cell was born.

In 2005, the team found that neurons in the back of the brain were as old as the person. Other studies show that blood and gut cells are replaced in days or months, while heart muscle cells change slowly. So the seven-year rule is a myth.

110 words ・ CEFR B1

和訳を見る

人間の体は7年ごとに完全に新しくなる、という有名な言い伝えがあります。スウェーデンの科学者たちは、この考えを珍しい方法で確かめました。1950年代と1960年代の核実験によって、大気中の炭素14が大きく増えました。細胞は新しいDNAを作るときに食べ物から炭素を使うため、DNAの中の炭素14の量から、その細胞がいつ生まれたかがわかります。

2005年、研究チームは、脳の後ろ側の神経細胞がその人と同じ年齢であることを発見しました。ほかの研究では、血液や腸の細胞は数日から数か月で入れ替わり、心臓の筋肉の細胞はゆっくりとしか変わらないことが示されています。つまり、「7年のルール」は俗説なのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Why does the level of carbon-14 in DNA show when a cell was born?

Q3. Which statement would the writer most likely agree with?

重要単語

  • turnoverC1
    名詞入れ替わり、代謝回転Blood cells have a fast turnover. turn over(ひっくり返す)から。ビジネスでは「離職率」「売上高」の意味でも出る。
  • neuronB2
    名詞神経細胞Most neurons in the cortex are never replaced. nerve cell と同じ意味。neuro-(神経)は neuroscience など多くの語に入る。
  • isotopeC1
    名詞同位体Carbon-14 is a radioactive isotope. iso-(同じ)+tope(場所)。周期表の同じ場所に入る、が語源。
  • renewB1
    動詞新しくする、再生するSkin cells renew themselves every few weeks. re-(再び)+new。renew a passport(パスポートを更新する)も頻出。名詞 renewal。
  • lifespanB2
    名詞寿命The lifespan of a red blood cell is about four months. life+span(期間)。attention span(集中が続く時間)も同じ span。
  • scrutinyC1
    名詞綿密な調査、精査The claim did not survive careful scrutiny. come under scrutiny「厳しく調べられる」。動詞 scrutinize。難関大の長文で頻出。
  • incorporateB2
    動詞取り入れる、組み込むCells incorporate carbon when they make DNA. in-+corpor(体)=体の中に入れる。incorporate A into B の形でよく使う。

4コマでわかる

「体は7年で全部入れ替わる」はウソ。一生入れ替わらない細胞は核実験の"置き土産"でわかったの4コマ漫画
「人の体は7年で全部入れ替わる」説。核実験で空気中に増えた炭素14を"時計"にして細胞の年齢を測ったら、大脳(後頭葉)の神経細胞は本人と同い年、目のレンズの中心は生まれた頃のまま。全部は入れ替わっていなかったらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Spalding et al. (2005) Retrospective birth dating of cells in humans, Celldoi.org
  2. Sender & Milo (2021) The distribution of cellular turnover in the human body, Nature Medicinedoi.org
  3. Bergmann et al. (2009) Evidence for cardiomyocyte renewal in humans, Sciencedoi.org
  4. Lynnerup et al. (2008) Radiocarbon dating of the human eye lens crystallines reveal proteins without carbon turnover throughout life, PLoS ONEdoi.org
  5. Spalding et al. (2008) Dynamics of fat cell turnover in humans, Naturedoi.org